
日が陰り始めると夏とは言ってもさすがに肌寒くなる。焚き火を起こしてポットを横に置く。傍らのロッドを拾って一日中ブラブラ揺れていたルアーの絡まりをほどく。ゆったりした流れに向かってキャストすると、ナイロンラインが残日を受け、対岸の黒い森を背景に、光りの放物線を描く。
どこから見ても辺境のアングラーに見えるが、実は彼は釣りには興味はない・・・厳密に言うと夕食が充実するかどうか?という観点から言うと、釣れるかどうかは比較的切実だ。もう10日以上もタイガの林を彷徨している。食料もそろそろ尽きかけている。20cmのパンに入るサイズの魚が釣れれば良し・・・決して大きな魚を釣りたいわけではないし、むしろトロフィークラスが掛かると厄介だ。大きな魚は小さなナイフでは料理出来ないし、もしラインが切れれば残り少ない貴重なルアーが無くなる。
彼が探しているのは魚ではない。
彼は広大なタイガで宝探しをしている。トレジャーハンターの常として、他人に詮索されるのは迷惑だから、なるべく辺境をうろついてもおかしくない格好をする。かつてはライフルを担いで猟師の格好を試したこともあるが、あれは失敗だった。林の中で突然現れた(本物の)猟師の目つきの険しかったこと!ここは俺の林だ、と彼の目は言っていたし、お互いライフルを持っているし・・・結局、本当の目的を話すまで緊張は続いた。私の本当の「宝」が何かを聞くと彼は私を変人扱いして大笑いした。
夜も更け、ウォトカが一本開いた頃彼は言った。「何で、あんたの話を信じたと思う?」と。
実は彼は丸一日私のことを追跡していたらしい。それに気が付かなかった事で、私の目的が突拍子もない宝探しだと信用する気になったという。「猟師としちゃあ、ド素人丸出しだったぜ」と。
だかその時は、彼と話をしたおかげで、数十㎞平米の探索を節約出来た。鋭い目の老練の猟師が歩き回って異常を見つかられなかったのだから、そこには私の探す宝は無いはずだ。その時は結局猟師のテリトリーから10km以上離れた所で見つけることが出来た。それは小さな宝だったが、モスクワに戻ってスライスしてみると、内部から美しい金属結晶の模様が現れた。
それは彼にとって3つめの宝だった。
スライスの一枚はちょうどモスクワに遊びに来ていた姪に、ネックレスにしたい、とせがまれてあげてしまった。宇宙を彷徨しロシアの辺境に落下した隕石が、最後にまた数千㎞空を飛んで、最終的にハワイに「落ち」着いた、ということだ。
おっと、良いアタリだ!
今回の隕石ハンティングには釣り師の格好でやって来た。もちろん川のそばにいるのは朝夕だけで、日中の大半は林の中を彷徨している。今回探している隕石はあまり大きくは無いようだが、480日前・・・1年半前にこのあたりに落ちた(ハズだ)。何カ所からの観測情報があり、落下位置の確定(といっても数百㎞四方だが)に時間が掛かった。いつもならネットで情報の収集も出来るのに、途中でネットがイカレてしまったから。
30cmの岩魚!パンで焼くにはちょうど良いサイズだ。
この魚で缶詰が二缶節約出来る。食料はあと3日。沸騰したポットに紅茶の葉を入れカップに注ぎ、地図を取り出し今日チェックしたエリアを塗りつぶす。残りは後少し・・・いや、その先にはさらに数十㎞平米のエリアがあるのだが・・・政府刊行の地図には赤い円で「立ち入り禁止」と描かれている。立ち入り禁止って言ったって誰かが見張っているわけでもないし・・・まあ、そこまで行ったらまた考えるか。
魚が焼けた。空腹のおかげで一口目は旨い・・・が二口目からは飽き飽きした味だ。
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404NotFoundシリーズ
Posted at 2011/07/10 16:37:09 | |
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