テレビ版の「妖怪人間ベム」は、大変素晴らしい作品に思え、毎回毎回楽しみに見ていました。そのテレビ版が、新しいストーリーで
映画版になるとのことで、大変期待をしていました。
映画版の予告編、紹介文とも素晴らしい仕上がりを予感させるものでした。
予告編、紹介文をまとめたあらすじ(?)です。役名がわからないので、登場人物は俳優名で書きます。
筒井道隆と観月ありさは、危険な副作用を持つ新薬の事実を発表しないまま販売をした製薬会社に復讐をしようとしていた。観月ありさはその体を悪(?)に蝕まれ、肉体の一部は植物化、悪の心に侵され始めていた。
製薬会社社長は、ベムに対して「誰かが犠牲にならなければ、人の命は救えないのだ!」と凄む。それに対してベムは、「誰かが犠牲にならなければならないのであれば、俺たちが犠牲になる。」と返す。
これは予告編のみですが、銃を向ける警官隊に対して、ベムが突入する。そして、北村一輝の刑事は、「ベムさーん!」と叫ぶ。
しかし、映画の予告っていうのは、受け手の勝手な思い込みにより、ストーリーを想像させるように作るのだ、ということがわかりました。本編よりも力を入れて編集をするとも聞いたことがあります。
以下に本編あらすじを書きます。これから見に行く予定の方、来年くらいにテレビで放映されたりDVDになったりした時を楽しみにしている方は、どうぞお戻りください。
あらすじ
ベム一家は、相変わらず放浪の旅を続けていた。潜り込んだ船で着いた場所は、30年前に訪れていた場所であった。そこは、湾に工場があり、海には島が、それらを結ぶ吊り橋があるところだ。
30年前、彼らがここを訪れた時に、男の子が若い男に誘拐され、ベムたちが若い男に殺されそうになった男の子を助ける。しかし、警官隊にはベムたちが犯人だと思われてしまう。いつものことだ。弁解することなく、悲しい気持ちのまま姿を消す3人。
ところがこの日、そこには重傷を負った男が倒れており、直後に頭上のクレーンが落下し、男は死亡、ベムらも危ういところであった。
ベロはそこで、足が不自由な女の子と知り合う。
女の子が忘れていった日記には、両親と彼女の楽しい毎日が綴られていた。その日記を見ているベロに、ベラは「人間にはなれやしないんだから、そんなもの見ているな!」、と叱る。日記を返しに行くベロ、そして女の子と父親に会うが母親は死んだと聞かされる。
それをきっかけにベロと女の子は親しくなり、やがてベロは恋心を抱く。近々ある小学校の運動会のため、走る練習をするベロと女の子。休憩中の二人の会話から、「絶対枯れない葉っぱ」の存在を知るベム、ベロ、北村一輝刑事。
翌日、ベム、ベロ、北村刑事らが父親を尾行すると、山の奥に入っていこうとしていた。何処へ行くのかとベムが杖を叩くと、山中に怪しい女性の姿が見えることがわかった。急行する3人。その女性は、怪しい姿をした観月ありさであった。突然襲われる3人。そこへ筒井道隆が現れ、心を乱した観月ありさは、山中に逃げ込む。追うベラ。
女性はこう言う。「普段は以前のままでいられるのだが、時々自分の意思で自分をコントロールできなくなる(=悪の心が出る)。そして体の一部がおかしくなる(=植物化したり、手が鎌のようになる)。こんな自分が怖い。どうしてこうなったのかわからない。
一方、筒井道隆の方に着いていったベムは、こう聞かされる。
「私たちは夫婦で、製薬会社で新薬について研究をしていた。ある日、新薬に重大な副作用があるため、社長に結果を申し出た。社長は新薬の発売をやめるよう言ったが、その約束を破って発売されてしまった。その時から私たち夫婦は命を狙われるようになった。ある日家族3人でドライブに行くと、車のブレーキが効かなくなっていた。崖から転落し、私と娘は命をとりとめたが、妻は心臓が止まってしまった。私はふと、お守りがわりに持っていた枯れない葉を絞り、その液を彼女に飲ませた。そしてふもとへ助けを呼びに行き、現場へ戻ると妻の姿だけが消えていた。」
3人は住処に集まるが、そこへテレビシリーズの登場人物であった緒方教授一家が追ってきていた。出来事の一部始終を教授に話すと、「ベムたちを葉っぱの力で人間に戻すことは出来るだろうが、観月ありさはそのままか死ぬことになるだろう。」と言う。
引き続き走る練習をする女の子とベロ。「連想遊び」をする中、女の子は「妖怪は?」と問いかける。ベロが答えに困っていると、「妖怪は格好良い」と答える女の子。そして、「30年前、お父さんが事件に巻き込まれた時に、3人の妖怪に助けられたんだって。もしその時に妖怪に助けてもらえなかったら、お父さんは死んでいただろうし、(女の子)も産まれてこなかったんだよ。」と、いつも話している、と言うのだった。嬉しい気持ちになるベロ。
そう、30年前の事件の男の子は、筒井道隆であったのだ。また、若い男は「名前のない男」に緑色の物体を入れ込まれていたのであった。「枯れない葉っぱ」は、その若い男の目から出た緑色の物体が付いた植物だったのだ。
重役たちは既に観月ありさによって殺され、いよいよ社長が狙われ始めた。社長を守るベムたち。ベムは社長に新薬の発売を中止するよう言うが、社長はこう言って断る。「副作用があるのは十分承知だ。しかし、それでも「楽をしたい、健康になりたい、綺麗になりたい」そんな欲を持っているのが人間だ。」(moto('91)注、一体何の薬だ??少なくとも、「綺麗になりたい」は余計ではないか??)
