
以前から書いていることではありますが、高速道路などでノロノロ渋滞に遭遇したとき、その渋滞をうまくいなすには、車間距離を広めにとって、例え微速でも構いませんから、なるべくブレーキを踏まず、極力停車をせず、その区間を通過することです。逆に、ノロノロ渋滞区間に於いて、前車との車間距離を取らずに車間距離1mとかでピッタリ追従して走行し、結果として減速・停車・発進・加速を繰り返すと、思いのほか渋滞通過に要する時間が短くならないばかりでなく、前車に追突したり、後続車から追突されたりといったリスクが高まり、良いことがありません。
或る地点から或る地点への移動をなるべく早く終える為には(2地点の座標は固定ですから)、 時間=距離÷速度 より、走行距離が最短となる経路を選択したり、移動速度を速くすれば良いですね。これはスピード競技のジムカーナにも通じる話です。
高速道路本線のJCT間などで発生した渋滞の場合、走行できる経路は1つだけですから2点間の距離は一定となり、「所要時間を最短にする」とは、その区間を通過する速度を上げることに他なりません。
ただ勘違いしないでいただきたいのは、追求するのはあくまでも「区間全体の平均速度を高くすること」であって、「その区間内での瞬間最大速度だけを高く」してもダメだということです。
区間内での瞬間最大速度が高いけれど、区間の平均速度が低い、ってどんな場面でしょう。それは、その区間内に於いて、もの凄く高い速度で走るタイミング(例えば250km/h)もあるけれど、速度が低いタイミング(若し渋滞により完全停車してしまったら、その時の速度は0km/h)もある、というような場合です。
勘の良い方はもうお分かりですね。高速道路や幹線道路などのノロノロ渋滞に遭遇した時に、如何にそのノロノロ渋滞をいなすか、とは、「如何に平均速度を上げるか」を追求すれば良く、一方、速度0km/hとなっている時にはその状態で何分経っても車は1ミリも前に進みませんから、完全停車は極力避けなければなりません。
※完全停車している時間があればあるほど、区間の平均速度は低くなってしまいます。
いや、俺はそう思わない、仮に完全停車している時間があっても、走れる時には出せる最高の速度で走行すればいいじゃないか、と言う声も聞こえてきそうです。
それでは自動車と言う乗り物の特性についてちょっと考えてみましょう。
自動車は動力を用いて加速したり、ブレーキを用いて減速したりできます。その性能の指標のひとつとして、今、最大減速度を考えてみます。最大減速度に1G近くを発揮する車は、スポーツカーをはじめ、セダンやコンパクトカー、軽自動車やミニバンなどにもあります。一方で最大加速度が1G近くを発揮する車となりますと、そう多くはありません。このことから、多くの自動車は減速より加速が苦手です。
この基本的な特性には、ABS (Anti-lock Brake System) や ACC (Adaptive Cruise Control) 装着の有無は関係ありません。ABSやACCは、その装置が装備されていない時よりも最大減速度を向上させて制動距離を短くする装置ではありませんし、ACCは、その装置が装備されていない時よりも最大加速度を向上させる装置でもありません。その車が本来持っている最大加速度・最大減速度を、ABSやACCと言った装備によって更に引き上げることはできません。
そうしますと、渋滞区間の通過に要する時間を短くする、つまり通過の際の平均速度を向上させるためには、多くの自動車が不得手な「加速局面」をなるべく減らすことが大切です。加速とは、速度の低い状態から速度の高い状態にすることですから、速度一定で走行しているときに加速局面はありません。
ノロノロ渋滞の区間で加速しなければならない時、それは、減速してしまった時ですね。「前車の速度<自車の速度」という状態になり、前車との安全な車間距離が保持出来なくなって減速したり停車したりした状態から、再び速度を上げる局面(=加速)をなるべく生じさせなければよいです。
