「いまハイオクって幾らですかぁ?」
「えーと・・165円です。」
「ちょっと高いですねぇ・・・。」
「このあたり一帯はどこもこんなカンジなんで・・・。」
「だ い さん~どうします?値切りますか?」
「単価値切るのか?」
「言うだけならタダなんで・・・。」
「幾らなんでもムリだろ・・・断られてヨソ行ったって同じなんだろ?」
「それもそうですね・・・じゃあハイオク満タンで。」
「この掛け合いが無駄www」
もともと関西系人のレーサーは、常にこんなカンジだ。
買うことが決まっている必要な物も、お買い得を常に探して吟味し、どうしても高ければ必ず価格交渉。
タダの物は限界まで持ち帰ってくる。
オークション出品物も、現物確認に出向き、出品価格より値切って買ってくる。
フリマかなんかだと勘違いしているんだろう。
ケチとかそんなんじゃなく、そういう人種なんだろう。
そういう習性なんだ。
そして、そういった傾向は趣味や執心するものに対してはより顕著になって表れる。
ギュワアアアァァァァーーーー!!!!
ドゥルルルオォォォーーーー・・・・ン
ギャアアアァァァァァーーーー!!!!
ドゥルルルオォォォーーーーーーー・・・・ン
3名乗車と貨室いっぱいの積載で、1900kgを超えるであろう白いワゴン車は、高原の峠道に差しかかり、急登坂のワインディングをものともせずにダッシュしてゆく。
助手席のドアウィンドウ越しに見える景色は、黄緑やビリジアンの帯となり、
カーブではアシストグリップの助けを借りなければ体を支える事は出来ない。
クルマの中では基本的に靴を脱いでいるヲレは、更にダッシュボードを足で踏みつけてブレーキングGに備え、のんびりくつろぐドコロではなくなった。
リヤーシートのクネは、隣の座席に一杯になっているクーラーボックスやカバンなどの荷物を支えるのに必死のようだが、どんな体勢でいるのかよく確認できない。
1994㏄の水平対向ツインターボエンジンは7000回転を超え、
パワーが落ち込む寸前でシフトアップされる。
トルクバンドを外さないように常に最適なギヤポジションを選択されながら、
暴力と呼ぶに相応しい加速を見せ付ける。
小旋回のヘアピンなどでは、ヒールアンドトゥから1速に叩き込まれ、
やや大きめに切り込まれたステア操作から、強引にヨー慣性を発生させ、
フロントよりやや先にリヤタイヤが悲鳴を上げ始める。
ここで間髪いれずにアクセルオンにすることで、
旋回姿勢を維持しながらの加速保留体勢でいることが出来る。
レーサーは立ち上がりラインを睨みつけ、安全なベストラインが見えた瞬間に、クリップポイントが決定する。
右コーナーでは大きくセンターラインを割り込み、
左コーナーでは、アスファルトが無くなった所からタイヤ二幅分は踏み越えてゆく、
ガードレールに接触したように錯覚してしまい、瞬間的に体が交わしてしまうほどだ。
「なぁレーサー、次は観光バスを先頭に5台だよ、このテクニカルセクションではどうにもならんだろ。」
「そうですかね。」
そう言い切る前にレガシィーは右側の車線に飛び出している。
コーナーを立ち上がり、2速に入れたところからのフルスロットルに合わせて全開加速体勢に入っていた。
「ぅおぉぉぉ・・・・・・!!!」
1台抜き、2台抜き・・・
3台抜いたところでやや車間の広いところに割って入り、前方再確認・・・すぐに飛び出した。
ストレートも短く、ブラインドコーナーの連続する先の知らない峠道。
狂気の暴走ワゴンは全てのパワーをトラクションに変換し猛然と加速してゆく。
「なぁ、レーサー・・・対向来てるぞ・・戻れんのか?」
「大丈夫、間に合います。」
