
この日や、ようやくシエンタの試乗をすることができました。ハイブリッド仕様ではなく、ガソリンエンジン仕様のモデルです。ミラーサイクルエンジンが採用され、カローラアクシオなどと同一の仕様となっております。
シエンタの位置づけ
現行シエンタは二代目ですが、実際には間に
パッソセッテが挟まる形になっています。パッソセッテは「美魔女」を据えたCMと、足が挟まる3列目シート、後席ヒンジドアなどが災いし、全く不人気モデルになってしまいました。あまりの不人気ぶりに初代シエンタがビッグマイナーチェンジによって復活、そして現行モデルになったのでした。車の歴史の上でも、続投や継続生産はあっても、復活は珍しいものです。
しかし、現行シエンタの実際のスタイルは、初代の箱ミニバンスタイルからシエンタ同様のミニバンスタイルになっており、フロントマスク上もパッソセッテの次のモデルであることがわかります。
このモデルがマーケティングの上で特徴的なのは、「スポーツ用品」を題材にしていることです。CMでもサッカーウェアがテーマになっていますが、車のスタイルはランニングシューズ調です。
この車の登場時には「無駄な線が多い」と言われたものですが、ランニングシューズも無駄な線が多いものです。その無駄な線がないと全体的に「つるん」とのっぺらぼうになってしまい、車なら旧パッソセッテ、靴なら学校の上履き、ないしは昭和40年代のズック靴になってしまいます。
もう一つ、これまで小型ミニバンは、いわゆる「ママ向けのおとなしい仕様」と、男性向けの「カスタム仕様」とに分類されていました。ところが、女性はママ扱いされることが嫌いで、女性の多くもカスタム仕様を選ぶ傾向になりました。当初、その「カスタム仕様」は、「○○ツーリング」などという、エアロパーツを中心としたスタイルを採用していました。
そしてその「カスタム仕様」は、田舎のいわゆる「マイルドヤンキー」に好まれるところとなり、メッキ部分とLED照明の面積拡大、角ばったスタイルへと、独自の変化をすることになりました。
ところが、カスタム仕様がマイルドヤンキー仕様となると、近郊から都心へと回帰し、勤務地も都心の男性の感覚とは合わなくなっていきました。差別はないのですが、地方都市を行動の中心とする層は都市近郊の感覚を「真面目すぎてダサい」と言い、都心を行動の中心とする層は地方都市感覚を「田舎臭くてダサい」と言うものです。
そのカスタム仕様とママ仕様との狭間にあった、都心型男性のスタイルをこの車は「スポーツ用品」に求めたというものです。マンションに挟まれた公園で、パパと息子でサッカーの練習をし、ママはそれを芝生の上で見つめる、そんな風景が思い浮かんできます。
問題は、以前よりは減ったものの「スポーツ用品には汗の臭いを感じる」層がいることです。(私がそうです。)
ホームウェアやタウンウェアとしての使用も認められつつあるスポーツ用品ですが、何だかかやはり汗の臭いを感じてしまい、会食の場などで目にするとどうも食事が一味美味しくない、と思うのです。また、私自身が運動神経があまりよくないものですので、そんな私がスポーツ用品を身に付けるのはどこか気恥ずかしい、そんな気分も湧いてきます。
さて、そんな絶妙なマーケティングの上に成り立っていると考えられるシエンタ、今後の動向に興味が湧きます。
エンジン
ガソリンエンジン版には、
カローラアクシオと同様の2NR-FKEエンジンが搭載されています。アトキンソンサイクルと電動可変バルブタイミング機構が採用され、エンジン出力を要しない一定速度走行時にはアトキンソンサイクルを化して吸入空気を戻しています。こうすることでエンジンの吸気量を減らし、ポンピングロス、熱損失、冷却損失を減らし、エンジンの効率を向上させています。アクセルペダルを大きめに踏み込むと電動バルブタイミングを出力重視のオットーサイクルとし、十分な動力性能が得られるようにしています。
