<前編はこちら>
●フラッグシップ2.0Z
ほぼ全てがストリームに寄せて作られているウィッシュだが、そのラインナップ中で最も開発者達の憂さ晴らし?的なこだわりが垣間見られるのが、2003年4月にデビューした2.0Zである。
種々の事情で3列シート車を購入しなければならなかったが、スポーティな走りを諦めたくないという人に向けたスポーツグレードで1.8LのX_Sパッケージと比べると、NOx対策とスス対策でリーンバーンをやめた1AZ-FSE型直噴E/Gを積み、専用のクイックな油圧P/Sや小型車枠を超えてワイドトレッド化を果たした4輪独立サス、EVO感(ベース車の改造版的見え方)あふれるオーバーフェンダーを身に纏っている。ほかにも専用オプティトロンメーターや専用キャプテンシート、TRC+VSCなどメカニズム面で専用装備のオンパレードなのが面白い。
ウィッシュが標的とするストリームのスポーツ仕様「iS」比で大胆な差別化が図られている。
これはストリームの息の根を止めるにはストリームの精神的支柱であるスポーツ性で勝たなければならないと考えたからだろう。
標準E/Gとなる1.8Lはストリームの1.7Lより余裕があるが、シャシー性能的には4独サスと準4独サス(FFはイータビーム式)であることやストリームの油圧式P/Sに対してウィッシュがEPSであることなど実用面で困らない。しかし、口うるさい好事家が注目するシャシー領域の仕様で劣る部分があり、それを取り戻すのが2.0Zと言うわけだ。
本当に細かいところではイプサムやウィッシュの1.8L_FFは左右不等長ドライブシャフトだったのに、ウィッシュの2.0Lは左右等長ドライブシャフトを採用しているなど機構面で奢られている面もある。
当時のZグレードと言えばカローラシリーズのようにVVTL-iを搭載した2ZZ-GE型をはじめとするスペシャルE/G仕様であることが条件だった。ノーマルエンジンのエアロ仕様はSグレードが当てられていた。ウィッシュの場合は、E/Gこそ2.0Lにスープアップしているが、Gグレードと同じE/Gである。これはストリームが2.0L仕様にスポーツグレードと標準グレードが設定されていることに倣ったのだろう。
だからストリームに高回転型NAを積んだタイプRが存在していれば、恐らく2ZZ-GEを積んだZエアロツアラーTRDタイプMが追加されていただろう。(見たかったな・・・)
ウィッシュが積む1AZ-FSE型E/Gは2Lながら158ps/6000rpm、19.6kgm/4000rpmという一昔前の3S-GEに匹敵するようなパフォーマンスを発揮する。スポーツエンジンというわけではないのでバルブ挟み角は27.5degとハイメカツインカム並みの小ささをタイミングチェーンにて実現している。インマニと吸気ポートの間に
気流制御弁を設定し片側のポートを絞ることで吸気の流速を上げ、低水温時の霧化促進や低回転高負荷時の燃焼効率・体積効率を上げている。高回転域では吸気ポートを開きタンブル流を促進してより良く燃やすという二面性を持つ。ウィッシュはあくまでもファミリーカーとしての性格を持っているのでハイオク指定の高回転型よりレギュラーが使えるトルク型E/Gの方がマッチングは遙かに良いだろう。
ストリームに寄せきった標準系と比べると2.0Zは迫力あるオーバーフェンダーや大径タイヤ、キャプテンシートなどおっ!と思えるマニアックな仕様設定はストリームびいきの私のとっても魅力があった。
現役時代に街で死ぬほど見かけたウィッシュだったがZだけは見ると目で追ってしまう迫力があった。白黒は当然の頃、青や赤と言ったスポーティなボディカラーもよく似合っていた。ちなみに今回の試乗車はガンメタだが、デザインテーマのメタル・カプセルをよく表したスポーティなカラーである。
ウィッシュはストリームと比べられることが宿命で、パクりだと言われることも宿命であった。だからこそフラッグシップの2.0Zだけは敢えて3ナンバーにし、17インチを履かせ、6人乗りにしたのでは無いだろうか。
●走行性能 市街地
トヨタ初のスマートキーで解錠し乗り込んだ。