また、ブレーキを踏んで、ブレーキランプが点灯した状態では、仮にそれが緩いブレーキであったとしても後続車もブレーキを踏みがちとなりますので、「ブレーキ点灯の連鎖」が渋滞の車列後方まであっという間に伝搬して行きます。これこそが、連休期間などの高速道路で発生する自然渋滞の発生原因の1つです。
さっき、渋滞末尾では完全停車していたのに、その後、自然渋滞が解消する地点まで走ったら、そこには事故も何もなかった、と言う経験がある方も多いと思いますが、「ブレーキを踏んでの減速」という行為を貴方が行なわなければ、貴方の遥か後方を走っている渋滞末尾の車両が停車してしまうと言った事態も防ぐことができます。アクセルオフだけで減速できれば、いろいろな意味で良いのです。アクセルオフでのエンジンブレーキ中は燃料噴射装置からの燃料カットが行われて(アイドリング状態の時よりも燃料を使わず)燃費が無限大になったりする一方、ブレーキを踏んでの減速とは、折角燃料を使って得た運動エネルギーをブレーキの摩擦によって熱に変換し、空間に熱として捨てる行為、ブレーキパッドやローターも減りますから、損得で言うならブレーキを踏まない運転が良いです。
※電気自動車等に搭載される回生ブレーキは、自動車の減速時に、自動車が持っている運動エネルギーを発電に回して生かすブレーキですが駆動輪にしか作用しません。
※加速局面にしろ減速局面にしろ、それぞれの運転者が置かれた状況を認知して、実際に身体で行動し、その後、自動車が反応するまで、それぞれのタイムラグがあり、この3つが加算された分だけ、渋滞後方の車のアクションが遅れて行きます。その区間にいる自動車が1台・2台ならどうってことは無いですが、それが10台・100台・1000台となりますと、減速・停車・発進・加速による脈動が与える影響は計り知れないものになります。
では、一体どうすれば良いのでしょうか。
ここでは、平日夜の、首都高速3号渋谷線下りを例に挙げて見てみましょう。私は職業ドライバーではありませんが、この区間・この時間帯の走行が、もう uncountable な状態です。同じような時間、同じような状況で長期間に亘って走っていますといろいろなことが見えてきます。
ノロノロ渋滞の区間を通過する際には、なるべく減速と言う行為を行なわない運転をすることが肝要です。その為には、予め前車との車間距離を保持し、且つ、前方にいる数台、カーブや縦断勾配などでもっと前の方まで見通せるなら10~20台くらい前までの車の様子を認識して、前車が少し加速した場合であっても、その車の前の方の動静に注目し、前方では停車しているような状態ならば、自分のすぐ前の車にぴったりと追従せず、緩やかな加速程度に抑えて走ることです。
※この時、前車との車間距離はじわじわ広がって行きます。場合によっては、開いた車間距離の間に隣の通行帯から進路変更して自分の前に入る車がいるかもしれませんが気にせずに走行してください。不思議とそういう車は暫くするとあちらの方から再び進路変更して自分の目の前から消えて行くことが多いです。若し消えなくても1台が自車の前に入ったからと言って、渋滞区間通過の時刻は入らなかった場合と殆ど変わりません。
前車がさらに前の車に近付いて、減速を開始したら、こちらもアクセルを少し抜いて緩やかな減速を開始して下さい。今度は前車との車間距離がじわじわと狭まって行きますが、上手くすれば、前車がまた加速を始めるかもしれません。つまり、目の前で減速・加速をする前車ではなく、もっと前の車の動向を見て、自分がバッファーとなって、自車は極力一定速度で走行し続けるようにします。
※ブレーキは極力踏まず、ほぼ、アクセルコントロールのみでノロノロ渋滞の区間を走り続けます。
※自車の周囲に職業ドライバーの運転する大型トラックなどがいれば、そのトラックの動きもちらっと見て下さい。恐らく同じような動き(完全停車を余りしない)をしていると思います。
※でも、同じ職業ドライバーの運転する車でも、タクシーやハイヤーを参考にしてはいけません。あっ、反面教師としては参考になるかw
段階を踏んで書きますと、
「ノロノロ渋滞の末尾が見えてきたら」
「早めに、ブレーキランプをパカ、パカと後続への合図として、軽く、数回踏んで」
「渋滞の態様に応じてハザードも点滅させて後続車に知らせ」
