
この日は日産に注文しておいた部品を取りに行きました。待合スペースで待っていると、馴染みのセールスマン氏より「軽自動車は関心ありませんか?(=試乗されないんですか?)」と声をかけられました。車を贔屓しない私が、軽自動車に関心がないはずありません。早速試乗しました。
日産の軽自動車の事情
今から10年ほど前、自動車市場では「団塊の世代が大量に退職する。退職金を使って車を買い換えるはずだが、どんな車にするか?」ということが話題になりました。
1.「自分へのご褒美に高級車を買う説」
2.「人生最後の車は、最新のハイブリッド車にする」という説
3.「これまでの車の小型版を買う」説
4.「まだまだ人生も長く、年金生活になると生活が大変になるから軽自動車を買う」説
がありました。
1はクラウンが狙いましたが、まあ、外れました。2は概ね当たっている方ですね。3はベルタやブルーバードシルフィが該当しましたが、ブルーバードシルフィは当たったものの、ベルタは完全に外れました。「メーカーが勝手に作った老人カーなんか買えるか!」という声が聞こえました。かつての女性仕様車もそうでしたが、こういうお仕着せは嫌われるんですよね。
4が当たりました。その結果、現在の新車販売台数の40%が軽自動車になっています。ミニバンを買っていた層が、実はキャンプの荷物を積んで移動したり、子供や家族みんなを載せて移動することはごくまれで、多くの場合は空気を積んでいたことに気づいたのでしょう。10年前のコンパクトカーブームの時にコンパクトカーに移行した層が、もっと小さくても大丈夫なことに気づいたのでしょう。また、お金持ち農家のセカンドカーには、まず軽自動車が選ばれます。その結果、必要最小限な軽自動車に落ち着いた、ということでしょうね。
そのため、各自動車販売店に「軽自動車があれば、あなた(セールスマン)から買うんだけどなああ」という声が出ることとなり、各自動車会社ともOEMで傘下販売店に軽自動車を供給したのでした。
しかし、スズキやダイハツが作る軽自動車は簡素であり、登録車から買い換えるのには、ちょっとした勇気が必要な形となってしまいました。そのため、OEM先がOEM元に意見を出す風景が見られましたが、このデイズは、さらに踏み込んで「共同開発」になりました。
エンジン
3B20型DOHCエンジンです。以前からiで使われているものをFWD用に大変更したものです。3G83エンジンはだいぶ古くなったこと、リコール問題が出たことなどから、ようやく退役になったのでしょう。
エンジン自体は自然吸気の軽自動車そのもので、パワーはたかが知れています。しかもややノイジーで、振動もややあります。ホンダやダイハツのエンジンがスムーズな印象を得ているのに対し、やや時代遅れな印象が伴います。iはエンジンと運転席が遠かったために感じなかった点が、FWDになって露呈してしまいました。
後述するCVTの変速制御も手伝って、やたらと「モワー」と唸るだけで、少しも楽しくありませんでした。「ガイアの夜明け」では、日産の重役?が「乗って楽しい車だね」と、ニコニコしながら車から降りてくる映像が出されましたが、これを楽しいと思ったり、ニコニコしているようじゃ、車評価者としてはまだまだ、「カーガイ」でなけれな良い車はできない、ということがよくわかりました。
それに、スズキの副変速機付きCVTを搭載したOEM車では、俊敏な発車が可能であったものですが、その美点もなくなってしまっています。
「ガイアの夜明け」では、燃費がクラストップにしたことを誇らしげにしていましたが、いくら燃費が良かったとしてもそれはカタログ燃費、運転していても少しも楽しいエンジンではありませんでした。
アイドルストップについて
エネチャージ等は使われておりませんが、再始動時間は0.35秒級と思われます。非常に素早く、スムーズで、国産車のアイドルストップ車の能力の向上を感じさせます。
トランスミッション
副変速機付きCVTは、継続採用されていると聞きました。しかし、発車時からもっさりした加速しか許してくれないCVTで、再加速をしようとするとエンジン回転だけが先に上がり、車速が後からついてくる昔のCVTに逆戻りです。
運転中に、腹立たしさばかりを感じさせるCVTでした。これも、29.2km/リットル達成の悪影響なんでしょうね。
サスペンション
若干突き上げる印象のサスペンションです。タイヤも硬いようで、コツコツと突き上げられます。もしかすると、サスペンションのフリクションも大きいのかもしれません。スズキの軽自動車と比べると「まし」ですが、ダイハツや特にホンダの軽自動車と比較すると、全く劣っています。
軽自動車に乗り換える勇気が必要な点は、この点では全く改善されていません。
ステアリング
ただただ軽く、中立付近の座りも悪ければ路面の状態も伝えず、保舵するにもステアリングが安定しない、という最近の軽自動車につきものの悪い点がそのままです。これが運転して楽しい車なのでしょうか??
