
2月25日、土曜日。
川越市の大正浪漫夢通りで初めて開催された蚤の市。「ピエニコタ」さんで重厚なテープカッターを買い求めました。帰路、まだ時間があるので、近くにあるアンティーク・ショップに立ち寄ることにしました。
写真のように「CLOSED」なのに、中にお客さんの姿が。遠慮がちに開け、店主らしき女性に「いいですか?」と訊きました。すると「あんまりやる気がないから裏返しにしているの。大したものはないけれど、見たかったらいいわよ!」。…何とも、商売っ気のない返答。では、ちょっとだけ、のつもりで入りました。
六畳ほどの小さなお店。その中心に、自転車のペダルがついた原付が。これがホントの「原動機付自転車」!
横には何と蓄音機が床に直置きされています。見る限り、これは明らかに不動。ボクの視線で心中を悟られたようで「だから、大したものはないって言ったのよ…」ダッテ(笑)!これには一本、取られました。
文字にしてしまうと怖そうに感じられるかと思いますが、決してそんなことはなく、むしろ建前が嫌いで正直な方に思いました。そしてそれは、見事に当たることとなりました。
ライトやガラス類。実に艶やか…。
ヨットや船の模型が並びます。
旧い銀塩カメラ。
中央は今は亡きトプコン製。ホースマンというプロ用大型カメラで名を馳せましたが、35ミリは全く売れませんでした。
右の二眼レフが気に入り、心の中で唾をつけました。
お店の隅に二階へ延びる階段があり、こんな素敵なガラス扉が。繁繁と眺めていると「これを売ってくれ、っていうお客さんが多いのよ。売っても構わないんだけど、無いのに気づかれると「何で俺に売ってくれなかったんだ!」と、絶対に言われるから断って来たのよ」。
うーん、ナルホド…。
これを見た瞬間、ホント驚きました。
牛革の半身分のロール。何とお値段1000円!
彼女に「これ、本当ですか?」と訊くと、「いいのよ、何なら全部、持って行きなさいよ」ダッテ(笑)!
重いテープカッターを買ったこと、左腕はテニス肘の治療中のため、この日は二つ買い求めました。
お店を出ようとすると、彼女が外まで見送りに出て来てくれました。
「お昼ごはん、食べたの?」
蚤の市を見物しながら、出店のやきそばを食べた旨を伝えました。
「奥で、ダンナがカフェをやっているの。よければと思って誘ったんだ…」
「男の人って好きなことに凝る人が多いけど、うちのダンナと来たら、とんでもないのよ。あんたが興味を示したものは、ダンナと全く一緒。ここの二階には、革生地がワンサカあるし、革用のミシンや漉き機も10台近く置いてあるのよ。ダンナに紹介したら、きっと話に花が咲くと思ったのよ」
「飲食業は、高い材料を使えば値段も上がって当然よね。ところがダンナったら、おいしいものを作ることにしか興味がなくて、矢鱈と良いものを仕入れちゃうのよ。(メニューを記した黒板を指して)このペスカトーレなんて、でっかい海老とムール貝、ハマグリが3個ずつ入っているの。あたしが言うのも何だけど、凝り性だから味はバッチリ。これにスープと食後のコーヒー、アップルパイをつけて1500円、儲かるわけないじゃない(笑)!それでも11年もやったから、週末に顔を見せてくれる長い常連さんは味と具材を知っているから、手を抜いたり値上げは出来ないのよ」
「…じつはさぁ、いろいろあって3月末でカフェもアンティークも閉店するの。まだ常連さんには誰にも言っていないんだ、あんたが初めて。革をあの値段にしたのも、それが原因。このお店の什器や備品、売れるものは全部売るつもりなの。あのドア、売ってもいいわよ」
ちょっと俯き、寂し気な表情…。
まだ欲しい革があること、ご主人の採算度外視の料理を食べてみたいことをお伝えし、来週また訪れる旨を約しました。
昨日3月4日。肘の治療を終えて向かいました。
お店に入ると、彼女が目で頷きました。
窓際の席。小さな二人用のテーブルが3つ。外から陽がさす明るい空間。バルコニーに屋根と壁をくっつけたような造り。
片側の壁面がこれ!
凝りに凝ったモノばかり!
右の戸棚、和洋折衷の趣が気に入り、たちまち欲しくなりました。
そこには、こんなモノが!
かなり旧式のオリベッティ!
