
夏頃からずっと不動の11アルトワークス。
オーナーが仕事から帰ってきて、家の前でアイドリングで停めて荷物を降ろしたりしている内に気が付いたらエンストしていたという症状で、セルを回しても一向にエンジンが掛からないという所から始まった。
取り敢えず家の前だったので、セルクランキングで駐車スペースまで動かすように電話で指示。
ダイアグには#42クランク角センサーの履歴。
これが表示されるときはだいたいデスビのピックアップコイルのトラブルなのだが、デスビは割と最近リビルトに交換したばかり。

一応確認してみるがデスビは白と判った。

うーむ・・・、キーオンでの燃料ポンプの音は聞こえてるし、やはり点火系だとは思うのだが、どうにも決め手がない。
まずはクランク角センサーのエラーコードが出る、というところから疑っていかなければいけないのだが、当のピックアップコイルではない。
点火信号が出せないという事でもあるので、タイベル切れなどのカム/クランクの同期不良の可能性もある。
タイベルカバーの上の方のボルトだけ取ってカバーをちょっとだけずらして覗き込む。
ベルトは切れている様子はなく、指で押した感じ張りも問題が無いと思われた。

点火系の配線をイチから全部追っていく事にした。
スパークプラグにプラグコードにデストリビューター、イグニッションコイル。
イグニッションコイルに一時電流は来ているので点火信号に基づくアースのスイッチングが成されていない。
要するにECUに点火信号が来ていないので、スパークの許可が下りないのである。

調べてみたが、ECUのピン配列図が拾えなかったので弁当箱内部の表記を元にクランク角センサーの入出力を確認する。
16ピンの右から3列目。
「N+/N-」がクランク角センサー。
ここは12ボルト制御ではないうえ、オシロスコープなども無いので、詳しいチェックが出来ず。
テスターで測っても微弱電流がチロチロ動いてるだけで何だか判りません。
ECUの電源線の入力や、センサー電源の入力も問題なく入っている。
ECU~デスビ間の導通チェックをしてみたがショートや断線はナシ。
判らん・・・詰んだか。

イグニッションコイルやプラグコードを新調してみますが、やはり関係ない。
ECUの異常かも知れないと、自動車用ECUの専門業者にECUを送ってチェックしてもらったが、プリント基板上の見えてる所には特に問題はないとの事でしたが、ICの内部に関してはブラックボックスなので判らないとの事でした。
それを言われちゃうと、折角金払ってチェックに出しても疑惑が晴れないんですけど・・・。
電装のチェックと言ったって、この頃のシンプルな構造の自動車なんて高が知れてるので、大して見る所が無い。
単純が故に判らなくなってしまった。
こういった始動トラブルは対極的にみると大体「燃料」か「点火」かどちらかの話になる。
こういった昔のクルマなら点火系と言えばスパークプラグやコード、イグミッションコイルやデストリビューター(デスビ車でなければイグナイターなど)が殆どだが、そのいずれかでなければ、ECU自体の破損も視野に入れなければならない。
最近のクルマでは殆どがダイレクトイグニッションと言って、イグニッションコイルとイグナイターが一体になっていて気筒ごとに個別に点火している仕組みになっているが、気筒別に点火しているので、壊れると言ってもひとつづつ死ぬので、エンジンが掛からないという事は殆ど無い。
あとは点火タイミングを取るためのカムやクランク角センサー、吸気側のエアフロメーターなどがあるが、これらの良否はダイアグで検知できるので判りやすい筈だ。
これら点火系でないならもう燃料系と割り切れる筈だが、燃料系は特に単純で、ECUがフューエルポンプリレーをONにすれば、ポンプモーターが回る仕組みだが、最近のクルマではECUやフューエルポンプコントローラーのようなユニットがコマメにポンプのON/OFFや強弱をコントロールしたりしている。
キーオン直後とクランキング時にポンプ直前まで通電していれば、システムに特に問題はなく、あとはポンプの良否だけである。
自分のGC8のように、キーオン時にポンプの音がするのに、セルクランキング時に通電していないというグレーなケースも稀にあるので、出来ればきちんと燃圧が掛かっているか見たい所だが、一般的には簡単ではないので、取り敢えずは通電状況と音で判断するだけでも大体の事は判る。

ポンプもポンプコネクターも外なのでタンクを降ろして、直接確認。
ついでにポンプも交換しちゃいます。
元々、レガシー用の165ℓ/hという大きめのポンプが入っているので、大きな吐出音はキーオンで聞こえては来るのだが、もう10年近く使ってますし、燃圧が足りていないのかも知れない。
燃圧とやかくを調べるよりも交換した方が早い。