ヲレの身体の感覚というセンサーが、全身全霊の高速演算を始める。
観光バスと対向車と暴走ワゴンの3点の相対速度と距離、時間の相関関係に危険が存在するかどうか、感覚的には導き出す事が出来る。
一言で言えば危険予知というヤツだ。
それは常に、これからの自分の生存の可能性を大きく左右する重要なものだが、
この時ばかりは自分には一切為す術がなかった。
ぎりぎりイケる・・・やっと黄色のランプが点灯した。
決してグリーンではない。
ヤツのグリーンは一体何を基準に点灯するのか・・・。
ストレートエンドの左のブラインドコーナーの手前で観光バスと並び、
大外から大きくインカットの姿勢に入る。
対向車は既にコーナーを回り始めているのだ、
ブローオフバルブからバイパスされる過給音と同時に、
レガシィーは大きく姿勢を変えて左コーナーのクリップをかすめて行く・・・
レガシィーのクリップ到着のそれは、対向車と観光バスがすれ違うのとほぼ同時であった。
ふとクネが気になったヲレは、Gを堪えながら後ろを振り返る。
クネは、開いているのか閉じているのかよく判らない目をしながら、何も言おうとはしなかった。
「い、今のはヤバかったろう!」
「何がですか?」
「何がじゃねーだろう、どうして今のがイケるって思うんだ。」
「結構余裕ありましたよ・・・。」
「く・・クズ過ぎる・・・。」
「わははは!!!」
我慢できずにクネが噴き出してしまった。
「クネ君・・・ついに見つけたよ。」
「何を・・・」
「本物だよ・・・」
「本物の何を・・・?」
「本物のクズ野郎を見つけたよ。」
「wwwww」
「何がですか・・・大袈裟ですよ~。」
こういった強烈な追い越しを、更に数度重ねていき、
キャンプ場までの一本道で20台以上パスしたのではないだろうか・・・
マグレや勘などではなく、ちょっと特殊な時間軸を持っているようだった。
出来る出来ないの前に、やらないというのが普通なあたりで、
感覚に大きな隔たりがあるのだけど・・・
まぁ、それは多かれ少なかれのハナシであって、ヲレやクネが常識人というわけではない。
多かれ少なかれ、3人ともクズには代わりがないのである。
本日は、ドライバーのレーサーが一等賞だったというだけのことなのだ。
「いや~、正直、さっきの追い越しよりも、その先の右コーナーで膨らみ過ぎてちょっと焦りましたね。」
「あのままドブに落ちたら、追い越してった連中にツバとか空き缶とか投げられるだろうよ・・・。」
「でしょうねww。」
「ヲレは急いでヤブに逃げるよ。」
「おっ、レーサー、ちょっとその辺で休憩しようぜ。」
「いっ、嫌です・・・。」
「ココを凌いだって同じキャンプ場のクルマだっていそうだよ。
「そんときゃそん時ですよ。」
「ちょっと、ヲレのイメージとはラインが違うな・・・。」
「まぁ、そうでしょうね・・・。」
「リヤデフ活かすなら、もっと進入で思い切って振っていかないと!」
「・・・・。」
「おいレーサー、そんな命がけで追い越し頑張るより信号無視した方が速いゾ。」
「いやいや・・・」
「ほらほら信号赤だぞ、右から先頭まで出られるぞ。」
「対向に覆面が混ざっていない可能性が拭いきれません・・・。」
「大丈夫、県外ナンバーばっかりだよ。」
「もっとメリットのあるところでやりましょうよ~。」
結局クズしか乗っていない暴走ワゴンになってしまっている訳で、
キャンプ場までの最後の5分というところまで、激しいスキール音が山々にこだました。
「だ い さ~ん・・・水温が初めて110度超えました・・・。」
「110度じゃ沸騰じゃねーか?」
「ちょっとノッキングも出ました・・・。」
「ダメだ抑えろよ、マジで飛んじまうゾ。」