何とアームが剝き出しで、キーを押すと上から叩く仕組み。こんなタイプは初めて見ました。
彼女がやって来ました。
「ペスカトーレで、いいわね?」
勿論、二つ返事!同時にタイプの値段を訊きました。一旦カウンターに帰り調理中のご主人と話し、戻って来ると値段を告げてくれました。…うーん、悪くはないなァ。
まず、スープから。
コンソメベースに野菜を茹でて味付けし、玉子を溶いたもの。塩分は緩やかで、優しい味わい…。
メインディッシュ登場!
スゲー!、先週彼女が言ったとおりの具材。大海老は二つしか見えませんが、一つはルーの下に潜っていました。
手袋をして殻を剥きます。
「…ウマーー!」
イタメシを看板にするお店に、決してひけを取らない味わい。
もっと早くに知りたかった…。
食後のコーヒーとアップルパイ。
普段ボクは甘いものを食べませんが、甘さは控えめ。ビターなコーヒーにうってつけ。これで1500円では、彼女がこぼすのが理解出来ました。
さて、お会計をし、タイプを買う旨を伝えようとしましたが…。
レジスターの前に佇んだ途端、その背面を見てドギモを抜かれてしまいました。
「…ウソだろー!?」
何と「National」の文字が!
あんまりオドロキ、背面の写真を撮り忘れてしまいました。
アメリカ製、おそらく1900年から1920年代に製造のタイプ。
キャッシュの抽斗上に透明樹脂が貼られています。精算後の価格を、上部に下からニョキッ覗くプレートで客に伝えます。
ずっと旧いレジスターを探していますが、
National Cash Register 製は、最高峰と言って差し支えない存在。当然ドル表示、この国に何台あるかは分かりませんが、ネットでは常に6桁の価格、それでも直ぐに決まってしまいます。
恐る恐る、調理中のご主人にプライスをお訊きすると、膝を打ちたくなりました。会計を済ませ、銀行に行き戻る旨をお伝えしました。
カフェを出て廊下を進み、アンティークの前に差し掛かると、扉が開きました。
彼女が言いました。
「ダンナが、タイプと一緒で●×円でいいってさ!」
思わず、本音が口を突いて出ました。
「…でも、今日はタイプよりナショナルなんだよなぁ…」
あれこれ考えましたが、お金をおろす時、込々の金額にしました。
お店に戻ると、ご主人が言いました。
「…んじゃ、今日はレジだけでいいのかな?」
「奥さんが●×円おろして来いって言うから、その通りにしました!」
この一言で、ご夫婦と女性スタッフは大爆笑!奥様はボクにしなだれ掛かり、笑いながら胸を二、三度軽く叩きました(笑)。
丁度お昼時を過ぎたこともあり、ご主人は調理から解放されていました。
レジの横で立ち話をしました。
銀塩カメラの思い出、好きな作家、音楽、バイク、レザークラフトなどについて、話に花が咲きました。呆れた奥様が
「仕事の邪魔だから、あんたたち、あっちで話して!」
と仰り、つい先ほどボクが食べていたテーブルに移りました。
レザークラフトの話題になると、彼女が言っていた革やミシンのことに。
「見るかい?」
例のガラス扉が開き二階へ。
「ウワーーー!」
大量の革!
横にはドゥカティのフルカウル!!
手前はミシンばっかし!
革用のミシンのクローズアップ!!!
…目の毒デシタ!
ご主人によると、こちらのお店の他に、アンティークの仕入れと販売をされているとか。両親のガラクタ、特に親父の遺した大量の本の処分に困惑している旨をお伝えすると、本を専門に扱っている仲間に連絡してあげる、と仰って下さりました。
62年間生きて来ました。
学生時代も社会人になってからも、自分とこれほど「ウマ」が「ピッタリ」合う方には、なかなか巡り会いませんでした。しかも今回、ご夫婦揃って、ボクには「ピッタシカンカン!」(古い!!)。こんなことって、あるんですネ!
「ウソのようなホントのはなし」ではなく、「ホントにホントのはなし」でした(笑)。
※本文に記しましたが、まだ閉店を常連さんにも伝えていないそうですので、お店の名前等については掲載を控えさせて戴きます。ご興味がある方は、ボクまでご連絡下さい。なお、閉店理由をお聞きしましたが、経済的な原因ではないことを、ご夫婦の名誉のために付記させて戴きます。
【長くなりましたが、今日の「オマケ」!】
川越のメインストリートで、こんなキレイなモーガンに遭遇しました。
オーナーに写真撮影を請うと、笑顔で応じてくれました。
ファッションもシブい!
62歳は、こんな「大人」になりたいと思いました!