「~界のロールス・ロイス」、物の高級さを表すのによく使われる表現ですが、以前バイク界のロールス・ロイスとして

英国のブラフ・シューぺリアSS100をご紹介しましたね、しかし、世の中には他にもバイク界のロールス・ロイスと呼ばれるバイクが存在するのです。今回はそんなバイクをまた英国からご紹介
【Vincent Black Shadow】
「ヴィンセント ブラックシャドウ」です。クラシックなバイクですよ。
まず、ヴィンセント・HRD社について簡単に、ヴィンセントの始まりは、HRD株式会社というオートバイメーカーをフィル・ヴィンセントという人物が1928年に買い取ったのが始まり、購入された小さな工場敷地から「The Vincent HRD Company Ltd」の名の下で様々なオートバイが生産されました。それらは、革新的なものが多く今では当たり前となっている技術の先駆けとなっている物もたくさんあるそうです、基本的にはハンドメイドでバイクを造っていたのですが、海外勢のバイクの台頭、生産コストの向上で1955年にバイクの生産を終了、実質この時点で廃業しております。
1948年

英国のヴィンセント・HRD社が開発販売したのがヴィンセント・ブラックシャドウです。スペックはこちら
空冷V型2気筒OHV、排気量998cc、最高出力55馬力です。

エンジン、元々は500ccの単気筒エンジンのバイクを造っていたそうで、単純に言えばその単気筒を2つ50度の狭角V型配置でくっつけたエンジンなんだとか、ちなみにこのエンジン、フレームの一部として応力を受ける役目も果たしています。複雑な取り回しのエキマニから「配管工の悪夢」なんて呼ばれていたり・・・キャブレターは同じ英国のAMAL(アマル)社製の物が装着されています、トランスミッションは4速です。

フロント足回り、ブレーキは冷却フィン付きダブルフロントドラムブレーキを装備、当時としては最先端のブレーキシステムだったとか、フロントフォークには油圧ダンパーが付いていて、現在主流のテレスコ式には劣りますが、それでも油圧併用のサスペンションをこの時代に採用していたのです。「ギドラウリック・フロントフォーク」という名称でした。

リヤ側足回り、リヤサスはカンチレバー式サスペンション・・・わかりませんよね?、簡単な図解を。

カンチレバー式サスペンションのものすごく単純な図解、機能の一端を車体に固定していて、もう一端でスイングアームを介して車輪を支持連結するという構造、つまりスプリングやショックは車体側に固定されていて、後輪側はスイングアームで連結してサスペンションとして機能させるというもの、ちとややこしいのですが一部の古いハーレーでも使われていた方式です。ある意味現在のリヤモノサスのご先祖様でもあります。リヤブレーキはシングルのドラム式です。

ハンドル~メーター回り、ハンドルはいわゆる一文字タイプ、メーターは機械式のSmiths(スミス)社の物、古い英国車にも使われていた物ですね、この時代に250km/hまで刻まれています。ヘッドライト上には電流計(アンペア計)を装備しております。

右サイド

左サイド
右サイドは複雑な取り回しのエキマニが美しいとよく評されますが、左サイドについては何故かアグリー(醜い)とも言われがちなんです。私はこの左サイドもメカメカしくて好きですけどね、しかし左サイドは美しく無いと言われているんです。あらためてよく見ると右側出しの集合管なんですよねこの当時で、やはり当時の最先端だったのが良くわかります。

フレームは鋼管製で一見クレードルに見えますが、エンジン上部にステアリングヘッド(ヘッドストック)を直結し、シリンダー後部から延びるシートレールとリアサスペンションで構成、つまり上記の通りエンジン本体がフレームの一部という構造なのです。つまり実質フレームが無いに近いわけで、しかしガソリンタンクの下には

このようにオイルタンクがあり、これも一応フレームの一部として機能するそうなので、ダイヤモンド式フレームに限りなく近い物だそうです。

タンクにはシンプルに「Vincent」の文字が入っていますが、年式によっては「HRD」の物も存在します。

さて、その走りは?、そりゃ現在のバイクに比べたら曲がらないし止まらないわけですが、しかし当時の市販バイクとしては初めて200km/hの壁をノーマルで超えています(201.2km/h出たそうです)。ちなみに1948年は日本のホンダが創業した年ですよ、ホンダは1969年にCB750fourで200km/hを突破したわけですが、その21年も前にヴィンセントは200kmを突破していたのです。

