
3連休は埼玉に戻り、家の掃除やら車のメンテナンスやらで、いろいろ忙しくしていました。ブルーバードシルフィについては、まもなく来る車検の準備のため、切れていたハイマウントストップランプを既に注文、それと、エアコンパネルのLED化のため純正見本品を注文、この日受け取りに行きました。そして、発売したてのノートに試乗してきました。
ノートの歴史
日産ノートはこれが二代目で、まだ歴史という程のものはありません。むしろ、ホンダフィットが旧型マーチ、ヴィッツ、旧型デミオとともに「これからはコンパクトカーの時代」と成功して数多く販売されている中、日産もフィットが欲しい、とのことで企画されたものと思われます。
他社では、トヨタはラクティス・シエンタなどが発売され、マツダはデミオをワゴンスタイルからハッチバックスタイルへと移行、販売ボリュームはコンパクトカーから軽自動車へと移行、マーチは旧型の頃にマーチとの関係が曖昧になりました。一方、ノートにはティーダハッチバックがあってこれまた関係が曖昧になっていたのを、ティーダハッチバックを統合する形で今回のノートとなりました。
もはやセダンは売れず、小型車はコンパクトワゴン型が基準となる中、日産のベーシックカーとして仕切り直しの形で登場してきました。
エンジン
3気筒自然吸気のHR12DEと、3気筒スーパーチャージャーのHR12DDRの二本立てです。自然吸気エンジンはマーチと同様のもので、今回の目玉は、スーパーチャージャーエンジンです。海外では「ダウンサイジングターボエンジン」がもてはやされる中、日本には「従来のエンジンを踏襲」と、「少々排気量が小さいエンジンをややパワーアップ」の例はありましたが、このエンジンが国産車初の「ダウンサイジング(をしても、パワーは旧型の標準級並みの出力の)過給器付きエンジン」です。
スーパーチャージャーは、エンジンの動力を使って過給ポンプを回し、エンジンに空気を押し込む方式です。ターボチャージャーが排気ガスが出る勢いを利用してポンプを回しているのに対し、スーパーチャージャーはエンジンの動力を使う分、出力を奪われます。一方で、ターボチャージャーは「アクセルペダルが踏まれて排気ガスの量が増え始めてから空気を送り込む」ため、どんなに工夫をしても出力が出遅れます。海外では発車をしたらなかなか停車しないのでそれでも良いのでしょうが、渋滞路が多い日本では「かったるい」ということで、スーパーチャージャーを選んだのでしょう。
エンジン本体にも工夫があります。「ミラーサイクル」という回し方を採用しています。普通のエンジンは、ピストンが上下する筒の容積の分だけ混合気を吸い込んで圧縮、燃焼させます。このミラーサイクルは、吸気バルブが開いている時間を長くし、一旦吸い込んだ混合気を吸気管へと戻しています。そして途中から圧縮を開始し、燃焼させています。こうすると、とくにスロットルバルブを閉じ気味にして使う低回転域で、吸気管の気圧があまり低くならず、他の気筒が混合気を吸い込む時に、楽に吸い込むことができます。
一方、出力の源である混合気を戻していますので、最高出力は同じ排気量の普通のエンジンと比べて、低めになってしまいます。実はトヨタのハイブリッド車の多くの車でもこの方式を採用しているのですが、ハイブリッド車ではモーターがありますので、エンジンの出力が多少小さかったところで、運転士は出力不足を感じません。
このHR12DDRエンジンは、運転士があまり出力を望まない時にはミラーサイクルエンジンとして使い、出力を望む時にはスーパーチャージャーを電気的に結合するクラッチを作動させて駆動、エンジンへと混合気を押し込んでミラーサイクルの要素を減らし、高い出力を得ています。
ここまでが技術的な特徴です。実際にこの車に乗ると、発車は軽快です。気筒数が減るとエンジンの摩擦抵抗が減り、軽く回るためでしょう。エンジン自体の重量も軽いため、回転の上がり方も軽快です。3気筒エンジンは、4気筒エンジンと比べて燃焼が起こる間隔が長いため、どうしても不快な振動が出てしまいます。はじめて3気筒を実現したダイハツシャレードは、その振動を打ち消すために、「バランスシャフト」を搭載していました。その後、軽自動車をはじめとして3気筒エンジンが増えると、バランスシャフトを省略、運転士の方が慣らされてしまったわけです。
このエンジンではその不快な振動がほとんど感じられず、3気筒であることを意識させられるのは全開加速の時だけです。特に3気筒の欠点が出やすいアイドル時にも振動が小さく、エンジンもすぐにアイドルストップをしてしまいますので、欠点が隠されてしまいます。
普通の加速時には、CVTのロックアップクラッチがすぐに作動、従来はトルクコンバーターが吸収していた「こもり音」が車内に響くために、3気筒の振動が感じられません。
普通の加速時にかったるさを感じることはなく、軽快ではあります。しかし、全開加速となると「まあ、こんなもんかな」という程度の、ごく普通の加速しかしません。旧型ノートでは、「ビュンビュン走って低燃費」が売りでしたが、この車は「ビュンビュン走る」という感じではありません。1500cc程度の加速という感じでもありません。なんとか我慢できる程度です。フィットなどの1300ccエンジン程度です。デミオの活発さは、ボデーの大きさが違うとはいえ、望めません。
燃費規制などから、現在のところは気筒数ダウンしか手段がないようです。法規制の点で仕方がないとはいえ、少々寂しいですね。
