「高パッソ!」
久保田利伸はシャウエッセンだと思っていたら
VWの新コンパクトのUP!のCMに出ていておどろいた。
アメリカっぽいのにドイツと縁があるんだなぁと・・・。
UP!自体はキャラクターとしてはミニマムトランスポーターとしては
かつてのポロやルポ、あるいはFOXのようなキャラクターだ。
トヨタで言えばパッソやAYGOということになるのだろうが、
国内でこのクラスというのは非常にガーリー(笑)な車が主流だ。
ゆるふわ愛されな外観、カフェみたいな内装、日焼けしないガラス、
さらには美肌効果があるらしい美顔機がオプション設定されるなど、
およそ、車の本質以外の部分で熱い勝負が繰り広げられている。
世の中にたくさんあるありがちな意見で申し訳ないが、
質実剛健を是とするVWがゲルマン的な生真面目さで投入してきた商品がUP!である。
もともと小型車好きの私としては早く乗りたかったが、
多忙だったためにようやく試乗することが出来た。
●外観
欧州的なきらびやかな加飾ではなく、かつての欧州車のような飾り気のない意匠。
このそっけなさは「うん、これでいいんだな」という説得力がある。
本当にメッキモールが必要なのか、ドアミラーに方向指示器が必要なのか、
などベーシックな車も清々しさを思い起こさせるのに十分な意匠だと思う。
とくに、リアのガラスハッチはスマートフォンをイメージしたといい、
すっきりしていてクールで機能的というキャラクターを表現しているように感じた。
ホイールを四隅に追いやって、フェンダーのフレアを強調していて
このあたりは初代パッソ同様に「感覚的安心感」を与えている。
こういう車は華奢に見えるといけない。
そもそもの車体の小ささに華奢な印象が重なると
弱弱しいネガティブな印象を持たれかねない。
スタイリング上、ドアガラスが非常にすっきりしているのが気に入った。
ドアフレームとの段差も小さくて格好がいい。
展示車は4ドアのhigh UP!だが、リアドアのガラスも非常に段差がなくてすっきりしていたが、
このガラス、実はスイング式で昇降はしないのだ。
こういう点は実に潔い。
トヨタのAYGOもリアドアのガラスはスイング式だが、欧州では気にされないのだろう。
日本だとなかなか難しいだろうなと思う。
「後ろに人を乗せるかもしれないから・・・・」
こういう極度な「かも知れない」が頭を駆け巡り、
しばしば国産のベーシックカーは不要な装備が付いているものだ。
ベーシックな車ながら恥ずかしく見せないこの外観はなかなか優れものだと思った。
●内装
内装もいたってベーシックでいまどき珍しいセミトリムである。
個人的にはドアが外板色と一緒というのはおしゃれで好みだが、
夏場に熱くなるという欠点もある。(子供のころ、H11ミニカで何回もやけどをした)
ザ・ビートルのように塗装された樹脂部品でもいいがそれだとお金もかかるので
まぁ、こういう車の場合、仕方がないかもしれない。
これ以上の快適性を求めるならポロをどうぞということか。
この安っぽさをポップな良さと受け取れるのが、
ダッシュボードも外板色と同じにできるというところだ。
かつてのベーシックカーはダッシュボードも鉄板むき出しで、
シンプルかつおしゃれだった。
打ちっぱなしのおぞましいグレーの革シボのインパネにするくらいなら、
いっそ、こういうデザインの方が魅力的だ。
シートもハイバックシートとなっており、コストを非常に厳しく管理した一方で、
自発行式メーター(タコつき)を採用するなどお金がかかるアイテムでも
奢っている部分も見受けられる。
ただし、このメーター。ステアリング位置を調整したら速度計が隠れてしまう。
全然成立していない気がするが、ここがVWらしくない。
そういう部分をキチンと作りこんでこそ素っ気無さが質実剛健にかわるというものだ。
上級グレードは日本使用の常で豪華装備てんこ盛りで少々キャラクターにそぐわない点がある。
まぁそれは仕方ないか・・・・。
●走行性
短距離ではあるが、UP!に乗せてもらった。エンジンのかけ方は少し変わっている。
駐車状態ではギアが入っているので、セレクターをNに入れないとエンジンがかけられないのだ。
エンジンをかけると、バイブレーションが容赦なく乗員に伝わる。
1000ccくらいの3気筒エンジンの車はこんなものだとは思うが、エンジンマウントが堅いのか
国産の3気筒コンパクトカーよりはバイブレーションが強く感じられる。
いまだにバランスシャフト無しでは3気筒エンジンはつらいようだ。
セレクターをDに入れて公道へ出るが、クリープがないためアクセルを踏み続けないと
前に進まない点は違和感がある。私はMTを運転するときもアイドルでクラッチをつなぎ、
クリープさせることがあるが、UP!はそれがうまく出来ない。違和感がある。
