『大学』(二十七)

(安岡正篤－「人物を創る」より)





「詩に云う、桃の夭夭（ようよう）、其の葉蓁蓁（しんしん）、之の子于（ここ）に帰（とつ）ぐ、其の家人（かじん）に宜しと。其の家人に宜しくして而る后以て国人に教う可し。詩に云う、兄（けい）たるに宜しく弟（てい）たるに宜しと。兄たるに宜しく弟たるに宜しくして、而る后以て国人に教う可し。

詩に云う、その儀（ぎ）忒（たが）わず、是の四国を正すと。その父子兄弟と為って法（のっと）るに足りて、而る后民之れに法るなり。此れを国を治むるは其の家を斉うるに在りと謂う。」

詩云、桃之夭夭、其葉蓁蓁。之子于歸、宜其家人。宜其家人、而后可以教国人。詩云、宜兄宜弟。宜兄宜弟、而后可以教国人。

詩云、其儀不忒、正是四国。其為父子兄弟足法、而后民法之也。此謂治国在斉其家。



「詩経」周南の桃夭編に「若々しく美しい桃の木だ。葉もよく茂っている。この娘が嫁げば、家がよく治まるだろう」とある。この詩のように家内が治まってこそ、初めて国民を教化することができるのだ。
「詩経」小雅の蓼蕭（りくしょう）編に「兄たるに宜しく弟たるに宜し」とあるように、在上の君子は、まずわが兄弟と睦みあった上で、次第に国人を教化してゆくのである。教は効と同じく、「ならう」と読んでも宜しい。

同じく「詩経」の国風（地方の民謡編）、曹風・鳲鳩（しきゅう）編に云う、「一国の指導者が国民の儀表（手本）となって、しかるのち四方の人々まで感化される」と。かように指導者の手近な兄弟父子の間に法がかない、しっくり行って初めて国民がこれに法（のっと）り手本とするようになる。これを、国を治めるには指導者自身がまず一家を徳治せねばならぬ、というのである。





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