今回は・・・

目潰しっ!いや三菱!
いや、今回も好きなバイクですよ、かつて三菱が生産販売をしていたスクーターをご紹介、前回のダイハツに続き意外な所がバイクを造っていたの第2段となります。
【MITSUBISHI Silver Pigeon】
「三菱 シルバーピジョン」です。
終戦直後に財閥解体となり、軍需産業を担っていた三菱も勿論解体の憂き目に、終戦直後の三菱は東日本重工業、中日本重工業、西日本重工業の3社に分割されたのです。その中の中日本重工業が会社の立て直しを図るために、アメリカのサルスベリー社の・・・

百日紅(サルスベリ)?
じゃなくてサルスベリー社(サルズベリー社とも)です。そこのスクーターである

「モーターグライド」
戦前にこれの図面をアメリカから持ち帰っていて、それを参考にして1946年に製作されたのが

中日本重工業(後の三菱重工業)シルバーピジョンC-10型です。
スペック
強制空冷4サイクル単気筒SV(サイドバルブ)2バルブ、排気量112cc、最高出力1.5馬力です。

エンジン、シートの下に屹立するように配置、この時代に4サイクルですがサイドバルブ式、排気量は112ccありますが最高出力が2馬力も無いのはサイドバルブ式は効率が悪いからです。それでも平坦地なら最高速度は50km/hほど出せたとか。後方上部にある箱がガソリンタンク、動力伝達は今のスクーターと基本的に同じVベルト&プーリー式自動変速機を採用していました、こんな形ですが案外先進的だったんですよ。ちなみにセルモーターはおろかキックスターターも無しで、エンジン始動は「押しがけ」でした・・・なんかレーシーだなぁw

ボディ外板は航空機用資材の余剰品を使ったジュラルミン製、案外高級な素材を使用・・・いや、敗戦で加工しやすい資材が本来航空機製造用で余っていたジュラルミンだったからなんですけどね。

前後、まさに「走るエンジン付きの椅子」、非常にシンプルな構成でした。アクセルは通常のバイクと同じく右手を捻る方式、ホーンの下にエンブレムがありまして

拡大図、車名であるシルバーピジョンにちなんだ銀色の鳩をあしらっています。鳩は平和の象徴、敗戦後でしたから平和への祈りを込めてピジョン(鳩)と名付けたそうです。

フロントホイール、フロントブレーキ?無いっすw、後輪のみドラム式ブレーキです。サスペンションもありません前後ともリジットです。ちなみにこのフロントタイヤなんですが

こちらの三菱百式司令部偵察機の尾輪を流用したものです、初期生産の少数の台数のみですが。
ちなみに販売時期もほぼ同じでライバルでもあった

富士重工(スバル)のラビット(紹介済)、こちらについても

中島飛行機製の陸上攻撃機「銀河」の尾輪が使われたとありますが、それは試作段階での話で市販型は違うんだそうです。
その後1948年に

C-11型へ、この型は皇室に献上されて

現在の上皇陛下も乗られていたそうです。

ちなみに昭和陛下も富士重工のラビットに乗られていたとか。
最初のC-10型は初年度の生産台数がとても少なかったそうで、何故こうなったか?、ラビットも含めて価格が・・・
この時代は大卒の初任給が500円前後だったそうで、その当時のラビットとシルバーピジョンの価格は
ラビットS-1が12,000円
シルバーピジョンC-10が45,000円
はい、もう雲の上な価格ですね。庶民が買えるような代物ではありませんでした。
その後ラビットと競い会うようにシルバーピジョンも進化して行きます。

C-13型(1949年)、最後の押しがけモデル

C-21型(1950年)、キックスターターを初装備

C-25型(1950年)、大型化して荷物の積載性も向上、2万台ほど売れたそうです。

C-35型(1953年)、エンジンの出力向上を実施
ここまで比較的に初期のモデルを大まかに、この後も進化は続いて

1963年のシルバーピジョンC-140型

同年に発売されたC-240型、これらが最後のモデルになります。
スペック
C-140:空冷2サイクル2気筒、排気量125cc、最高出力8馬力
C-240:空冷2サイクル2気筒、排気量143cc、最高出力9.2馬力です。
最初は4サイクルのサイドバルブエンジンでしたが、途中から2サイクルエンジンのモデルも造られるようになりました。ここからは代表的なC-140の方でご紹介

