
2017年にもなって、何と20年近く前のダイハツ ムーヴ(二代目)の、二つのグレードを近い期間に乗れました。この時期は、安全性向上を目的として、全長が10cm、全幅が8mm(?)拡大された時期です。また、1995年のスズキ ワゴンR発売以降、背高スタイル軽自動車ジャンルが認知され、急速に普及した時期の車です。軽自動車自体も、女性のパーソナルカー的な位置づけから、軽自動車のサイズを選んで買う「オンリーワン」カーになった時期でもあり、軽自動車の品質が急速に向上した時期でもあります。
二代目ムーヴには、3気筒2バルブSOHCのEF-SEエンジン搭載グレードが少し、中心はEF-VE 3気筒DOHC4バルブエンジンで、その上にはEF-DET 3気筒DOHC4バルブインタークーラーターボ付きと、JB-DET 4気筒DOHC4バルブインタークーラーターボ付きエンジンがありました。特にEF-VEエンジンは、軽自動車にも連続可変バルブタイミングエンジンの到来を予感させました。このダイハツの動きに対して、2代目ワゴンRは登場1年後に、K6A自然吸気エンジンを連続可変バルブタイミング化しています。
なお、試乗は7月1日から8日までL902S(JB-DETエンジン搭載FWD)
を、15日から8月5日の間はL900S(EF-VEエンジン搭載FWD)
について行いました。このブログでは、双方を比較する形で書いてまいります。
エンジン
JB-DETエンジンは、初代ムーヴなどにも搭載されていたJB-JLエンジンと同一で、4気筒DOHCターボと、軽自動車ながら非常に奢った機構を採用しております。最高出力は64馬力であり、トルクは10.9kgf・mと、初期の64馬力エンジンとは異なる、余裕で64馬力を発揮する特性となっております。すなわち、低回転時から過給が行われ、すぐに最大過給圧に到達、そのままの過給圧を維持しながら6400回転程度の時に64馬力に到達する、ダウンサイジングターボにも似た特性となっています。
最大過給圧に到達するまでの領域では、発生トルクが急に大きくなるために「出力増大の機運」を運転しに感じさせます。しかし、過給圧が一定の領域になると出力の伸びが鈍化してしまいます。トルク自体は大きなものの変動がないことから、運転士は「高回転時に排気系にものが詰まった」印象を抱いてしまいます。
前二輪駆動であるために、駆動力に対してシャシーが追いつかないような姿勢になりますが、ホイールスピンを起こすことはありませんでした。出力は大きなエンジンですが、エンジンを高回転まで回して楽しむ印象には乏しく、積極的にシフト操作をして楽しむような気持ちにはなりませんでした。むしろ、軽い車体に1200cc程度のエンジンを搭載したかのような、余裕ある出力で4人の人を運ぶ目的に合っていると感じました。ただし、そのような多人数での乗車が、この車に合っているとは思えません。このエンジンは、コペンに搭載してGTカーとして使用するか、ミラに搭載して競技用にするか、が、似合っている、と言えます。
EF-VEエンジンは、58馬力の最高出力を7600回転の時に発揮します。小排気量の自然吸気エンジンですので、最大トルクは6.5kgf・mと大したことがなく、出力はエンジン回転数を上げることで稼いでいます。最高回転数は8000回転も可能で、ここまで回れるエンジンはそうそうあるものではありません。しかも、ギヤ比が低いために8000回転まで回しても大した速度は出ませんので、エンジン出力を十分に使いこなすことができます。A/Tをマニュアル操作として運転すると、安全なままに痛快なドライブフィーリングを味わえます。
ただし、エンジンを回して楽しむことを意識して使用する分には構わないのですが、普通に運転しようと資すると、完全に低速トルク不足です。交差点や合流などで、「行ける」と思ってアクセルペダルを操作しても車はなかなか加速せず、危険な思いをすることも度々ありました。8000回転も回るとは言え、回転が上がるのをアクセルペダルを踏んで待っていなければなりませんから、もどかしさを感じることもしばしばあります。
一定速度まで加速し、時速40km以上で定速走行をする分には普通に乗れますが、加速に余裕はなく、最小限度の出力で走行している印象です。山岳路や高速道路では余裕を完全に失い、エンジン回転を上げた上でゆっくり走行することになるでしょう。
