C28JA60TAKAのブログ一覧

「男の子が生まれたんだ。男の子だ」
「ホントかい？」

交信を終えた乗組員たちはホールに集まり、その会話は尽きなかった。
通信ブースの椅子には一升瓶を抱えた佐渡酒造が座っていた。

「宇宙は大きいのだ。そして果てしないのだ。先なんてないのだ。
　土星へ行っても冥王星へ行ってもお前に買ってやるお土産は売ってないんだ」

モニターには佐渡が地球に残してきた、猫のミー君が映っていた。
佐渡はコップに酒を注ぎ、一気に飲み干した。

「ミー君、さよなら」

ミー君がミャーと声を上げるのと同時に交信は終わった。


「そうだ、俺の訪ねる場所が一つあった。あそこだけが俺にとっても艦長にとっても救いの場所なんだ」

古代は一人で窓から外の宇宙を眺めていた。

「古代君、ここにいたの？もう全員交信を済ませたわ」
「ああ、済まない。行くところがあるもんで・・・」
「困ります、地球との交信は時間ごとに悪くなってるの。できるだけ早くしていただかないと・・・」
「わかった」

交信する相手はいない。古代は雪の手前、仕方なしに通信ブースの椅子に座った。


「ああ、いけない。使い方を言ってないわ。古代君・・・」

心配して古代の様子を盗み見た雪の目の前で、古代は腕組みをしながら何も映っていないモニターを見つめているだけだった。


　　・・・故障かしら。ちがうわ。どうして家族とお話・・・


「あっ！」

雪の声に気付いて、椅子に座った古代が振り返った。
雪も古代には地球に話す相手がいないことに気がついた。

「ごめんなさい・・・」
「あっ・・・」

古代も慌てて出ていった雪を追うことはできなかった。力なくそこに立ちすくむだけだった。


　　・・・古代、何をしておるんじゃ。遊びに来い・・・


沖田は古代が一人でいることを分かっていた。
通信ブースを出た古代は、行く宛がないまま気がつくと第一艦橋に来ていた。
交信を終えた加藤や相原、徳川の目が古代を見つめていた。


　　・・・誰にも分かるものか。分かるはずもない・・・


艦長なら、きっと沖田艦長なら・・・。
古代は艦長室へ向った。