
この日は、以前から気になっていた日産のティアナの試乗に行ってまいりました。以前から試乗をしなくてはならないと思っていましたが、後方に車が置かれていたり、他の車が気になったりと、優先順位の上位からは外れてしまっていました。シルフィ同様、立ち位置が難しい車になってしまっている証かもしれません。
大型FWDセダンの経緯
当初、「FWD車は小型コンパクトカー向けの駆動方式」とされていました。エンジンとトランスミッションのスペースを最小限にし、その分だけ客室容積を拡大することが主眼にされていたからかもしれません。
しかし、各種の技術的課題を解決し、1982年にはトヨタからカムリ/ビスタが発売されました。それを受けてか、日産はブルーバードまでのモデルをFWD化を進めることを発表しました。ブルーバードは、上位車種としてV6 2000ccエンジンを搭載したマキシマシリーズを追加しました。レイアウトこそ異なりますが、ブルーバードU2000GTや2000G6などの、ロングノーズシリーズの再来とも言えます。
さらに三菱からは、ギャランシグマのハードトップを半ば独立させた「シグマハードトップ」を追加したりと、当初多くの人が抵抗感を持っていたFWDセダンの大型化が進んできました。
そんな中、ブルーバードマキシマは単にマキシマを名乗り、当時の日産流の「すっきりとした上質な」セダンとして独立することになりました。他社も、カムリのプロミネントは専用デザインを得て、半ば独立車種になりました。さらに、米国カムリのセプター(当初はワゴンとクーペ、後にセダンも追加)、高級仕様のウィンダム、車内の広さを売りにした、いわゆるアメリカ様式のアバロンも追加しました。
の後、物品税が廃止されて消費税が導入、加えて課税は排気量に応じることになり、2500cc未満の車種の買得感が高まりました。この直前に、三菱からはディアマンテとシグマが追加、マツダはカペラの後継車のはずだったクロノス、MS6、MS8、MX6、テルスター、クレフ、ユーノス500が登場しました。
この種のFWD大型セダンが登場するまで、車種には会社の役職などに応じたヒエラルキーが存在していました。新入社員から係長級がカローラ・サニー、係長から課長級がコロナ・ブルーバード、課長から部長級がローレル・コロナマーク2、役員がセドリック・グロリア・クラウンに乗るというものです。
このヒエラルキーは、遅くともバブル期まで存在していました。バブル崩壊直後に登場したこれらのFWDセダンがヒエラルキーに組み入れられていなかったことから、徳大寺有恒氏をして「楽な車」と表現されました。
しかし、ほどなく景気の後退が本格的に進み、名ある企業が倒産したり業績不振になったりする中で、車もステータスから道具や自身のライフスタイルを示す道具として変化をしていきました。すなわち、ステーションワゴンやクロスカントリー4WDの隆盛です。
となると、そもそもセダンである必要すらなくなり、ヒエラルキーとともにこの種の車も「中途半端」と見られるようになって行きました。日産は、既にマキシマとセフィーロをFWDのセフィーロとして統合していましたが、さらにローレルも統合する形になり、ティアナとして再出発することになりました。合わせて他社のFWDセダンも統廃合が進んだのが2000年代前半でした。
ティアナ自体も、当初は3500cc、2300ccのV型6気筒エンジンと4WD用として2500cc4気筒エンジンを搭載しておりましたが、現行モデルではV型6気筒エンジンを廃止、4気筒2500ccエンジンのみとなっております。V6エンジンが収まるロングノーズはそのままに、エンジンのみ小型化している「ダウンサイジング」と言えます。
エンジン
QR25DEエンジンを搭載しております。QRエンジンは、2000年に登場し、2000cc以上の4気筒級を担っています。2000cc版は後継のMRエンジンへと置き換えられているため、QRエンジンは唯一2500ccに残っています。メーカーによると、今回のティアナに搭載されるのに当たって、同一型式ではあるものの多数の部品を新設計したとのことです。
以前、私は初代ティアナの4WD車に乗せられたことがあります。当時のQRエンジンには、QGエンジンと同様の「カラカラ」とした軽く安っぽい音が感じられました。今回試乗したティアナでは、遮音が行き届いていることと相まって、カラカラ音は耳を澄ませてようやく聞こえる程度に抑えられています。
BMW320iや
スカイラインのターボエンジン車でも同様の音は感じられますので、現代の軽量設計エンジンに共通した点なのでしょう。
エンジンの出力は、この車の視覚的な大きさとエンジン排気量の小ささとは反対に、必要にして十分に感じられます。力強さこそないものの、ティアナの乗用車的な性格に合っています。アイドリング時には少々感じられるカラカラ音も、走行中は聞こえづらくなります。試乗ゆえに高回転域までエンジン回転を上げることは出来ませんでしたが、滑らかさすら感じられるようになったこのエンジンは、適切な選択であるといえます。
マツダのスカイアクティブガソリンエンジンのような特色もありませんし、トヨタのARエンジンのような熱効率の高さもありませんが、マニアでなければそんなことは気にならないことでしょう。日常使用には十二分なエンジンです。
トランスミッション
日産お得のCVTが搭載されています。同日試乗した
シエンタは「以前のトヨタ車と比較してだいぶよくなった」程度ですが、この車のCVTは素晴らしい仕上がりです。CVTの変速制御では、変速比が高い領域に移行させる時期と変化率が肝心です。