エンジン、左側に冷却ファンがつく強制空冷2気筒の2サイクル125ccエンジン、上にあるのはガソリンタンクです。駆動方式はVベルト&プーリー式を継承、リヤホイールにドラム式ブレーキも装備で片側にリヤサスペンションもあります。

フロントホイール、テレスコピック式のサスペンション、ドラム式ブレーキを装備。ホイールは10インチです。

メーター回り、120km/hまで刻まれています、そこまでのスピードは出ないそうですけどね。

テールランプ、ブレーキとウインカーが一体型になっています。なかなかお洒落な感じ。テールランプ上にエンブレムがありまして

こちらがエンブレム単体、これはかなりの美品です。

便利機能として夜にキーの位置がわかりやすいようにランプが点灯する仕掛け、これは便利かも。

外板はスチール、いわゆる鉄スクーターというヤツですね。後ろが長いので積載性も良いとか。
最終的にシルバーピジョンシリーズは1965年に生産販売を終了、この頃に行われた三菱重工の統廃合が原因だそうで、そもそも高級路線で販売していたのもあり価格も高額で、実用重視の富士重工(スバル)のラビットほどは売れていなかったとのこと、そして、庶民の足が軽自動車に取って変わられてスクーターの販売台数自体が両社ともに減少したこともあるそうです。ちなみに富士重工のラビットは1968年で生産販売を終了しております。
さて、中古市場
バイク屋さんの中古車としてはC-140を1台発見しましたがASK(応談)、価格はわからず走行距離も正確な距離はわからずな1台です・・・おいくら万円なんだろう?。外観はレストア済らしくかなり綺麗でしたが、100万ぐらいは行くのかな?
某オクで別の年式のシルバーピジョンも居ましたがあくまでレストアベース、外板がスチールなので錆びだらけのボロボロな個体も、それでも25万円~40万円あたりでした、かなり気合いを入れないと路上復帰は難しそうです。

敗戦後解体された三菱が社員を喰わせるために、まずは庶民の足をとGHQとの長い交渉の上で販売に漕ぎ着けました。最初は高嶺の花でしたが戦後復興の足として活躍し、軽自動車に取って変わられるまで生産販売されたスクーター、それが三菱シルバーピジョンです。
所有するなら?やはり最後のC-140かC-240ですかね、とりあえず現在流通しているのがそのあたりというのもありますけど、まあ、イジりは無しでまずはレストアで路上復帰からですね。

形式はバラバラですが、このように綺麗にレストアして維持するのに全力を尽くすべきでしょう、最早動く文化遺産、大事に残すべきバイクです。

これはランブレッタ(イタリアはイノチェンティ製のスクーター)ですが、ミラーやらフォグを着けまくりでモッズ仕様にしてみたくもあります、大変そうですが。
今回は大まかざっくりでしたが、何分古いスクーターで現存が少ないから資料が・・・いずれ各車種に絞り込んだのをまたいつか、C-140なら旧車イベントで見かけました、思わずラビットですか?と言ってしまいましたがw、オーナー様曰く「よくそう言われますw」とのことでした。それで存在を知った次第です。こういう古いスクーターをお洒落に乗るのも良いですね。
余談
SV(サイドバルブ)ってなぁに?
動弁機構のひとつで、かなり古い方式です、かなり昔のハーレー(戦前戦後あたり)や日本だとそのコピーである陸王が使っていました。

これがサイドバルブの図解
OHVに近いのですが、バルブや点火プラグの配置がピストンの横になります。

OHVだとピストンの上にバルブが来るのですが。

サイドバルブはバルブで開閉する吸排気ポートや点火プラグがピストンの横に来る配置になります。初期のガソリンエンジンで採用されていました。ただ、見ての通り効率は悪いやり方です、でも音は良いんですよ。陸王のエンジン始動を見ましたが、アイドリングでバシャバシャとドドドドが混ざったような独特のエンジン音がします。足クラッチでハンドシフトでしたが乗ってみたくなりました。