その数日後、女の子の学校では運動会が行われる。筒井道隆だけでなく、患部を隠した観月ありさも応援に来る。一所懸命走る女の子。結果はビリであったが、観覧者全員が温かい気持ちで拍手を送る。ベムたちも緒方教授一日も幸せな顔だ。
しかしその運動会の後、女の子と筒井道隆、観月ありさは行方不明になる。ベムの杖の力により場所を調べると、製鉄所であることがわかる。急行する3人。
そこには、筒井道隆、観月ありさ、女の子がいた。社長にぶちのめされる3人。そして、観月ありさは社長にトドメを刺されるのであった。ようやく現場に着く3人。社長に怒りをぶつけるベム。
そして社長はベムにこう言った。「薬の副作用は、誰にでも起こるものではない。結果、薬の効果によって幸せになった者もいる。誰かが助かるためには、誰かが犠牲になるのは仕方がないのだ!」と言う。
べムは、「だったら俺たちがその犠牲になる!」と返す。
その直後、観月ありさの体が変異を起こし、植物状の茎多数、ツルが伸びて襲ってくる、恐怖の悪性植物として増殖を始めた。襲われる4人。ベムは社長に逃げるように言う。
戦う3人。しかし、全くかなわない。北村刑事の助けもあってどうにか逆転、観月ありさの体に杖をさし、毒素を抜くのであった。植物体は崩壊し、観月ありさの体が残る。虫の息の観月ありさ。そして、娘を強く抱き、息を引き取るのであった。
植物体に壊された製鉄所が、崩壊を始めた。観月ありさの死体を残し、非難する5人。出口ではまた警官隊に撃たれるが、その場を去る3人。
3人は「枯れない葉っぱ」を集めて全て燃やし、また永遠の旅に出るのであった。
感想
・社長に対してベムが「俺たちが犠牲になる」と答えますが、ここのつじつまが合っていませんよね。社長が言った犠牲は、「薬の副作用で亡くなってしまう人」です。例えベムたちがこの犠牲になったとしても、薬が発売される限りまた犠牲者が出ますよね。
ベムが言う犠牲とは、おそらく「体を張って観月ありさが化けた悪の植物を退治する」、という意味の犠牲です。社長とベムの話が噛み合っていません。
・ベムたち3人は観月ありさが変化した悪の心を持つ植物と対決しますが、観月ありさはもともとは悪くない人です。いや、むしろベムたちにとって愛すべき人なのですが、かなり一所懸命戦います。やるせない気持ちはないの??
・その後、新薬の流通は社長が逮捕されたことで中止になりましたが、製鉄所が崩壊してしまいました。もしかしたら死者も出たかもしれませんよ??
・北村刑事は、手ぶらで避難してしまいました。観月ありさの死体を運べばよかったのでは??
・社長も悪かったかもしれませんが、「名前のない男」が蒔いた悪の心も悪いです。しかし、双方に共通項はありません。話が複雑に、そしてバラバラになってしまいました。
こんなことは、脚本に「赤入れ」をする段階で気づいたはずです。撮影の場面でも気づけたはずです。なぜそのまま作品になってしまったのか???
おそらく、「チームの仲が良すぎた」のでしょうね。「ここ、おかしいよ?」と言える雰囲気ではなかったのでしょう。本当はプロデューサーは脚本に酔わず、むしろ冷めた立場で見なければならないのですが、現場の雰囲気にに飲まれてしまったのでしょう。仲が良すぎるのも考えものです。
作り直すなら
どの設定を活かすか、にもよりますが、社長の設定と結末を変えるだけで随分まともになるはずです。
社長は、「もともと金の亡者であったが、研究の過程で悪の要素を取り込んでしまい、新薬を使って悪の心を蔓延しようとしている」男にします。
観月ありさは、社長に騙されて薬を使用されてしまったとします。
観月ありさが悪徳植物になるのではなく、「社長の悪と合成して、より強力な二つの悪になった」とします。また、緒方教授が作った薬により、醜い姿は治らないものの、悪の心が芽生える時間はなくなった、とします。
ベムは喜々と?観月ありさを退治していましたが、真の悪の「社長」が敵となります。すなわち、悪徳植物との対決は、憎々しい社長を退治するという大義名分が立ちます。
しかしそれでも、悪徳植物を退治するためには、観月ありさをも殺さねばならないことに気づきます。迷うベムですが、そこに悪徳植物に命を奪われそうになる、製鉄所作業員を登場させます。しかも、その製鉄所作業員は、映画冒頭などでベムたちを危機から救う、などの描写を入れておきます。
そうすると、ベムの個人的な思いで観月ありさを救いたい、という気持ちがありながらも、彼女は今は悪であり、なおかつ作業員を救わねばならない、という別の使命との間に苛まれるベムの苦しさが出せます。
最後に社長と観月ありさの悪徳植物を、涙ながらに退治します。製鉄所は壊しません!