
僕達が、春の陽光に誘われ、
旅をするようになって、20年近くになる。
まだ中学、高校生の時分の事です。
僕らの学生時代というのは、高度経済成長も下り坂を迎え始め、
何でもあるけれど、全てが足りないような、
バブル後の、時代の澱のようなものの中に居た。
常に最新の物を求め続けた時代の疲れが、
人や文化に表れはじめ、このままではいけない気がするけど
どうする事も出来ないような、焦燥感が世間をつつんでいた気がする。
まだ何とかなるのかもしれない・・・
そんな無責任なオトナたちが、
性懲りも無く残りを消費し続けていた時代だ。
そんな見せかけのカラフルに、僕と近所のコウヘイは辟易していた。
そして、僅かなひとときでも市井をはなれ、何か有機的な美しさを見たい、
太陽と埃の匂いを嗅ぎたい、、そんな願望が僕達を旅へ誘った。
椎名誠さんや、野田知佑さんの旅のエッセイが、僕達の心の憧憬をさらにカタチ作った。
虚飾と俗塵にまみれた日常をいっときでも捨てたかった。
僕達の憧れの風景と背反する、日頃の生活をどこか肯定できなかった。
そんな年頃だ。
そんなこころの風景を求める旅が、
今もまったく変わらない形でこの胸の中にある。
春は桜木。
それも、とびっきり立派な樹を見たい。
ただそれだけのこと。
毎年変わらずに繰り返される、生理的欲求みたいなものなのかも知れない。
去年は、山梨の
山高神代桜という桜の神に逢った。
樹齢2000年の桜木の王だった。
今年は少し足を延ばして信州は高山村という小さな村へ。
北アルプスに抱かれ、遅い春を迎える厳冬の地です。
病気に弱く、余り長寿の望めない筈の枝垂れ桜にもかかわらず、
樹齢数百年を迎える銘木が村中に点在する奇跡。
五大桜を銘打つ古木群。
気になるではないか。
三春の桜とぎりぎりまで迷ったけど、今年は信州にしました。
週は月曜。
早朝4時に出発し、朝の通勤時間前には最初の樹へ。
心躍る桜の旅がはじまる。
五大桜でもっとも高い樹高を誇る
水中のしだれ桜。
樹齢は250年になる。
残念ながら、まだ二部から三部咲き程度。
村はずれの山影にあるため、もっとも開花が遅い。
例年にない冷春であった今年。
こんなに咲き遅れたことは今までにないという。
朝陽に向かう子桜の方は、見る見る蕾をほころばせ始める。
咲き遅れてはいるものの、
その風格は充分に感じる事が出来た。
場所は変わって、街中で咲き誇るのは、
中塩のしだれ桜。
樹齢は150年。
見紛う事無く完全な満開を迎えていました。
降りそそぐような枝ぶりの見事さに、言葉を失います。
そして、こちらも村では大関クラスの古木、
横道のしだれ桜。
麓に墓標を抱きながら300年近い樹齢を迎えます。
見晴のいい畑の傍らで、北アルプスを望みます。
これもまた、深い趣をみせるお墓の桜、
坪井のしだれ桜。
樹齢は五大桜中最高齢の600年。
巨樹の会が選別する彼岸桜見立番付で上位に入る銘木です。
こちらも水中同様まだ少し、咲き遅れてるけれど、
日中の陽気で一気に咲き進むとみた。
夕刻にまた来よう。
樹齢500年に及ぶ
黒部のエドヒガン桜。
開き始めの花びらが鮮やかな紅色で、菜の花の黄色との対比が美しい。
五大桜には数えられないながらも、
今回最も美しい満開で僕達を迎えてくれた
和美の桜(なごみのさくら)。
若い桜ならではの、勢いのある枝振りは圧巻。
フィギアスケートの真央ちゃんや、キム・ヨナも訪れたという知るひとぞ知る桜のようです。
傍らにはピアノが置かれ、村内の自動車整備屋のオヤジが生演奏したり・・・w
みんなに愛されてる樹のようでした。
ライトアップもあるということで、ここも日暮れに訪れよう。
五大桜をひと通りまわって来て、
午後のプランを練りながら、神社の境内で弁当です。
満開の桜の下、静かでやわらかい時間が流れます。
弁当のおこぼれに預かろうと、神社の主があらわれますw
握り飯の端のほうを食わせると、
満足そうに友人の膝でくつろいでいました。
美しい境内。
夢とうつつの境目が無くなり、早出の疲れが僅かな休眠へと誘います。
午後イチ。
赤和地区というところにある2本を訪れます。
赤和観音のしだれ桜。
観音堂への山道の入口を教えてくれています。
五大桜以外にも、こんなに立派なしだれ桜があちこちに点在しています。
赤和集落センターの桜。
小ぶりながら、樹齢は300年。
太い幹が、古木の貫禄を放っていますね。
再び訪れた、坪井のしだれ桜。
斜陽の陰影が、お墓の桜という独特の雰囲気を醸し出す。
麓に眠る故人たちを護るように枝垂れる枝。
桜そのものが墓標になる場合も多く、故人の遺志を継ぐように
今年も紅い花を綻ばせる。
本日の最後はここの桜と決めていました。
役場裏の和美(なごみ)の桜。
そりゃあ、スーツ姿も見上げてしまいます。
傾いた陽光のなか、息を呑むような枝垂れ桜にシャッターを切ります。
そして、西日は月光へと変わり・・・宵闇と光と花の饗宴が始まります。
刹那の蒼が、なごみの桜を浮かび上がらせる。
この世の風景とは思えない程の美しさが見る人を黙らせました。
朧の月は、ハート型になり、風が出てきた。
沢山の英をつけた枝は風に踊り、花吹雪が起こる。
気温は一桁台にまで落ち込み、五月も目前だというのに、指がかじかんで動かなくなる。
一時間半にも及ぶなごみの桜との対話が終わった。
コレほどまでに一本の桜の色彩が美しいと思ったことはないかも知れない。
素晴らしい最後だった。
名残惜しいが、今年の桜旅はこの高山村で終了ですね。
この先、クルマを辞めることがあっても、
こんなふうに、季節の移ろいをこころで追う旅を辞めることは無いと思う。
日本の原風景が美しい形で在り続ける限り、
追い続けたい。
それはこころの原点だから。

2010.4.26 信州高山村
ま~、それでもクルマはやめないと思いますよ。
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桜を追いかけて | 趣味
Posted at
2010/05/01 00:56:49