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猥雑な街の中に、被写体はない。
雄大な自然の中にも、被写体はない。

愛する子供も被写体ではないし、
愛しいペットも被写体ではない。

ましてや、車や列車や飛行機が被写体であるわけがない。

　赤く染まった靄の向こうに、ポッカリと浮かぶミカンのような夕日を見た時、「あ、ミカンみたいだ」と思ったとする・・・その時、「夕日」は被写体ではない。「あ、ミカンみたいだと思った気持ち」、それが被写体なのだ。

　被写体は自分の外にはなくて、自分の中にある。

怪しいなぁとか、なんて雄大なんだぁとか、可愛い、愛おしい、格好いい、もうすぐ無くなってしまうのが残念、すごいエンジン音だ・・・そう感じた自分のココロを写すのだ（もちろん大抵はうまくいかない。だけど、少なくとも写すことを試みるのだ）。

だから、街の中でも自然の中でも、子供にもペットにも、車や列車や飛行機にも、それを見た時にココロが動けば、それが被写体になる。いつでも、どこでも、なんにでも被写体は宿るのだ。



でも、今日、通勤中に撮った上の一枚には被写体はない。

猥雑だけどこの時は人気がなく、有名な所でもあり、私には見慣れた街。
ココロは動かなかったけど、今日はあえて、見慣れた平凡な、いつも通りでココロが動かない普通の日常が貴重だと思えたから、被写体ではない被写体を撮ってみた。

犠牲になられた方々のご冥福をお祈りします。
また、残された皆様には普通の日常が早く戻りますように。

2015/3/11