『大学』(二十二)

(安岡正篤－「人物を創る」より)





「故に諺に之れ有り、曰く、人其の子の悪を知る莫(な)く、その苗の碩（おお）いなるを知る莫しと。此れ身修まらずんば、以て其の家を斉う可からずと謂うなり。」

故諺有之曰、人莫知其子之悪、莫知其苗之碩。此謂身不修、不可以斉其家。



諺にいうように、親は愛情に溺れるあまり、わが子の悪事はえてして気づかないものだ。また農夫は貪欲のゆえに、わが田の苗はよそより小さく誤認しがちである。それゆえ、わが一身さえ修められないで、どうして一家を斉えることができようか。

どんな不美人でも醜女でも、「お前は顔が悪い」といえば怒る。どこかいい点があると思っている。そういうようなもので、「人其の子の悪を知るなし」。その反対に欲が深いから、その苗の大きいのを知らない。その証拠にお百姓に「今年は豊作だなぁ、四石くらいは穫れるだろう」といってみるがよい。「なかなかそんなには穫れん。二石か三石だ」と必ず言うに違いない。





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