一般道で走ると、自分で運転しているのに、
あたかも誰かに乗せてもらっているときのような不思議な感覚に苛まれる。
ASGと呼ばれている5速MTベースの変速機は、車が自分で最適なギアを選び、
変速してくれるのだが、MTベースのため、トルク切れが顕著に感じられる。
ATの場合はガツンと変速してもショックをトルコンが吸収してくれるが、
ASGは本当にマニュアルの変速を車が代行してくれるだけなので舟をこぐような動きになる。
これが、本当に熟練したドライバーのMT操作なら車が舟をこぐこともないのだが、
あいにくASGはその域には達していない。
全開加速を試みたが、75psの1000ccエンジンの動力性能は街乗りで実用十分。
ただ、余裕はなくギアを賢く選んでキビキビ走るタイプだ。
キャラクターを考えれば不足はまったくない。
ASGにはマニュアルモードがあり、このマニュアルモードを駆使した
シフトダウンはなかなかすごい。回転合わせを自動でやってくれるので
なかなか難易度の高い「時速30キロから1速へのシフトダウン」
でもショックレスでやってのける。これはすごい。
ステアリングの操作感はドイツ車によくあるどっしりとしたもので
キビキビ感よりも高速での安定感を重視したものだ。
個人的には好みだが、操作力が重いという人も居るかもしれない。
燃費は23.1km/Lと一昔前の国産コンパクトカー並だが、
とくに街乗りに強いCVTとは違い、ASGは高速道路が得意だと思われる。
●まとめ
短期間の試乗であったがUP!はなるほど大衆車メーカーとしてのVWのすごさが
伝わってくる一台であった。安っぽさを軽減する優れた工業デザイン、
合理的で割り切ったボデー設計、ドイツ車らしい安全装備の充実と安定した走り。
国産のKAWAIIコンパクトカーと比べると非常に個性的に感じられた。
このUP!は日本で市民権を得るかどうかはVWにとっては重要なことだと思うが、
個人的には本当の意味で市民権を得るとは考えられない。
それはやはりASGの違和感が拭い去れないからだ。
MTでは日本では売れない。
オートマじゃないと!という読みはある意味正しいと思う。
(個人的にはMTを限定車でいいから入れて欲しいが)
「オートマ」じゃないと売れないというのなら実績のあるDSGを入れればよかったのだ。
もちろん、VWは軽量コンパクトなことを理由にASGを選んだのだと理論武装しているが、
いろんな車に乗りまくっている私ですら違和感を禁じえないこのASGの車を買う人は
やはりマジョリティではないと思う。
50歳を過ぎたうちの母がこの車を乗りこなせるかどうか想像してみると、ちょっと厳しいと思う。
もちろん、半日運転すればASGにも慣れてむしろUP!の質実剛健としたカッチリした魅力も
伝わるのだろうが、ディーラーで近所を5分くらい運転するだけだと違和感だけが付きまとう。
日本でコンパクトカーを選ぶ多くの層は車に関心がない人で恐らくイージーさを求めている。
CVTとは言わないまでもせめてATを持っていればお勧め度が一気に上がったのに残念だ。
営業マンが「慣れれば大丈夫ですよ」「面白いですよ」と言わないといけないコンパクトカーは
日本で本当の意味で受け入れられるのは難しいだろう。
もし私がUP!に乗るならマニュアルのmove UP!(2ドア)かなぁと思う。
ASGは要らないのでMTで安く乗りたい。価格は145万円くらいなら魅力的だ。
149万円のASGつきのカタログモデルではシティエマージェンシーブレーキが標準で選べ、
ESPやサイドエアバッグも標準で149万円スタート言う価格は魅力的だ。
ところが、4ドアのmove UP!になると価格が168万円と19万円も上がってしまう。
リアドアが付いたくらいの装備差でこの価格差は明らかに不自然だ。
ちなみにUKでの価格差は5.7万円程度であり、明らかに説明の付かない価格設定だ。
最上級のhigh UP!になると183万円と4ドアのmove UP!から15万円高くなっている。
UK仕様で比較すると22.8万円差と、日本仕向けの方が価格差が小さいが、これはUKの
エンジン仕様差を考慮しているものと思われる。(UK仕様のmove UP!は60ps仕様である)
参考までにUK仕様のmove UP!の2ドアは148.8万円、4ドアは154.5万円。
4ドアのhigh UP!は176.8万円である。
ただし、日本仕向けはシティエマージェンシーブレーキが標準装備であることを考えると、
2ドアのmove UP!とhigh UP!はまずまずの価格設定といえそうだ。
特に2ドアのmove UP!はUK仕様にはない75PS仕様のエンジンが選べてさらに安全装備も充実している。
これでMTが選べたらMTしか乗れないおじいちゃんたちに最適な一台になりえたのに・・・。