この効果は顕著で、一定速度走行時にはエンジン出力がかなり減らされ、アクセルペダルをほんの少し踏む程度では少しも加速しようとしません。これまでの「エコモード」とは異なり、アクセルペダル操作が無視されているような印象ではありません。熱効率重視で、正味吸入空気量が減らされ、エンジン出力が絞られている印象です。
普通のオットーサイクルでは、スロットルバルブを閉じ気味にするとポンピングロスが大きくなってしまい、冷却損失の削減がポンピングロスの上昇によって相殺されてしまいます。これがないのですから、ミラーサイクルは今後のエンジンにぜひ搭載して欲しい機構であるといえます。
エンジン自体は、これまでのNZエンジンに対して騒音、振動が減らされ、ようやく近代的になってきました。「ハイブリッドシステムやCVTを採用していればエンジンは何でも構わない」傾向でエンジン技術の進歩が止まってしまったかのようでしたが、ようやく進歩が再開されたようです。
エンジン出力としては、この車重に対して普通に走らせる程度です。それも2名乗車状態ですから、4名ですと余裕はほとんどなくなり、6または7名乗車では我慢を強いられることでしょう。あくまでも市街地を中心とし、高速道路の登坂路は我慢しながら乗る車、と言えます。スポーツ用品らしい軽快さは、車そのものにはありません。
これは全くの個人的感想ですが、以前
ラクティスの1300ccエンジン(1NR-FE)で感じられた、軽快かつエンジンらしい、AE86を思い出させる排気音が、この車でも感じられます。車重に対してエンジン出力がまあ十分であるために、この音を頻繁に楽しむことが出来ます。
トランスミッション
CVTを採用しています。トヨタのCVTは、変速制御を随分と違和感がないものにしてきました。以前は定速領域に達するとすぐさま最高変速比に移行させてしまっていましたが、最近では有段ATのように少し時間を置いて変速をするようにしてきました。
とはいえ完全ではなく、斜め後方を確認しながらゆっくり右左折を始めると、すぐさま変速比を上げようとする悪い癖が目立ってきます。何らかの理由で急加速を要する場合のことは全く考えられていません。
今や横滑り防止装置は標準装備になってきているのですから、転舵情報が入力されている際には、その時の変速比を固定する制御にするとよいでしょう。
ステアリング
電動パワーステアリングを採用しています。これまでのトヨタ車は女性の意見に左右されすぎてただ軽いだけのパワーステアリングにしていましたが、ようやく軽くなる傾向が止まり、やや重く感じられるようになってきました。路面情報の伝わり方もまずまずで、少なくとも「
ノア、ヴォクシー」よりはずっとまともな仕上がりになっています。
ただし、ステアリングホイールの角度が今一つで、もう少し角度が立たないものか、と感じました。これではキャブオーバータイプのトラックのステアリングホイールのようです。
サスペンション
カローラアクシオと比べると、やや硬さを感じるようになっています。印象から、サスペンションスプリングが硬くなっているようです。
コツコツと当たりの硬さを感じるのですが、背が高い車体のロールを抑えるほどにはなっていません。直線路でゆっくりと左右にステアリングホイールを動かしますと、ステアリングホイール操作に対して比例しながらも、結構傾きます。それも、ロール中心軸が低いのか、お尻を中心に頭が左右に振られるような印象です。
車高が高い車のロールの問題を、以前の日産はショックアブソーバーの強化によって対処していました。市街地での試乗では、「乗り心地は良いし傾きは少ないし」と、良い印象になるのですが、いざ実際の山道に出ると「運転していても酔いそう」な位揺れたものです。
この車の場合にはサスペンションスプリングも強化されてロールはある程度抑えられているようですが、まだまだ不十分です。スタビライザーを強化するだけでも、ずっと良くなることでしょう。今のところ、純正オプションには強化サスペンションやスタビライザーはないようですが、こういうことは純正状態で対処して欲しいものです。
同じトヨタでも、ラクティスは随分とハードな印象のサスペンションでしたが、ラクティスの仕様はこの車にこそ望ましいサスペンションです。