「アクセルを抜いて、弱い減速を開始して、前方との車間距離を長めに保持しながら」
「渋滞最後尾にゆっくりゆっくり近づいて」
「それでも、なるべく完全停車させず」
「自車の後方にも渋滞の車列ができて、自車が渋滞の中に位置するようになっても、引き続き前車との車間距離を保持して」
「例え微速でも構わないから、なるべく止まらないこと」
が、「渋滞区間走行時の平均速度の向上」、つまり「渋滞通過に要する時間の短縮」に繋がります。
そのためには、高速道路などを走行する前、ドライブを開始する前などに、SAなどでの情報表示板やJARTICなどのサイトを見て、大局的な傾向と局地的な状況を把握し、ラジオなどで逐一情報も得ること、高速道路入口付近や本線上などに設置されている交通情報表示は見落とさないこと、カーナビなどで採用されているビーコンや、最近であれば
ETC2.0 (DSRC) などからも走行する上で有益な情報がたくさん得られます。
※ETC2.0では、本線走行時に、「この先、右車線で事故が発生しています」などといった情報も知らせてくれます。事故がすぐ先で起きていること、それも右車線で発生している、という情報を得れば、運転手は事故現場に近付く前に速度を落とし、左車線を走行する、または左車線に進路変更するための準備を開始する、という「攻めの安全対策」が行えます。
なぜこれが自車の平均速度を上げることに繋がるのかご説明します。
先ほど、「車は減速より加速が苦手」と言う話と、「渋滞時のブレーキランプ点灯の伝搬」についてお話ししました。
<渋滞に遭遇したときの対処、2パターン>
// センスのない運転手が多い渋滞車列群の場合
… → 前車減速 → 前車速度<自車速度 → 車間距離減少 → 自車はブレーキ踏んで減速 → 後続車もブレーキ踏んで減速 → その更に後ろでは停車車両が発生 → 前車加速 → 車間間距離増加 → ワンテンポ遅れて加速 → 後続車もワンテンポ遅れて加速 その後ろは完全停車から発進 → …
※渋滞の長さがどんどん伸び、完全停車の車両が増えてゆく
// センスのある運転手が多い渋滞車列群の場合
… → 前車減速 → 前車速度<自車速度 → 車間距離減少 → 自車はブレーキ踏まずに減速 → 後続車もブレーキ踏まずに減速 → 更に後ろも完全停車しない → 前車加速 → 車間間距離増加 → 緩い加速 → その後ろは緩やかに加速 → …
※渋滞の長さは伸びないか、渋滞解消方向に向かう
※完全停車せず、結果、どんどんタイミングが遅れてゆく「停車・発進」という動作がないので、そうでない場合に比べて、追突事故のリスクが高まらない。
瞬間最大速度では、第二通行帯を走行する自動車の方が第一通行帯を走行する車列より速い場面がありますが、例え微速でも、極力完全停車させずに走行を続けた第二通行帯を走行する車両群の方が(大橋JCTのキープレーン表示の箇所まで)先に通到達することができました。俊足なウサギと鈍足な亀のレースみたいですね。これを渋滞吸収運転と言います。
20190322 ノロノロ渋滞と追突事故、渋滞吸収運転
第一通行帯を進行しているこちらの白いミニバンの挙動と、前後カメラ搭載の自車との位置関係に注目。
渋滞区間の最後の方、ここは渋滞拡大を防ぐため、「レーンキープ」の表示が出ていますので、進路変更しません。一方、後ろについた白いミニバンはここで進路変更していきましたが、ここまで、車間距離をぎっちぎっちに詰めて、追突する危険性を上げて走っても、渋滞内で極力完全停車させず微速でもゆっくり走り続けた場合とで、どうなったかの一部始終をご覧いただきました。
「それは、第一通行帯は大橋JCTで分流・合流があって、そこで混雑するのを嫌って、皆、第二通行帯を進行しようとして交通集中するからではないか」という向きには、論より証拠、こちらの動画もご覧ください。渋滞学の権威、東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授らによる実験で、1本の車列で、渋滞吸収運転をした場合とそうではない場合の比較動画になります。
「渋滞学」の東大西成教授、「渋滞吸収運転」実験を実施
※1台の行なった渋滞吸収運転が車列全体の有様を変えた!
