
この日は、衝突事故で車を廃車にされ、新車の購入を検討している友人の付き添いとアドバイスのために、各販売店を回りました。あくまでも付き添いですので、私は基本的には運転せず、付き添いに徹しました。
しかし、巡回した販売店の内三菱自動車だけは付き合いがなかったために、私も試乗させてもらいました。廃車となった車は三菱のギャランフォルティスであり、ギャランフォルティスが廃止された今、近い性格の車ということで考えていたのだそうです。
RVRの位置づけ
初代RVRは、ステーションワゴンが一般の人に受け入れられるかどうかわからない1991年に登場しました。国産ミニバン元祖である、シャリオのショートホイールベース版であり、やや背が高いステーションワゴン、ないしは、5ドアハッチバックと、色々な車の要素を取り込んでいました。
なかなかのヒット作となり、新感覚ファミリーセダンの一翼となりました。二代目は後席ドアをスライドドア化し、今日で言うところのタントなどのようにしました。即ち、後席にいるであろう子供がドアを開く際、子供が他の車にドアをぶつけないように、ということのようです。
ところが、その当時に三菱自動車が起こした「リコール隠し問題」が表面化する原因となった車種になってしまいました。何でも、スライドドアが外れることについて販売店にお客さんが何度も訪ねた際、対応した店員が書類を見ながら話したとのことです。そのお客さんは「その書類は何ですか?」と聞き、店員が「ああ、社内文書ですよ。」と答えたことがきっかけだとか。そのリコール問題で三菱自動車は経営危機になったのはご存知のところです。
その後、RVRはエアトレックの小型版としてモデルチェンジしました。残念ながら商業的に成功はしなかったために、その次の現行モデルではギャランフォルティスのクロスオーバー版として登場しました。ギャランフォルティスには、5ドアハッチバックモデルの「ギャランフォルティススポーツバック」と称するモデルもあり、若干乱発気味とも感じていました。
ギャランフォルティス系は、案外いろいろな変更を受けています。中でもエンジンは、当初新世代2000-2500cc級を担う「4B」エンジンと登場させながら、何とSOHCで可変バルブタイミング機構を備えた「4J」エンジンに換装するなど、最近ではよそのメーカーですら行わないような力の入れぶりでした。
エンジン
前述の通り、4J11エンジンを搭載しています。SOHCエンジンながら吸気側連続可変バルブタイミング機構を搭載し、1800ccで140馬力を発揮しています。
そもそもDOHCエンジンは、吸排気のバルブオーバーラップ等を自由に設定出来ることが特徴でした。可変バルブタイミング機構は、構造上カムプーリーやカム駆動ギヤに内蔵されます。ホンダなどは、連続可変バルブタイミング機構を搭載するために、お家芸であったSOHC4バルブや同2バルブエンジンを廃止し、DOHC化したほどです。SOHC機構の方がカムシャフトが1本少なく、シリンダーヘッドも小型になります。エンジン自体が軽くコンパクトになる上、製造費用も低減され、さらに高い位置にあるカムやシリンダーヘッドなどの重いものが軽くなるために、コーナーリング性能も上がります。かつて、ランサーエボリューションではシリンダーヘッドカバーを軽量なチタン合金で作ったほどです。
可変バルブタイミング機構は、カムシャフトとバルブの間にある、ロッカーアームを陽動させる部分にあります。SOHC可変バルブタイミング機構を搭載するのは、私が知る限りこのエンジンのみです。マツダのリショルムコンプレッサー付きミラーサイクルエンジンや、プレッシャーウェーブスーパーチャージャー付きディーゼルエンジンのように、「孤高のエンジン」というものがあります。その特殊なエンジンですが、なかなかの印象でした。
元々、三菱のエンジンはスムーズさを売りにしています。古くからサイレントシャフトを装着し、振動を低減させています。このエンジンの音を車外で聞くと、最近のエンジンとしては珍しい程「シャカシャカと」にタペットノイズが聞こえてきます。これまでの4G63エンジンなどでは、油圧ラッシュアジャスターをも装着し、タペットノイズはほぼ皆無でした。音質も「ウニョー」といったもので、4気筒エンジンながら、音質も含めて滑らかだったものです。ただし、車内に乗り込むと、タペットノイズが嘘のように聞こえてきません。遮音が行き届いているようで、静かです。
