『小学』(三十九)

(安岡正篤－「人物を創る」より)





「孔子曰く、朋友は切切偲偲（しし）たり。兄弟は怡怡（いい）たり」　－　「論語・子路篇」



切切偲偲（せつせつしし）は努力する形容詞。怡怡（いい）は喜ぶ、楽しく愉快にすること。簡単でしかも無限の意味を含んだ一文である。

善は人間の生命であるけれども、肉親の間柄で、兄弟はもちろん父子の間でも、これ責める（相手が道徳的善を実行するように責める）ということはよくない、と孟子が論じておる。肉親はつながって一体でなければならない。離れるということは禍（わざわい）これより大なるはない。だから善といえどもこれを責めるのはよくない。和やかに愛情の中にひたっておらねばならない。それが怡怡（いい）である。

しかしそれだけでは人間はだらけてしまう。そこで切磋琢磨してお互いに磨き合う必要がある。それは肉親の間ではでき難い。よって師弟とか朋友とかいうものは、お互いに磨き合うことが根本義である。父子・兄弟と師弟が相俟って初めて円満な進歩向上が得られるのである。





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