ドアハンドルのグリップがつかみやすくドアを閉めやすい。ドアポケットをケータイの置き場所に使う人がいるのでウィッシュの様に下が開いているデザインは嫌われがちだが、一度握ればその使い心地の良さが気に入るはずだ。
試乗車にはディーラーオプションの木目調パネルセットが装着されているので
2.0Zオリジナルのカーボン調パネルよりも豪華に見える。
スマートキー装着車なのに従来通りの鍵がついておりイグニッションキーを差し込んで回すと1AZ-FSE型E/Gが目を覚ます。
4点支持マウントのRHは液封、それ以外に全てD/D(ダイナミックダンパー)が着くというフルコース状態の割にクランキング振動やアイドリング時の振動が大きいことが気になった。D/Dはエンジンノイズ領域、液封はアイドル対策用なのだろうが、こもり音と振動がかなり気になるレベルである。試乗した個体はへたりきっているのかも知れないが、少なからず車体系の共振が起きていないだろうか。
特に2列目シートに乗せて貰ったときに運転席以上に2列目が揺れているのは気になった。振動の腹に軽量なキャプテンシートの組み合わせなのが事態を悪化させている可能性がある。ウィッシュのキャプテンシートが2.0Zにしか装備されない理由は明らかに酷いアイドル振動が関係するかも知れない。(3列目のアイドル振動は良好である)
手元に近いインパネシフトを操作し、足踏み式PKBを解除した。二度踏みで解除出来るPKBは右手でリリースするストリームと比べて使用性で優れる部分だ。
発進時、アクセルをちょんと踏んだ瞬間に回転数が上がらずに駆動力が立ち上がるのでトルクの豊かさを味わえる。CVTと言えば発進機構(クラッチ)に弱点を持つものが多かったが、1997年に日産がATで実績のあるトルクコンバータを発進機構に使った「ハイパーCVT」を開発して以来、トルク容量や信頼性が向上したことで一気に普及期に入った。
ウィッシュが採用する「スーパーCVT」は2001年のオーパから採用が始まったK110型と呼ばれるCVTである。市街地走行では発進後2000rpm近傍で回転上昇が止まり、目的の速度に近づいて加速度が落ちてくると一気に変速して約1300rpm付近で固定される。この回転数で駆動力がしっかり出ているのは違和感が無く好感が持てる。トルクがあるため、低出力車のCVTにありがちな先にE/G回転数を上げてから車速が上がるロジックが不要なのだろう。
それでも交通量の多い道路への合流でタイミングを見て加速するようなシーンでは、応答遅れがある。もう少しレスポンスが良いと気持ちいいが、私の普段のタイミングより早めにアクセルを踏み始めておかないとチャンスを逸してしまう。発進した後は、3000rpm~4000rpmを維持したまま比較的元気な加速を見せる。
一般走行時は1300rpm近傍一定で変速されるが、アクセルを離すとその回転を維持して燃料カットをしながら転がっていく。2005年頃のトヨタ車になると1000rpm近傍で走らせてアクセルオフ時に1300rpmに高めるような制御が入るのだが、ウィッシュの制御の方が人の感覚には近く好感を持った。
コツとしてはアクセルの踏み方を意識して緩やかに踏み込むとCVTが馬脚を現しにくい。速度を上げたい場合、ゆっくり踏み始めて車輪が転がり始めてからアクセル開度を大きく開けてやるとウィッシュの弱点をフォローしてやることが可能だ。ここでパカッと素早く踏み込んでもレスポンスが悪く、加速がモタつくような感覚に陥る。個人的な経験から言えばプラグを新調してイリジウムプラグなどを奢ってやると、幾分かレスポンスがマシになるかも知れない。
一方で後から対策出来ない現象で圧倒的に気になるのはベルトノイズだ。駆動時も「ヒーン」という高い周波数の音が聞こえるが、アクセルオフと共に「ミャーン」という駆動時よりも大きいボリュームのノイズがキャビンまで侵入する。窓を開けて走行すれば歩道側の壁に反射しているので外にも放射されているような大きな騒音である。