ブレーキ
可もなく不可もないブレーキでした。マツダやホンダのブレーキほどではありませんが、そこそこの踏み応えが得られ、制動力の調整もまずまず可能なブレーキペダルフィーリングでした。これは2名乗車状態での印象ですが、7人乗車時のブレーキを試したいものです。
ボデー
少し前までのトヨタ車と比較し、視界が改善されてきました。ダッシュボード上端が低くなって、顎を上げないと前方視界が得られない状態や、巻き込み確認で首を振っても斜め後方が見えない、などのような状況が改善されてきました。それでも斜め後方は「悪くなり止まり」程度で、改善という程ではありません。
内装材の安っぽさは妥協点を得たようで、素材は触れば安くて軽いことがわかりますが、見ただけで安っぽいような気持ちになる状況は改善されました。3年ほど前のトヨタ車からはかなり改善されています。値段を考えれば、十分な仕上がりと言えます。
気になる三列目シートは、
パッソセッテの比ではありません。パッソセッテは、椅子はあるけど足の置き場がない、あるいは、二列目シートと座面の間に足が挟まる状況でしたが、足は動かせます。その一方で、頭はリヤゲートガラスのすぐそば、後ろからぶつけられたら命はまずありません。この車の三列目に載せ(乗せ、ではありません)られるくらいなら、お金を払ってでも別の車を用意して移動します。
気になった点として、三列目シートをしまった際の荷物室のカーペットです。ゴミが入りそうな結構な隙間が空いてしまいます。この種の三列目シートはほとんど使われることはないでしょうから、ゴミがはいる問題の方が大きいことでしょう。と言って左右跳ね上げ方式は難しそうですから、結局のところ三列目シートの存在自体が問題となります。この車を考えている人は、本当に三列目シートが必要かどうか、しっかり自問自答しましょう。
それにしても、今回試乗した車のような、こげ茶色が設定されているとは思いもよりませんでした。イエローやグリーンのような、ランニングシューズ調の色ばかりだと思っていました。まあ、そういう色はイメージカラーで、実際には買う人が少なかったり、1年後に廃止されていたりするものでしょう。初期需要が落ち着けば、地味な色が売れる、という算段です。アンチスポーツ派でも乗れそうです。
まとめ
男性需要を、「カスタム」や「走行性能のスポーツ」とは切り離して出してくるとは思いもよりませんでした。この感覚は、ボンゴフレンディ登場時に感じたショックと同じ、一種の革命です。これが受け入れられるかどうかは、しばらく動向を静観する必要がありますが、意欲的な取り組みです。
一方で、「走行性能のスポーツ」から切り離す余り、実際の走行性能(コーナーリング性能)が重視されていないような状況が気になります。速く走らなくても、乗員の車酔いや視線や姿勢の変化に対する疲れの問題があります。省燃費走行の上でも、カーブをゆっくり曲がらないと曲がれないような車は、その後の加速で燃料を多めに使うので、燃費が悪くなるものです。
車に興味がなくてもカーブでは傾きますし、万一の際には緊急回避をしなければならないこともあるでしょう。そんなことで、乗員の増加が予想されるのに、走行性能が忘れられているかのような現在のこの車は、積極的に勧めることができません。ラクティスやカローラアクシオ、カローラフィールダー、CX-3に乗って比べるようにしてください。
参照して欲しい記事
トヨタ
ラクティス(前期型1300ccエンジン)
ラクティス(前期型1500ccエンジン)
パッソセッテ
カローラアクシオ(後期型1500ccエンジン)
スペイド
ウイッシュ
ヴォクシー(ガソリンエンジン)
カローラスパシオ
日産
キューブ(長距離)
キューブ(市街地)
ノート(スーパーチャージャーエンジン)
ホンダ
フィット(前期型1300ccエンジン)
フィット(前期型ハイブリッド短距離)
フィット(前期型ハイブリッド長距離)
フリードハイブリッド
マツダ
CX3
プレマシー
スズキ
スイフト