『大学』(十三)

(安岡正篤－「人物を創る」より)





「詩に云う、穆穆（ぼくぼく）たる文王、於（ああ）緝煕（しゅうき）敬止すと。人君と為っては仁に止まり、人臣と為っては敬に止まり、人子と為っては孝に止まり、人父と為っては慈に止まり、国人と交っては信に止まる。」

詩云、穆穆文王、於緝煕敬止。為人君、止於仁、為人臣、止於敬、為人子、止於孝、為人父、止於慈、與国人交、止於信。



「詩経」大雅の文王編に云う、「その徳が深遠で測りがたい文王は、ああ、光り輝いてやまず、悠々として敬虔であられた」と。人君としては民衆に仁愛を与えるのが止(とど)まるところ、人臣としては命を受けて職分をつくすのが止まるところ、子は親に考をつくすのが止まるところ、親は子を慈しむのが止まるところ、国民と交われば信をつくす、これみな止まるところである。

緝という字は連続・統一・永続を表す文字、煕は光り、楽しむ、光明を表す文字、敬は我々の精神の向上に向かって統一されている状態、敬う、つつしむ。穆穆は非常に徳のある、内容の豊富なこと。そういう文王には雑駁な、刹那的な場当たり的なところは一つもない。常に変わらず明るくて、敬虔で悠々とおちついている。

これは「止」に関する文献である。





前頁「大学」(十二)

次頁「大学」(十四)