
■世界中のセダンのベンチマークとされるBMWの3シリーズ。
自らE46の318に乗り始めてから、改めて現行のE90に乗ると何を感じるのか?改めて徹底的にテストしてきました。
結論は、E46を“スポーツセダン”とすると、E90は“ラグジュアリースポーティーセダン”でしょうか。
高級感・プレミアム感・快適性を重要視した結果、クルマの動きは大きく重くなり、良く言えばマイルド、悪く言えばダル。
それが良いか悪いかというのは3シリーズに私達が何を求めるかによるので一概には言えませんが、クルマとしての方向性が大きく変わってしまったのは事実ですね。個人的には残念です。
以前に乗った325のMスポーツモデルなどはまだシャキっとしていたのですが。
ただしエンジンの進化は凄い。
4気筒、6気筒ともに適度なサウンドとともに軽やかに回り、かつ燃費も良い。
「バイエルンエンジン製造会社」の名前は伊達では有りません。
■しかし誰もが“悪くなった”と感じれるのが、3シリーズの身上だったはずの“ハンドリング”。
ここでのハンドリングとは限界性能といった意味ではなく、ごく低いレベルでの微妙なステアリング操作に対する車輌挙動のこと。微舵応答、手応え、リニアリティ、保舵性能などの専門用語で表せられますが、より一般の感覚で言えば、“なんだか思い通りに動かない”といった表現になります。
E46であれば、ステアリングを切った瞬間からタイヤの“たわむ感覚”がステアリングを通して感じられ、たわみと共にクルマがスムーズに動いていきます。
一方でE90では、ステアを切っていくとまずバネゴムをつぶすような感触が有り、そこからようやくタイヤがたわみ(ただし感触はあやふや)、車がグラっとロールして、そこからようやく車が動き始めます。しかもそこからがリニアでなく切れ上がる。
ステアを切ってから車が動くまでに、E46は1ステップなのに対してE90は3ステップも有るんです。
なんでこんな事になるのかと思い、下に潜り込んで足回りを見てみたら一目瞭然。
■まずE46の足回り。

フロントはL字型ロアアームのストラットながら、本体側ピボットがゴムブッシュでなくボールジョイントであり、また横力に対してトー変化が起きにくいアーム角度により、無駄な動きをまったくさせないレイアウト。精確かつリニアなハンドリングの源です。
リアもラテラルリンク長を長く取り、ジオメトリ変化の少ない素直な動きを作り出す設計です。さすがですね。E36から引き継ぐこのレイアウトが3シリーズのハンドリングを大きく形作ってます。
■次にE90の足回り

オーソドックスなストラットから、リンク分割の仮想転舵軸を持った構造へ。しかし一番のポイントは赤丸の部分のトレーリングリンクの大きなゴムブッシュ。前後力にも、横力にも、操舵に対しても動いてしまうはず。これがE90のハンドリングをダルにしている大きな要因です。
その分快適さ、角の丸さは手に入れているんですけどね…。

リアはダブルウィシュボーンから複雑なマルチリンクへ。
マルチリンクはジオメトリ変化を自由に作れる反面、抵抗が大きく素直なストロークが難しくなります。

この図では正確なリンクの位置関係は分かりませんが、ストロークに対してかなり強くネガティブキャンバーとトーインをつける設計のよう。柔らかくロールが大きいのに不自然な程リアの安定性が高いのはこれによる所でしょう。
■うーん、これを見ていると全く別の車ですね。
“これからの3シリーズはスポーツでなくラグジュアリーで行く!”という造り手側の意志を感じます。
E46では直進時でもコーナリング中でも、ステアリングからはフロントタイヤにかかる力、路面のわずかなギャップの情報までも感じられ、ボディからは4輪の荷重状況が手に取るように分かったのです。しかしE90からは2重3重のクッションを通して鈍くしか感じれません。ボディ剛性が高いだけに余計に、柔らかいブッシュとアシの先のタイヤの存在が希薄になっている感じは否めません。
自分がBMWが好きな理由の一つが、車体及び操作系の剛性感とそこから来る操縦性の良さ。
そこには人間工学に沿ったヒトのフィーリングに合う緻密かつ精確な車造りが有ったはず。
確立されたブランドが高級・快適志向となり、角を丸くしていくのは致し方ない流れとしても、
せめてステアリングの精確さ・リニアさだけは何とかならなかったのかと、一抹の寂しさを感じたのでした。
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“クルマ”について考える | クルマ
Posted at
2011/03/26 14:05:31