今回はホンダさんから。
今までホンダのトンデモとか、気が触れたアイツとか散々書いておいてちゃんと紹介していなかったな~と。
はい、アレです。いよいよアイツの出番です。
【HONDA RC213V-S】
「ホンダ RC213V-S」です。
2016年に誕生、そう、販売されてから意外と年数が経っているんですよ。

前回ご紹介したドゥカティのスーパーレッジェーラV4、これはある意味「市販車をベースにして、どこまで軽くてスんゴいレーサーみたいなのを造れるか?」そんなバイクでしたが。

では、ホンダのRC213V-Sとは何か?、ドゥカティより話は単純明快
「Moto'GPに参戦しているワークスレーサーを公道で走らせてやるぜ!」
こういうバイクです。
よって、基本的なベースになっているのは

ホンダのMoto'GPワークスレーサーであるRC213Vです。
ただ、これにそのまま保安部品類をポンとつけました・・・ではなく

ホンダがMoto'GPに参戦するプライベートチーム向けに開発した市販レーサーであるRCV1000R、こちらが下敷きになっております。
スペック
水冷V型4気筒DOHC16バルブ、排気量999cc、最高出力70馬力です。
馬力を見て「えっ?」となっているかと、でも日本仕様は70馬力なんですよ。馬力だけなら私の650ccより低いというね・・・理由は後程。
上記したとおり、ワークスレーサーに保安部品を取り付けて無理矢理公道走行可能にしましたでは無いんです。
ホンダ公式より、ワークスレーサーからの変更点を羅列してみます。
「一般公道走行のための変更項目」
・ハンドル切れ角:15度 → 26度
・タイヤ:ブリヂストン社製RS10
・フロントブレーキディスク:ユタカ技研社製(ステンレス材)
・ブレーキパッド:ブレンボ製
ワークスレーサーのローターはカーボンですから、公道レベルの発熱では厳しいですわな。取り回しのためにハンドルの切れ角も増やされています。
次に「一般公道走行のための追加項目」
・ヘッドライト
・テールランプ
・ライセンスランプ
・前・後ウインカーランプ
・左・右バックミラー
・スピードメーター
・触媒付きマフラー
・ライセンスプレートホルダー
・ホーン
・Hondaスマート・キー
・セルスターター
・サイドスタンド
このあたりはいわゆる保安部品とか、公道で走るために追加された物の数々です、無いと車検も通りませんな部品もありますね。尚、ハンドルロックもトップブリッジ側ではなく、三つ又のアンダー側に装着されています。当然セルスターターも装備、これが無いと押しがけか後輪をモーターで回す機械がないとエンジンがかかりませんわな。

ヘッドライトはこのように点灯します。

ミラーもハンドルから上へ生えてるような形、レーサーにはミラーなんて無いわけですから、レースレギュレーションで装着が義務付けされている、車両同士が接触したときに誤作動を防ぐためのレバーガードに取り付けられています。ちなみにこのミラー片側だけで25万円の価格だそうです・・・。
そしてエンジン

まさに精密機械、ホンダお得意のカムギアトレーンでカムを動かします、しかし、実は近年のホンダの市販車でカムギアトレーンは採用していなかったりします(VTR1000SP-2以降採用していません)、理由はエンジンからの騒音が大きくなりがち&コスト高になるなどです。でも、本来レーサーであるRCは採算度外視で勿論採用しています。

横から見ると一番下にあるオイルパンが変わった形をしていますね、これはセミドライサンプを採用しているためです。普通はクランクの下にオイルパンが来てオイルを掻きあげるわけですが、しかしこのウェットサンプはオイルが撹拌抵抗となりレスポンスが悪くなってしまうという欠点が、実はオイルはなるべく少ない方が抵抗は下がります、当然耐久性は犠牲になりますが。
RCはオイルはクランク軸よりかなり下へ溜まるシステム、そこからクランクへオイルポンプで必要量を吸い上げ潤滑、戻るオイルはワンウェイのバルブでオイルパンへ戻るというなかなか面倒臭いシステムです。クランク内圧を下げる効果もあります。
他にはレーサーではニューマチックバルブを採用していますが(窒素ガスでバルブを動かすシステム)、一般的なコイルスプリング式に変更、そのままだと窒素ガスを逐次充填しなければなりませんからね。そしてシームレストランスミッションをコンベンショナル方式に変更しています、シームレスは公道で使うにはガラスのミッションなので。
極太なアルミスイングアーム、レーサーと同じ材質のアルミ材を、職人の手で1本1本TIG溶接でハンドメイド製作、このスイングアームだけで200万円以上の価格です。

フレーム、こちらも職人の手によるハンドメイドで溶接製作、こちらは単品で約400万円になります。

リヤサス、オーリンズ製の専用品、スイングアームの奥に収まるように装着されています。

フロントサスペンションはフルアジャスタブルの倒立のオーリンズ、ブレーキキャリバーはブレンボをラジアルマウント、ローターの材質は鋳鉄に変更になっております。ちなみにレーサーでも雨天時にはカーボンローターから鋳鉄ローターへ付け替えるそうです。その雨天用がベースになっています。