ブレーキ
この点は、日産車の美点が残っています。ペダルのしっかり感、制動力の調整の幅、制動力そのもの、いずれも登録車並みの性能です。
ボデー
スタイルは、ハイウェイスター、ノーマルとも「売れる軽自動車を考えると、今ならこんな感じかな」というスタイルです。この種の中間背高ボデーは、誰がデザインしても似たようなものになってしまうので、致し方ないでしょう。
剛性は高く感じられます。若干フロントが頼りなく感じますが、車体全体ではしっかりしています。内装は、ホンダのものと比べると寂しいですが、スズキのものよりはうんと良くなっています。ダイハツ並でしょうかね。
ご自慢の「タッチ式エアコン操作パネル」ですが、エアコンやラジオの操作というものは、見て行うのではなく、横目と手探りで位置知りつつセットを行うものなので、それほど良いとは感じませんでした。「スマートフォンが流行だから」という理由だけで採用したのでしょうね。
まとめ
「日産と三菱の合弁会社が出来、日産主導で開発が進められた」と聞いていたものですから、非常に期待していました。また、「ガイアの夜明け」での重役のコメント、ニコニコ顔もそれを手伝いました。
しかし、実際に乗ってみると「日産の経営は、自動車製造会社から、工業製品製造会社」になってしまったことを強く感じました。すなわち、アンケートで上がってきたことを分析し、顧客の好みを調べ、顧客が気にしないことはどんどんカットしていく、というものです。生産財などはそれでも良いでしょうが、これじゃあ、買っても喜びは感じられません。
実際に軽自動車を買いに来る人も、好みのスタイルと予算で車種をピックアップし、あとは悩まずに数日で決める人が多いのだそうです。日産としては、「お客様を分析して好みに合うものを作った」と、さぞかし満足をしているのでしょうが、それではN-ONEの成功の説明がつきません。
となると、日産自動車に入社して来る人も、「経営マニア」になってくるでしょうね。二言目には「データが」となってくる風景が想像できます。しかし、データでしか判断ができない人は、得てして感覚がわからない鈍い人であることが多いです。真面目で几帳面だけど、どこか世の中の流れからは遅れていて、ちょっとダサい、ないしは流行遅れを「流行している」と言う人です。
車の機能としては十分な性能ながら、日産の将来が心配になる車でした。
余談
日産は、以前セレナの最高出力が137馬力にとどまっていることを他社のセールスマンから責められたことを気にしているようですが、数値主義で車を作ると運転士に違和感を感じさせるだけだ、ということがわからなくなってしまったのでしょうかね。ビジネス誌的には「数値達成」が大切なのでしょうが、最近、そのビジネス誌感覚が各種の産業に悪影響を与えているような気がしてなりません。
おまけ
「ガイアの夜明け」は、報道番組ないしはドキュメンタリーの形式をとっていますが、演出が過ぎますね。他車(ワゴンR)がエネチェージで燃費を上げたことを受け、この車も燃費を良くしなければならない課題ができたことを「ピンチ」と描いていました。まあ、わからなくもないのですが、なんと「ホイールカバーを付けたら燃費が良くなった」と見える演出がなされていました。
日産の厚木センターには、「キャップレスホイール」がウリの一つだったブルーバードの810が置かれていますが、だからといってデイズをキャップレスホイールで売ろうとしていたわけではないでしょう。この種のドキュメンタリーは、少々演出が過ぎます。
今回の「デイズが燃費を上げたのは、ホイールにキャップを付けたからだ」と得々と見ているビジネスマンがいるのかと思うと、まさに噴飯ものです。
また、バンパーを互い違いにパレットに載せると、同じ方向に載せた場合と比べて2個余分に載せられるとのことです。同じ方向に載せるのは三菱のやり方だったそうです。多く載せられるのは良いのですが、詰め込み時や取り出し時にバンパーの方向を変えるでしょうから、作業ミスで傷つけてしまいませんかね??
軽自動車の試乗記
日産 ルークス(スズキ パレット)
日産 モコ(スズキ MRワゴン)
ダイハツ ムーヴ(マイナーチェンジ前)
ダイハツ ミライース
スズキ パレット、ダイハツ タント(旧型)比較試乗
ホンダ N-BOX
ホンダ N-ONE
スズキ ワゴンR(旧型、試乗)
スズキ ワゴンR(旧型、乗車)
スズキ ワゴンR(FX、現行)
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