もう何年も乗らないと判っているクルマなら、わざわざ大きな手間をかけて直すことも無いと思うが、出来る限り長く乗る積りでいるなら、改修は不可避である。
1990年から2001年まで鈴木自動車工業より生産されたF型シリーズのエンジンのひとつで、
軽規格いっぱいの657㏄の排気量のまま、シングルカムの2バルブNA型から、ツインカムの4バルブターボ型まで多彩なラインナップを誇った。
特筆すべきはその頑強なエンジンで、今となっては前時代的であるが、分厚い鋳鉄を掘りぬいて作られたシリンダーブロックは非常識なボアアップや加過給にも耐え、搭載車種であるアルトワークスや、カプチーノ、AZ-1などを未曽有のモンスターマシンに変貌させた張本人である。
その後スズキの主力エンジンはオールアルミブロックであるK6Aにバトンタッチする事になるが、その丈夫さからK6AをわざわざF6Aに積み替える事例も多数存在した。
シルビアで言ったらSRをCAに乗せ換えるような話である。
そのくらい世間の無茶なハイチューンに応え、結果で示してきた伝説の強心臓なのである。
アルトワークスも、21系からK6Aに切り替わっているが、F6A信者は未だに多数存在し、その信頼性は今も色褪せてはいない。
今回は部品取りキャロルより降ろしたエンジンであるが、
11アルトワークスと全く同様のシングルカム2バルブターボ。
1気筒当たり2バルブしかねーのかよ!
と、鼻で笑いたくなるかもしれないが侮るなかれ。
2バルブ4バルブの差など、実は高が知れていて、低回転など実はSOHCの方がパンチがあったりします。(駆動部品が少ないからフリクションが少ないんでしょうね)
高回転の伸びはDOHCに軍配がありますが、それもわずかな差で・・・ブーストアップで追い込んで比べたらSOHCの方がいいなんて話もあります。
普通の人には低回転からトルクがある方が速いと感じるでしょうね。
お陰で部品点数が少ない(3気筒で6バルブしかないからねw)ので、オーバーホールも安価で済むのがいいですね。

まぁ、自分で乗ってきたので調子が悪くないのは知っていますが、一応各部の点検をしながら分解していきます。
タイミングベルト周りは問題無し。
コマ飛びとかね、タイミングずれみたいなものは無いということ。
何て言ったって、カムとクランクのスプロケの間にウォーターポンプとテンショナープーリーしかないからね。部品点数が少ないという事は、トラブルの原因が少ないという事。
そうは言ってもウォーターポンプからは水は漏れてるし、各オイルシールからはしっかりオイル滲み。
この辺は全て新品になるので関係ないけど、問題は中身ですね。

まずヘッドカバーを開けて、カムとかバルブ周りを分解しヘッドを取り外します。
それなりに汚いけれど、もっと酷いのをいっぱい見てきているのできれいに感じてしまう・・・。
まぁ何と言っても、オーバーホールで一番面倒くさいのは各部の洗浄ですからね。
これはラクな部類です。
カムを取ったら、ヘッドボルトを慎重に対角緩めで外してヘッド分離の準備。

これがバルブステムシールです。
バルブガイドの先端に取付されていて、摺動するバルブステムとガイドの隙間からオイルが落っこちないようにスプリングでシールを締めていますね。
まぁ、そんなにすぐ劣化するものではないですが、言っても10年とか10万キロとか使われれば、鉱物油に曝された樹脂は硬くなり、オイルを掻き取るリップを摩耗してオイルは隙間から徐々に落ちていくようになります。
これがオイル下がりと言われているものです。
バルブステムシールの交換によって修理します。

ヘッドを取り外して、燃焼室側のチェックをします。
大きいバルブがインテーク、白く焼けているのがエキゾーストバルブです。
傘には少し厚めのカーボン生成物が付着していますね。
これを落とすのが一番大変でしょうね。。

