
ハイサイドで転倒しました。スライダーは削れた上、マウントもねじ曲がっており、カウルもバキバキ・・・。
天候は晴れ、路面はハーフウェット、走り慣れたコースの2往復目の復路、右カーブでした。さほど深いバンクでもなく、攻め度65%ぐらいだったと思います。立ちあがりでアクセルを開けてトラクションを掛けていった矢先、リヤタイヤがスライド。「あっ、キタ・・・」と思いましたが、実はその後スリップダウンしたのかハイサイドしたのか記憶がありません・・・。自分はバイクにしがみつきながら滑走していったのか、飛ばされてバイクから離れていったのかも分かりません。
~ここから先の話は、記憶が途切れ途切れだったり、ぼんやりとした不明瞭な記憶を辿っています~
目の前で男性が「・・・ですか~!大丈夫ですか~!」と呼びかけてくれ、朦朧としながら起き上りました。「すいません、大丈夫です、有難うございます」と言ったような記憶があるのですが、あまりはっきりしません。
そして、バイクはその方が起こしてくれたようで、カーブのイン側路肩にスタンドで立ててありました。ウインカー等の破損パーツも近くに集めてくれています。
あたりを見回してみると、建設会社の作業小屋や看板があります。
見たことのある景色なのですが、どちらが帰り道なのか判別できません(!!)「とにかく近辺を歩いてみれば、体も落ち着いて意識もはっきりするだろう」と思い、周辺を歩きます。作業小屋の中に人がいて、目が合ったような記憶があるのですが、これもまた
“夢”だったような定かではない記憶。気付けばコーナーのアウト側を歩いており、
いつ道路を渡ったのかも記憶にありません。対向車線にあるバイクの上に、ヘルメットも置かれており、「ああ、いつの間にかヘルメット脱いだんか~・・・」みたいなことを思った記憶がうっすら。
なかなか意識が鮮明になりません。強制的に頭を働かせれば回復するのではと思い、家族に電話しましたが、子供が応答してしまい、会話がなかなか成立しません。いやこれは子供の稚拙な会話能力のせいではなく、自分の会話能力が低下していたのかもしれません。
「埒が明かんなぁ~」と思いながら、とりあえずどちらかの方向に向かってバイクを走らせれば、位置判断ももっとできるだろうと思い、バイクを走らせます。左ステップが半分折れて、シフトレバーが折れ曲がっており、足首をぐにゃっと曲げないとシフトできません。が、それ以外は走行になんら支障はありませんでした。バイクが向いていた方向に走り出し、なんとなく帰宅方向であるように思えました。しばらくして自宅にたどり着くことができましたが、
帰路もどこを通ってきたのか、断片的な記憶しかありません(怖)。
家内にどやされ、子供にキティちゃんの絆創膏を貼って貰いながら、強く意識していたのは、「バイク禁止にされないように、脳震盪はおろか、軽傷であることを印象付けるために、カラ元気をアピールだ!」という、ヘンな使命感でした(馬鹿)。この時も幾分ましにはなりましたが、依然意識は不鮮明でした。この後お風呂に入って体がほぐれ、やっと意識が鮮明になりました。
~状況から推測を立てる~
その晩、バイクやウェアやヘルメットの破損状況、身体の損傷状況と断片的であいまいな記憶を総合して、ハイサイドであったとの推測に至ります。尚、近くに住む医師である先輩にも相談し、極軽い脳震盪と打撲や捻挫ぐらいで、深刻な怪我は負っていないことも確認しました。
右カーブの記憶、バイクの損傷は全て左側、身体も左足から左腰に渡る打撲、左手首の捻挫、ヘルメット左上部に痕跡、なんとガソリンタンク左上部にも擦り傷があり、一度90°以上の回転があったことの証左です。
右サイドで唯一の損傷である、右肩周辺部や右鎖骨あたりの激痛。これは
スリップダウンでは生じ得ないほどの大きな衝撃があったことを物語ります。左半身を路面に激しく打ち付け、左肩を支点にして頭部も路面に打ち付けた結果、右肩あたりの腱や筋肉が引っ張られたのでしょう。今現在でもこの部分の痛みが最も大きく残っています。脳震盪により意識を失ったのですから、かなりの衝撃が頭部にあった訳で、ヘルメットが素晴らしく良い仕事をしてくれたことに少なからずの幸運を思います。ちなみに、閉じていたのにバイザーも吹き飛んでいました。
プロテクター入りの上下レザーウェアも同様、身体をしっかりと守ってくれました。レザージャケットの方はそれなりの擦り傷があるのですが、レザーパンツの方は良く目を凝らしてやっと分かる程度です。路面を滑らせてくれたレザーウェアの効力には本当に感謝感激雨あられ。
