『大学』(二十三)

(安岡正篤－「人物を創る」より)





「所謂国を治むるには、必ず先ず其の家を斉うというは、その家教う可からずして、能く人を教うる者は之れ無し。故に君子は家を出（い）でずして教えを国に成す。孝は君（きみ）に事（つか）うる所以なり。弟（てい）は長に事うる所以なり。慈は衆を使う所以なり。」

所謂治国必先斉其家者、其家不可教、而能教人者無之。故君子不出家、而成教於国。孝者所以事君也。弟者所以事長也。慈者所以使衆也。



山田方谷「古本大学講義」にいう、「一家一門の中、父は父、子は子たる教ができぬぐらいにて、どうして遠き疎遠なる一国の人を教へしとて治まるべきぞ。上に立つ人君が、わが一門さへ治め得ずして、威光のみを以て下を教ふれば、下の人、一旦は服すべきも、到底心服せず、永続せぬものなり。故に国を治めるには、まづ家を治め斉（ととの）へざるべからず。“君子は家を出ずして教を国に成す”とは、わが家がよく斉ひ、教が行届きさへすれば、外は教へずとも自然に見倣ふを以てなり」と。わが親に事（つか）える孝を国に移せば、国君に事える所以となり、わが兄に事える弟（悌）を国に移せば、長上者に事える所以となり、またわが子に接する慈を国に移せば、国民を治める所以となる。

家を出ずして教えを国に成す。これを仏教的にいうと、十如是の「如是本末究竟等」である。心を正しくしてそのままに国が正しくなる。





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