まだ数百キロしか使われていないヴィッツ1300のポンプ。
軽ターボには充分でしょう。

色々組み換えて、ヴィッツポンプ装着。
端子を留めているスタッドが折れてしまったので、仕方ないので半田で留めました。
これでポンプとタンクを戻し、エンジンスタート!
・・・しませんw
まぁ、望みは薄かったのでそれほど期待してませんでした。
取り敢えず燃ポンは違うという事が判った。
こういう事ってね、違うとは思ってもエビデンスが無いと結局ずっと引っかかって残るので、直接確認して潰していくしかないんだよね。
エンジンルームの役物は全て正常。
燃料系も正常。
あとはECU本体か、エンジン本体の機械的なトラブルしかない。
余計な雑念が無くなっていくと急に視界が開けてきたりする。
今回、だいぶバッテリーも弱ってきてるので、GC8とジャンプコードで電源供給をしながら、セルモーターを回した。
これまで各部の負担を考えて、初爆がないと判断できる時点で一瞬でキーをオフにしてきていた。
しつこく回すことはセルモーターにもバッテリーにも大きなダメージを与える。
だが、今回はコードで繋いで少し長めにクランキングしてみた。
一向に掛かる気配はないのだが、少しおかしい。
やけにクランキングが速いのである。
速いと言うか、軽すぎると言うか、セルモーターが突出せずに空打ちしてるのか?
とも思ったが、ギヤを入れてクランキングするとクルマは動こうとするので、フライホイールとはしっかり噛んでいるようだ。
なんか圧縮がしっかり掛かっていないような軽さ。
シュシュシュシュシュ!と抵抗なく回る感じである。
何で気付かなかったんだ?
カムとクランクシャフトが正確に同期していないような圧縮の無い軽さである。
タイベル切れだとバルブは全く開かなくなるので、クランキング時の圧縮感はしっかり感じられる。(ベルトは切れていないが)
ピストンに穴が空いたり、バルブが折れるなどで圧縮が掛からないとなっても、全気筒でならない限り、ここまで軽くはならない。
そうなると、ベルトのコマ飛びや、スプロケのキー折損などによるのバルタイの狂いが怪しい。
もうその辺しか考えられない。

ベルトカバーの隙間からちょっと覗いただけでは判らなかったが、何かそういうトラブルが起こっているとしか考えられない。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。
ただまあ、タイミングベルト交換の要領になるので確認はちょっと面倒だが、もうエンジンでなかったら丸ごと捨てるような局面なので、最後まで見ておこう。

狭いうえになかなか緩まないクランクプーリーのボルト。
チェーンレンチでガッチリ固定し、メガネを掛けて単管パイプ延長で本気で回して漸く撃破。

あ~・・・なんじゃこりゃ。
・・・ベルトのコマがだいぶ無くなっている?

一つ二つコブが飛んだってバルタイが狂う事はなかなか無いだろと思ったが、10個くらい飛んでる所がある。
これじゃあ、クランクスプロケの所で滑っちゃうか。
それにしても酷い・・・劣化・・なのか?
正直、普通車と違って軽のタイミングベルトが10年10万キロ持つとは思っていない。
でも、半分じゃ早いかな?という程度の認識。
このクルマもエンジンを何度か作り直して、その度にタイミングベルトを交換している。
だが、今のエンジンを組んだのは調べてみるともう既に6年前だったか、
使った距離も5万キロくらいではないだろうか。
そろそろかな~と思ってもいい頃だけど、切れたりコマが取れたり損傷に至るという認識はなかったな・・。
最近のタイミングベルトは本当に丈夫で、10年くらい使ったって切れたりひび割れたりなんて事は殆ど見た事が無い。
だから、少し油断していたな・・・当時軽自動車最強エンジンと言われたスズキのF6Aターボ。
そのパフォーマンスの前には、タイミングベルトへの尋常ならざる過酷な影響があるのかも知れない。
あとは近年の夏の非常識な猛暑の影響もあるのかも知れない。
せいぜい車検2回にタイベル交換1回、もしくは4年に1回程度の頻度でメンテナンスを実施した方が良いのかも知れない。
幸いF6Aは、ピストンとバルブが衝突しない構造なので、ベルトの交換だけで復活できる。
夏以降忙しくてコマメに見に来られなかったせいもあるが、原因追及に時間が掛かってしまった。
結局のところGC8の時よろしく、
直感的に最初に疑った箇所のトラブル・・・タイミングベルト周りのトラブルであった。
しかも負荷運転中の破損などではなく、アイドリングでの停車中に症状が出たという所・・突然死といったら電装系だろうという思い込みが、判断を鈍らせた要因のひとつである。
色々と手を掛けてきたクルマであった為、このまま捨てるような事にならなくて良かったなと胸を撫でおろした反面、つくづくトラブルシュートのセンスというか、単純にクルマの知識に乏しいなぁ・・・と肩を落とすような案件であった。
ベルトは手配中、近日中に復活予定