30年前、1年だけ住んだ街があります。
高校を卒業し浪人した1年を一人暮らししました。週に4日オーディオショップでアルバイトして、3日はアトリエでデッサンをして、漠然とした不安と漫然とした自由を感じながら、沈んで静かに生活したアパートは木造築数十年、4.5畳に流しと水洗和式トイレ付き、風呂無し…
ネコ付き でした。

夜、アパートの前の用水路沿いの道を銭湯に向かうと付いて来て、車通りの多い道まで来るとそこで立ち止まって私を見送ってくれた「猫」、名前は付けませんでした。引っ越した夕方には我が物顔で部屋に上がり込んだ「猫」。私は飼い主ではなく、その「猫」が住んでいたアパートの一室に引っ越してきたただの同居人です。
Super-Takumar 55mm F1.8

パッチワークのような大きなブチのある猫でした。ブチの部分は茶グレーの縞模様、尻尾は半分の長さで、先が曲がっていました。用水路に沿った砂利道で獲ったハトやヘビを私にご馳走しようと部屋に持ち込んでくれました。大学入学が決まり、引越しする直前には、何処かから立派な5mm厚のボンレスハムを調達して来て得意げに私に見せてくれました。迷っていたのですが、ハムをくれる人が居るなら、と私は「猫」はそこに置いて引っ越しました。
Super-Takumar 55mm F1.8
「猫」を連れて引っ越していたらどうなっていたか、と時々考えることもありました。
Super-Takumar 55mm F1.8
先週末、機会があって30年ぶりにその街を訪ねました。様変わりした駅前から歩いて8分、何とかたどり着いた用水路の砂利道は、キレイな公園風の散歩道に整備され当時の面影はありません。かろうじて建物の配置から判明したアパートも新しい洒落た建物に変わっていました。銭湯は跡形もなく無くなっていました。30年も経てば何もかも変わってしまうのは当たり前です。
唯一当時と変わっていなかったのは、パッチワーク模様の猫だけでした。散歩道のベンチには沢山のパッチワーク模様で半分の長さの尻尾の猫達が午睡を貪っていました。何代か重ねた「猫」の子孫達、人が通ってもピクリともしない見事な寝っぷりを見せてくれました・・・
それを見て、結局、連れて行かなくて良かったのだ、と30年ぶりに思うことが出来ました。
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□近場で発見の旅 | 旅行/地域
Posted at
2014/09/10 23:18:30