裏側は割ときれい。
曲がりやガタは無さそうなので、バルブもガイドもそのまま再利用出来そうです。

オイル上がりか下がりかのせいで排気ポートへの煤が多いですね。
よく回されていたんでしょうか、プラグは高温でしっかり焼かれています。

そして腰下です。
クランクシャフトを手で回してみますと、引っかかるような部分もなく一定の抵抗でクルクル回ります。
ピストンリングなども大丈夫な気がしますが、折角バラしたので再ホーニングと共に今回は交換します。
たった3気筒しかないのですからね、1気筒当たりのコンディションがデカい訳です。

クロスハッチも残ってはいますが、結構薄いですね。
しかし、摺動傷などはストロークする限り確認できないので、異物の咬み込みや油膜切れのような悲しいトラブルは起きていない模様。
エアクリーナーが交換式社外だったので少し心配でしたのよ。

コンロッドキャップとクランクキャップを取り外し、クランクシャフト・コンロッドピストン、と順に外します。
クランクベアリングとコンロッドベアリングはまだ再利用するかもしれないので、バラバラにならないように管理。

3番目のクランクベアリングの所にはスラストベアリングという、クランクシャフトのスラスト方向(前後方向)のガタを調整しているベアリングが入っています。
最近のMT車(MT車自体が今はないけど)はクラッチスタート式のお陰で、エンジンを掛ける前にクラッチ操作でクランクシャフトに負荷をかける為、スラストベアリングが傷みやすいといいます。
油膜がないのにグイグイ押された状態でクランキングされるからでしょうね。
こんな古いクルマにそんな洒落た装置は付いていませんが、気になって外す方も多いみたいですね。
まぁ、ペダルの所のカプラーを抜くだけですが・・・
エンコした時のセル移動も出来ないですしね、自分は解除をお勧めしています。
話は逸れましたが、クラッチ操作が熱くてもスラストベアリングは摩耗するのでね、キャロルも走り屋っぽかったので一応交換しておこうかな。

今回良かったのはヘッドの歪みが無かったこと。
長年使われた割に、オーバーヒート歴がなかったんでしょうね。
オイルストーンである程度均しただけですが、かなり平滑です。
歪み限度が0.05ミリとありましたが、0.015ミリのゲージがどの角度でも入りません。
これなら面研の必要は無さそうです。
よしよし、OHの方向性と交換部品の選定が済んだぞ。

あとは使う部品を専用薬剤で洗浄します。

サンエスのメタルクリーンαという製品で、その洗浄性能とは裏腹に普通の洗濯洗剤程度の環境負荷という優れものです。
強アルカリとかなんでしょうね。
あまり触りたくはないので、使い捨てのビニール手袋で作業しました。

バルブ周りも担当箇所ごとに小分けにして一緒に洗浄します。
こいつの洗浄力は半端ではありません。
粉状の黄色い洗剤を60度くらいの熱湯に溶かして使うのですが、オイル焼け程度の薄い焼き付きなどは跡形もなく溶けてなくなり、ぴかぴかと金属の素地が光り出します。
カーボンの堆積物も、殆どは漬け置きだけで剥離してしまい、それでも残ったものはナイロンのブラシなどで軽く擦るだけできれいに落ちてしまいます。
凄いよメタルクリーンα

オイルポンプやヘッドカバーなど閉じていて洗えないようなものも一緒に漬け置きで洗浄しました。
全てピカピカです。
術後はアルカリの被膜が形成されて鉄部などは錆が出にくくなるなどの効果もあるようですよ。
そうは言っても、エアブローできちんと水を飛ばしながら、日当たりのいいベランダで干して充分に乾燥させました。

バルブの燃焼室側の白いカーボンは流石になかなか落ちないので、物理的に落とすしかありません。
ドリルのチャックにセットして、スコッチやペーパーを押し当てたりしながら掃除します。

シリンダー径が小さいので、手持ちのホーニングツールで充分にクロスハッチをやり直せました。

洗浄を終えた部品群。
ヘッドのような複雑な形状の部品がこれだけきれいになるとメタルクリーンもやった甲斐がありますね。
(たかだか1300円位の洗剤ですがw)
しかし、ここで悲劇が・・・シリンダーブロックをあちこちへ運んだせいでしょうね・・・
ギックリ腰が再発してしまいました。
クソッ!いよいよポンコツはヲレだな・・・。