この動画をご覧になり、先に挙げた、首都高速3号渋谷線下りに於いて、第一通行帯より、第二通行帯を好んで走る運転手の属性や運転の習慣・態様、ということにも思いを馳せていただきたいと思います。
通行帯が2つある首都高速のような都市高速の場合、ノロノロ渋滞しているときは概ね第一通行帯の方が完全停車してしまう場面は少ないです。キープライトが幅を利かせている? 世の中ですが、そうした現在の情勢を解った上でキープレフトしている人たちには、尺取虫の様なギッタンバッコンするような減速・停車・発進・加速をする人は少ないように感じていますし、実際に走り易いですよ。
首都高速3号渋谷線下り、谷町JCT~大橋JCTでも、今までかなりの回数、追突事故発生直後を走行してきましたが、その多くは第二通行帯で発生しています。何故、第一通行帯でなく、第二通行帯で追突事故が多発するのか、は、本稿を最後までご覧いただいた方にはご理解いただけると思います。
高速道路などでのノロノロ渋滞のいなし方で、一番NGなのは、自分が追突事故の当事者になってしまうことです。一たび事故を起こしてしまったら、警察が来て、事故処理が終わるまで現場で拘束、その後も事故の後処理で時間を取られることとなり、渋滞通過に関わる所要時間の短縮どころの騒ぎではないですから。
今回は文章が長くなってしまいましたが、何かしらご参考になれば幸いです。
ご安全に!
車間距離「40m」が渋滞のボーダーライン 西成 活裕 氏
> ──とはいえ、急いでいるとつい間を詰めたくなるのが人間の心理ではないでしょうか。例えば、アリのように化学反応的に列を成すのではなく、人間は意思を持って動く生き物ですから。
> 西成 おっしゃる通りです。
> しかし、車間距離を詰めれば詰めるほど交通量は低下するため、逆に損なのです。変に間を詰めて無理をすると、後で無理がたたって取り返しのつかないことになります。それよりも、ゆとりや余裕を持って運転した方が、トータルでは早く目的地に到着できるのです。
> ──「急がば回れ」の諺通りですね。
> 渋滞解消のためには、なるべく道をフラットにしてサグをなくすなど設計上の対策が欠かせません。しかし、一番大切なのは各自の『意識の問題』ということになるのでしょうね。
関連ブログ:
MMF2012が終わり、渋滞を乗り越え、帰着
> プレジデントだったっけ? 蟻(アリ)には追突事故は無い。どんなに長い行列になっても、追突事故は無い。車間距離でなくて蟻間距離?をちゃんと保っているから。
> つまり、人間は蟻(アリ)以下だ、というもの。
【サイバーナビ2013夏・モニター】首都高・都心環状線を周回
渋滞吸収理論を実践する=JAFMate2014年10月号から
自然渋滞撲滅への提案-「仮想ドライバーモデル」
<渋滞吸収理論> 渋滞を一人ひとりの運転で解消しよう
動画のシーン紹介。当方は、C1内回りを谷町JCTから3号渋谷線下りへ。
こちらの白いミニバンの挙動に注目。動画後半まで絡みます。
前車にかなり接近して停車、を繰り返す。
追突事故の様です。
追突した運転手が車外へ出ています。
激しくはぶつかっていない様子。
ちょっと危ないタイミングで前に進路変更してきた車、無灯火っぽいな、と思って、確認のために、自車の全灯火を消灯して確認。やはり無灯火だ。50m先まで見えるからいいでしょって? 意図的だとは思え無いし、自分の存在を示すためにも灯火を点灯させた方が良いと思います。
全灯火を駆使し、あの手この手で「無灯火ですよ!」って伝えるもなかなか伝わらず…。この後も各種灯火を駆使して漸く気付いてくれた。
大橋JCTの分流箇所。ここまで第一通行帯で走行してきて、この先の合流を避けるように第二通行帯へ進路変更する車が多く、渋滞の発生原因になっています。電光表示板で「車線キープ」と案内しています。
電光表示板では「車線キープ」「渋滞防止」と交互に表示しているのですが…
例の白いミニバンはここで進路変更。こういう車が多いのでここでは渋滞したり、時折接触事故も発生しています。
しかも、車線変更後、自分の前に同様な進路変更をしてくる車を入れまいとしてか、かなり車間距離を詰めてきつめの制動で停車。こういう車が多いのでここでも追突事故が時々発生するんです。