車速上昇によるロードノイズや空調、オーディオの音である程度誤魔化せるが、オーディオ音量が小さく空調の作動音が小さく、車速が低いと「壊れてるのでは?」と思うほどの高周波ノイズが聞こえてくる。2001年のオーパで採用されたトヨタ初の「スーパーCVT」なのだが、インターネットで検索したところ、みんカラや価格ドットコムで当時のオーナーがこの現象を既に指摘していた。1980年代から東京モーターショーのショーモデルではCVTの開発を行ってきた痕跡がうかがい知れるが、デビュー作はどうしても未完成な部分があるようだ。
NV現象で書き加えるならば、ハイギアで上り坂で走行する際に耳が圧迫されるようなロックアップこもり音も気になった。E/Gマウントから伝わる振動だけでは無く、ロックアップによってE/Gの微妙なトルク変動が直接伝わってしまっていると思われる。CVTは特に低回転を好むので対策としてトルク変動を吸収するダンパーを追加しているのだが、それでも賄いきれない入力があったのだろうか。
一般的なCVTではロックアップこもり音を嫌がって回転数を上げてトルクを稼ぐのが定石だが、2.0ZはNV性能よりも良好なドラビリを優先したのか1300rpm近傍を維持して走行している。市街地や郊外の一般道を走っている限りはCVT特有の変速してから加速する特性が無く、ミニバンにありがちな鈍臭さもない。乗り心地は若干堅くイプサムと比べると相当悪いが、その分ブレーキがリニアに利くなどウィッシュらしい特徴もある。
ウィッシュのNV性能は低周波も高周波も悪いというちょっと残念な一面がある。高周波ノイズは効果的な吸音材の設定が必要になるのでそれなりの対策費が求められるので車格からいってウィッシュがツラいのは理解できる。ただ、ノウハウの無いCVTとは言え開発中に明らかに分かるはずの突出したノイズなので対策が欲しかった。低周波系は骨格で決まってしまう性能のため、コンピュータを使ったシミュレーションで共振をずらすなど丁寧にやっておかないと後で施しようが無くなる。(重りを乗せるなどの対策手法はあるが限界がある)
こもり音は200Hz以下の耳で聞こえにくい領域で分からない人も居るようだが、もしこもり音が何かを知りたければウィッシュに乗ってみると良い。こもり音が如何なる音かを教えてくれるだろう。
一般的に欧州車は低周波が悪いけど高周波は良いとか、日本車は低周波だけは対策しているとかそういう傾向があるものだが、ウィッシュの場合は高低どちらも目立つというのは残念である。試乗時には同乗者からはフロア振動が大きいと指摘があった。この辺りは大急ぎで開発した事による検証不足が現われている可能性がある。
さらに2.0Z特有の問題として215/50R17というワイドかつ大径タイヤを履いている影響で轍にステアリングを取られやすい。加えて発進時に右にステアリングを取られるような現象も存在する。この辺りはキャラを立たせるための背反であるが、195/65R15を履く他グレードでは現象は小さくなるはずだ。
この様なネガのある幅広大径タイヤを履いているが、最小回転半径は5.4mとストリーム2.0iSより0.1m小さい。車幅もワイドな1745mmだが、視界の良さ(右折時のAピラー死角は大きめ)と、よく切れる前輪のお陰で比較的運転しやすい部類だと感じた。
20年前のモデルながら支援機能が充実しており、バックガイドモニターとブラインドコーナーモニターが装着されており相当効果を実感した。初代イプサムの時は、クリアランスソナーを装備して運転支援していたが時代が進んでいる。全幅が1745mmとワイドなのだが2023年の今となってはカローラと同じような車幅だ。更にドアミラーも四角く見易いので幅寄せが非常に容易なので5ナンバー感覚とは言わないが、実質的に大きく困ることは無い。(絶対的な車幅が物を言うすれ違いは難しいケースがあるが)
ウィッシュは例えば一人で通勤に使っても、ステーションワゴン的な感覚で扱えてミニバンの様な空気を運んでいる勿体なさがない。ストリームが秀でていたのは正にそれで、例えば7人乗りヒンジドアを持ったオデッセイやシャリオ、プレマシーなどはファミリー色が強すぎてパーソナル感が無い事から若年層のシングルやカップルからは選ばれにくかった。ストリームやウィッシュの発明はステーションワゴン派生的な7人乗りとしたことで今まで3列シート車を選ばなかった層を振り向かせる事に成功した。