エンジンの回転フィーリングは滑らかです。特に振動は、トヨタZRエンジン、日産MRエンジンと並び、今日のエンジンとして良く出来ている方です。アクセル操作に対するエンジン回転の上昇が俊敏で、軽く摩擦抵抗が小さなエンジンである印象です。「SOHCよりもDOHCの方が高性能」となってしまった傾向が、まるで嘘のようです。
一般道の試乗ゆえに、高回転までエンジン回転を回すことはできませんでした。4000回転程度までの印象ですが、軽快さが買っている印象です。エンジン回転数を上げても急に振動や騒音が高まる印象ではなく、なかなか獰猛な吸排気音を奏でますので、静かさ一辺倒ではない、エンジン車らしい印象が強くなっています。
「AS&G」とは、「アイドルストップ&ゴー」の頭文字を取ったものだそうです。アイドルストップからの始動時間は概ね0.4秒級のようです。他社の始動速度が速まっている中、この値は若干遅れているように感じます。
トランスミッション
CVTが採用されています。三菱もCVTでは経験が長い方のメーカーですが、かつてのコルトの改良の中で、「CVTゴムバンド加速(あたかもゴムひもに引っ張られているかのような、エンジン回転数が上昇してから加速が始まるかのような印象)をなくすために、変速比を固定気味にして加速させうようにした」というものがありました。
CVTは、エンジンの回転数と加速が最も効率良くなるよう、変速比を自在に調整して走れることが最大の特徴でした。CVT登場初期はそのような加速が売りでしたが、長い自動車の歴史で「エンジン回転数が上がらないのに車速だけが上がる」ことが人間の感覚に合わず、不自然である」という問題が出てきたのです。効率は大切ですが、運転責任者が人間であることはさらに大切です。もとより運転性能へのこだわりがマツダ以上にあった三菱です。AT全盛期にも、ファジー制御の採用や+ゲートと-ゲートで変速を行う、マニュアルモードの搭載も早い時期から行われていました。
そのCVTですが、加速中は変速がほとんど行われないようで、概ね固定変速比として加速力を調整できます。この、「細かく調整できる」ことは大切ですね。速度調整がしやすい車です。そして一定速度に到達すると、滑らかに高い変速比へと移行されます。
変速感覚は、エコカー減税が採用される前の日産車や現在のスバル車に近い印象で、CVTの悪い癖を消し去っています。それでもなおCVTを採用するのは、部品点数少ないからだと考えられます。
余談ですが、そんな状況下でもなお6速ATを採用するマツダ、DCTに挑戦したホンダ、AGSを新搭載したスズキは、もっと賞賛されても良いでしょう。CVTながらステップ変速を行う車種もあるトヨタとスバルは妥協の会社で、そんな声を無視する日産は、ユーザー不在の単なる投資会社であることがわかります。
サスペンション
ほどよく引き締まった乗り心地で、ちょうど「ZOOM-ZOOM第一期のマツダ車」を思い出させる乗り心地です。路面の突起は、ややコツコツと伝わってきます。乗り心地の角は丸くなっていますので、不快な印象はありません。どちらかというとショックアブソーバーの減衰力が勝っている印象で、無駄な動きが引き締められている印象です。
ステアリングを素早く左右に動かしてみましたが、車の屋根や乗員の頭が、急激かつ揺れが残るような印象でふらつく感じはありませんした。内輪側の持ち上がりが少ないようで、ショックアブソーバーの伸び側減衰力がよく出ているか、スタビライザーが強力なものが採用されていると考えられます。
カーブのような、さらに長い時間曲がり続けるような道路ではこの好印象が継続するかどうかわかりませんが、内輪の印象から推して車酔いはしづらいと考えられ、大丈夫ではないかと考えられます。
ステアリング
サスペンションの効果もあり、これまた「ZOOM-ZOOM第一期」のマツダ車のように、ステアリングホイールの操作に対して、車が俊敏に向きを変えようとします。地上高や車高が高く、タイヤの厚みも大きめな車であるにもかかわらず、このネガティブな要素を感じさせない操縦感覚です。
俊敏な舵の効きを、減衰力がしっかりしているサスペンションで支えるのですから、操縦性は痛快そのもの、運転が楽しくなる印象でした。
