
大寒波が来ていた二周目週末。
土曜日はクネから早めに連絡があった。
「今晩は流石にどこかしらで走れそう、行けるか?」
「今日は夜九時以降なら全然行けるぜ。」
クネとまともにスノーアタックに行けるのは3年ぶりだ。
ハチロクからインプレッサに乗り換えてから、わざわざ遠征してまで雪を走るようになり、この20年間クネと変わらずに続けてきたルーティーンである。
ついこの間の事なのに、ホント、こんな風に昔話のように話す日が来るとは思わなかったが、初めの頃は普通に箱根とか、富士五湖の方でスノドラが楽しめた。
だから、毎週末ごとに今週はどこに行こうとか、どこが降ったとか言って不埒にもスノーアタックを繰り返していたのだ。
だがここ10数年、しっかり走れるようなまともな雪が関東近郊では降っていない。
調子がいい時で諏訪近辺、最近ではそれも難しくなり、もっと北上しなくてはならなくなった。
おかげで、高速使って2時間以上掛け、日本海側の雨雲が確実に入る豪雪エリアまで行くようになってしまったのである。
そこまで視野に入れても、近年ではなかなか降らなくなってしまい、そろそろ「スノドラじまい」なのではと、思い始めていた所での今年の当たり年である。
今年の大雪は凄まじく、東北は勿論、関東甲信越、能登の方もエライ事になってしまっている。
そうは言っても二月も二周目を過ぎると、一気に暖かくなってチャンスが無くなってくる。
あと一回くらい関東で大雪かもみたいな寒波が最後にやってきたら、そのあとは霜も降りなくなって、メジロやウグイスが鳴き始める。
春になるのだ。
もう今晩は絶対行こうと思っていた。
昼までは仕事だったので、ライブカメラのリサーチはまだしていなかったのだけど、そう思っていた所でのクネからの入電。
そういう煩わしい事はクネが大体やってくれている。
どうせ朝帰りになるので、昼寝のひとつもしようかなと思っていましたが、そう思うと全然寝られない。
適当にアルトワークスの記事でも書いておくかとPCに向かっていると再びヲレのスマホに入電。
883~みたいな知らない番号だったが、下らない営業電話には「要らねーから二度と掛けてくるなよ」とハッキリ言ってやる事にしているので、すかさず電話を取る。
「え~、OOさんの携帯電話でしょうか?」
「ええそうですけど、どちら様で?」
「警視庁捜査一課のクロサキと申しますが、OOさんの携帯電話で間違いないでしょうか?」
「いや、違いますけど。」
「・・・え~と、先ほどはいと仰いましたよね?」
「・・ぷぷっ、いや言ってませんけど、聞き間違いでは?」
「いやいや、確かにはいと言ってましたよね、聞いてますよ?」
「いやだから・・言ってないって!」
「いや言ってましたって!!」
「うるせーな!だったから何なんだよテメーはよ、だいたい誰なんだよ。」
「警視庁捜査一課のクロサキです。」
「そうじゃなくてよ、ほ・ん・と・う・は、誰かって聞いてるんだよ。」
「だから警視庁の・・・」
「あのさ、クロサキって・・・オマエ笑わせんじゃねーよ。そんな見え見えの詐欺電話みてーなので引っ掛かるバカ居るのか?」
「えーとあのOOさ・・」
「こっちもヒマじゃねーんだよ、二度と掛けてくるんじゃねーぞ素人がよ。」
そう吐き捨ててから電話を切ったのだが、
切った後にすぐに思ったのは、「いや、実は結構暇だったな」だった。
たまたま携帯の音源からブルートゥーススピーカーで音楽を聴いていた時だったので、その会話は大音量で家中に聞こえており、次男が心配そうに近付いてきた。
「お父さん、詐欺師からの電話だった?」
「警視庁捜査一課とか言ってふざけてやがったよ」
「本物だったらどうするの?」
「本物の警察がいきなり電話してこねえだろフツー。」
「また逮捕されるのかと思った。」
「またって何だよ逮捕された事ねーし・・・いやあったか?でも大昔の話だろ。」
「大丈夫?お金取られてない?」
「向こうも取ろうと頑張って電話してるみたいだけど、電話するだけじゃなかなかお金は取れないんだよ。」
次男の猜疑の目が詐欺師でなく、
ややヲレに向けられていた事が何となく納得いかなかった。。
こんな馬鹿げた日常の小咄から始まった記事だが、本編は久々に出動となったスノーアタックの話であるw
今回も、正直に妻に申告して出発。
小僧どももいい加減大きくなって手が掛からなくなってきたので、夜間在宅の縛りも少し緩くなってきましたね。
朝どれだけ眠かろうが、長男のバスケの練習や次男のサッカーの試合会場への送迎などが滞らなければ、割と自由である。
案外目が冴えてしまって昼寝もロクにしていないが、夜9時半に出発。
今日は会社も出勤だったが、半ドンだったので疲れはない。
そしてこう、夜通し走ることが決まっている時はそういうスイッチが入るのか、帰るまで眠くならない身体になっている。