マフラーは右下後方に1本、シートカウル下後方に1本の2本出し、公道走行のために触媒が追加されています。前後ホイールはマルケジーニ製のマグネシウム鍛造のもの、レーサーでもカーボンホイールは避けたようですね(アレはたまに割れるので)。

テールカウル部、リヤフェンダーやリヤウィンカーは簡単に取り外し可能、外装のカウル類は勿論ドライカーボン製です。

カラーは塗装前提のカーボンむき出しも用意されていました。

これ、オイルフィルターなんですが、一般的なカードリッジ式ではなく軽量化の為に二層式を採用しています。フィルター1つで4万円✕2ですw、しかもフィルター交換にはオイルクーラーやらエキマニの一部を外さないといけないそうです面倒臭いなw、ちなみにエアクリーナーも4万円だそうです・・・。
さて、まさにワークスレーサーそのものなこのバイク、その販売時のお値段は・・・
¥21,900,000 ゚ ゚ ( Д )!!
弐千百九十万円!です(日本での販売価格)。車のNSXの次に高額なホンダの市販車であります。
内外の個人向けで生産されたのは約200台で、広報車やサーキット用でも造られたそうで実際の総生産台数は不明とのこと。
ちなみにこれを生産するために25人の熟練工が熊本製作所に集められ、1台1台ほぼハンドメイドで生産、生産能力は1日に1台出来るかな~?だったそうですよ。

さて、その走りはとにかく軽いの一言だそうで、乾燥重量で170kgの車体は現在の250ccのSSバイクの感覚で扱えて、取り回しも非常に良好。日本仕様は70馬力ですが、むしろそれのおかげで公道でも扱いやすいそうです。
馬力は抑えられていますが、エンジンのピックアップが非常に鋭いので実際の馬力よりもパワー感があるとか。
日本の公道ならこれぐらいが丁度良いし体感よりも速く走れてしまうそうです。つまり70馬力の国内仕様は扱いやすさに特化した仕様ということですね。ちなみに仕様地ごとに馬力が違いまして、北米や一部欧州で159馬力(公道仕様の最高値)、フランスで109馬力など地域差があります。
尚、公道は走りませんよ、サーキット専用にしますよと誓約書を書くと

こちらのブラックボックスが購入可能になります、レーサーとほぼ同じ215馬力までパワーを引き出すための別売のクローズドコース専用キットで、お値段は150万円です。これを組み込めば13000rpmで215馬力の出力になります、車両重量も160kg台になるとか。ただし、何故か北米でこのキットは販売されなかった模様、なんでだろ?。
ちなみに、日本仕様は最高出力70馬力を6000rpmで出力、このことからも扱いやすさを重視した仕様になっているのが伺えますね、これが国内70馬力の理由なのです。尚、整備は指定されたショップでのみ可能となっております。
さて、中古・・・あるわけ無ぇっすw
実際に売りに出たら相場はどれぐらいになるんでしょうかね?、日本国内では数名の方が個人所有しているそうですが。確かYouTubeに動画をあげている方も居たような?。

まさにホンダドリーム、レースホモロゲーション取得のための生産販売ではなく、ワークスレーサーを公道で走らせるという目標のためだけに造られたバイク。価格はとんでもないですが、その内容を考えたら実はバーゲンプライスなのかも知れない、それがホンダRC213V-Sなのです。ちなみに純粋なワークスレーサーは4000万円を軽く越えるらしい。
そもそも、生産台数以前に市販価格が高額すぎてホモロゲーション取得はできませんけどね。
このバイク、上記の変更点などからRC213Vの純粋なレプリカとは言えない、妥協の産物だろなんて悪口も一部ではあるんですが、まず、純粋なワークスレーサーそのままで公道を走ったら死ぬだろと言いたい。
ヤマハのR1開発の時にですが、こんな言葉があります。
「レーサーは市販車にはなれない、また、市販車もレーサーにはなれはしない」
まさに至言、そこをホンダは市販レーサーという下敷きを用意して、できる限りワークスレーサーを再現して、尚且つ公道走行可能なのを造るというやり方で実現したのです。
他のバイクメーカーならこんなのまずやりませんよ、採算なんて取れやしないし、むしろ造れば造るほど赤字になりかねない(多分、儲けは無かったのかも)。ホンダだからこそ出来たバイクだと思います。
時々こんな気の触れた行為をするのがホンダさんというメーカー、だから個人的にはホンダのバイクを「優等生」とは呼びたく無いのです。その称号はどちらかと言えばヤマハさんにこそ相応しいと思う(個人的な感想です)。
まずは実物を拝み倒したいものです。所有?、無理だし一切の改造はネジ1本許されないバイクかと。