こちらはブラックシャドウをチューニングした「ブラックライトニング」という市販レーサー、このバイクで米国ソルトレイクのボンネビル・ソルトフラッツで速度記録に挑戦、最高時速245km/hの記録を樹立、その後20年間この記録は破られなかったとか、つまりブラックシャドウは現在で言うところのリッターSSバイクだったのです。ただし、直線は良いのですが、コーナリングではこのエンジンを中心としたフレーム方式では剛性不足気味で安定感に欠けており、一部でブラックシャドウはウィドウ・メイカー(未亡人製造機)とも呼ばれてしまいました。ちなみに価格は当時アメリカのドル価格で1200ドル、トライアンフが600ドルだったそうで単純に2倍の価格でした、製造もほぼハンドメイドで高級なバイクだったのです。タイプBから始まりタイプC、タイプDと細部改良されエンジン排気量や出力は変えずに1955年まで生産販売されました。約8年間で生産された台数は約1774台と少なく、この生産台数の少なさが希少性に拍車をかけているのです。
さて、中古市場・・・あるの?状態、一応日本にも数台上がっていますが全て応談(ASK)ですわな。海外、アメリカで1台中古が上がっていましたがそのお値段は16万ドル、現在のレートで日本円に換算すると約2495万4731円ですね、うん、流石に高額だ。わりと最近テレビの某鑑定団に1台のヴィンセント・ブラックシャドウが出たんですよ。

こちらがその時の画像
ちなみにそのオーナーはなんとこのブラックシャドウをタダで譲り受けたんそうで・・・マジかよw。まあ、譲り受けた時の状態は長年の倉庫内放置で程度はかなり悪かったそうなので、自費で400万円をかけてレストアしたそうですけどね。本人予想額は500万円でしたがオープンザプライスで出た額はなんと1400万円でした・・・ちなみにその少し前の回にもホンダCBR400Fの初期型低走行車(2400kmほど)が出たんですが、オープンザプライスは600万円でしたw、いや、流石に高額だと思いましたが。ブラックシャドウは現在は基本的に1000万円以上あたりからのオークションになる事が多いそうですよ、これが同じ英国のブラフ・シューぺリアと並んでバイク界のロールス・ロイスと呼ばれる理由ですかね。

あのブラフ・シューぺリアと並んでバイク界のロールス・ロイスと呼ばれるバイク、1940~50年代としては最先端の装備、最先端のフレームワーク、フロントやリヤサスペンションを持ち量産市販仕様でも200km/hオーバーを記録、ボンネビルでの最高速チャレンジでは245km/hの世界記録を樹立、当時の世界最速といっても過言ではないバイク、それがヴィンセント・ブラックシャドウです。
所有するなら?、イジります?これを?ご冗談を・・・ネジ1本たりともイジっちゃダメなヤツでしょコレは。ただ、純正のキャブはかなり気難しいそうなので、そこは走らせる前提なら流用で現代のキャブに変えたほうが良いかも?、それぐらいですかね。ただ、イジった例として

こんなのも存在します。このカスタムについては余談にて後述します。
ブラフ・シューぺリアもヴィンセント・ブラックシャドウも一度でいいから見てみたいものです。
余談、EGLI VINCENT BLACK SHADOW(エグリ ヴィンセント・ブラックシャドウ)とは何者?

上記したこのバイク、これがエグリ ヴィンセント・ブラックシャドウです。「エグリフレーム」で知られるスイスのチューナー、フリッツ・エグリが、スイス国内のヒルクライムレースにブラックシャドウで参戦、時は1960年代半ば、いいところを走りながらどうしても勝てないとなり、フリッツ・エグリはオリジナルフレームの製作に乗り出しました。しかし上記した通りヴィンセント社はもう廃業していて新車は手に入りません。

なので、フレームをまず製作、それを販売して「ブラックシャドウのエンジンは自分で手に入れてね」という方式で販売したのです。後に完全装備のコンプリートも40台ほど製作したそうですが。

不満があったフレームの剛性不足に新たなフレームを製作して対応

リヤサスはツインショックに変更されております。

フロントブレーキもマグネシウムボディの4リーディングドラムに強化、エンジンについてはノーマルの他に1330ccにボアアップした物を注文する事が出来たとか、フロントフォークは正立のテレスコピックタイプを装着。

こちらのエグリ ヴィンセントは日本国内に存在している1台、オーナーの好みでトマゼリのセパハン、シングルシート、ロケットカウル、FCRキャブでアップデートされております。

ん?、このタンクに描かれているエンブレムはどこかで?

はい、ZODIACのエンブレムですね。

昨年逝去された、漫画家の東本昌平氏が所有していたんです。

東本さんの逝去後に開催された個展にも展示されていたそうです。
ちなみに販売当時にエグリ本社にフレームをオーダー、届くまでに3年を要したとか、同時にヴィンセント・ブラックシャドウのエンジンを探して購入、路上を走れるようになったのは5年かかったとご本人の談、いや、これはマニア垂涎の逸品、美しいなぁ。

ちなみに日本の国産車ベースでも、エグリは色々と造っています。画像のその内の1台でカワサキZ1系統のエンジンを搭載した物・・・珍走バイクじゃないですよw、サーキットもそのまま走れるレベルだったとか、このエグリ系統のバイクもそのうちに。