この車は、以前のトルクコンバーター式有段ATの雰囲気をよく再現しており、急いで高い変速比へと移行させないようにしています。加速中は、力強いエンジン出力を感じさせながら加速を行い、変速比も固定かほんの少しずつ高い変速比へと移行させているようです。伸びやかで力強い加速を味わえます。
加速が終わると、走行に対して、いつでも素早い反応で必要な出力を取り出せるように待機しており、変速比を低い側に移行させることも素早く行われます。
日産の小型車のCVTは、エコ志向でおかしな変速になってしまいましたが、このクラスの車ではまだ良さが残っています。
サスペンション
基本的には、柔らかい乗り心地になっています。路面の突起に対してサスペンションはよく動き、動き始めの渋さなども全く感じません。コーナーリングというほどの曲がり方はしておりませんが、右折時にややロールの大きさを感じた程度です。その程度から、おそらくスポーツ走行は全く苦手であることが感じられます。とはいえ、
キューブのように全高は高くありませんから、山道で乗員が酔うことはないでしょう。乗用車らしいサスペンションであるといえます。
やや硬めでしっかりした乗り心地の
アコードとは性格が異なり、突起には減衰力不足とタイヤのバタつきを感じる
カムリとは、仕上がりが全く異なります。
後輪は独立懸架になっております。サスペンションアーム長が短いなどの設計がよろしくない独立懸架方式は、左右の揺れやヨーイングを感じることがあります。この車は、乗り心地と操縦性がよくバランスされていると言えます。
ステアリング
電動パワーステアリング方式です。これも日産車の美点で、かつての油圧パワーステアリングのような「やや粘っこい」印象も再現されております。操舵感はしっかりしていて、アシスト力は少し控えめにされているようです。
路面の状況は、まあまあ伝えるような印象です。スポーツドライブは視野に入っていませんでしょうから、これでも良いのでしょう。とはいえ、トヨタ車と比較するとかなり良い仕上がりになっています。
また、フロントオーバーハングの長さが強調されているスタイルですが、実際には標準的な4気筒エンジン搭載車のようで、軽快な操縦特性になっています。
ブレーキ
踏み込み初期は、若干バキュームサーボが強いような、軽い踏み応えのペダルになっています。柔らかい領域を超えると、しっかりとした踏み応えと制動力が得られます。必要にして十分なブレーキです。
ボデー
運転時、特に操舵時には、予想されていたフロントオーバーハングの長さは、全く感じさせない運転が可能です。正反対の性格の車としては、
トヨタブレイドのマスターグレードがありました。ステアリングホイールを回し始めても回頭が始まらない性格でした。この車は、軽快に回頭させることが可能です。外観から想像する鈍さはありません。
乗り心地が柔らかいために正確なところはわかりませんが、車体剛性は必要にして十分であるようです。サスペンションのダンパーがよく作動しているために、ボデーの不快な振動などは感じませんでした。
視界は、前方こそやや見切りが悪いように感じましたが、斜め後方、後方とも良く、安全確認を阻害することはありません。
内装は黒基調で、意外に近代的なメッキ使いになっています。トヨタの高価格車と比較するとやや地味ですあり、対象年齢は50歳代を念頭にしているようです。その控えめな感じは、美点とも中途半端ともとれます。初代ティアナの、タンと木目を基調とした「モダンリビング」も古くなり、宗旨替えのようです。
3ナンバー車ということもあり、横幅は十二分に感じます。後席にも人を乗せるのでしたらこれで良いのでしょうが、前席にしか乗らない場合には、ちょっと広すぎるかもしれません。幅が狭いことによる、取り回し性の悪化もありますので、この幅の広さは不要、と思う方も少なくないことでしょう。
まとめ
今回試乗するまでは、フロントオーバーハングの長さとフロントマスクの大きさばかりに目が向いてしまいました。その印象は変わりませんが、運転感覚の印象は良い車に仕上がっています。車にスポーツ性能が求められていなかった頃のセダンの感覚です。
車の出来としては満足なのですが、この大きさのおとなしくて特徴がないセダンというのは、今の時代は難しいと感じました。決して価格が安くなく、高性能でもありません。普通の人向けの性能といえます。しかし、そういう人は、カローラやプリウス、軽乗用車を選んでいます。車としてはよく出来ているのに、お客が不在、という状況です。
人気を博した、「ヒエラルキーを感じさせない新感覚」は、20年を経過して「お客不在」になってしまいました。自動車はアパレル産業と同じ、流行商品を作っている製造業、ということを強く感じさせた試乗でした。
参照して欲しい記事
トヨタ
マークX(前期型2500cc)
SAI(前期型)
カムリ
アリオン(初期型)
ブレイド(マスター)
ブレイド(2400ccエンジン車)
オーリス(旧型1800ccエンジン車)
オーリス(現行前期型RS)
カローラアクシオ(後期型2KR-FKEエンジン)
日産
フーガ(ハイブリッド)
スカイライン(350GT)
スカイライン(200GT)
シルフィ
ノート(スーパーチャージャーエンジン車)
ホンダ
アコード(ハイブリッド)
グレイス(ハイブリッド)
スバル
WRX-S4
マツダ
アテンザ(前期型ディーゼルエンジンAT車)
アクセラ(2000ccガソリンエンジン車)
アクセラ(ハイブリッド)
BMW235i
BMW320i
ゴルフ(1400cc)
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試乗 | クルマ
Posted at
2015/11/29 00:18:21