
「後輪とアクセルがつながっているような感覚を得られる」と評されるクロスプレーンクランクシャフトエンジン搭載のYZF-R1。前編の通り予習したYAMAHA像の最終仕上げ工程です。
幸運その①は、なんとこの試乗車、ディーラー社長の私物でリミッターカット、燃調、リアサスオーリンズ化、フロントブレーキマスターブレンボ化などのファインチューンが施されております。ノーマルを味わうという点からすれば純粋な試乗車とは言えませんが、文字通りファインチューンであり、YZF-R1のベーステイストはしっかりと感じられたと思います。社長曰く、「エンジンパーツの全てをバランス取りし直したかのように仕上がった」とのことです。
幸運その②は、先導頂いた社長から「
んじゃ、峠行きますか!」と案内頂いたことです。予約時に社長の私物であることを聞かされており、「どうせ左折4回だけの試乗コースなんだろうな~」と思っていましたから、そのお言葉を聞いた瞬間は愛娘にしか見せないほどの甘美な微笑みを浮かべていたと思います。道中も先導頂くことにより対向車の有無やコース上の危険ポイント、コーナーのRなどを察知でき、安全にかつ存分に楽しむことができました。社長には深く感謝いたします!
まずアイドリング状態では、3気筒未満のようなやや強めの鼓動感があります。事前にアドバイス頂いていたのですが、クラッチミートは相当慎重を要します。3000回転ぐらいまでは同様の鼓動感で、トルクはどちらかというと薄めに感じます。
4000回転ぐらいから突然豹変します。今まであった鼓動感が全く無くなり、マルチかそれ以上(?)のスムーズな回転上昇を見せます。この回転フィーリング、「燃焼トルクと慣性トルクの相殺による“ノイズ”を取り除く」という表現そのままです。マルチであってもそれなりの燃焼トルクというか、微細なトルクの山谷(=鼓動)を感じ、「それが気持ちいい」という意見も良く分かります。でもこのエンジンは、
トルクの山谷ではなくまさしく“ノイズの少なさ”が感じ取れます。
これこそが、スムーズという表現をあてはめて良いフィーリングだと認識しました。ロッシが言ったという
「sweet」という表現は、秀逸です。
ですが、このスムーズさ、見方によっては「エンジン回転のダイナミズムが感じられない」という意見もあり得るかと思います。バイクに乗っていて何に官能するか、ということですね。
僕にとっては、とても好印象でした。コーナリング中にエンジン回転に余計なノイズが無いと、かけられるトラクションの量がくっきりとイメージできます。立ち上がり時に安心感が高まるので、今まで
スリルに圧迫されていた爽快感が回復します。

この個体特有のフィーリングとして特筆すべきは、ブレンボマスターのブレーキフィーリングです。最高でした(ノーマルを知りませんが・・・)。
軽くて柔らかい上に繊細。もう一点は、バンクさせるともっと切れ込むフロントが印象的ですが、これは社長の好みのセッティングにしてあるとのことでした。初代R1に感じた同じものであり、かつ僕はあまり好みではありません。
所有選択肢として見ると、やはり僕には大きくて重すぎます。YAMAHAの思想が詰まった素晴らしいプロダクトではありますが、僕にはあの
ロケットスプリンターがピッタリきます。
そのあたりの次善策として、R6について意見を聞いたのですが、「R6の方はピーキーに造られており、R1の入門とかR1の小型軽量バージョンだと思ったら大きく間違う」とのことでした。アブナイアブナイ・・・。
<前後編まとめ>
YAMAHAは、技術と人の感性の橋渡しを一生懸命にしているように思え、大変素晴らしいブランドだと思えました。そういえば、
楽器も手掛けているところが、この会社の特性の大きなファクターなのかもしれません。
もう一つ発見したことがあります。様々な車やバイクを味わいましたが、それらの違いはさほど大きなものではないのかもしれません。クロスプレーンクランクシャフトエンジンにしても、「“ノイズの無さ”と“スムーズさ”にある違い」は、非常に微妙なものです。それで得られる結果も僕のような素人ではなんら変わりはありません(=速く走れるわけではない)。そんなちっぽけな違いを知って何になるのか?という否定論もあろうかと思います。が、造り手がどのような意図でそうしたのか、等々
、“モノの背景にあるヒトの思想”に触れるということが大切なのだと気付きました。造り手の努力の結晶を骨の髄まで味わい尽くすことも、
造り手への礼儀です。これも道楽を深める一つの要素なのでしょう。
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バイク試乗 | 日記
Posted at
2012/08/13 16:29:22