なお、当該車両はエンジンマウントの衰損が進んでいた模様で、アイドル時の振動も比較的大きく、走行レンジ停車時にステアリングホイールを中心に振動が続き、不快な時間を過ごさなくてはなりませんでした。
トランスミッション
双方4速A/Tを搭載しています。制御は異なり、L902Sは電子制御A/T、L900Sは油圧制御A/Tを採用しています。シフトは共通で、2レンジ、D3レンジ、D4レンジ(オーバードライブ)の6ポジション式を採用しています。電子制御A/Tの優位性は感じられず、双方ほとんど同じ印象でした。電子制御化は性能の安定度には貢献しているようで、スロットルバルブとガバナーバルブ式の油圧式では、シフトショックがやや大きめに感じられました。
また、2レンジでもアクセルペダルを一杯まで踏み込むと、1速までシフトダウンします。小さな出力を目一杯引き出せるA/Tで、このA/Tが機敏な走りをもたらしていると言えます。
シフトレバーはコラム式です。コラム式はコラムシャフトを中心として、レバーは円弧を描きます。ステアリングホイールも円弧を描きますので、操作しづらいことこの上ありません。シフトしたい位置を超えてしまうことも、度々ありました。この辺りのことが理由で、コラムシフトは廃れたのかもしれません。それにしても、1レンジを設けない理由が分かりません。
ホンダ車も1レンジを設けませんが、シフト操作は可能な限り、運転士が自由に設定出来なくてはなりません。この車の2レンジは、1速と2速の自動変速、ホンダの2レンジは2速固定です。前者は雪道での発進性が無視されており、後者はスポーツ走行性を無視しています。
ブレーキ
どちらも年数が経過した車であり、メンテナンスもほどほどの車ですので、特別なことはありませんでした。踏み応えはスポンジーそのもので、効き具合も良くありません。停車直前にはより強くペダルを踏み込みませんと、目標位置で停車できませんでした。
ステアリング
ラック&ピニオン式ステアリングながら、中央付近の不感帯が広めになっています。この種の車は、「シャープなステアリングになると車体の姿勢が不安定になる」という論があります。ステアリングギヤ比は低くても構いませんが、中央不感帯が広いのは操作性の上で良いと感じません。アンダーステア傾向にする設定は当然ですが、それを操舵性の鈍さで実現してはなりません。操舵性が鈍ければ安全、というのは、誤った考えだと思います。このステアリングの鈍さもあり、いくらエンジンが痛快でも運転を面白く感じることはありませんでした。
サスペンション
どちらの車も10万kmを超えており、ショックアブソーバーは完全に衰損しています。乗り心地や操縦性について、新車当時のことを説明することは出来ません。しかし、そんな中でもL902Sターボエンジン車はサスペンションスプリングが固められていることがわかりました。ショックアブソーバーが衰損した状態では、ゴツゴツとした当たりの硬さを感じます。
一方でL900S自然吸気エンジン車は、柔らかい乗り心地になっており、カーブ等ではロールが大きめです。操縦性は重視されておらず、旧来からの軽自動車の使用方法である、近所をちょっと走るだけ、という目的に沿っています。
ただし、ターボエンジンだからサスペンションを固く、自然吸気エンジンだから柔らかい、という設定の仕方には疑問を感じます。この種の区分けは、ノーマルシリーズボデーは柔らかく、カスタムシリーズは固く、という方が自然ではないかと思います。
ボデー
この車が発売された頃、既に「ボデー剛性」は議論されている時代でしたが、あまり高いとは感じられませんでした。とはいえ、路面の突起を乗り越えるたびにミシミシ、ガタガタと音を立てるほどでもありませんので、今日でも我慢出来る程度になっています。最近の軽自動車は、硬い高張力鋼板を使用して設計されていますが、おそらくボデー剛性はほどほどの向上に抑え、全体の軽量化に注力していると推察されます。
まとめ