それはいいけど、とにかく物価がヤバイ。
自販機のミル引きコーヒーが340円になってしまったし、PAのハイオクガソリンは211円/Lだとぉ・・・。
まぁ、倍と感じている我々の比較対象が25年前の頃の物価ですので、当然と言えば当然なのかも知れない。
それでも必要なものは買うしかないんだけどね。

久しぶりのPA待ち合わせ。
「レーサーはどうした?VABまで買って待ってたんじゃないのか?」
「レーサーは明るいうちから福島まで行くけど行きませんか?って言われたから、そんなとこまで行かねーよって言っておいたよ。」
「そうか、別動隊で行っちまったんならしょうがない。」
二台とも、スタッドレスタイヤは2021年製のAW-1を同時期に入れてるので早くも4シーズン目。
ライフが短いアジアンタイヤ(勝負できるのはいいトコ3シーズン目まで)なのに、この二年ほど雪不足で殆ど走れていないのが痛いが、ヲレのは毎年秋田帰省でも使用する実用機なので、まぁ無駄という概念はない。
スノドラでしか使用機会の無いクネにとっては痛恨の空白ではあろうが、そもそも4本35000円のアジアンスタッドレスなのだから別にいいのである。
ヲレなどは温存などせずにターマックでもガンガン走ってしまうので、とっくに5部山を切ってしまっていて未練もクソもないが、クネのように雪上以外は温存に温存を重ねている使い方だと、まだまだひげも残っているようなバリ溝なので、来シーズンちゃんと捨てられるかどうかが怪しい。
銭金の問題ではなく、元来勿体ないお化けの権化のような男なのである。

片道2時間半かけて、降雪確実エリアへ到着。
インターを降りて山へ向かう道路は程なくして積雪が見られた。
この辺りでこの着雪だと上は相当降ってるな・・・。

カーブが多くなり、峠セクションのバッファエリアに入る。
一発目から、まだ雪壁も無いのに一気に4速3桁台に放り込んでいく。
こちらも秋田帰省で走っているのでゼロスタートではないにせよ、もうそんなに踏むのかよと思ってしまう。
フェイントを使っていないのでまだ様子見なのは判るが、いきなりで勘弁して欲しい速度域である。
ここで気を付けなければならないのは、相手が行けるからと言って自分も行けると思ってはいけないという事である。
よっしゃー!ヲレも!!!
なんてのは、漫画の読み過ぎである。
クルマやタイヤ、セッティングや運転の違いなど、ぱっと見では判らない様々な条件の違いがあるものだ。
クルマが同じだったとしても他人と自分は全く別物だと思いながら正確な判断が出来るドライバーでないと、たった一晩でも生き残る事は出来ない世界である。
これで付いていかれないと単に実力の違いなのではと安直に焦ってしまうかも知れないが、それぞれの運転やセッティングには一長一短があり、行ける所と行けない所が違ったりする。
スノーアタックは、誰かとの勝負の場ではない。
いい訳やきれいごとは抜きにして、自分自身との勝負の場なのである。
競争心に目を曇らせて、パフォーマンスの限界の見極めを誤ると、とっさに命取りとなる極限世界なのである。
他人に気を掛けている余裕はないのだ。
自分とマシンとのシンクロ率を限りなく100%に近付けながら、路面状況を正確に把握し、限界を半歩超えたような所で止めたプッシュを実行する。
一番掻くところを、一番曲がるところを、右に左に振り回しながら探っていく。
こんな自身との極限の格闘を各々が履行した結果が、図らずとも拮抗している相手というものが何処かには居るもので、それがヲレとクネとの関係なのである。

どんどん積雪が増していき、タイヤを取られ真っすぐ走るのも難しい路面になってくると、ジリジリとクネのGDBが離れていく。
これ以上加速できないので頑張りようが無いw
DCCDの締結を100%ロックにまで上げてみるが、進入が苦しくなるだけでトラクションは余り変わらないようだった。
タイヤ1回転でのストライド量が全然違う感じがする。
「タイヤかな・・・5部山とバリ山でこんなに違うかよ。」