背の高いステーションワゴンなので2列目に子供を乗せて保育園に送迎しても、ロングホイールベースのおかげで運転席シートバックを脚で蹴られることもなく広々としたキャビンは子供にも好評であった。フロアが低いので子供単独の乗り降りも可能で、ドアさえ保護者が開閉してあげれば何ら問題がない。ただ後席ドアの節度感が不足しており、普通なら止まるような角度で保持してくれない。油断すると大型ドアが開きすぎて隣にドアパンチしてしまうところだった。子供を乗せる前に私は気づいていたので不祥事は起こしていないが、これは買い物など両手が塞がっていたりしたら大変だ。ドアチェックがへたっているか、元々大型ドアに対応しきれていないのかも。
現代の保育園の送迎風景を見ていると、軽スーパーハイトから慌ただしく降りてきたお母さんがスライドドアから子供を降車させ、リモコン操作でドアを閉め、振り返ること無く、閉まるのを見届けず足早に玄関に向かって歩く姿が散見される。スイングドアを持つウィッシュは、それだけで現代のファミリー層には受け入れられないのかもしれない。(我が家も現代のファミリー層なのだが…)
大きすぎず小さすぎないパッケージングは、ウィッシュ(≒ストリーム)ならではのものである。蛇足だが、過去に試乗した1.8Lはもう少し全てがマイルドだったので2.0Zとの差を見ると市街地を走る分には何ら困ることは無い。むしろステアリングがとられるとか、段差で強めのショックが出るとか、発進時に一瞬もたつくなどの癖が無い事が喜ばれるだろう。
●走行性能 高速ツーリング
せっかくなので高速道路を片道200km走るようなツーリングに連れ出した。ETCゲートをくぐり合流路で加速させると3000rpm程度を保ったまま充分以上の加速を見せる。この印象は別日に家族4人+荷物を載せて走らせた時と印象は変わらない。CVT特有のトルクが出ているところに固定して変速比だけで加速していくメリットがここにあると言えるだろう。
100km/h時のE/G回転数は1900rpm付近を差している。初代イプサムは2400rpm付近なのでかなりハイギアードな印象だ。もちろん定常走行から加速すると変速比固定で車速が上がるが、少し踏み込むとCVTらしくE/G回転が上がってから加速する。駆動力自体は余裕があるので155psの余裕を活かして遅い先行車の追い越しなどは痛快である。
初代イプサムで感じたようなロングホイールベースを活かしてゆったりとクルーズしていく感覚はウィッシュにはない。路面の細かい凹凸でサスがバタつくなどちょっとした不快感があるものの、動力性能に余裕がありコーナーもワイドトレッドを活かしてクリアできる。当時は違法だった120km/h巡航でも余裕があり、ちょっとハイパワーな車が持つ余裕を楽しむ事が出来る。追い越しも短い距離で加速できる。蛇足だがウインカーレバー節度感は適切で現代のふにゃっとしたウインカーレバーよりも断トツに秀でている事にも触れておきたい。
変速比が高いことを活かしてE/G回転数が下がる為、E/G本体の音はあまり聞こえてこない。そして空力の良さ(CD値0.30)のおかげなのか風切り音が目立たない。厳密にはAピラーやバイザーから音が出ているのだが、常に音が大小変わるような変動感がなく一定で聞こえているので実力以上に静かに感じる。一方で100km/h近く出ていても、こもり音が止まらず骨格系の共振分散が不十分なのでは無いかと考えられる。当時の試乗記をチェックすると1.8Lも高速時(3000rpm)のこもり音が指摘されており、骨格系の共振がより強く疑われる。ただし、市街地で気になった駆動系の高周波ノイズも他の騒音に紛れて気にならなくなる分だけ、市街地より印象が良い。
前方で車間が詰まっているのを発見、アクセルから足を離した。変速比を維持したまま燃料カットし、準惰性走行するので減速比を得るためにDからMレンジにシフトした。M6レンジに入ってエンブレがかかり始めた。
各車速の回転数から変速比を推定すると、概ねM6=0.6、M5=0.8、M4=1.0、M3=1.2、M2=1.8、M1=2.0だ。ちなみにDレンジの変速比は2.396~0.428である。
