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2010年11月10日

『小学』(一)

(安岡正篤-「人物を創る」より)





はじめに



日常実践の学問

「小学」は、昔は、少なくとも明治時代までは、これを読まぬ者はなかったのであるが、今日「大学」はまだ読むけれども、「小学」はほとんど読まなくなってしまった。しかし、「小学」を学ばなければ「大学」は分からないのである。それは小乗(仏教)を学ばなければ大乗(仏教)が分からないのと同じである。
私(安岡氏)の好きな大家の一人に章楓山(しょうふうざん)という人がいる。明代の碩学で、王陽明とほぼ同時代に生きた人であるが、あるとき新進の進士(科挙の合格者)が訪ねてきて、「私も進士の試験に及第したが、これから一つどういうふうに勉強すればよろしいか、ご教示願いたい」と頼んだ。章楓山はこれに答えて「なんといっても「小学」をやることだ」と言った。言われた進士は内心はなはだ面白くない。進士の試験に及第した自分に「小学」をやれとは、人を馬鹿にするにも程があるというわけである。そうして家に帰り、なんとなく「小学」を手にとって読んでみたところが、まことにひしひしと身に迫るものがある。そこで懸命に「小学」を勉強して、再び章楓山を訪れた。するとろくろく挨拶も終わらぬうちに章楓山が言った、「だいぶ「小学」を勉強しましたね」と。びっくりして「どうして分かりますか」と訊ねたところ、「言語・応対に自ずから現れておる」と答えたということである。

学問・知識などというものは、単なる論理的概念に止まっておる間は駄目であって、これを肉体化する、身につけるということが大事である。いわゆる体現・体得である。西洋でいうとembodyあるいはincarnateということである。そうなるとすぐ顔や態度に現れる。「謦咳(けいがい)に接する」などと申すが、しわぶき一つにしても、よくその人を現すものである。信州飯山の正受老人は、あの白隠禅師の師匠であるが、実に峻烈な人で、「終日ただ謦咳を聞くのみ」、咳ばらいするだけで滅多に口など利かなかった。しかしその咳ばらいが弟子たちにはなんとも言えぬ魅力であったという。体現してくると、謦咳にまで無限の意味をもつものである。「小学」もしかり。人間はかくあらねばならぬという原則を、この肉体で受け取る。これが「小学」というものである。



「小学」の意味

「小学」という語には大体三つの意味がある。第一は「初級の学校」という意味で、昔、宮城の一隅に置かれた国立の小学校のことである。そのうち別の意味に使われるようになって、漢代に入ると、いろいろの知識や学問の根底をなす文字・文章に関する学問のことをいうようになり、さらに発展して、今度は仏教に於ける小乗と同じように、我々の日常実践の学問を小学というようになったのである。



体現・体得を重んじた知行合一の学問

そうして、我々の普通にいう「小学」というのは、朱子が先儒や偉大な先覚者たちの迹(あと)を尋ねて、その中から範となるものを拾って、内外二編、二百七十四条目とし、これをとかく知識や論理の遊戯に走りがちな弟子に与え、名付けて「小学」と呼んだものである。
しかし、表向きは朱子の編著ということになっておるが、本当は弟子の劉子澄(りゅうしとう)という人がもっぱらその編纂の衝に当たっておるのである。彼は元来、立派な役人であり、また学者であるが、朱子に会って、初めて自分の今までやってきた学問が如何に浅薄であり、雑駁な知識・技術の学問であったかを悟り、そうして深く道の学問に入っていった人である。朱子もまたこの人を単なる弟子としてでなく、道の上の親友として重く遇しておる。

朱子は名は熹といい、字(あざな)は元晦、晦庵と号した。安徽省の出身であるが、生まれたのは父の任地である福建省尤溪である。父は韋斎と号し、これまた篤学の士である。朱子の最も影響を受けたのは父の学友である李延平で、この人は実に超俗の人であって、山水の間に庵を結んで、学を楽しみ、書を読んで、生涯を終わった人であった。その延平の学んだのが羅従彦という人で、これも立派な篤学者。羅従彦の先生が名高い楊亀山で、実にスケールの大きい内容の豊かな人であった。亀山の先生が程明道である。

これらの系統を通じて見られることは、彼らの学問は単なる知識とか功利のためにする学問ではなくて、いわゆる「体現・体得を重んじた知行合一の学問」であったということである。これらの人々の人物・言行を調べてみても、人間もここまで至るものか、つくづく感ぜしめられるような人物ばかりである。日本にも徳川時代これらの学問をやった人に偉大な人物が多いのである。

それを考えると、今日は決して昔より進歩しておるなどということはできないのである。世の中の法律や制度をいかに変えてみても、イデオロギーをいかに振り回してみても駄目である。人間そのものをなんとかしなければ、絶対に人間は救われない。やはり人間革命・精神革命をやらねばならぬ、ということになってくる。己れを忘れて、世のため、人のために尽くすような、己れ自身が学問・修養に励んで、それを通じて人に感化を与えるような、そういう人物が出てきて、指導的地位に配置されるようにならなければ、絶対に世界は救われない、ということが動かすべからざる結論になってきておる。

要するに世の中を救うためには、まず自ら救わなければならない。自らを救うて初めて世を救うことができる。広い意味において小学しなければ、自分も世の中も救われないのである。その貴重な小学の宝典がこの朱子の「小学」である。これをしみじみ読んでみると、いくど読んでも、幾歳にになって読んでも、実に感激の新たなものがある。



※ 次回より「小学」本文の解説に入ります。





前頁「大学」(四十)

次頁「小学」(二)




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Posted at 2010/11/10 00:14:32

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この記事へのコメント

2010年11月10日 8:38
新シリーズですね!^^

これは、何章まで続くのか楽しみで~す♪
コメントへの返答
2010年11月10日 13:36
「大学」編とセットではありますが、また40回くらい・・・いっちゃうのかな・・・?(^^;


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