自動車デザインの用語に「コーダトロンカ」というのがあります。
これはイタリア語でして、英語では「カムテール」と呼ばれています。
そもそも「コーダトロンカ」とは?
「コーダ(coda)」はしっぽ、「トロンカ(tronca)」は切り落とされた、という意味です。
細長く続くものを、途中でスパッ!と切った様なカタチ。
そんなデザインのことを言います。
飛行機等では、空気抵抗を少なくする為に、上図の様な水滴形になっています。
これが自動車の場合、小回りするので、あの長いしっぽが重くてちょっと邪魔なんです。
さて、どうしたもんかな・・・?
すると、スイス人の自動車技術者、ヴニバルト・カム教授から、こんな理論が発表されます。
流線形の長いしっぽを切り落としても
空気抵抗はあまり変わらない
長いしっぽがなくても、まるで仮想しっぽがあるかの様な、効果があるそうです。
多少の乱気流は発生しますが、概ね空気はきれいに流れてくれるのだとか。
しかも、コーダトロンカ。
しっぽが短くなったことで、空気とボディが接触する面積が減少します。
(空気と当たる部分の長さが、短くなります)
空気とボディが接触すると、そこには接触抵抗が発生し、それが即ち空気抵抗となっているのです。
しっぽが短くなれば、接触面積が減少するので、空気抵抗も減るのです。
そんなメリットもある、コーダトロンカ。
そんな効用を抜きにしても、私はカッコいいと思います。
しっぽが短くなることで、長さが短くなり、塊り感が出てくるんですよね。
フェアレディZ(Z32)の時にも書いた様に、なるべく重量物が重心に集まったデザインが好きなんです。
コーダトロンカもリアを短く切るので、そういったデザインに見えてきます。
このテールぶった切りデザイン。
日本ではあまり「カムテール」とは呼ばれず、「コーダトロンカ」の方が一般的です。
それには、このクルマの影響があったからかと、思うのです。
アルファロメオ ジュリア TZ
60年代のアルファには、コーダトロンカのモデルが多くありました。
でもよく見ると、ぶった切っているとは言え、結構リアオーバーハングが長いのですね、TZって。
ちなみに、この「TZ」。
「T」はTubolare(チュボラーレ)で、鋼管スペースフレーム構造を意味しています。
そして「Z」は、ボディを製作した「カロッツェリア ザガート」のことです。
このザガートがデザインしたモデルには、コーダトロンカが多かったですね。
他には、こういうモデルとか。
アルファロメオ ジュニア Z
先程のSZは、公道走行可能なレーシングカーなのに対して、このジュニアZは、あくまでロードゴーイングカーです。
なので、SZほどぶっ飛んではいませんが、コーダトロンカであることは、十分に分かります。
このコーダトロンカ、なにもイタリア車の専売特許ではありません。
バラードスポーツ CR-X
名前にこそ「スポーツ」とありますが、元々このクルマのコンセプトは、インサイトと同じ。
80年代の技術を使って、どこまで燃費が伸ばせるか?
その為には、空気抵抗の少ないボディデザインにしたい。
その結果が、このコーダトロンカでした。
サイバー CR-X
2代目は、エコよりもスポーツを特化させました。
デザインもバラスポより、ワイド&ローになって、よりカッコ良くなりました。
今インサイトに乗っていますが、後ろ姿はサイバーの方が好きですね。
初代インサイト
そして遂に登場、20世紀の技術を全部乗せのクルマです。
こちらは、燃費追求の為のコーダトロンカ。
しかも、リアトレッドを絞り、おまけにリアタイヤにはスカート付き。
本当はリアバンパーの角を、もっと角ばらせたかったそうです。
その方が、空気の剥離が良いので。
でも、ただでさえトレッドを狭くしたリアが、余計に狭く見えて貧弱な印象になると。
そんな理由で、市販車には丸みをつけたそうです。
折角、ここまでぶっ飛んだデザインなんですから、見た目が貧弱になったとしても角をつけて欲しかったなぁと、私は思います。
2代目インサイト
初代のイメージをうまく生かし、実用的な4ドアに仕上げています。
先日ツインリンクもてぎで久しぶりに見たのですが、最近のホンダ車の様なゴテゴテデザインではなく、スッキリとしたコーダトロンカは、カッコ良く見えました。
クラリティ
プラグインHVや燃料電池車をラインナップする、一歩先をゆくエコカー。
これも、空気抵抗低減の為に、もちろんコーダトロンカです。
最近はプリウスでも2代目から採用している様に、コーダトロンカもさほど珍しいものではなくなりました。
でもそれよりも前から続いている、ホンダのコーダトロンカ。
空気抵抗もありますが、きっとホンダはコーダトロンカが単純にカッコいいと思っているのではないでしょうかね。