
この日は大阪に戻る日でした。長期休み中、結局試乗に行けませんでしたので、最終日に行くことになりました。
日産自動車の軽自動車の事情
今でこそ「ダウンサイジング」と言われて久しくなりましたが、そもそものきっかけは初代デミオが作りました。バブル期まで続いた「エスカレーター式サイズアップ」の時代が不景気をきっかけに終わり、大人でも乗れるコンパクトカーの最初のモデルが初代デミオだったのです。
そのデミオに追従する形で、各社がコンパクトカーを発売しました。二代目マーチの後期や初代キューブ、キャパなどを経由し、初代フィット、三代目マーチ、二代目デミオなどがその成熟期です。この現象は自動車雑誌だけでなく、経済誌や一般週刊誌まで話題にし、大騒ぎとなりました。「大の大人がコンパクトカーには乗れない」、という壁が破られ、マークⅡやローレルを降りてこの種の車に乗り換えた模様です。
となると、誰もが「次は軽自動車への移行が始まる」と考えます。この頃、トヨタと日産のみは軽自動車市場に参入していませんでした。本格参入前にまずは様子見ということなのか、日産はスズキからMRワゴンの供給を受け、
モコとして発売しました。
当初こそ動きは鈍かったようですが、「団塊の世代の退職」や「ガソリン価格の高騰」を受けて市場は軽自動車中心へと移行し、アルトをピノ、ミニキャブをクリッパーとして販売を始めました。
スズキは一時VWとの提携をしようとしたからなのか、あるいは自社で軽自動車を設計しても良いと考えるようになったからなのか、軽自動車市場を侵食されて危機になっていた三菱自動車と提携し、合弁会社で軽自動車を設計、製造することを始めました。その第一弾のワゴンタイプが「デイズ」、第二弾は背高ワゴンタイプの「デイズルークス」です。
初代ルークスはスズキのパレットのOEMでしたが、二代目は三菱ekスペースの兄弟車になりました。
エンジン
デイズと基本的に同じ、3B20エンジンです。元は三菱iのために作られたエンジンでした。横置きミッドシップだったエンジンをフロント横置きエンジンとして改造しているとのことです。iを発売した頃とiの性格は景気が上向きだった頃、かつ「プレミアム軽自動車」を各社が発売していた頃で、3B20はそれほど燃費志向でもなかったようです。
第一弾のデイズは「日産と三菱の技術を見せつけてやる」とばかりに燃費スペシャルとして登場しましたが、すぐにダイハツやスズキに抜かれてしまったものでした。
短時間の試乗ゆえ、燃費まではわかりませんでした。しかし、デイズと比較して遮音性能が向上しているのか、音や振動は少なく感じられます。車体重量に対するエンジン出力は「サッパリ」で、アクセルペダルの踏み込みが足りないと走りはギリギリです。市中を走行するのには「まあ、なんとか走れる」という出力ですが、山岳路や高速道路では出力不足を感じることでしょう。
しかし、車とは面白いもので、出力が少ないことが必ずしもつまらないことにはつながりません。この車は、デイズと比較して燃費志向にはしていないのか、後述のCVT変速制御が自然で、アクセルペダル操作に対するエンジン出力の出方が自然です。そのため、デイズと比較して「操る感覚」が復活しています。このことから、かつて三本和彦さんが言った「一所懸命走らないと速く走れないスポーツ走行」が復活し、なかなか楽しい走りができるようになっています。
もっとも、この理論は一部の人にしか理解できない楽しみでしょうから、一般の人、特に郊外に住んでいる人や山岳路・高速道路を走る人は、ターボ付きエンジンのモデルを選んだほうが良いでしょう。
トランスミッション
CVTを採用しています。デイズは燃費(だけ)を考えたためか、発車するとあれよあれよと言う間に高い変速比に変速され、以後はアクセルペダルを踏んでも変速比が下がらず、高い変速比のまま緩慢な加速で我慢を強いられます。
この車は、割とレスポンスよく低い変速比に移行する制御にされているようで、重い車重と低いエンジン出力の中、活発な走行を可能としております。低い変速比へ移行しますからエンジン音は高まりますが、遮音が良いためにうるさく感じず、しかも適度にスポーティーな印象すら醸し出しています。
このことから、燃費、しかもJC08燃費だけに特化したモデル(デイズ)というのは運転感覚が不自然で、乗りづらい車になってしまっているのではないか、と考えられました。
サスペンション
車体の車高が高く、サスペンションの調整が難しい車です。以前キューブを試乗した際、市中の試乗では柔らかく適度に減衰が効いた良いサスペンションに感じたものの、山岳路ではロールしすぎ、結局はサスペンションを柔らかくしてダンパーを固めたモデルであったことがわかりました。
この車も街中での乗り心地は良かったです。適度に固く締まった印象でしたが、若干頭(天井)の重さを感じます。コーナーでも突起乗り越え時でも「いつもより余計に揺れています」といった印象です。すなわち山岳路ではかなりロール角が深くなることが予想されます。
車の性格上、子供やお年寄りを後席に乗せる機会がある車でしょうから、このロールに件については試乗するときに4人で試乗し、後席に乗った人の意見や運転した印象を確かめる必要があるでしょう。
ステアリング
ごく普通の電動パワーステアリングです。反応も鋭くなくギヤ比も低く感じられます。この種の車でステアリングがクイックですと、少しの反応で車が大きく傾くため、この設定は良いと思います。操舵感覚もなめらかで、この点は日産車の良いところが現れています。
ブレーキ
まあ、この種の車としては踏み応えがしっかりとしたブレーキとなっています。車重もあり、乗車人数も多い車でしょうから、ブレーキ性能は大切です。最大制動力はわかりませんが、ホンダ車ほどではないにしろ、安心してペダルを踏めるブレーキでした。
ブレーキの点についても、この車を買おうとしている方は、ぜひ定員乗車でブレーキをかけ、安心して「急」ブレーキが踏めるかどうか、試してください。
ボデー
見ての通りの、天井が高いスタイルの車です。この種の車の元祖というと、大抵の記事では「タント」を出すことでしょうが、実際には初代ムーヴがこれに当たり、もっと遡ると三菱のミニカトッポに当たります。初代ライフはどうしましょうか??
