
この日はお彼岸のため帰省しました。ようやくフィットを試乗する機会を持てましたので、早速行ってまいりました。
フィットのハイブリッド仕様について
フィットのハイブリッド仕様は、旧型のマイナーチェンジ時に追加されました。ついこの前のように感じていましたが、もう3年も前でした。そもそも「コンパクトで燃費よく、走りも活発」な車として人気が高いフィットであったため、ハイブリッド化と燃費の向上とのバランスが難しかったそうで、難産だったと聞きました。
ホンダのMT車ではないハイブリッドシステムは、油圧多板クラッチ付きマルチマチック+アシストモーターで成立させてきました。ホンダはCVTのエンジン回転断続機構にトルクコンバーターを嫌い、油圧他板クラッチの断続方式を採用してきました。しかし、使い続けているうちにCVT油の摩擦特性が低下した上にクラッチ表面が痛み、半クラッチ状態がうまくできなくなる現象を抱えています。
また、ベルハウジングに、フライホイールの代わりとしてモーターが設置されるため、大きな出力のモーターが搭載できないという点もありました。
現行インサイト以降、半クラッチに関するトラブルを回避するために、インフォメーションディスプレイにCVT油を交換する時期を案内するようになりました。
エンジン車らしい、ダイレクトなドライブフィーリングが味わえて、軽快な運転感覚のホンダのハイブリッドでしたが、現行インサイトが現行プリウスと販売上で衝突、プリウスの圧倒的な勝利に終わったことから、フィットハイブリッドは新しいハイブリッドシステムに刷新した上で、新登場となりました。
なお、良いことずくめではありません。「通なモデル」であった、RSハイブリッドは、構造上全面的に廃止となりました。RSのMTのハイブリッドは、CR-Z前期型と同じシステムを持つ実用スポーティーカートして魅力的でしたが、あっけない廃止でした。
エンジン+モーター
初代フィットで登場したL型エンジンは、当初SOHC2バルブ2点点火方式でした。当時はガソリンエンジンの回転数を落とし、低速時の出力を向上させることをベンツが提唱し、一時流行でした。しかし、可変バルブタイミング機構を採用したほうが効率が良くなります。そのため、構造上可変バルブタイミングを採用しづらいSOHC方式を今モデルで廃止し、DOHC化しました。なお、旧型ではSOHC4バルブVTECを採用しています。この通り、メーカーの説明など、朝三暮四です。
ガソリンエンジン仕様車は、1300ccアトキンソンサイクル・ポート噴射仕様と1500cc筒内噴射仕様ですが、ハイブリッドは1500cc遅閉じアトキンソンサイクル・ポート噴射仕様です。旧型モデルは、1300cc(減速時)気筒休止VTEC仕様でしたので、スペック上は熱効率が向上しています。
なお、トランスミッションに後述のDCT方式を採用しているため、減速時にはエンジンの動力を開放、モーターによる発電ブレーキ(回生ブレーキ)と、電子油圧制御式摩擦ブレーキで減速できますので、気筒休止VTECは不要になりました。
このエンジンの仕様は、低速走行時はアトキンソンサイクルで、熱効率よく運転しています。特に1速にシフトされている時には、モーターのみで走行できます。2速以上では、エンジンを始動してエンジン+モーターのパワーで走行します。
また、運転士がアクセルペダルを深く踏むなど、要求出力が大きい時には電動式可変バルブタイミング機構を駆動してアトキンソンサイクルからオットーサイクルへ以降、さらに高回転域などでは、VTEC機構を切り替えてバルブリフト量を増大、さらに高出力を得ています。すなわち、ハイブリッドシステムが変わっても「エンジンの出力で走る車」になっているのです。
後日記述予定の、ガソリン1300cc仕様車は、この低速走行領域でアトキンソンサイクル故か大幅に出力が不足しています、しかしハイブリッド仕様は、この領域でモーターを積極的に駆動し、動力のアシストをしています。
アクセルペダルに対するエンジン+モーターの出力は十二分にあり、ペダル操作に対して素早く回転数が上昇します。セールスマンの方が同乗しているゆえ、アクセルペダルを全開にすることはできませんでしたが、半開程度の印象では2000ccの140-150馬力級のエンジンに近い印象です。全く余裕にあふれていて、俊敏な走行が可能です。
このシステムの特色は、このレスポンスとパワーの立ち上がりの自然さです。ほとんど「ワイヤースロットル式のガソリンエンジン」と同程度のレスポンスになっており、加速をする楽しみを感じます。トヨタのハイブリッド方式であるTHSⅡは、エンジンと駆動系がつながらない印象が非常に強いものですが、今回のフィットの方式は、旧型以上にダイレクトな印象を楽しめます。
