コンビニエンスストアを後にして、3km程度移動、次のアルバイト先を訪問しました。ここは、パソコンと関連商品の「SM(仮称)」という販売店です。私は、学校1年目8月から3年目3月まで勤務しました。
全アルバイトの中で最も長い期間勤務し、社員もアルバイトも入れ替わり数が少なかったため、一緒に勤務した人たちのことをはっきりと覚えています。しかし、顔と苗字は一致するのですが、肝心な下の名前を憶えていないために、現在では全員交流がなくなってしまいました。
このアルバイトにかかわる思い出はたくさんあります。私がこれまで味わったことがなかった「商売感覚」を、多数知ることができました。特に商売感覚をわかりやすく教えてくれたのが、Kさんという方です。
Kさんは情報処理関係の専門学校を卒業後、紆余曲折あってこの会社に正社員として入社したそうです。私よりも後に入社されたのではなかったかな。私よりも、3-4歳年上だったと思います。
その頃、このSMというお店のライバルとなる同業者に、STという会社がありました。STは「5つのNO」という営業方針を掲げ、徹底した店舗運営コスト削減と、そこから得られる販売価格低下を売りにしていました。「5つのNO」とは、「1.展示、2.説明、3.交換、4.解約、5.無料サービス」、いずれもしないというものです。
すなわち店員は、単なる見張り、レジ、梱包をする係となり、誰でも出来るようにしていました。私と同じお店の社員は昼休みに度々STへと行き、そのたびに「あそこへ行くと孤独になれる」と、語っていました。なお、商品価格はSTの方が少し安かったそうです。
そんなSTに対して、私はKさんに
「こちらもSTのように5つとは言わなくても店員がやらないことを増やして、価格競争をしないと負けてしまうのでは?特に、質問と説明は面倒くさいからやめましょうよ。」
と聞きました。当時SMでは、「5つのYES」としてSTに戦いを挑んでいました。
するとKさんは、次のように言いました。
「まあ、そんなことをしたら、真っ先にクビになるのはmoto('91)君みたいなアルバイトだね。でも、コストダウンで販売価格を下げるのには、限界があるんだよ。
そもそも、パソコンが必要で自分でいろいろ調べて自分で課題を解決しようとする人は、パソコンの普及速度が著しくなった今では、1割もいないんじゃないかな。それから、1割は意地でもパソコンを買わない人だね。残りの8割が、パソコンが必要になって来ていても、色々説明をしてもらわないと買わない人。だから8割を狙って、5つのYESをしているんだ。
まあ、中にはSMで質問するだけして買うのはST、という人もいないことはないだろうけど、やれるものならやってみろ、と言えるくらい、ほとんどいない。だから、説明を重視しているんだよ。
それから、8割とまではいかなくても、STよりも少しでもお客さんを増やせば、仕入れ量が増えて仕入れ先への価格交渉力も高まる。そうすると仕入れ価格を下げられるので、STと同じ価格で売っても利益が出るんだよ。
まあ、STは安く売っても、ほとんど利益は出ていないと思うよ。」
お店がたまたま暇な時間だったとはいえ、こんなに丁寧に教えてくれるKさんは、神さまに見えました。
私の家は一般家庭で、私自身も商業関連の科目を取ったことはありません。仕入れといえば算数の問題で、
「みかんを1個20円、りんごを1個40円で仕入れて、それぞれ40円と70円で売ることにしました。利益をちょうど500円にするには、それぞれ何個仕入れればよいでしょうか。」で接した位です。
すなわち、物を売りたいと問屋に言えば、だれでも平等に同じ価格で卸してくれるものだと思っていたのです。
しかし現実は違います。卸商は、1個2個で販売していたら手間ばかりかかってしまいます。まとめて100個とか200個などの大量仕入れをし、しかも継続して何か月も売り続けないと、利益になりません。他にも、商品抱き合わせとか支払い時期とか、卸売りをしてもらうためには色々と条件があります。そんなことなど、私は初めて知ったのでした。
他にも、商品陳列や売れる時期と販売方法の関係、セット商品の企画など、いろいろ学ばせてもらいました。
学ぶだけでなく、年齢がそれほど離れていない社員さんの愚痴を聞いたり、わずか半日で辞めた社員や、睡眠を削って連続掛け持ち勤務、2日でボディブローとなったアルバイトなど、楽しい話題に事欠きませんでした。
そんな面白いアルバイトではありましたが、基本的に男性ばかりで、「ホモソーシャル」の様相を呈しており、やがてどこかの企業に就職する私は、もっと他の経験をしたくなりました。そのため、1年生2月から他のアルバイトを掛け持ちするようになり、当初の人出不足からアルバイト供給過多となった3年生3月、円満退社となりました。
その後SMは紆余曲折あり、経営危機となって他社の傘下に入ることとなり、当時の人たちは多数退職したようです。現在では、1ブランドとして名前を残すのみになっています。また、私が勤務していた店舗は当時から再開発が予定されており、2年生秋に引っ越し、引っ越し先も現在は引き払われていました。
そんな、パソコン安売りのSMが急成長する時期、企業急成長期の歪みなども経験できて、非常に良い経験となりました。なお、STはSMが他社傘下になる前に倒産しています。
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Posted at
2022/03/30 21:47:14