ボクサーエンジンの低重心を、安定性ととるかアジリティの低下ととるかで、特にRoadsterとしての評価は分かれる。
前車TRACERは、ツアラーの姿をしつつそれなりにスポーティなバイクであり大きな不満は無かった。
しっかりとブレーキングしてフロント荷重保持とホイールベースも圧縮しての姿勢を作り、脱出時にそれなりの高回転を維持していないと加速が得られないため低いギアを選択しシビアなスロットル操作を要求される。これぞスポーツライディングの醍醐味ではあるものの、年齢的に若干心労を感じるようになってきていた。
「もっと低回転トルクのあるバイクのほうが、楽して愉しめるかもな…」と夢想していた時に、とある試乗記を目にした。R1250RSの試乗記だったが、「コーナー脱出加速時のトラクション感が気持ちいい」という表現が気になって、検討が始まる。
数年前、1200ccでRとRSがデビューした際に、両車ともに試乗したことがあるが、その時は自分の好みが「レーシー」傾向にあったため、低重心はダルに感じ、明らかにバンク角を阻害するようなボクサーエンジンのルックスにも抵抗が強かった。そんな記憶を抱えながらも試乗してみることに。
前傾姿勢を強いられないポジションが必須だったし、フェアリングもしっかり装備されているRSが、一見してTRACERの上位互換だと思い込んで試乗したが、案外シートとハンドルの距離が遠く、ハンドル形状も低めで若干の前傾姿勢を強いられた。ただ、ボクサーエンジンに感じていたネガはほぼポジに転換していたのは自分でも驚きだった。何よりもあまり高回転を維持していなくてもスロットルを軽く捻るだけで強い脱出加速を愉しめる感じが、「これこそ今求めているものだ!」と直感できた。
フィーリングとしてはかなり気に入ったものの、前傾姿勢の強さが気になって二の足を踏みつつ、ふと「兄弟車のRも一応試乗してみよう」と、試乗車を手配してもらえる後日に改めて赴く。
まずは跨ってみて、シートとハンドルの距離は遠くなく、ハンドル形状もややフラットで姿勢としては好感触。最近のバイクは例えばYAMAHAのMTシリーズのように、エンジンは同じでも兄弟モデル毎にフィーリングを変えていることが一般的なので、RSで高評価だったライドフィールがこのRではどのように調律されているのか、期待と不安の両方を持ちつつクラッチミート。
「RS」とは「Renn-Sport(Racing-Sport)」の意、何となく見た目ではRSの方にツアラーの雰囲気を感じていたがそうではなく、前傾姿勢でフェアリングの中に潜り込み、戦闘的にワインディングを攻め込むような設え。(なのにフォワードアクスルを採用して微妙にハンドリングをダルに振っているのはなぜか…?)
片や「R」とは「Roadster」の意。ややアップライトな姿勢で低中速域での自在なコントロール性を重視した軽快な設え。
結果、RSで感じたボクサーエンジンの面白さはそのままに、Roadsterの名称通りの機動性が最高。
TRACERと比較すると、40kgほどの重量増。ロール軸も相当寝ている感じ、エンジン位置やヒップポイントの低さもあって切り返しの軽快感は劣る。常にステップ荷重を意識しないとバンクが遅れて怖い目に遭いがち。ブレーキを駆使してフロントサスの伸縮を当て込みながら切り返しても、TRACERほどの機敏な反応はしてくれないのでやはり重量が影を落としているが、鈍重というレベルにはなくあくまでも及第点にはある。
ハンドル位置をもう少し高くし、社外フェアリングを追加すればパーソナルフィッティングは完了。