
この話題、書くかどうか悩んでいたことですが、ちょうど知人から悲鳴のような叫びが届いたので、今日は書くことにしました。
つい先日、私も愛車で
TPMSを稼働開始させた ところですが、最初にTPMSを知った頃は国内向けの商品も少なく高価で、プロのレース車両などでなければ手を出しづらいもの、と言うイメージでした。
それから随分経って、
オレンジジャパンさんのP405Bを購入した ときのパーツレビューに
>
遂にTPMSを購入しました。TPMSとの出会いは「日本国内に於ける電波の利用」上の問題という観点からでしたが、その後、日本国内での利用を前提にした商品も発売され、自分のみんカラのクリップに [TPMS]カテゴリを作って 時々情報をチェックしたりしていましたが、それでもそれなりに高価なものなのでなかなか購入まで踏み切れないでいました。
と書いたようなわけでした。
これから日本国内でも安心・安全に使えるTPMSがどんどん増えるかな、と思っていたので、オレンジジャパンさんのような商品はとても良いことだなと思っていたのですが、日本に於けるTPMSの状況はそれとはちょっと違った方向に向かっているようです。
どういうことなのか、ちょっと説明したいと思います。
ご存知の方も居ると思いますが、TPMSには直接式と間接式があります。
直接式は、タイヤの空気圧を直接計測する方式、間接式は空気圧を直接計測せず、別の方式(例えばABSの車速センサーやタイヤの変位等から演算)を用います。
直接式には、今回私が付けた物のように、タイヤ内部のホイール側にセンサーが付くものと、既存エアバルブの外側にセンサーをつけるものがあります。
いずれにしても直接式は高速回転するタイヤ・ホイールにセンサーが付きますので、無線を使って計測値を飛ばすのが現実的で便利です。
この「無線を使って」がTPMSを知るきっかけとなった部分でして、私自身、実際にアマチュア無線・430MHz帯の首都高速モービル移動中に謎の混信を受けたことがきっかけでした。
※後で判明したことですが、この時の周波数から、犯人が欧州地域向けのTPMS装置であることが分かりました。
このように、電波と言うのは、本人が知らない間に他に混信を与えることがあるわけです。
一方、電波は世界人類全員の公共財産、電波は空間に飛んで行くものだから、皆が俺勝手、好き勝手に使ったら、それこそ人命に関わるような事態も起こり得ます。
無線通信の黎明期は無線を使う人も少なかったから、少々問題が起きても、当事者同士が紳士協定で対応すれば何とかなりました。
その後、無線は、世界中のありとあらゆるところで使われるようになりました。
そうなると、当事者同士で対処していたのでは、とてもじゃないが、解決できるような状況ではなくなりました。20世紀初頭には、混信問題を解決する必要性が高まりました。
これらを含む様々な問題に対処する為にITUが設立され、ITU-R (ITU Radiocommunication Sector, 国際電気通信連合 無線通信部門) があります。
※ITU成立までの経緯に関しては以下のページが参考になるでしょう。
ITUとは何ですか? | ITU-AJ
ITUでは全世界を、第一地域、第二地域、第三地域に分け、皆が困らないように電波の利用について規則 (RR(Radiocommunication Rule, 無線通信規則)) を定めていまして、この規則には法的拘束力があります。
日本は第三地域、アメ車を作るアメリカは第二地域、欧州車を作る国々は第一地域に属しています。
ITU地域によって電波の割り当てが異なり、更にそのITU地域に属する国々は、RRに従い、各国の法律等によって電波の利用法を定めています。日本では総務省が監督官庁で、日本国内標準はARIB (電波産業会) が取り纏めをしています。
こうした仕組みで、世界中を駆け巡る航空機や船舶も、事故があったときに駆け付ける救急車やパトカーも、テレビやラジオの放送も、オフィスや家庭で使う無線LANも、最近では小学生まで持っている? スマートフォンも、他から妨害を受けて通信がうまく出来なくなったり、逆に他に妨害を与えたりすることが無いよう、協調して電波をうまく使いましょう、ってやって来ています。
無線機器を作るメーカーも、世界の中のどこの地域で使うものか、によって、仕向け地の法令に合わせた製品を企画・製造しています。
流通に携わる企業も、この仕向地に合わせた商品を輸出したり、或いは海外のメーカーから輸入し、それを対象となる地域で販売しています。
昔だと、アメリカのCB無線 (市民無線、でも日本の合法CBと違って送信出力も大きくチャンネルも多い) 機が、日本の一部で売られていて、出力に疑似抵抗をつけるとか、改造を施してアマチュア無線用に合法的に使用するとかでなく、むしろ強力なブースターをつけて高利得なアンテナを接続し、恐ろしく遠くまで飛ぶ(放送局並みの到達距離を持った)市民無線?! を積んだトラック野郎もいました。
幹線通りを走行中に前方の信号が赤になると、「ガチャコン!」とやると、信号が誤作動を起こして黄色点滅に変わることが、あったとか、なかったとか言われています。
そうした幹線通り沿いでは、トラック野郎の発する違法CB無線による電波障害により、テレビの視聴が乱れたり (TVI)、消灯していた蛍光灯が突如点灯したりと言うことが、あったとか、なかったとか言われています。
当然、周囲は大迷惑なので、街道沿いで電波法違反の取締が行なわれ、検挙される事例もありました。
それから数十年、今憂いているのは、(ドロップシッピングがメインのような)小規模な業者が、知ってか知らずか、日本国内での使用が電波法違反になるような無線機器を平気で販売していることです。