アイドルストップはかなり頻繁に行われます。エンジン始動は0.4秒で、ブレーキペダルから足を離してアクセルペダルに踏み変えるときに、なんとか間に合ってエンジン始動に至る印象です。
トランスミッション
もはやお馴染みの、副変速機付きトルクコンバーター式CVTが採用されています。エンジンで頑張った省燃費性能をトランスミッションも協力すべく、なるべく低いエンジン回転を保つようにしています。
前述のごとく、エンジンは低回転域で軽快なので、かったるさを感じることはありません。加速時にもむやみにエンジン回転を上げないようにしているため、やかましい感じもしません。というより、CVTですと「シフトダウン」のようなことができないため、素早く変速比を下げることが苦手なのかもしれません。
加速時の変速比の選び方が適切であるため、CVT特有のゴムひもで引っ張られているような加速はありませんでした。
助手席に乗っていた営業の方も言っていたのですが、この変速制御のためか速度感が希薄で、車速、エンジン回転、運転士の速度感覚に慣れが必要かと思います。どちらかというと、「運転士の感覚よりもメーター読みの速度が出ている」感じです。
これも、「高い変速比でエンジンの余裕を削って加速している」効果ではないか、と思います。もっとも、この効果により「3気筒らしさを打ち消している」とも言えます。
Dレンジでしか走行しなかったのですが、「コースティング」的走行ができます。たしか「コースティング」とは、ヨットか何かの用語で「風に流されて走る」だったと思います。Dレンジでアクセルペダルから足を離してもほとんどエンジンブレーキが効かず、うまく走れば燃費よく流すことが可能です。
エンジンブレーキを効かせるにはレンジを切り替える必要がある模様ですが、シフトレバーが遠いため、こんな時にはステアリングスイッチが欲しいと思います。
ブレーキ
これまでも日産車のブレーキは、ペダルの踏みごたえが適当で、ブレーキ力の調整がしやすいと言いました。この車はさらにしっかりし、高級車のブレーキといってもいいかもしれません。
ただし、トランスミッションのところで書いたようにエンジンブレーキが強調しないため、停車しようとするときにはかなり意識をしてペダルを踏まなければなりません。ブレーキペダル操作中もエンジンが回転を維持しようとしているため、運転する方によっては「止まりづらい」と思うかもしれません。
ブレーキペダルスイッチがオンになると、コースティング制御をやめるようにしたほうが良いのではないか、と思います。
吸気バルブの開度を変えるエンジン(トヨタ バルブマチック)などでは、吸気管の気圧が大気圧に近づくため、ブレーキペダルを踏む力を助ける装置である、真空式マスターバックの効き具合が悪くなります。そこでバルブマチックのエンジンでは、ディーゼルエンジンのように「エンジン駆動式バキュームポンプ」を兼ね備えています。おそらくこのエンジンでもそうしていると思いますので、バキューム容量も関係があるかもしれません。
ステアリング
電動パワーステアリングですが、経験が長いだけあって実に自然なアシストとなっています。トヨタの電動パワーステアリングが「ねっとりとして何か摩擦抵抗が働いている感じ」がするのに対し、すっきりとしたステアリングフィールです。トヨタではそのねっとり感を「意識的に演出した遊び」としているようですが、この車に乗ると「目の前が晴れた」感じになります。
ZOOM-ZOOM第一世代マツダのように過敏すぎても困りますし、ネットリした感じも違和感を感じる、ステアリングのチューニングとは難しいのですね。この車の印象は、私にとってではありますが、非常に良い印象です。
サスペンション
これまでの日産車の、独特な「柔らかさ」はなくなっています。路面の突起にたいして、ややコツコツとした当たりを感じます。かといって、車体全体がブルブルと振動するわけではありませんので、不快な感じはありません。これは、扁平率が小さいタイヤを採用したことも一因でしょう。
これまで国産車のタイヤは、モデルチェンジごとにホイール径が拡大され、扁平率も高まる一方でしたが、ようやく「踏みとどまり」になってきたようです。ファミリーカーに、65%よりも扁平したタイヤは、不要だと思います。
最近の車で特に目立つ「空気圧を上げたことによる硬さ」や、少し前のトヨタ車にあったような「ショックアブソーバーがすぐに動かないような、遅れてストロークするような硬さ」もないため、気持ちよく乗ることができます。その点では「マイナーチェンジ後のフィット」にも似ていますが、ボデーのしっかり感はこちらの方が上です。
乗り心地が固く、ステアリングレスポンスにも優れるラクティスとは正反対の車になっていますが、乗用車らしさではこちらの方が上です。乗っていて「快適」に感じられます。
ボデー
ボデー剛性が高く、それでいて乗り心地が柔らかいので、さらにしっかり感を感じます。前方見切りは、特に最近ダッシュボード上端が高くなったトヨタ車と比較してかなり良く、斜め後方も「J型サイドライン」を採用しているにもかかわらず、見切りは良好です。
日産社内には、私のブログを見てくれている人がいるのでしょうか?雑誌は視界のことについては何も言いませんが、この車は視界が良好です。横滑り防止装置もエアバッグも良いですが、安全運転にはまず視界です。この車には、運転していて、「嫌なストレス」というものが全くありません。
トヨタやホンダの人は、もう一度「視界」について考えてみてはいかがでしょうか?
