安藤忠雄といえば、今日の日本を代表する建築家のひとりとして世界中で幾多の大プロジェクトを展開、身近なところでは新しい地下鉄副都心線渋谷駅の設計で知られれていますが、その安藤さんの出世作というのをご存知でしょうか。
それは「住吉の長屋」と呼ばれる小さな住宅建築で、竣工は1976年。1979年には日本建築学会賞を受賞しています。
大阪市住吉区にあった三軒長屋の真ん中の間口2間、奥行き7間、つまりたった14坪の極小空間にコンクリート打ちっ放しの2階建ての箱を構築、外に向かっては玄関以外に一切の開口部を設けず、その代わり長方形の箱の真ん中の位置に中庭を設けてそこから採光および風を取り込むというデザインで、当時の建築界の人々を唸らせた都市住宅であります。
しかしその代わり、その施主であるこの屋の住人は、夜中に2階の寝室から1階のトイレにいくにも屋根のない中庭の階段を下りていかねばならず、したがって雨や雪の日には傘をさす必要があるという、住人に極めてストイックな生活を強いる、超スパルタンな家なのであります。
で、それをクルマに喩えられないかと思い、取り敢えず思い浮かんだのがケイターハムに代表されるスーパーセヴンですが、スポーツカーと違って家には毎日住み続けるわけですから、そのスパルタンさはスーパーセヴンとは比較にならないでしょうね、きっと。
70年代後半の建築誌でその存在を知って以来、この「住吉の長屋」は僕の憧れの存在であり続け、中庭に置かれたYチェアに座って空を見上げるとそこにはいかなる景観が展開するのか、できれば経験してみたいと思っていたのですが、もちろん現在も施主のご家族が住んでおられると伝えられる個人住宅なので、それは叶いません。
そうしたら最近、乃木坂にある「間」というギャラリーで
「安藤忠雄建築展」なるものをやっていて、そこにはあの「住吉の長屋」が原寸大の立体模型として再現されているというではありませんか。しかも東京での建築展はもうすぐ終了、舞台は大阪に移ってしまうといいます。某日夕方、締め切りの合間を縫って、僕が乃木坂に馳せ参じたのはいうまでもありません。
昨今の安藤建築の人気の高さを反映して、会場は想像以上に込んでいましたが、たしかにありました、それなりに簡略化されてはいましたが、「住吉の長屋」の実物大の立体模型が。そこで、いつものLUMIXデジカメを出して、その中庭から周囲を見た様子をライカレンズに収めようとしたら、スタッフのお姉さんが飛んできて「撮影は禁止です」とのこと。
というわけで写真はないけれど、「住吉の長屋」の居室のタイト感、それと対照的に、その向こうに展開する中庭の適度な開放感、それらが一体化したスパルタンだけれど心地好さそうな空間の面白さを、おぼろげながら実感した気分になってギャラリーを後にしたのでした。
家に帰ってから、「住吉の長屋」の写真が載っている昔の建築誌を眺めながらふと思ったのは、今こそこの家のような小型車が出現するべきではないかということでした。
iQは発想としては近い部分もあるけれど、安藤忠雄作の長屋はiQにはないスパルタンさとエンタテインメント性に満ちています。スパルタンだけれど毎日乗っていたくなるような、小型でエコなスポーツコミューター。「住吉の長屋」をクルマに喩えると、そういうカテゴリーのモデルになるはずで、そういうのこそ僕が今いちばん欲しい種類の自動車だったりします。
さて、皆さんのご意見は?
Posted at 2008/12/21 17:01:41 | |
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