ドリフトが全然止まらず、前に進まない。
全く除雪が入らない前哨戦のT峠では全く追いつくことは出来なかった。
クルマが全くいう事を聞かない感じ。
クルマがダメなのかヲレが下手なのか、とにかくどうしようもないw

本番の〇平へ上がる表側は若干除雪が入った痕跡があり、車速が少し乗るようになってきた。
スキー場エリアを抜けて、北側斜面のテクニカルセクションを下っていくと、現在進行形でガンガン除雪してくれていて、お陰でかなり手応えがいい。
クネを先頭にまあまあのペースになっているが、離れずにちゃんと走れている。
ここならヲレのタイヤでも走れそうである。
下り切ると、程なくしてZN6、最近の86が下ってきた。
それなりの速度だった筈だが、大して遅れて来ていない。
山頂からこの差で下ってきたならかなり立派な奴だぜ。
どうもクネと連絡を取り合っていた地元組の子だったようで、どこかで見かけて追いかけてきたのだろう。
元々はボロいAE86でガンガン走って慣らしたらしく、下りではGDBに肉薄する走りを見せていた程の手練れだという。
ふふっ、判るぜ、ハチロク乗りの気持ちはよ、ヲレも3台乗ったからな。
そう言う事なら、手加減はナシだ。
クネが譲ったので、先頭で登りをチャージしてみる事に。
無駄に上げていたDCCDの締結を75%程度に抑えて進入有利のFRのアドバンテージを極限までそぎ落としてからよーいドン!
新雪をスライスした直後の、スノーアタックで言う所の最高の路面である。
これまで横に逃げていたグリップが噓のように縦方向に変換されていく。
雪寒車の排土板が圧縮しながら数センチ残した雪に、サイプがしっかり食いついているのが判る。
縦にも横にもしっかりコントロールできる。
これだよこれ。
ヘアピンを数か所全開で振り抜いていくと、クネのGDBがジリジリ離れて行く。
何だろう・・・トラブルか?
86を待ってんのかな?
(いや、そんな事する奴じゃないか)
そう思い直す。
ハーフスロットルで待っても追いついてきそうも無かったので、久々で勿体ないので目一杯行く事にした。
GDBが途中から全く見えなくなってしまったなと思ったら、珍しくヘアピンで回ってしまっていました。
こっちはこんなに走りやすいのに、向こうは苦しそうだな・・・
さっきとはまるきり逆転してしまった。
一体何の違いなんだろう。
コッチのタイヤのデメリットこそあれ、向こうには何もない筈なんだが。。

流石については来れないにしても、相変わらず大した差を付けずに上がってくるZN6。
速ぇーなオイ。。
雪でもそんなに走るのかよGT86。確実にヲレたちより速い奴だな・・・。
やっぱ地元の奴等には敵わんな。
それにしても・・・
前半の感覚だと圧勝を確信していたクネも、この路面の違いによる逆転現象がここまで露骨な理由を一生懸命考えていたようで、あまり違いはないように見えるが、強いて言うならばタイヤの残山と空気圧の関係ではないかと推測していた。
これは概ね当たってはいるが、見落としもある。
だいは、最後のPAで普段用で高めに入れている空気圧をちゃんと抜いておいた(2.6キロ→2.1キロ)のだ、山が無い分だけ少しでも接地面積を稼ごうという苦肉の策である。
一方クネは、面倒だからと最近は普段から2.2キロのままにしていて何も触らなかった・・という違いがあった。
だが、たかだか0.1キロの違いである。
前半のザクザクした深雪や低山のぬかるんだ雪道でのトラクションの違いというのは、殆どがスタッドレスタイヤの残山の違いによるもので、エア圧などで変化する接地面積などよりも、タイヤの溝の深さやサイプ(スタッドレスタイヤの雪を掻く細かい溝)の立ち具合が大きく影響する様である。
GCよりもひと回り外径が大きいタイヤも、轍に影響を受けにくく有利と言える材料だ。
それとは対照的にアイスバーンに近い凍った路面や、除雪後の硬めの圧雪路などではスタッドレスの溝の深さなどは余り関係なく、少し低めの空気圧でベタっとなるべく大面積を掴むようなパターンのタイヤが向いている。
今回は、これらの条件に当てはまるクルマがきれいに割れたという結果となった。
でもまぁ、空気圧の差だけで言うなら0.1キロしか違わない訳で、たったそれだけの差であそこまでの違いは出ないと思う。
接地面積の比較で言ったら、逆にタイヤはGCの方がひと幅もふた幅も狭いくらいである。
単純に車重200㎏の差と、エンジンを直した事による低速トルクの使いやすさが向上した(以前のようなドッカンターボでなくなった)事も僅かに加味された結果かなと思っている。
要するに、同じ条件なら軽いGC8の方が全然有利という事である。
ドライバーの技術はほぼ同じ。
クルマは車重差200㎏以外はほぼ同じ。
だいGC8が、折角の軽量さをスポイルして余りある程のゴミタイヤを履いてくるので、いつもいい感じにトントン位になっている。
って所か?