レザーパンツの前ポケット横にリベットがあるのですが、これがかなり擦り減っている。そこが当たる部分の下着がなんと破れており、皮膚も打ち身と火傷のような跡がありました。レザーパンツは一切破れていないのに。つまり、路面との摩擦でリベットが過熱し、内側の下着と皮膚を焼いたということのようです。
これらの物証により、スリップダウンでは無くハイサイドだったという結論が確定的に。
~ハイサイドの恐ろしさ~
戦慄を覚えたのは、「アウト側に飛んで行った」のではなく、「イン側に飛んで行った」ことです。というのも、アウト側に対向車が来る左コーナーはより慎重に、そうではない右コーナーはちょっとだけガンバる、という心持で走っています。転倒時バイクは大抵アウト側に飛ぶという認識から、転倒時でも他者を巻き込まないための心持だったのですが・・・。
ハイサイドというのは本当に恐ろしい。
恐ろしいついでに記したいのは、“スライドの記憶はあるけど、その後の記憶が無い”ことです。
①アクセルオープン
②リヤタイヤスライド
③そのままスリップダウンorグリップ回復によりハイサイド
という流れのうち、
②までしか記憶にない・・・。
グリップ回復した際に、パニックになってメモリーできていないのか、脳震盪により事後的に記憶が損なわれたのか、どちらか分かりませんが、どちらか分からないということだけでも恐ろしい。
後日の現場検証で、やはり大きめの右コーナーで、前半はブラインドではありましたが後半ちょうど視界がフルオープンになるあたりがハイサイド発生地点でした。
~再発防止への考察、スライドとグリップ回復を分けて考える~
ハイサイドというのは、“ブレークのちグリップ”のことで、“ブレークのみ”であればスリップダウンです。スリップダウンは飛んでいく方向も限定的で、身体やバイクのダメージも比較して少ない。でもハイサイドは、どこに飛んでいくか分からないし、身体やバイクへのダメージも大きい。
まずもって
ブレークそのものが起きないようにすることが重要です。
今回の件、僕の経験上では考えられない低負荷でのブレークでした。主には「タイヤ特性への無理解」が原因です。転倒後、純正タイヤであるPirelli Diablo Super Corsaのパラメーターを確認すると、ウェットグリップの低さがはっきりと表記されています。タイヤ溝の少なさからしてもそれは事前認識できなければならない。
私は大バカ者です。もう一度、私は大バカ者です。
この点をわきまえるだけでかなりリスクは減ると思います。(次期タイヤはRossoⅡにしよう)
もう一つの観点は、“カミソリのようなSSのグリップ特性”です。しっかりと路面に押し付ければ、絶大なグリップ力を生むのでしょうが、遅い速度でも中途半端なトラクションであればグリップしてくれない。そんなハイグリップタイヤを履いておきながら、車重が軽い。自重では路面への押しつけができず、遠心力に依るしかない。となると結果的に速度域を上げなければならない。SSとはいわば“
クルージングを許容しないバイク”と考えるべき。
次に、それでもブレークが起きてしまったあと、どう収束させるかです。
スリップダウンは御の字、最悪のハイサイドを起こさせないためには?
話は少し逸れますが、この考察により、
トラクションコントロール装備の重要性が飛躍的に上昇しました。「4輪ならまだしも、バイクのトラコンなんて、一体どこまで有効性があるのか?」と懐疑的でしたが、もうちょっと勉強したいと思います。スライド量を最小に抑えるような制御をするのか、スライド後のハイサイドを抑止するための絶妙なスロットルコントロールをするのか?大変興味が湧きました。(僕のDAYTONAにはそもそも装備されていませんが(笑))
話を元に戻します。「スライド発生時、アクセルを全閉しない」というセオリーもありますが、そもそも土台のバイクが揺らぎますので、右手首だけ絶妙にスロットル開度を保持するなんていう高等テクニックは、習得する自信がありません。そこでかろうじて着目するのは、サスセッティングです。これにより期待できる抑止力は極僅かでしょうが、とにかく考察してみます。ここから先は正しいのかどうか分かりません。
①リヤタイヤがスライドする
②サスが伸びる
③サスの伸びが限界になり、今度は車体が追随する
④グリップ回復
⑤サスが縮む
⑥サスの縮みが限界になり、今度は車体が追随する
⑦ライダーが飛ばされる
⑤及び⑥の挙動が急激であればあるほど、ライダーが吹っ飛ばされる慣性が強まります。ということは、サスのcompは柔らかくかつストローク量が多いほうが良いのでは?