また、旧型までのL型エンジンで気になっていた「ジリジリ、ザラザラ」という振動ないしは微小な音は、旧型ハイブリッド同様聞こえなくなっており、静かで滑らかな印象になっています。
トランスミッション
日本では、日産GT-R、三菱ランサーエボリューションとギャランフォルティスのみに採用されていた、ダイレクトクラッチ式二分割トランスミッションが採用されています。奇数段(1,3,5速)ギヤ列と偶数段(2,4,6速)に分けたトランスミッションとエンジンの間にそれぞれクラッチを搭載、さらに、それぞれのギヤ列には油圧クラッチを設けています。
1速にシフトしている時には、偶数段は2速にシフトしてクラッチは開放した状態で待機、変速時は、クラッチを繋ぎ変えるだけで変速しています。以後、この繰り返しです。クラッチが切れている時間がほとんどなく、素早い変速が可能となっております。
なお、1速ギヤを遊星歯車としてスペースを確保、その部分にモーターを搭載しています。前述の通り、1速と後退時はモーターで走行し、2速以上の前進時にエンジン+モーターの走行をしています。奇数段時にはモーターが直接、偶数段時には、3速や5速ギヤの奇数ギヤを介してアシストをしています。
このダイレクトクラッチ方式は、VWを初めとした欧州車を中心に、ダウンサイジングターボエンジンと組み合わされることが多いです。クラッチは湿式と乾式があります。湿式は、半クラッチ性能や寿命に優れる一方で油圧を作る損失があり、乾式は半クラッチ性能やクラッチの寿命に難があります。
変速レスポンスは非常に素早く、マツダのスカイアクティブATよりもやや勝る印象です。しかもクラッチを切っている時間が非常に短くなっています。トヨタのTHSⅡを「シームレスな加速」と表現する文章が多いですが、この「段がある加速」は、エンジン回転数や速度域、段から「加速性能が予測できる」良いところがあります。
このトランスミッションが量販車種に採用されるのはほとんど初めてです。耐久性については少々疑問が残りますが、大変魅力的なトランスミッションです。(私は、3ペダルMTの、クラッチが切れている間の独特な「溜め」が好きなので、変速レスポンスが良すぎるのも好きではありません。)
サスペンション
初代フィットの初期型でサスペンションの硬さが指摘されました。旧型も前期型はサスペンションが滑らかにストロークしていませんでした。後期型でしなやかさが感じられるようになり、特に車体剛性を上げて車両重量も増大しているハイブリッドモデルでは、「しなやかでしたたか」と感じられるようになりました。
以後、ホンダ車のサスペンションは乗り心地向上に向かっていますが、このモデルについて言えば減衰力の立ち上がりが弱く感じられます。補修を繰り返したような道路では、車輪がバタついてしまって、妙な振動を感じることがあります。カタログ等によると、二段絞りバルブのような、車輪の上下速度が速い時には減衰力を弱め、ロール時のようなストロークする速度が遅いときには減衰力を発揮するかのような説明があります。
しかし、これは明らかにタイヤやホイールとのマッチングが悪く、減衰力不足を感じてしまいます。もう少し、ストローク量などに対して比例して減衰力が出るように調整をして欲しいものです。
ブレーキ
ブレーキペダル操作量と、ブレーキ油圧の上昇が連動しない、「電動送りモーター駆動ピストンによる、電子油圧制御式ブレーキ」が採用されています。すでに日産のフーガハイブリッドやシーマ、リーフでも採用されている方式です。これにより、ブレーキペダルが操作されていてもブレーキ油圧をかけず、発電ブレーキのみの減速が可能になりました。これにより、旧型のように気筒休止VTECを作動させて、エンジンブレーキを効かないようにする機構が不要になりました。
発電ブレーキが失効するなど、摩擦ブレーキが必要になった時にはマスターシリンダーのピストンを押すモーターを駆動し、普通のフットブレーキのようにホイールシリンダーへと油圧を供給しています。
トヨタ方式のように、後輪のブレーキを完全に止めるなどといった、いわゆる「遅れ込め制御」は出来ませんが、シンプルで確実なブレーキとなるため、私はこの方式を評価しています。
となると、ブレーキペダルの操作感を演出する機構が必要となります。普通の油圧ブレーキですと、操作部分がゴム製の「リアクションディスク」に当たるような、やんわりとフルストロークに達した印象となりますが、この方式は、硬いものに当たるかのような、俗称「板ブレーキ」になっています。しかし、総じてペダルの操作感はしっかりしていて、制動力の立ち上がりも自然、高く評価できるブレーキです。
ステアリング
既に初代から電動パワーステアリングを採用しています。このモデルについて言えば、少々軽すぎる印象です。旧型との違いはごくわずかのようですが、路面の状態を適度に伝える性能という点では、旧型の方が良かったように感じます。しかし、電動パワーステアリング車全体の中では、仕上がりが良い方であると思います。
