高級であることを表すためによく使われるフレーズ。
「◯◯界のロールスロイス」
実は「バイク界のロールスロイス」と呼ばれるバイクが存在するのをご存知ですか?。
はい、今回はそんな超高級な1台をご紹介、お国はエゲレス🇬🇧からです。
【Brough Superior SS100】
「ブラフ・シュペーリア SS100」です。
このバイクというか、このメーカーの名前は日本では表記のブレが激しくて、ブラフ・シュペーリアの他にブラフ・シューぺリア、ブラウ・シューペリア、ブラウ・シュペーリア、ブロウスペリアなどとも表記されています、単純にブラフとも呼ばれていますが。
ここでは一般的な呼称である「ブラフ・シュペーリア」で統一します。
かなり古い(クラシックの域)バイクですので、知らない方のほうが多いかと。
ブラフ・シュペーリア社は1919年にイギリスのジョージ ブラフ氏が創業したバイクメーカーです(彼の父親もバイクメーカーを経営していたそうです)。
このメーカーのバイクが何故バイク界のロールスロイスと呼ばれているのか?、まず、生産は1台1台職人の手によるハンドメイドであること(まあ、もっとも現代的なラインによる流れ作業的な大量生産は車でも少なかった時代ですけど)。
1台をまず仮組みしたら分解してそこから塗装や磨きや鏡面メッキなどを施してこれで完成・・・じゃないんだなこれが。
まず社長(ブラフ氏)が完成品をチェック、ここでブラフ氏が「美しくない」とか不具合などを感じたら下手をしたら完全に分解して、いちからの造りなおしに。
こうして工房から(こう言うべきかと)ロールアウトしたら次はそのバイクに跨がる顧客によるチェック、この段階で顧客様がどこそこが気に入らないとなると、また回収してまずは手直しや、下手をしたらまた完全分解からの造りなおしも厭わない・・・。
現場の職人達の心の叫びはきっと・・・

こんな一切の妥協無き戰い(廣島頂上作戰)なメーカーだったのです。
さて、その中でも人気のSS100がこちら。

まさにクラシックなバイク、それもそのはず生産されたのは1924年~1940年の間ですから。しかし、美しさと気品に溢れています。
スペックはこちら。
空冷V型2気筒OHV、排気量998cc、最高出力・・・は実はわかりませんw。
これには理由がありまして、エンジンは年式や顧客の要望などによりサイドバルブだったりOHVだったりと一律ではないのです。上記のスペックはあくまで「一例」なんですよ。
エンジンは自社製ではなくJ.A.P(日本人への蔑称ではないですよ)というメーカーの物、J.A.プレストウィッチ・マニュファクチャリング・カンパニーの略で、1894年に弱冠20歳のジョン・アルフレッド・プレストウィッチがロンドンに創業した会社です。

ここのエンジンは初期のモーガン スリーホイラーにも搭載されていました(紹介済)。
他の一部パーツにもロイヤルエンフィールド社の物を使っていたりします。
実は一律ではないのはエンジン性能面だけではなく。

はい、外観もこの通り。
生産されたSS100は1台1台「違う」とのこと。
顧客のオーダーに合わせての手作りのためそれぞれが細部に違いがあるそうです。
これはオーバーな表現かもですが、「1台たりとも全く同じSS100は存在しない」なんて言葉もあるぐらいです。
そう、まさにテーラーメイドで仕立てたスーツのようにと、そんなバイクですから1940年までに生産された台数は383台のみです。
当時でもかなり高級&高額なバイクだったそうで、庶民が乗れるような代物ではありませんでしたから。
こんなクラシックバイク、性能はたいした事は無いんでしょですと?。
SS100の名前はスーパースポーツ100の略で、100は100mile/h(160km)の最高速度を出せることからの名称です。
やはりたいした事は無い?、いやいや、1924年って今は2021年ですよね、つまり約100年近くも前のバイクがこの最高速度を出せるって物凄い事なんですよ。
今で言えばカワサキのH2のような性能と言っても過言ではないのです。
ちなみにブラフ社は最高速度記録にも熱心で、1935年には最高速度275kmを叩きだしていたり・・・現在のリッターバイク並みの速度を誇るレコードホルダーだったのです。
さて、このブラフ・シュペーリアを語る上で切っても切れない人物が居ます。