タイトル画像は大手B2Cサイトの商品として掲載されている、違法なTPMS装置のスクリーンショットです。他にも最近では、特にアンドロイドタブレットやドローンにも国内での使用が問題となる商品が平気で多数掲載されています。
売り手側は、買い手の無知に付け込んで、売り逃げすればよい、くらいの気持ちなのかもしれないのですが、購入して使用した者は電波法違反で検挙、前科持ち、親族の未来にまで影響が出る、という、泣くに泣けない状況となることまで覚悟して購入しているとはとても思えません。
勿論、日本向けではない無線機器の販売自体は直ちに違反ではないですが、しかし、日本国内向けとしては作られていない商品を、安価だから、と購入し、使用し、知らずに電波法違反を犯している人が多いように見受けられるからです。
電波法違反の取締を実際に行なうのにも原資がいるわけですが、それは電波利用料から支出されます。あなたが毎月払っている携帯電話料金にも電波利用料は含まれていて、もしあなたが不法な無線機器を使っていることにより検挙された場合、その検挙の為の費用は自分も一部払っていたという、誠に笑えない状況になるのです。
知人から送られたメッセージで触れているTPMSについて、説明文を読んでみますと。
> パワー: <10dbm /周波数: 433.92MHz
とあります。
まず、TPMSのセンサーが発する周波数は、アマチュア無線の430MHz帯の中です。いつかの私が受けた混信もこの周波数です。
出力10dBm未満ということは10mW未満、でも強く出ると10mW手前まで出るかもね、と読めます。
日本で無線局を開局しないで電波を出すには、用途や周波数に制限なく、著しく微弱な無線局である「微弱無線局」とするか、予め定められた周波数・用途・電波の形式・空中線電力とした、「特定小電力無線局」とするかですが、前述のTPMSは、とてもじゃないですけれども、微弱無線局レベルとは言えない出力ですし、特定小電力として認められた周波数を用いるものでもありません。
※参考までに書くと、携帯電話キャリアが、ビル内や宅内など、最後の不感地帯対策として設置を進めているフェムトセル基地局の送信電力は20mW、などです。この基地局は総務省に開局申請をして、立派な無線局として開局するのですが、それからすると、「10mW未満」が微弱無線局と言うレベルではないことがわかると思います。
総務省 電波利用ホームページ | 使用状況の詳細(平成29年6月現在) (335.4MHz~960MHz)
つまり、日本国内での使用は電波法違反となります。
周波数と出力から、欧州向けとして製造されたTPMSを日本国内で売りさばいているのでしょう。欧州や米国でTPMSが義務付けされ、TPMSの標準搭載が広がり、結果、だぶついたサードパーティー製の欧州向けTPMSを、まだTPMSの義務付けがされていない、TPMSの装着率も高くない日本国内に於いて「お得感」を出しながら売りさばいているという様子が見て取れます。
参考:
総務省 電波利用ホームページ | 微弱無線局の規定

※例えば、オレンジジャパンさんの
P405B (に使用されているTPMSセンサー、P417) は、特定小電力無線局で技術基準適合マーク付き (空中線電力:0.25mW)
しかし、現実にはこうした不法な機器が公然と販売され、B2Cサイト上にも多数のレビューが付いていることから、多くの購入者が何ら危機感を持つこともなく、購入し、使用しているものと推察されます。
そして、正規に指導を受け、手続きを踏んで企画・製造された、日本国内で安心して使えるTPMS機器があるのに、安価であればよい、と消費者が流れていってしまうような状況は、空恐ろしくもあります。
電波はITU地域に基づいて、世界を3つの地域に分け、その中で電波の有効利用を図っています。これは何も規制だけが目的ではなく、電波の有効利用を図ることによって混信が減り、通信効率も向上しますから、結果として皆が利益を享受することが出来るのです。
日本国内で使用できないTPMS機器を使うことは、他へ混信を及ぼすこともさることながら、違法TPMS機器を使ってる当人ですら、他からの混信によって通信効率が下がり、空気圧データの更新速度が遅くなったり、空気圧データが更新できないなどの不利益を被り、結果として空気圧の減少に気付かず、タイヤがバーストして当人が死亡、周囲が死亡と言った悲惨な結果になる可能性があるのだ、と言うことを一人でも多くの人に知っていただきたいと申し上げて、筆を置きたいと思います。
関連:
C-WESTブログ(最新情報から裏ネタまで) >> 2015年8月9日 【取り扱い開始】LDL社「TIRE WATCH」
> 各ホイール内部にそれぞれのセンサーを組み込みます。それらのセンサーは車内のモニターへ電波で転送されるのですが、それに使用する電波は通産省で定められており、日本国内で認可された周波数を採用しているメーカーは極めて少なく、違法電波を用いた商品が多くあり、問題視されております。LDL社のTPMSは通産省から認められた周波数を採用しておりますので、安心してご使用いただけます。
※通産省、ではないけれどね。でも言いたいことはわかります。
追記:
私の愛車に搭載しているアマチュア無線機(モービル機)、430MHz帯での送信出力は20Wです。
10mWの2,000倍の電力です。しかもアマチュア無線では空中線(アンテナ)の利得(ゲイン)に制限はありません。
強い電波によく飛ぶアンテナを組み合わせますと、その周波数でのその周辺にはものすごく強い電界が生じます。
違法なTPMSセンサーが出す、10mW未満の電力とセンサー内蔵の小さなアンテナから出た電波など、完ぺきに蹴散らして違法なTPMS機器は通信不能に陥ります。結局、日本国内用に作られていない無線機器を使うと不利益を被るのは使っている本人なんです。