繰り返すが、図らずも・・なのだが、全く正反対のドライバーながらパフォーマンスが拮抗しているだいとクネ。
長く一緒に走っているので、無意識ではあるがお互いがどこか歩み寄っていると言うか、寄せていっているというか、そういう事はあるかも知れない。
どちらかが一歩先に行っていれば、一方も自然と引き上げてもらえるし、どちらかがやり過ぎてしまっていれば、引き戻してもらっているような。
速ければいいという事だけではないストリートでの走り。
どれだけ冷静でも独りだと判らなくなる事もある。
信頼できる相棒に、常に俯瞰してもらう事で細かい軌道修正をしてこられたのかも知れない。
ヲレは直ぐにカッと熱くなるタイプなので、勢いとセンスだけで一気に上り詰めた時期があったが、クネがいなかったら、今のように「自分を客観視してクレバーに走り切る」という自分が持てなかったのではないかなと思っている。
クネはどう思っているか知らないけどね。

ヲレたちがこのインプレッサ2台で雪山を走るようになって20年が経った。
同じ車で雪を20年も走ってるってちょっと異常だよな。
それも掛け値なしのバチクソ全開で20年。
客観的に見たらよく潰さないで走り切ったなという感じだけど・・・
まぁ、要するに潰すような一か八かの走り方なんて実は一回もしてないって事なんだよね。
常に技術の鍛錬や、知識理論の追求の手は緩めたことは無かったが、絶対に出来ない事はしない。
多少の無理をする事はあっても、無茶はしないって事だ。
それがあったからこその雪歴20年。

ヲレたちよりももっと速い奴等なんて沢山居る。
昔一緒に走ってきた連中も、向上心のある奴らはどんどん表へ出ていって全日本のチャンピオンになったり、峠最速戦みたいな集まりで一番速いのをブッ倒したりしていて何とも心強い。
かつてヲレとクネが号令をかけ、各エリアで最速を自負した名のある連中が一堂に会した「ぺったんこ組」は伊達ではなかったのだ。
そんな表舞台で活躍する彼らと比べて、ヲレやクネは一体どういう存在で何を目指していたのであろうか。
そう考えた時に、明確な答えを持ち合わせている訳ではないが、結果として言えるのは何も変わらない不変の存在であるという事である。
この激動の時代にあって、どこまで不変でいられるかは判らないが、この長らく変わらずに続けて行くという簡単そうで難しいアイデンティティーが、迷っている誰かの道標になればいいなと思ってヲレはいつもブログを書いている。
別に特別な事なんて特にない緩い二人が、特別に何かを目指す訳ではないカーライフ。
正反対のヲレとクネに唯一共通なのは、
一番大切なものが、ごく普通の日常であり、家族であり、子供と過ごす晩飯の時間である。
クルマなんてものは、それ以外の空いた時間で何が出来るかを埋めるクラブ活動みたいなものであって、それ以上でもそれ以下でもないものだ。
だが、そのクラブ活動も、面白いからという理由で20年以上も続けている。
クルマは優先順位で言えば、二の次三の次であるが、そんなヲレたちでさえ、それでも好きで続けてさえいれば、少ない時間と低予算でもこれだけの事が出来る、これだけ充実している、そういう事を自然体で表現していきたいと考えている。

もう50になろうという不良中年二人、全く何やってるんだか。
馬鹿は幾つになっても変わらんなw
「どうする?あと一本くらい行くか?」
「いや・・もういいだろ。」
「そうだな、2時も回ったし・・そろそろ撤収だな。」
結局ロングコースを一本往復してきただけだが、もう充分であった。
ニューエンジンも問題なくブン回せたし、ブランクも関係なくちゃんと走れたしな、確認したい事は全部確認出来た。
あれだけの走りが出来たらもういいだろ。
めちゃくちゃ楽しかったぜ。
オッサンなのでガツガツしておらず、1~2本走ったら充分に満足してしまう辺りも実に経済的である。
今期はあと1回くらい行きたい所だけど、
来週襲来の大寒波が、最後のチャンスじゃないかな?
そこで厳しかったら、シーズン終了ですね。
そろそろ車検の準備しないとだな。
車検前に壊しても面倒だしな・・・