原子力関係閣僚会議であいさつする菅官房長官(左から2人目)
=21日午後、首相官邸
- 知られざるもんじゅの底力、感情論の廃炉が導く技術立国日本の「死」
- 奈良林直(北海道大学大学院特任教授)
- 「約1兆円の国費を投じながら20年以上ほとんど運転していない実態を重くみており、もんじゅは事実上、廃炉に向かうことになる」
松野文科相は「説明不足があった。これからは福井県や敦賀市のみなさんに説明、調整させて頂きたい」と述べたが、地元の福井県の西川知事は「政府の無責任極まりない対応であり、誠に遺憾だ」と批判したとのことであり、我が国で唯一、西川知事が正論で主張されている。
経産省は、もんじゅに代わる炉として、燃料を増やせない高速炉で、フランスで計画中の「ASTRID(アストリッド)」への協力を通じ、日仏共同研究を軸にした計画をつくろうとしている。
フランスの原子炉はタンク型炉といって、大きなナトリウムのタンクに原子炉の炉心や熱交換器、ナトリウムのポンプなどを吊り下ろしている構造で、耐震に弱く、日本では建設できない。国際協力は、単にお金を出せばよいといった安易な協力では、立場が弱くなり、我が国から実験結果などの十分な成果を提示しなけれれば、軽くあしらわれるだけである。
冷却材にナトリウムを使う原子力機構の実験炉「常陽」(茨城県)の活用も検討するとしているが、「常陽」にもどってしまうと我が国の高速炉開発は、1978年まで戻ってしまう。
>>高速増殖炉「常陽」
規制庁はもんじゅの運営に対してレッドカードの勧告を突きつけたが、これは組織としてしっかりした組織にするようにということで、もんじゅを廃炉にしろとは一言も言っていない。西川一誠知事は
「規制委員会のこれまでの助言も親切さが欠けている。運営体制は、JAEAと文科省、規制委の3者が当事者として責任を持つべきだ」
と述べられており、地元企業からも、規制委の対応を「規制委がJAEAの言い分に耳を傾けず、強い権限を背景に一方的に“判決”を言い渡した」と「弁護士不在の裁判」の実態を批判している。
私は、昨年12月12日に第三者としての客観的な立場で、朝から、もんじゅを見学した。格納容器内や開放点検中のAループのセル内にも運良く入れた。ご案内いただいたのは20年前のナトリウム漏えい事故を対応された方で、このようなプラント全体を熟知された方は、もう極くわずかとのこと。
格納容器内には、炉心真上の回転プラグ、燃料交換機などが一望できる。中間熱交換器室、循環ポンプ室、セル内には熱応力を逃げるためにタコベントのように曲がりくねって引き回された配管と、それを支持する堅牢なV字型サポートや熱膨張を避けて耐震サポートとなるメカスナッバーやオイルスナッバーなどが取り付けられ、分厚い保温材とラッキングが被された配管は、内部に漏えい検出器の電極や、ナトリウム漏洩の際に生じる気体を吸引して漏えいを検知する系統、ナトリウムが凍結しないように加熱するおびただしい電気ヒータや熱電対などが整然として取り付けられていた。
補助建物内の蒸気発生器(エバポレータと過熱器)も含め、プラント内には塵ひとつ落ちていません。とても20年間経ったプラントとは思えない。世界中の約百基のプラントを見ているが、メンテナンス状況は、運転中の軽水炉と比較して、決して遜色がない。保安規定違反とされた、保安規定対象外の監視カメラ180台も新品に取り換えられていた。中央制御室もガラス越しに見ましたが、中操の人たちは、真剣にプラントの状況を把握して働いていらした。
メーカの技術者で、開発当初から高速炉をやっていた方は、もうほとんど退職するか異動になっている。初期の方々の大部分は引き上げて、もうもんじゅにはおられないのだが、現在も技術を引き継いた、メーカや電力会社からの出向者の方と共に機構の方がおもりをしている。
もんじゅは当初、機構と電力の方が各50%ずつで運営されていたが、現在は40%の機構の方と10%強の電力出向者、残りは数年で交代するメーカや、もんじゅを支える地元企業等で運営されている。30年前のもんじゅ建設当時からもんじゅに関わり、プラント全体を熟知された方は、もう極くわずかである。それでも、新人を採用し、2直、5班で、運転を経験させてプラント全体系統を理解させて、それから保全活動に就くようにして人材育成をしている。もんじゅのプラントとしての運営自体は、他の組織を持って代えがたい。
仮に、今から次世代高速炉の設計をして20年後に建設できたとしても、その新鋭設備の運転保守ができなければ、現在と同じことが繰り返されるだけである。新設の高速炉を設計して建設するには、コストも1兆円以上かかる。
現在のもんじゅを廃炉にするとナトリウムを使った原子炉なので、おそらく数千億円かかる。つまり、1兆数千億円かかることになり、「現時点で、そんな大金をはたいてまで、高速炉を開発する意味はあるのか」という主張が出て、我が国の高速炉開発がとん挫してしまうことは、ちょっと考えれば、すぐわかることである。有馬委員会が作られて、熱心に活動されたが、具体的な組織のビジョンが描けていなければ、このような結果になることも、また当然である。
さて、では、どうすればよいのか。
- 私は、現在のもんじゅの運転の組織に加えて、機構の高速炉の研究者や管理部門やさらに退職したOBも加えて組織をしっかりし、20年間のもんじゅの事故やトラブル、運転保守の課題を、徹底的に調べ上げ、次の世代の教訓や次世代高速炉の設計上の留意点とすべきだと主張したい。これができなければ、田中委員長の勧告に応えたことにならない。20年後にまた同じことを繰り返すだけだ。
1995年のナトリウム漏えい事故であるが、これは熱電対という温度センサーを収めたステンレス製の鞘管が、流体の渦で共振して、その振動で折損し、その割れ目からナトリウムが漏えいしたのだ。
専門的には、「流体弾性振動によるロックイン現象」と呼ぶ。
次いで残念なのは、2010年に再稼働を始めた途端に、燃料を出し入れする大型円筒金具が落下したことだ。円筒内の平板金具が回転すると、吊り上げのための爪が外れてしまう構造上の問題と、5年で交換が必要な回り止めのゴムの劣化が原因であった。
以下はここでは省略する。続きは
>>
知られざるもんじゅの底力、感情論の廃炉が導く技術立国日本の「死」~事実誤認があるNHK「クローズアップ現代」
さて、
現在のもんじゅはどうなっているのだろうか。
もんじゅ内部ルポ/産経新聞(9月28日)
「2位じゃダメなんでしょうか?」
とか
「300年に一度の洪水の為にスーパー堤防を作るのか?」
など、短髪鬼蓮舫が事業仕分けという茶番劇で残した迷言は、こんなものは到底政治家の発言とは考えられないものだ。政治家は経営コンサルタントではない。
政治的な決断というものは、今必要ないからと守銭奴でいいはずはなく、それこそ、我々の子孫のために100年先を見据えた投資が必要である。
前述のとおり、フランスの「アストリッド」では駄目だ。「常陽」に戻るのも酷だ。
この際、お金の問題ではないだろう。夢の原子炉を夢で終わらせるわけにはいかない。
(おわり)
No.341
Posted at 2016/10/02 02:11:42 | |
トラックバック(0) |
原発 | ニュース