
昔々ある所に正直な車好きの男がいましたと。
ある日自分の車で深い森の中に分け入ったのですが、いつの間にかすっかり迷ってしまい、しまいには、つい力が入りすぎて、美しい泉に車ごと落ちてしまいました。
みるみる沈む車から命からがら抜け出し、呆然と泉のほとりに立ちすくんでいる男の目の前で、突然泉の中心が波立ち、美しい泉の精が現れましたと。
「御前はいったいどうして途方に暮れて居るのじゃ~?」と泉の精。
「ハイ、ローンも残っている大事な車を泉に落としてしまい、途方に暮れておりました。」と男は答えました。
「ほほう、ではワラワが取ってきて進ぜよう~」と泉の精は一旦泉に姿を消しましたと。
やがて一台の車に乗って姿を現した泉の精、
「御前が落としたのは、この
レンジローバーかえぇ~?」と問いました。
「いいえ、そんな高い車では御座いません。」と男は正直に答えます。
「では、他を探して進ぜよう」と泉の精はまた姿を消します。
『・・・うううむ、あのレンジローバー自分の物だと言っておけば良かったかな・・・でも、うちの立駐に入らないし・・・』と男が考えていると、泉の精が違う車に乗って現れました。
「御前が落としたのはこの
オールロードクワトロかえぇ~?」
「・・・い、いえ、そんな高い車では御座いません」と(少し歯切れが悪くなりましたが)またしても男は正直に答えます。
三たび姿を消した泉の精、今度もまた違う別の車に乗って現れました。
「御前が落としたのはこの
スバルアウトバックかえぇ~?」
「おおぉ!そうです、そうです、それが私の落とした車です、ローンもまだ残っています!!」と興奮気味に男は答えます。
それを聞いて泉の精はニッコリと微笑み言いましたと。
「いえ、最初からこの車だと分かっておったのじゃが、御前がどれくらい正直か試してみたのじゃぁ~。
男よ、御前の正直さに褒美として、レンジローバーも、オーロードクワトロも持ち帰るがよいぞぉ~。」
泉の精にお礼を言いつつ、しばし時の経つのも忘れ男は狂喜乱舞。いつしか泉の精も消え、静かになった泉のほとりで、ふと我に返るとそこには3台の車。
少し落ち着いたところで男は気が付きます。困ったことに一人で3台の車を運転することは出来ません。
『・・・いや、待て。一台を運転して、もう一台は牽引すれば何とか帰れるかも。』
早速牽引の準備に取りかかり、試してみると何とか2台は持ち帰れそうです。牽引をしている上にどこをどう通ったか分からないくらい迷った末、それでも何とか人里に出た男は、意気揚々と家に帰り着きました とさ・・・。
・・・今でも、
人も迷い込まないほど奥深い森の静かな泉のほとりには、
朽ちかけたアウトバックが残っているそうです・・・。
Posted at 2005/06/24 15:49:50 | |
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