当時のダイハツには「タント」も「ムーヴコンテ」もありませんでした。この種の背高ボデー車に人気があることが分かり、パーソナルカー的な「マックス」と、個性派の「ネイキッド」がありました。すなわち、ムーヴがタントの役割を担う必要がありました。一方で、RV(リクリエーショナルヴィークル)需要もあり、遊び車としての要素も持たされていました。そのような、今のラインナップに至る元祖としての位置づけでした。
また、初代ムーヴで人気が出た裏ムーヴこと、カスタムシリーズは独立したグレード化されており、この代から外観もノーマルシリーズとカスタムシリーズとで極端に変えられました。性格としては、色々な人が満足出来るような、一般的な雰囲気を持たされていました。
そんなムーヴでしたので、特にL900Sは誰が買っても満足出来るような仕上がりになっていました。一方、L902Sは、エンジンが速いことは速いけれど、その速さは直線の登坂路でしか生かせないという、中途半端な性格になってしまっています。速さは2017年現在でも通用する速さですが、車体はそれなりに痛みますので、所有を悩ませるものです。
一方でL900Sは、エンジンの出力も走行性能も静粛性も、2017年現在では全く時代遅れそのものでした。現代の軽自動車と比較すると、現在の軽自動車の進歩がよく分かるものでした。
以上のことから、特に軽自動車は十数年程度を経済寿命と考え、買い替えサイクルを決めておくことが上手な乗り方ではないか、と感じました。
車体は、ご覧のように背高ボデーとなっております。荷物を積んで走るような、バンとしての使用方法をも考えれば便利な道具となりますが、走りの性能は良くありません。少なくとも、走って楽しい気持ちにはなれず、特にカーブでは我慢を強いられる場面もあります。
釣りやスキー、天体観測やガーデニングなど、荷物を積んで移動する趣味の場合には最高の道具であり、ドライブや走ることを楽しむ目的には全く合いません。車で走ることを趣味にする人も少ないでしょうが、荷物を積んで走って行ってする趣味、というのも少数派ではないでしょうか。そんな実際の傾向が、現在のムーヴやワゴンRが苦戦している理由だと思います。
以上のことから、ムーヴやワゴンRは、かつてのミラやアルトになったのであり、売れ行きが鈍化するのも仕方がないかな、と感じたのでした。
さて、既に中古車としても過去の車になりつつあるこのムーヴですが、一般の人にはむしろターボエンジン仕様をおすすめします。今回試乗は出来ませんでしたが、3気筒DOHCターボエンジンのEF-DET仕様などがおすすめです。4気筒ターボエンジンもおすすめしたいですが、価格や車の性格から中途半端になってしまうと思います。もちろん、面白いエンジンですから、金額を重視しなければ良いでしょう。一方、EF-VEエンジン搭載車は、高回転指向のエンジンであることから、むしろ一般的な人よりも、エンジンの使いこなし方を知った人が乗ったほうが良いでしょう。チンタラ走るのでしたら、SOHCのEF-SEエンジンでも悪くありませんが、ほとんど売れませんでした。
まとめますと、豪快なJB-DETエンジン搭載車、痛快なEF-VEエンジン搭載車です。
おまけ
この車が発売された1998年は、スノーボードやゲームのパラッパラッパーなどが流行りました。「ストリート」という言葉が横行し、少し悪ぶるとモテる、などということがよく言われていました。その「少し悪」が、このカスタムシリーズには感じられます。ズボンのベルトから吊り下げたチェーンやブーツカットのデニム、髪にメッシュを入れたような雰囲気です。当時最新の服に合わせてデザインされた車ゆえ、現代ではなつかしさを感じるのでしょう。
参照して欲しい記事
日産
デイズ(ハイウェイスター前期モデル)
デイズ(ハイウェイスター後期モデル)
デイズルークス
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N ONE(ターボエンジン)
ビート
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ミライース(旧型)
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アルト(現行初期型自然吸気エンジン搭載車)
ワゴンR(旧型の初期型、自然吸気エンジン、乗車のみ)