DAINESEのエアバッグ内臓レーシングスーツ“D-Air”が国内発売された数年前、ショップで詳細レクチャーを受けたことがあり、その際のメモを基に考察します。
ハンプ内に仕込まれたジャイロセンサーとGPSセンサーによって、ライダーの様々な動きを演算して、危険な転倒であると判断した際には、エアバッグを火薬の起爆によって展開させるそうです。(ちなみに、日本国内導入が遅れた理由は、この火薬の扱いを法的にクリアする事に時間が掛ったからだそうです)
センサーが危険を察知して起爆トリガーを準備するまでに
0.015sec。
センサーが実際に起爆トリガーをオンにしてエアバッグが展開するまでに
0.030sec。
合計して
0.045sec。
DAINESE社が過去の様々な転倒シーンのデータを解析したところ、転倒からライダーへの衝撃入力までは概ね
0.080secで到来するそうです。
現在でも色々と販売されているジャケットタイプなどのエアバッグシステムのエアバッグ展開時間は、速くても
0.100sec、平均して
0.200sec~0.500secであり、
DAINESE社が考える衝撃入力に間に合わないそうです。
USBケーブルでの充電タイプ。満充電で24~36時間持つそうです。予選と本選を戦えるという訳ですね。
首下のロックファスナーを留めるとスイッチオン。肩口にステータスランプがあり、充電状態やGPS電波の補足状況などを示してくれます。
エアバッグの展開は首と肩回りのみ。スーツの内側でエアバッグが開き、数十秒でしぼんでいくので、すぐさまレースへの復帰も可能。
ツナギタイプ(Racing)はサーキットユース、ジャケットタイプ(旧モデル名MISANO1000、新モデルよりRoadに変更される様子)は公道ユースと、2ラインに分かれています。これは、プログラムされたモーションパターンが精密すぎて、違うシチュエーションでは誤作動(つまりエアバッグが開いてくれない)を起こすので分けられているそうです。おそらく、ジャケットタイプでサーキットを走る分にはさほどの問題は無いと思われますが、その逆のツナギタイプでの公道走行は、危険なのでしょう。
注目したいのは、サーキットユースのツナギタイプ、「時速50km以下では起爆・作動しないように設計されている」という部分です。
ここから読み取れることは、「
膨大なクラッシュシチュエーションを研究しているDAINESE社が、サーキットクラッシュにおいては時速50km以下だとエアバッグプロテクションは必要ないと判断している」ということです。
ちょっと余談ですが、私がホームコースにしている鈴鹿ツインサーキット、国際規格ではないミニサーキットに分類されるのでしょうが、本鈴鹿の南コースよりも圧倒的に安全だと思います。ミニサーキットでは速度域が低いことから、ランオフエリアがあまりとられていない事が多いのですが、鈴鹿ツインは必要な部分はしっかりととられています。また、ややミニサーキットとしては速度域が高い部分もあり、結果的にはミニサーキットでは得られない本格的なコーナリングも味わえるので、本当に素晴らしいサーキットだと思います。
話を元に戻しますが、鈴鹿ツインサーキットでは、時速50km前後で走るコーナーが半分ほどを占めており、それ以上の速度で走るコーナーにはしっかりとランオフエリアが確保されている。よって、勿論エアバッグ装備で走るに越したことはないけれども、必要性としてはそこまで要しない。
資金に限りのある自分としては、公道用とサーキット用でエアバッグシステムのいずれかを選択しないといけないならば、フルコースをほぼ走らない状況下、公道用のみを購入するという結論が有力です。
対向車により衝突時の相対速度が激増する公道と違い、サーキットは基本的に同一方向にしか走らないので相対速度は低い。絶対速度の高さと、転倒時に後続車も限界走行をしているために避けてくれない可能性があることにフォーカスして対策をするべきでしょう。
D-Airの2種を観察しても、サーキット用よりも公道用の方がエアバッグ展開部位が広い。そしてサーキットでは他のプロテクターを併用する事を想定しているのかもしれませんが、公道での事故の方が転倒時の受傷エリアが相当に幅広いということでもあると思います。さらには展開条件の速度域も低く設定されている。
つまりは、「ツナギタイプを必須としない鈴鹿ツインであれば、プロテクション部位が広くて展開条件の速度域も低い公道タイプを使用する方が適している」とも言えます。
アルパインスターズから提供されている同様の「TECH-AIR」は、D-Airのようにジャケットやツナギに内蔵されておらず、単体でインナーとして装着するシステムです。これだと当方の既存ウェアのままで公道もサーキットも両方運用できると思いましたが、装着できるのはあくまでもアルパインスターズ製かつ適合モデルのみということで、ウェアを一から揃え直さなければなりませんので、却下となりました。
改めて、DAINESEショップに出向いて、公道用ジャケットタイプの現物確認をしました。試着しましたが、やはりエアバッグシステムの厚みがそれなりにあるので、胸部にかなりの圧迫感がありました。試着姿を姿見で確認しても、ケンシロウばりの胸部の盛り上がりが異様でした(笑)。これは前傾姿勢の強いSSでは使えないほどだと思います。私の場合は公道はSSでは走らないのですが、それでも長時間だと相当のストレスになると判断しました。(この問題は、ツナギタイプにおいては胸部にエアバッグが無いので、公道タイプのみに限られる問題です)
また、寒い時にインナーを増やすこともできなくなります。
困り果てて色々と物色していると、非レザーモデルも存在することが分かりました。これです。
GORE-TEX素材なのでなんとなく圧迫感も軽減されているような気がします。私はツーリング用途限定で想定していますから、むしろこのようなタイプの方が様々なバイクスタイル、オールシーズンへの適応性があって、好ましいです。
後日ショップに出向いて試着しましたが、レザータイプほどではないものの、やはりシステムそのものの厚みが大きく、圧迫感を伴った装着感で、厳しいものがありました。
で、エアバッグのパイオニア、HitAirに戻ってみる。新開発で展開時間が短縮されたSシステムでも、0.25secかかるのでやっぱりダメ。いちいちハーネス脱着をする手間は要りますが、約1/7ほどの低コストが魅力。
ということで、最高峰D-Airを執念で入手されたはぐれ侍さんへの祝辞とさせて頂きます!!オメデトウ!
Posted at 2019/10/05 12:34:30 | |
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