
ハイブリッドカーや電動自動車が増えています。
関連し、ちょっと気になっていることがあって、
ハイブリッドカーやEVに搭載されているバッテリの交換等を、お仕事で、また、中には愛車のバッテリー交換をDIYでやる、という方も増えてきますね。
ネットを見てたら、
「ハイブリッドカー修理の
免許を取りました」
「EVの電池交換の
資格を持っています」
「
有資格者です」
と書かれている方もいて、どんな免許かしら、どんな資格かな?
と思ったら、どうも、労働安全衛生法・労働安全衛生規則に基づく、
「
電気自動車等の整備業務に必要な特別教育」
「
低圧電気取扱業務特別教育」 (2019/10/01に上記を切り離す前)
の「
特別教育」を受けた事をもって、
「
免許」「
有資格者」と仰っている方が多いようなんですね。
こういう書き方はちょっと微妙だなーと感じます。
みんカラは車に関するSNSという事でひとつ。
自動車用のホイールにタイヤを組込んで、空気圧縮機を用いて当該タイヤに空気を充てんする作業は大変危険な行為で、実際に充てん作業中の死亡事故も起きています。(ディーラーさん、タイヤショップさん、自動車用品量販店さん、ご用心ください。貸しピットでDIYな方も!)
タイヤ空気充てん作業死亡事故 記事 (全国タイヤ商工協同組合連合会)
では、「タイヤを組込んで空気圧縮機で空気を充てんするという『危険な行為』」を行なう作業者に対して特別な地位を与える「免許制度」はあるか、というと、これは免許制度等ではなくて、事業者が労働者に対して行なわなければならない「特別教育」を必要とする業務の内の一つとして規定されています。
※例えば、国家が認める「タイヤ空気充てん技能士」のような「称号」や「免許」、或いは「タイヤ空気充てん士免状」のようなものではないです。あくまで、事業者が労働者に行なわなければならない「教育」の範疇です。当該作業に対して十分な知識と経験、技量のあるタイヤショップの社長さんが新入りのアルバイト君に対し、厚労省の告示 (
安全衛生特別教育規程) で定められた内容で学科と実技の「教育」を行ない、それを記録し3年間保存すればOKなものです。
特別教育を受けるのは実際に作業をされる労働者の方 (社員さんやアルバイトさん) ですが、その特別教育を行なう (or どこかで受けさせる) 義務を負っているのは事業者 (会社等) です。だから、これに反した際の罰則は、労働者ではなく、事業者が受けるものですね。「無免許で空気圧縮機を使用し、タイヤに空気を充てんした
労働者が逮捕」みたいな話にはなりません。
※事業者自らによる教育でなく、外部機関によって行われる特別教育を労働者に受けさせ、その教育を実施した外部機関が発行する修了証 (賞状スタイルや手帳型、プラスチックカード) 等を受講した労働者本人が受け取ることがありますが、これは免許証・免状等といった性質のものではなくて、特別教育を受けた事を (現に雇用されている事業者以外に対しても) 一目で証明するために使用できるものです。
道路交通法に於ける免許制度は、公道に於ける自動車の運転などという、
人を殺しかねない危険な行為は原則禁止、その上で運転免許試験に合格した者に限り特別に免許を与えるものですが、(労働基準法から分離独立した) 労働安全衛生法の目指すのは、(労基法と相まって) 労働者の安全と衛生、最も重要なのは
労災の防止です。
ご安全に!
※以下は必要に応じてごらんください。
関連条文等:
労働安全衛生法 | e-Gov法令検索
> 第六章 労働者の就業に当たつての措置
> (安全衛生教育)
> 第五十九条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
> 2 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。
> 3
事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための
特別の教育を行なわなければならない。
↓
労働安全衛生規則 | e-Gov法令検索
> 第四章 安全衛生教育
> (
特別教育を必要とする業務)
> 第三十六条 法第五十九条第三項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。
|
> 四 高圧(直流にあつては七百五十ボルトを、交流にあつては六百ボルトを超え、七千ボルト以下である電圧をいう。以下同じ。)若しくは特別高圧(七千ボルトを超える電圧をいう。以下同じ。)の充電電路若しくは当該充電電路の支持物の敷設、点検、修理若しくは操作の業務、
低圧(直流にあつては七百五十ボルト以下、交流にあつては六百ボルト以下である電圧をいう。以下同じ。)
の充電電路(対地電圧が五十ボルト以下であるもの及び電信用のもの、電話用のもの等で感電による危害を生ずるおそれのないものを除く。)
の敷設若しくは修理の業務(次号に掲げる業務を除く。)
又は配電盤室、変電室等区画された場所に設置する低圧の電路(対地電圧が五十ボルト以下であるもの及び電信用のもの、電話用のもの等で感電による危害の生ずるおそれのないものを除く。)
のうち充電部分が露出している開閉器の操作の業務
> 四の二
対地電圧が五十ボルトを超える低圧の蓄電池を内蔵する自動車の整備の業務
|
> 三十三
自動車(二輪自動車を除く。)
用タイヤの組立てに係る業務のうち、空気圧縮機を用いて当該タイヤに空気を充てんする業務
電気自動車、ハイブリッド自動車等の整備業務に係る感電災害防止のための特別教育が変わります
> 近年普及が進んでいる電気自動車やハイブリッド自動車などは、対地電圧が50ボルトを超える大型の蓄電池を内蔵していることから、感電による労働災害を防止するため、従来から、電気自動車等の整備の業務に労働者を就かせるときに、
低圧電気取扱業務に関する特別教育を実施することが義務づけられています。
> 一般の低圧電気取扱業務の特別教育には、配電設備、変電設備等の内容が含まれますが、これら自体は電気自動車等に搭載されていない一方で、電気自動車等の整備業務に特有のインバーター、コンバーター、サービスプラグ等の内容は明示されていませんでした。
> このため、厚生労働省では、「
電気自動車等の整備業務に必要な特別教育のあり方に関する検討会報告書」(平成31年4月26日公表)を踏まえ、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)と安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)を改正し、電気自動車等の整備業務における必要かつ十分な教育内容となるよう、見直しを行いました。
> 今回の改正の主な内容 令和元年(2019年)10月1日施行
> 特別教育の対象となる電気取扱業務(低圧電気取扱業務)から、電動自動車等の整備業務を切り離し、対象業務として新たに規定します。 (労働安全衛生法第59条第3項、労働安全衛生規則第36条第4号の2)
(以下略)
※文中の、赤字・太字・大字・下線は筆者によるもの