「110度はヤバイですよね。」
「標高も1500m超えてるから、更に沸点は低くなってる筈だよ。」
「またヒーターからせせらぎが聞こえてくんぞ。」
「ガスケ抜けじゃなくて、一時的な沸騰で済めばいいけどな。」
「初めての110度超えが、運動会でも茂原でもなく・・・キャンプに向かう足でか。」
「まだエンジン3万キロなのに~。」
そう、
チーム”K”の誕生である。
チーム”K”とは、今をときめくAKB48とは一切関係がなく、
”クズ”という意味である。
クルマが好きで暴走が好きで、固有のモラルを有し、
社会に対して一切の肯定権を持ち合わせていない・・・。
もうこれはクズでいいだろう。
でも、ゴミのポイ捨てはしないし、障害者スペースに駐車はしない、
歩行者に道を譲る事だってあるので、徹底的にDQNという訳ではないのだけど・・・
まぁ・・・どう差し引いてもプラスにはならないな。
ま、本編はキャンプの話のハズだったけれど・・・
天気も最高だったし、涼しくて過ごし易かったし、キャンプサイトのロケーションも最高だったけど・・・
レーサーという人間のインパクトにヤラレて何だかあんまり憶えてないよ。
ヲレとレーサーで殆ど準備し、サイト設営から食器の支度までソツなくこなし、
クネは寝袋片手にただやってきただけだwww
ヲレひとりで全部やらなきゃいけないのは大変だったので、デキるヤツが加わって助かったよ・・・。
ここは、松原湖の近くのオートキャンプ場で実は第二候補だった所。
第一候補は、有名なところなのだけど、入った途端に芋洗い状態だったことと、直火がダメだった事がNGの決定打となった。
ここはイイトコだったよ、基本フリーサイトで、テント間にもかなり余裕が取れる林間サイト。
直火OKで、すぐ近くに温泉施設があるんだ。
次回またココでもいいなと思ってしまった。
疲れてるのか・・・温泉から出てメシを食ったら、酒もそれほど進まず、
クネにレーサーに次々脱落。
クネはその前の晩に走りに行ってるし・・・(次の日キャンプなのに・・・)
レーサーも3時まで支度で寝られず・・・来るだけであの走りw
ヲレも4時まで起きてたけど・・・意外と寝なくても平気なので最後まで焚き火を見てたけど・・・
ひとりで起きててもなぁ・・・。
清々しい朝。
朝日だけテントに飛び込んできてちょっと暑かったけれど、気温自体は涼しくて気分がいいよ。
高原の林間サイトっていいね。
またレーサーとクネが焚き火で何やら醜態を晒しているけれど、もう書くまい・・・
男の子というのは基本的に火遊びがスキなのだ。
そんなふたりを無視しつつ・・・
高原らしい絵をちょっと探しに散策したり・・・
夏の最後を謳歌してる昆虫達。
しばしぼんやりと野アザミの前で待ち伏せなどをしていました。
旅行に暴走に、布団干しに大活躍のBH5レガシィーGT-Bも、もうすぐ24万キロ。
エンジンが終わっても、雪山で突っ込んでも不死鳥のように甦り、アシが入り、デフが入り、
新品のポテンザが奢られて、キャンピングワゴンに大変身。
こんなに芯まで使い倒されたレガシィーもなかなかないだろう。
帰り道の道程も言うに及ばず・・・
渋滞を避けて、高速は途中離脱でホーム復路となりました。
なまじっかホームなんで、飛ばしすぎてヤバイかと心配しましたが・・・
クルマが多過ぎたんでちょいちょいでした・・・。
ソコソコのスキール音を放ちながら、中速のS字をクリヤするとレーサーは・・・
「今のコーナー・・・鈴鹿の最終に似てますね。」
今まで何も言わなかったクネが一言。
「す・・・スゴイよ・・・・レーサー。」
ご意見番の公認がでますた。

生き残れたらきっと大物になるよ・・・。