E46型BMW318iが最初の欧州車入門でした。

それ以降折に触れ、ALPINAを徐々に知っていくことになり、いつしか自分にとっての最上の存在となりました。
一人の職人が担当して手組されるエンジンはスペックもさることながら故障率の低減を実現。大径ホイール低扁平タイヤからは想像できないほどの滑らかなサスペンション。オーバーフェンダーやウイングなど、走行性能を上げるために純正風情を過度に崩すという選択はしない。象徴であるデコラインもシンプルでスリーク、何なら「デコラインレス」仕様も選べてしまう。クラシックホイールも回転バランスを突き詰めたスポーク本数、外周に設けると真円バランスを崩すからと、センターキャップ内にエアバルブを設けるこだわり(現モデルでは不採用…泣)。レーシーに振られた某兄貴分を、とあるスペックでは事実上上回ってしまったけど、あえて下回っているような表現をして兄貴の面子を保つ。それだけの存在であるにもかかわらず、自社エンブレムは車内のみに留め、車外エンブレムは本家のものを掲げる。
質実剛健で黒子に徹する有能な執事。能ある鷹は爪隠す。前に出て目立つことを良しとせず、常に主人の下に仕える美徳。いざというときに開放する能力は秀逸。
武士道精神を宿す日本人が乗らずして他に誰がこのALPINAに乗るというのか?
そんな憧れの存在を発注したのは2021年10月。その後にBMW社に買収されるというリリースを目にし、殊更想い入れを強くしました。1年待ち焦がれて手にした愛機、さて如何に…
「ALPINAマジック」と良く耳にしますが、スポーツとラグジュアリーという車にとって相反する二項、でも車好きなら夢想するこの両性具有を見事に実現させていることを称します。
しかしながらこのマジックも、操作系ほぼすべてに電子制御が施された現代車においては、その効力を存分に発揮しえないのだと感じました。モード切替によってダンパー、ステアリング、エンジン出力を変更できてしまう今、その二項は自分の操作によって出し入れすることになっています。二項が溶けあって存在しているのではなく、別個の存在として並んでいる、それをその都度選択するだけなのです。
昔は職人の技術のみで単一のモードのなかで両立させていたことは、とんでもない技術としてプレミア価値が高まったと言えます(個人的にはE世代までがリアルALPINA)。
つまり、先日の「BMWによる吸収合併」というのは、ALPINAマジックを施せるステージが無くなった昨今においては当然の帰結でしょう。並行して、吸収合併後のALPINAがどうなるのかというのもある程度想像に難くなく、「もうとっくの昔にリアルALPINAは失われており、吸収合併後も実はこのままの延長上でしかない。悪い言い方をすれば、ALPINAブランドの残り香が残っているところまで利用して終わり」でしょう。
いきなり否定的、悲観的な物言いをしてしまいましたが、幸せな所有感に満たされています。僕としてはその残り香だけでも充分なのです。
残り香といってもそこはALPINA、それなりのテイストはあります。僕なんかでは限界が全く見えてこないコーナリング能力。あまりにも繊細過ぎて納車初日に右足の下腿三頭筋と前脛骨筋が痙攣しまくったブレーキ。街中を流している分にはそのような主張が全く鳴りを潜めて悠然と歩を進めます。
特筆はガソリンではなくあえて選んだディーゼル3ℓストレートシックス。年を重ねて嗜好性が変わったのか、最近パワーよりもトルク特性こそが味わうべき官能性だと感じます。2ℓNAでロングストロークな
ルーテシア3RSから始まり、サーキットで高回転維持してこそ本領発揮する
DAYTONA675R然り、高回転で絞り出すパワーに恍惚を感じていたのですが、マスターオブトルクと称される3気筒エンジンを積んで、それなりの重量感を長いスイングアームを介してリヤトラクションを表現する
TRACER900-GT辺りから、トルクが醸す表情にも興味を持ち始めました。思えば
BMW740の4ℓV8、巨体を怪力で悠然と押し出す感覚が源流にあるような気がします。
3シリーズなのに1950kgの重量です。実は発注前に、幸運にもB3とD3Sを比較試乗できたことがありまして、エンジンの炸裂感はやはりB3、素晴らしいものがありました。
(アルピナグリーン、クラシックホイールという王道ルックスの双子!)

