このクーガが駐車されていたのが周囲よりも盛り土されて土地全体が高くされた駐車場だったので、入り口部分から普通に見ただけでも、こんなふうに下から仰ぎ見るような構図になります。SUVを「らしく」表現するのにはある意味でうってつけなアングルですね。
そしてこのアングルはさらに、キネティックデザインのクーガを表すのに適したものかもしれません。2000年代初頭にヨーロッパフォード各車のデザインテーマとして導入された「キネティックデザイン」。その外形を特徴づける造形処理を挙げると次のようになります。
・水平状にスリムな開口部のアッパー(上部)グリル
・それとは対照的にワイドな台形状に大きく開けられたロワー(下部)グリルとのコンビネーション
・フード上をフェンダートップへと流れる天地方向に幅のある異形ヘッドランプ
・フェンダーとショルダー部を張り出させて下半身に量感を持たせた面構成
・三角形状のCピラー
これらは、キネティックデザインの前のデザインテーマであったニューエッジデザインが、ともすればフォード車に元来備わる高い動的性能を伝えきれず、フォードというブランドを訴求する効果に欠けているとされ、そこからの脱却と明確なフォードのアイデンティティ構築に向けて導き出されたポイントです。
いずれも、「キネティック」つまり「動的」というキーテーマを造形として表現するための具体的な要素ですね。この写真だとちょうど、そうした各要素が強調されて見えるのがおわかりいただけるかと。
キネティックデザインを本格的に応用して一から開発された市販第1号は2007年登場の三代目モンデオとされていますが、それは大型のフォーマルサルーンであるだけに、上記の各ポイントの表現も抑えめな面がありました。それに対して、よりキネティックデザインの意図するところが鮮明になったのが2008年登場の初代クーガだと思います。
ヨーロッパ市場で人気を高めつつあったコンパクト・クロスオーバーの新顔として、新しいフォードのイメージの体現者として、初代クーガは強いインパクトを備えていました。
そんなクーガも二代目になると、フォードがOne Fordを標榜してエスケープとの一体化によるグローバル展開が前提とされたため、デザインも一見すると初代と近い印象ながら、その実かなりキャラクターが変化していました。二代目ではすでにキネティックデザインの進化形である「ワングローバルデザイン」へと移行しており、上記のようなキネティックデザインを象徴する各要素は、継承された部分もありつつ、かなり変質した(洗練された)部分もあります。例えばヘッドランプも、LEDなどの技術的な発展により大型の発光面を確保する必要がなくなり、天地方向の幅がかなり細くなっています。初代のような大きく見開いた龍の目のごとき印象はだいぶ薄れました。
ボディ各部の面質なども、特にヨーロッパ市場で好まれる筋肉質でたくましい表情よりは、よりソフィスティケートされ、世界のどこででも受け入れられやすい柔和なトーンになりました。当時はそのような変化をフォード自身が「スマート」と表現していましたね。
だから私は、二代目フォーカスSTと基本を同じくする5気筒ターボエンジンで疾走する、豪快なキャラクターを余すことなく表現したこの初代クーガのキネティックデザインにこそ、キネティックデザイン本来の狙いがもっとも明瞭にされていたように感じています。
Posted at 2020/07/14 18:41:48 | |
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