軽さ優先のチューニングも、「女性の意見を採用」なのかもしれませんが、女性は外界を知ることを嫌っているようにしか思えません。技術的に誤っているように思います。
また、サスペンションのところで書いた「荒れた路面での車輪のバタつき」に応じて、この不快な振動が若干ステアリングに感じられることがあります。このバタつきは、この車の印象を悪化させています。
ボデー
これまで散々書いた「車輪のバタつき」が、ボデー剛性の低さに感じられてしまうことがありますが、ボデー自体のしっかり感は比較的高いです。旧型後期モデルは、他車の進化と比較すると随分と遅れた印象になっていましたが、今モデルも、他車と比較してごく標準的な程度である印象です。
ボデーは、特に荷物室と後席が拡大されており、少々ワゴン車のような印象が出てきています。スタイルを含め、かつての「コルトプラス」を思わせます。となると、旧システムを採用している「フィットシャトル」との住み分けが難しくなってしまっています。車の用途に合わせて選べば良いと思いますが、シャトルの方がこのモデルと比較して、「しっとり、なめらか」な印象が強く感じられるため、両者を乗り比べるとよいでしょう。
内装の出来はなかなか良く、ドアトリムやダッシュボードの仕上がりも、同クラスの車以上に感じられます。また、原稿ステップワゴン登場時などに流行っていた「シルバーアクセ風メッキパーツ」の使用部分が少なくなり、ギラギラとした印象はだいぶ抑えられて品が良くなりました。
細かい部分では、「ドア側につけていたウエザーストリップ」を廃止し、全てボデー側のみになっています。部品点数、工数削減、サビ防止に効果があります。その一方で、従来はドア全周がウエザーストリップで囲まれ、ドアとボデーの隙間すべてをウエザーストリップで包み込む、あたかも「プラグドア」のような構造でしたので、ドアを閉めた時の音はやや大きくなっているようです。
スタイルは好みですが、斜め後方から見た場合の「ボテッとした」印象は気になります。ホンダも気にしているのか、リヤバンパーサイドにガーニッシュをつけて、丸さを抑えてシャープなラインをつくっています。
RSモデルでは、旧型は完全にスイフトスポーツを意識して「エアロパーツ」感が強くなっていましたが、このモデルは、全体的に「男性的な強いライン」になったためか、エアロパーツによる特別感は控えられています。この辺りは、「大人でも乗れる」モデル感が出ていて、評価できます。
まとめ
ホンダの屋台を刺さているフィットですから、モデルチェンジには非常に力が入っています。しかも、新ハイブリッドシステム、ほぼ新設計のエンジン、新設計のトランスミッションと、新設計づくしです。
かつてのコンパクトカーブームは、軽自動車ブームによって終了しています。しかし、使いやすくて燃費が良くて、走りに余裕があって、衝突事故時も高額な部品が傷みにくい、小型車の方がおすすめです。
また、このモデルでは、ハイブリッドが量販グレードになると考えられている節が有ります。1300ccはパワー不足、RSは一部の人しか選ばず、1.5Xは、フィットにしては高級すぎて、顧客不在な贅沢グレードとなっています。
お買い得で走りがよくて燃費が良いこの車、小型車を考えている人なら誰でもおすすめできます。
おまけ
RSのハイブリッドMTが廃止されてしまったのは、残念でなりません。これこそが、「唯一無二」なホンダの個性でした。スポーティ(≠スポーツ)で実用的なキャラクターは、かつてのグレード名「SL」や「ST」、「SSS」を思わせるものでした。
評論家や雑誌は、皆「非常に個性的過ぎたり、性能が高すぎて値段も高価なモデル」を評価しがちですが、「肩の抜けたスポーティー」な車というのは、もっと考えられても良いと思います。
参照して欲しい記事
トヨタ
オーリス
イスト
ヴィッツ
ラクティス(1300cc)
ラクティス(1500cc)
スペイド
プリウス(単独)
プリウス(インサイトと比較)
プリウス(CR-Zと比較)
アクア
パッソ
日産
ノート(エコスーパーチャージャー)
マーチ
ジューク
キューブ
ホンダ
フィット(初代後期型)
フィットシャトルハイブリッド
フィット(ハイブリッド、RS、ノーマル各旧型)
フィット(旧型後期型)
フィット(旧型前期型)
CR-Z(前期型CVT)
CR-Z(前期型MT)
フリードハイブリッド
インサイト
マツダ
アクセラ(まもなく旧型になる後期型一回目)
アクセラ(同二回目)
デミオ(前期型)
デミオ(後期型スカイアクティブ)
スバル
XVハイブリッド
インプレッサG4
スズキ
スイフト(前期型1200cc)
VW
UP!