『小学』(十)

(安岡正篤－「人物を創る」より)





「論語に曰く、食（めし）は精（しろき）を厭（きわ）めず。膾（なます）は細きを厭めず、食の饐（む）れて餲（す）え、魚の餒（あざ）れて肉の敗き（ふる）は食わず。色の悪しきは食わず。臭の悪しきは食わず。飪（に）るを失えるは食わず。時ならざるは食わず。割（きりめ）正しからざれば食わず。その醤を得ざるときは食わず。肉は多しと雖も食気に勝たしめず。唯（た）だ酒は量無けれども乱に及ばず。沽酒（こしゅ）や市脯（しほ）は食わず。薑（はじかみ）を撤せずして食う。多く食わずと。」　－　「論語・郷党篇」



「論語」に孔子はこういうことを言っている。飯はあまり精白せず、六分か七分搗（づ）きにし、膾も細かくきざまない。飯のむれて酸っぱくなったものや、魚の肉の古くなったもの、色の悪いもの、臭いの悪いもの、煮方の失敗したものは食わない。「時ならざるは食わず」、時季時季のものを食べる。近頃は四季だけでなく、緯度・経度まで無視して、いつでもどこでもいろいろなものが食べられるが、これは生理的にも病理的にもよくないそうである。「割（きりめ）正しからざれば食わず」、包丁の入れ方の悪いのは気持ちの悪いものである。醤、たとえばわさび。わさびのない時は魚の刺身を食わない。わさびは魚肉の毒除けである。いくらたくさん肉があろうとも、食欲を考えて食べ過ぎるようなことはしない。

酒はいくら飲んでもよいが、乱酔するまでは飲まない。これ（原文は「唯酒無量、不及乱」）をある漢学者が、「酒は量（はか）るなかれ。及ばずんば乱す」と読んだという笑い話がある。

また、買ってきた酒（沽酒）、買ってきた乾し肉（市脯）は食わない。はじかみを除けずに食い、多食するようなことはしない。一々もっともな孔子の食生活法である。





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