この俊敏な動作は、最近のマツダ車をはじめとした他社のように、「しっとり」という表現は当てはまりません。何らかの事情でこの種の車を選ばなけれならない、本当はセダンなどの地上高が低い車に乗りたい人には、歓迎できる操縦性です。
ブレーキ
試乗から時間が経過してしまい、残念ながらあまり記憶に残っていないのですが、少し前のマツダ車やホンダ車のように、しっかりとした踏み応えと制動力の高まりが感じられるブレーキで、これもまた車重や地上高を感じさせません。
特にこの種の車では、ブレーキング時に車の前方が下がる「ノーズダイブ」が大きくなりがちですが、サスペンションの効果により、小さく抑えられています。
ボデー
登場時期がやや前の車であり、少々不利ではないかと予想されたのですが、思いの他しっかりしていました。サスペンションが硬いとは言っても乗用車の中での話であり、競技用車と比較すると柔らかいのですが、それでも車種によっては各部の変位や音、振動となって、剛性を感じられるものです。その変位等が感じられず、しっかりした車体である印象でした。
スタイルは好みですが、フロントオーバーハングが長く強調され、反対にリヤオーバーハングは短く強調されています。全体的に前のめりで、安定感に欠くスタイルです。
どこかで同じようなことを感じたものだ、と思いましたが、セリカ(T180、1989年登場モデル)でした。セダンを選ばずにこの種の車を選ぶというのは、スタイルを選ぶことでもありますので、少々寂しいものです。中でも白塗装を選択すると、平板なスタイルに見えてしまい、何となく海外の車であるように見えてしまいます。
内装も、残念ながらあまりセンスが良くなく、2000年代前半の車両であるような印象です。デザインテーマに乏しく、統一感が感じられません。
走行性能が良ければスタイルは関係ない、かつての技術者主体のメーカー(日産、スバル)などには、そんな雰囲気が漂っていました。しかし、車は商品です。艤装や雰囲気づくりこそが、これからの車に求められる大切な性能です。私もこの車の試乗に来た際、その寂しいスタイルに「CX3やジュークにエクストレイル、ヴェゼルがあるこの時代に、こんな車に乗る価値があるのだろうか?」と思ってしまったほどです。走行性能が良いだけに残念です。アウディなどでは、ハッチバック系にこの車度似たようなスタイルをとっているものがあります。もう少しこの車が注目されても良いように感じます。
まとめ
走行性能が良いのにスタイルやイメージで損をしている、その一言に尽きます。ノーマル系のスタイルはいかんせんバランスが良くありませんが、ローデストというローダウン・エアロパーツ装着モデルは男性的なスタイルで、最近のクロスオーバー車の中にあっては個性的であるといえます。
全体的に少し前の車である印象は変わらず、全面的に推せる車ではありませんが、走行感覚は味わってみる価値はあります。そろそろ生産終了が噂されていますが、もし破格値で手に入るのでしたら、良い買い物をしたと思ってよいでしょう。
おまけ
最近、ご存知のようにマツダやスバルの好調ぶりが伝えられています。マツダにはCX3やCX5、スバルにはフォレスターがあります。多くの人が、トヨタ、日産、スバル、マツダに試乗して、「やっぱりスバルとマツダが良い」と思うのであればその好調ぶりも良いです。
しかし、経済誌や自動車雑誌等の記事だけを見て、「最近、スバルとマツダが良いようだから、その二つから考えよう。」という決め方は誤りであり、スバルやマツダにも良くない傾向です。比較はもっと公正に行われるべきで、靴などと同様に、自身で体感して選択して欲しいものです。
比較して欲しい記事
日産
エクストレイル(ガソリンエンジン)
エクストレイル(ハイブリッド)
ジューク(前期型)
ジューク(後期型)
マツダ
CX5(初期型2000ccガソリン短距離)
CX5(初期型2000ccガソリン長距離)
CX5(初期型ディーゼル短距離)
CX5(初期型ディーゼル長距離)
CX3(6速AT)
スバル
フォレスター(前期型ターボエンジン車)
XVハイブリッド(前期型)
三菱
デリカD5(ガソリン2400ccエンジン)
デリカD5(ディーゼルエンジン初期型)
アウトランダー(初期型ガソリンエンジン)