それは良いとして、当初のミニカトッポは、商用車として登場しました。花や植木、服などを収納して配達するお店の車として設計された模様です。キューブもそうでしたが、基本シャシーを乗用車用ボデーとしているため、運転士の頭上に大きな空間が生じてしまいます。これを広さと感じるか無駄なスペースと感じるかは、車を買った人が決めることでしょう。何らかの理由で、車室内で立つ必要がある人なら有効なことでしょう。
車体の剛性はまあ普通で、特にねじれ方向の剛性についてはあまり高くない印象を受けました。開口部が大きな車では仕方がないことですが、我慢ができる範囲です。
このような走行に関わる性能は非常に大切ですが、この車の売りは、「軽自動車で初めて後席用のファン(サーキュレーター)が追加になった」ことです。車内は狭く、天井の重量を増やさない目的か、リヤクーラーではありません。吸い込み口がどこにあるのかはわかりませんが、実用上はサーキュレーターでも間に合うことでしょう。真夏の暑いさなか、後席まで早く冷房したい人は少なくないことでしょう。
ガラスの面積が広いため、おそらく車内はかなりの暑さになることでしょう。意外にこの装備は注目を受けそうですが、車内を暑くするのは日射であるものの、熱くなった内装は保温材となって存在するため、空気だけを冷やしても車内は涼しくなりません。サーキュレーターとしての機能より、直接風を当てて涼しく感じさせる、「扇風機」としての能力まで具備したほうが良いと思います。
内装の作りは、スズキ車はもちろん、ダイハツ車よりも良い印象です。しかし、ホンダ車ほどではないようです。日産で軽自動車を購入する人は、日産車からの乗り換えでない人も増えているそうですから、過剰に普通車(登録車)を意識しなくては良いものの、この点では満足できる仕上がりとなっています。
なお、デイズで自慢だった「タッチパネル式エアコン操作パネル」は、タッチパネル上にスイッチの位置を知らせるための「凸」が出来ました。すなわち、タッチパネルは半ば失敗だった、ということだと思います。車の操作系は、「位置」と「操作感」を感じさせ、前も見ながらでも操作できなければなりませんから、フラットタッチパネルは採用してはなりません。2000年頃の「ナビゲーションもエアコンもその他も、全てタッチパネルで操作する」方法が、画面の故障で全て使えなくなる、という故事を生かせていません。
外装色も良い色が揃っていて、この「銅色」はなかなか高級感を感じさせます。軽自動車に高級感というのもどうかと思いますが、色は良いです。
まとめ
デイズに試乗した際、「後発なのにこれで良いのか」と思ったものですが、デイズルークスは意外に良い仕上がりになっています。何よりも、パワー不足ながら運転士の操作に忠実な操作感が得られたことが好印象につながりました。「運転は楽しい」などという言葉がありますが、運転は本来緊張して行うものです。その緊張を和らげるのが、操作に忠実な走行性能だったり、安定したシャシー性能だったりするのではないか、と思います。
この車は、この忠実な操作感を蘇らせ、意外にも良い印象が得られています。願わくば、これを普通のデイズにも反映させてもらいたいものです。商品としてはかなり没個性ながら、操縦性能について考えさせられる試乗となりました。
なお、その他の同種の車には乗っていませんが、この点でもホンダ車としては異なる正確です。より運転士の操作に忠実な車を望むのならNシリーズと比較するとよいでしょう。
参照して欲しい記事
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日産 モコ(スズキ MRワゴン)
ダイハツ ムーヴ(マイナーチェンジ前)
ダイハツ ミライース
スズキ パレット、ダイハツ タント(旧型)比較試乗
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スズキ ワゴンR(旧型、試乗)
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2014/04/27 17:33:54