でもディーゼルの豊かで余裕を感じさせる低回転トルクのおかげで、回転がすぐに上がってしまってシフトアップを繰り返すガソリンよりも、より長い時間加速プロセスを味わえます。加速度が重要なんじゃなくて、加速ドラマが重要なのです。やっぱ年取ったんだなぁ…w
ディーゼルエンジンのネガとして昔良く挙げられたのは、カラカラという低級なエンジン音や車体全体を震わせるほどの大きな振動ですが、ご存じの通りそんなネガは完全に払拭されていますから、ガソリン信仰から一旦脱却して今の自分の嗜好性に沿う選択も面白いだろうと選びました。本来のガソリンストレートシックスとは違うので、「ストレートシックス」という言葉は使わない方が良いかもしれませんが、そもそも現代のガソリンストレートシックスもターボ過給が付いている時点で元祖のNAフィーリングではありませんから、こちらも同様かと。
もう一つ、ディーゼルモデルにしかない機構として、48Vマイルドハイブリットシステムがあり、これもディーゼルを選択する際の要素となりました。
見ての通り僕はEV肯定派で、モーターの醸すトルク感はこれまた垂涎です。
最近のインジェクション、バイワイヤモデルはアクセルオンの入力から燃料供給までタイムラグを作っています。僕はこれが最高に嫌いで、乗り物全般に対して要求するアジリティを大きくスポイルするからです。
いきなり回転初期から最大トルクを発するモーター、確かにこれも初期出力を制御はしていますがそれでもその立ち上がり二次曲線は素晴らしく、まさに「右足と駆動が直結している」感覚です。
エンジンのダウンサイジングによりギアレシオも異様にギクシャクする設定のものばかりですが、初期駆動をモーターの鬼トルクでまかなえるなら、古き良き時代の鷹揚なギアレシオに戻せるわけで、そんなフィーリングをD3S試乗時に感じていました。しかしながらモーターアシストではなくジェネレーターアシストで、たったの11PSしかありませんので、プラシーボかもしれませんw
「スムーズな加減速」はラグジュアリー感にとって大切な要素ですが、これについては問題があります。燃費対策として、アイドリングストップ、コースティング、クラッチリリースの3種が車側のロジックに沿って(ドライバーの意図する操作ではなくて)発動します。ラグジュアリーカーらしくしっかりとNVH対策が施されていることが裏目に出て、エンジン停止に気付かないことがあります。気付かずにアクセルオンすると、エンジンスタートとクラッチエンゲージにより意図せぬ急加速をすることがあったり、エンジンブレーキを考慮に入れたブレーキ踏力調整をしているのにエンジンブレーキが唐突になくなって減速率が突然変わったりします。これらはドライブモードをスポーツにすることで発動しなくなりますから、ワンボタンで解決するといえばします。でも停車時のアイドリングストップは、EVでも味わった静寂かつエコロジーな時間なので捨てがたい…。
モード変更を頻繁にしてもよいのですが、変更ボタンの位置が悪く(目線移動が大きい)かつブラインドタッチで位置把握がしずらい形状なので、辟易します。ステアリングにボタンセットしたくて堪りません。
最近では珍しく、オーナーズマニュアルに「エンジンの慣らし」について記述があります。繊細な高級品であることを物語るようで、非常に印象良いです。
納車後数百kmで、サスストローク時の異音が発生しましたので、いきなり診断入庫しています。代車にALPINAではない5シリーズを貸してもらえました。これはこれで先述の「両性具有」を違うレベル感で実現していて、素晴らしかったです。
図にしてみました。

赤数字は矢印の長さ、つまり数字が大きければ大きいほど困難な両立を達成していることになります。
ALPINA:
10
BMW-M:
7
BMW(5シリーズ):
5
sportについてはMの方がレベル高く、luxuryについてはBMW5シリーズの方がレベルは高いので、ALPINAは中途半端とも言えます。しかしながら赤数字が最も大きいのがALPINA。
と、こんな風に総括して納得感を補強している今日この頃…w
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BMW-ALPINA D3S | 日記
Posted at
2022/09/24 15:52:30