この人、映画「アラビアのロレンス」のモデルになった(この画像のバイクもブラフ・シュペーリアですよ)。

トーマス・エドワード・ロレンス氏
彼は亡くなる(最期はバイクで走行中に、飛び出して来た少年を避けて事故死、享年46歳)までに7台のブラフ シュペーリアを乗り継いだそうです。
事故死した時には、8台目のブラフ シュペーリアが納車される前でした。
この人、基本的に欧州ではアラビアを独立させた英雄とされていますが、その欧州でも一部では目立ちたがり屋だの何故か露出狂だのと罵られたりと、毀誉褒貶(きよほうへん、貶されたり誉められたりの差が大きいということ)の激しい人物でもありました。
結局、彼の行動は軍人(敵地の地図を作成したりもする情報将校だった模様)としての行動で、あくまでイギリスの国益のためでありアラブはただ利用されただけだの、現在も拗れているパレスチナ問題の原因を作っただけだとも言われています。
尚、生涯独身で・・・同性愛がらみのお話にも事欠かない人物でもあります(あの映画の方でも、さらっとですが敵に捕まった時に敵の部隊の司令官(♂)から拷問からの肛門にアッー💕・・・されたような事が表現されていたり)、そんでもって┣゙Mだという説も・・・私生児だったそうですね(子供の頃は親から虐待に近い教育を受けたらしく、晩年は精神を病んでいたとか)。
ちなみに彼が事故死した時のブラフ・シュペーリアも事故のダメージもそのままで保管(展示)されております。

さて、1940年、ブラフ・シュペーリア社は突然バイクの生産を止めてしまいます。19種類の車種、約3000台の総生産台数でした。
その後は1950年あたりまではそれまでに生産した自社製バイクの修理やレストアを専門で営業していましたが、1950年代半ばに工場を閉鎖、事実上の倒産となりました。
さて、中古が欲しい?、結構、では海外のオークションへ行かないと。
これまでに何度かオークションにかけられたSS100がありますが、安くても2000万円台、現在までの最高落札価格記録は6100万円!になります・・・買えるかそんなもん!www。
尚、日本にも数台現存していますよ(確認出来たSS100は個人所有やホンダがミュージアムで持っています)。

バイク界のロールスロイスの名にふさわしい、職人の手によるまさに工芸品のようなバイク、性能も当時のバイクとしてはかなり高い性能を誇りSS(スーパースポーツ)の名に恥じない1台、それがブラフ・シュペーリアSS100です。
しかし、諦めてはいけない。何故ならブラフ・シュペーリアは2014年に「復活」を果たしたのです。

これが、現代のブラフ・シュペーリアSS100です。開発の中心となったのはBMWのバイクをメインでカスタムするビルダー「Boxer-design」社です。
エンジンは水冷DOHC4バルブ、挟み角88度のVツイン、排気量997cc。
当初は当時のSS100をそのまま再現して生産するという案もあったそうですが、結局過去のデザイン要素を取り入れた現代的なネオクラシカルバイクとなりました。
お値段は・・・800万円あたりから1000万円近く・・・らしい、昔と同じく顧客からの細部の仕様のオーダーも可能。

クラシカルですが、フロントブレーキディスクは4枚だったりします、完全受注生産車です。
日本にも数台入って来ているとのこと。

こちらは2019年に発表されたブラフ・シュペーリア創立100周年記念の限定車、100台限定でお値段は1200万円(^_^;)。

更にこちらは公道走行不可のサーキット専用モデル「AMB001」、画像の通りあの高級車メーカーである英国のアストンマーティンと新生ブラフ・シュペーリアとがコラボして製造されました、お値段は1300万円也、カワサキのH2Rみたいな感じのバイクであります。
新たに甦ったブラフ・シュペーリアもバイク界のロールスロイスであり続けているのです。