反面、②の伸び量が小さい方が良い気もします。車体そのものの重量がスライド量を抑制(車体がリヤタイヤを引っ張ってくれるイメージ)してくれれば、キックバックのエネルギーも少量で済むのでは?でもキックバックからそのエネルギーが車体に伝わる効率も高く、やはり吹っ飛ばされる??
いやそもそも、①と②の間および⑤と⑥の間にはタイムラグなんてほとんど無いのでは?実際、記憶では①と②はほぼ同時だったように思います。そうなると下半身でのバイクホールドを強固にし、キックバック時には逆に下半身で柔軟に衝撃を吸収するかが肝要か?
尚、当時のリヤサス設定は、reb・comp共に最弱、プリロード設定は可変ではありません。
なんらかご見解をお持ちの方は、ご教示頂けると幸いです。鵜呑みにせず咀嚼をして自己責任の上で参考にさせて頂きます。
~“今後の糧”が得られない~
「記憶が欠損している」ということは、恐怖でもありながら非常に残念でもあります。以後の反省材料として当時の状況を振り返りたいのですが、それができない。となると対策も的を得ない。
変な言い方ですが、貴重な経験だったのに、それを今後に生かすことができない・・・。
~This is 麻薬~
バイクの難しさを思い知りました。身体でも頭でも。心技体コントロールの難しさだけでなく、この麻薬(と断言します。“身を滅ぼす”と分かっていながら、その
ギリギリの淵にある唯一無二の快感を追い求めてしまう)との付き合う姿勢についても。
テーマとして浮かんでいるのは、「“絶対に転倒しない”という結果を出し続けなければならない」ということですが、それはバイクの特性上夢想であるようにも思えるし・・・。
自分は本当に“河を渡ってしまった”んだなぁ、と振り返ってももはや戻る気も無し(笑)
~今からバイク選びをされる方々への、ハイサイダーからの一意見~
バイクの面白さといっても、他にも色々あると思います。追い込まないとエンドルフィンを感じられない種類の快楽ではなく、車で言うイタフラのように、スペックやスピードではない官能性に魅力を感じられれば、より安全だと思います。むしろそういう魅力を感じ取れる方が、オトナと言えるのではないでしょうか。
最新型にはスペックは劣るが、数年前のDucatiなんかは生き物のようなフィーリングが脈打っているように見受けます。MotoGucciのV7あたりも、濃密なライドフィールとして非常に高い評価を多々見受けます。
また、過去にZRX1200-DAEGをレンタルした経験から、排気量と危険性はあながち正比例でもないと思います。低速、低回転域トルクの豊かさ(というか、むしろ暴力的でもありますが)から、中低速域でリアステアをビンビンに感じながら楽しめる特性があり、鋭利にコーナリングしてはじめて官能を得られるSSよりは格段に安全だと思います。
また、詳しく知らない自分が言うのもなんですが、トラコンやABSは、2輪においては絶大なるリスクヘッジになるのではないでしょうか。
そして、
装備類の重要性。僕は今までまったく装備類には無頓着だったのですが、今回のバイクリターンで、はじめてプロテクター入りのレザーウェアを着用しました。「こんなちっぽけなプロテクターでどれだけ身体が護られるのか?レザーといっても、テキスタイルを重ね着して厚みを作れば変わらないのでは?」と、懐疑的でしたが、今回の一件で文字通り体感しました。「まずこれだけは揃えなさい」とご助言頂いた導師には感謝してもしきれません。
本当に有難うございます。
~結び~
う~ん、結びの文章として「皆さんはこのようなことの無いようにお気を付けを!」なんていうのが普通なんでしょうが、そんな警鐘じみたことを発する資格さえないような愚か者だと自認します。ですから、とりあえず発生した事実と自分の感想や考察を記すのみとし、後は読まれた方々にお任せすることとします。まあ、ブログとは元来そういうものですけどね。
ただ、自分のリターン活動に応援、共感、支持頂いていた皆様への申し訳ない気持ちはくっきりと在ります。この度は本当に申し訳ありませんでした。