内装は、内装の良さを売りにした「ティーダ」の後継でもあるためか、特にメダリストグレードでは作りが良くなっています。シート、ステアリングなどの作りも良好です。ただ、その作りの良さで3気筒というのが、どうにもちぐはぐな印象を受けます。せめて最上級グレード位は、4気筒、できればはいチューニングエンジンも期待したいところです。
時代遅れになったとは言え、排気量や気筒数による車格分けはまだ存在します。この車については、かつての「ローレル4気筒、ブルーバード(810型)G4」の姿が見え隠れし、内外装は立派なのに、エンジンが・・・。」という印象が拭えません。私の考え方が古いのかもしれませんが、急にダウンサイジングをしすぎたようにも思います。
内装は良いですよ。メーターも白色文字発光型で、見やすく、それでいて清潔感があるものです。ピアノ調内装パネルも、ティーダから乗り換えてもがっかりしないと思います。
後席の足回りも広々としており、快適です。相対的に、ちょと幅が狭く感じられるかな?5人乗車では狭いですが、4人であれば快適に座れることでしょう。荷物室も、ごく常識的な広さになっています。これで室内が狭いと言ったら、、、その人の「断捨離」能力が少ないのかも??
まとめ
このあと、このノートをベースにして4ドアセダンのラティオが登場、ブルーバードシルフィはラティオとは無関係な車体で登場する模様です。これまでのマーチ、ノート、ティーダ、ティーダラティオ、ブルーバードシルフィの、それぞれ重なり合う関係が整理され、すっきりしてきます。
しかし、3気筒というところがどうもなじめません。しかもなんと、HIDが最上級グレードしか選べないという、メーカーの都合丸出しのグレード設定となってくるのだそうです。私が他社のセールスマンであれば、この気筒数やHIDの部分を攻めるでしょう。
ここへ来て、日産は「メーカーの都合」が目立つようになってきました。もっとも、国内市場は縮小化、軽自動車化で、割合を落としているので仕方がないとも言えます。その辺りに「数多くある車種の中なら、この車種が欲しい」という気持ちを抱かせなくなっている原因があると思います。
他社が、フィットハイブリッドRS、スイフトスポーツ、オーリスRS、デミオスカイアクティブなどと特徴あるグレードを復活させている中、日産だけが他社と方向が変わってきているように感じます。
商品としては悪くないのに、「この車でなければ」という特徴がないノートは、ちょっと勧めづらくなっています。これが「4気筒でダウンサイジング」となればもう少し印象が異なってくるだけに、エンジンは再考を願います。
なお、「トヨタ ベルタ」は、過給器はないものの「ダウンサイジングカー≠エンジンダウンサイジングカー」として登場してきましたが、3気筒エンジンの振動が嫌われて、そっぽを向かれてしまいました。やはり、エンジンによる印象というのは商品として大切です。最近の日産車は、機能は良くても商品としての設定に魅力がなくなっているように感じます。技術優先も考えものです。
そんなわけで、3気筒とほんの少し残る振動と-1気筒という事実、ややパワー不足、というところが気にならなければ、この車はシャシー、ボデー設計が優れているので、良いと思います。ただ、新発売して間もないのに、デミオやフィットに対して免税以外にアドバンテージがない、という難しい車だとは思います。
参照して欲しい記事
旧型マーチ
現行マーチ
旧型ノート
ジューク
現行キューブ
旧型ティーダラティオ
現行ヴィッツ
現行パッソ
現行ラクティス1300cc
現行ラクティス1500cc
スペイド
アクア
現行後期デミオ
現行後期フィット
フィットシャトルハイブリッド
フリードハイブリッド
現行スイフト