ATやMTと違い、Mモードの変速比は最高速や発進などを考えなくて良いのでDレンジと無関係であるところが面白い。例えば、本線料金所などでETCゲートを通過するためにMレンジでシフトダウンした際にM1レンジが65km/h以下から使えるのは個人的に重宝した。ATのLレンジは発進のためにローギアードでなければならず、40~50km/h以下からしか使えないことが多いが、ウィッシュのM1レンジは程よい減速度が得られる変速比にしてあるからだ。
ゲート通過後の全開加速はM1で5500rpmまで引っ張ると自動的にM2にシフトアップされ、M3レンジまでは入ればすぐに100km/hに到達する。ギア段固定式のマニュアルモードではない事は否定的な意見が多い気がするが、現代でもフル加速時だけ疑似変速ロジックを入れて加速フィーリングを高める車種もあるくらいなので個人的には好意的に見ている。(実際はDレンジ全開の方が速い理屈だが)当時の試乗記では「M2で90km/hに到達しないローギアで加速の良さを演出」とちょっと冷たい書き方をされているが、有段ギアでもCVTでもトルク×ギア比で駆動力が出るのだから理屈は一緒だし、昔のMTの様に高速で高回転になる訳でもないのだから、エンブレやワインディング用(M2で放って置けば充分速い)の変速比で合わせ込んで何らおかしくはないのである。
結果、ウィッシュの高速道路の振る舞いは初代イプサムのほんわかしたリラックス感とは異なるものの、余裕のある動力性能とCVTがもたらすハイギア化の恩恵を受けて快適な部類に入る。家族を乗せて旅行に出かけても運転に退屈すること無く目的地へたどり着けるだろう。
●走行性能 ワインディング
初代イプサムで一番苦手なステージは?と聞かれると、そこはワインディングだった。スローなステアリングを駆使してコーナーに進入しても、大きくロールした際の路面にある凹凸でサスが底付いて大きなショックがキャビンに伝わったり、タイヤが明確に曲がりたがらないなどの振る舞いがあった。セダンベースのシャシーで背の高いワゴンボディを支えるのは14インチタイヤには少々荷が重かったようだ。このあたりが1996年当時のセダンライクミニバンの妥協点であったらしい。
ストリームはイプサムを意識しながら、セダンでは無くハッチバックからのアプローチで作られている。そんなストリームのハッチバック顔負けの走りが好評だとみてフラッグシップの2.0Zではホットハッチ的な乗り味が与えられている。確かに着座位置が高めなのはファミリーカー然としているが、シートの適度のホールド感に身体を預けながらステアリングの感触を楽しめる。
2.0Zでは内外装をはじめとして数多くの専用装備があるが、メカニズム面の特徴はワインディングで発揮されているように思う。
ラリージャパンで走るコースを、家族で走ってみたかった。
「andiamo!」「sì papà」なんて会話を息子としたわけでは無いが、市街地走行のようにDレンジのまま、山を登っていく。
登坂制御が働いて2000rpm前後を維持したまま駆動力が強められる。E/G回転だけが先行して急上昇した後アクセルを緩めると急降下するようなCVT特有の悪癖は
ウィッシュでは控えめだが、なるべくジワッとアクセルを踏み増すように心がけた。
対向車が来ると、すれ違うのに徐行が必要な道路幅のワインディングで加減速の繰り返しになるのだが、CVTが変速比を決めかねる様なシーンがあった。ローギアで加速に備えるのかハイギアで巡航するか迷ってしまうようだ。コーナー終わりでアクセルを踏み足して加速させ、コーナー手前で減速のためアクセルオフするがDレンジのままだとE/G回転が1300rpm目がけて落ち込んでしまい、そこからアクセル定常で旋回すると少しリズムが崩れて失速してしまう。そこでMレンジを活用することになる。
山岳路ではM2~M4が丁度良く、ゲート式シフトを駆使してE/G回転を維持しながら走ると良いリズムが維持できる。立ち上がりで深くアクセルを踏み込むと3000rpm位を維持してグッと車速が上がる。Mモードを使って6000rpm近くまで引っ張ることも可能だが1AZ-FSE型は高回転まで回しても苦しそうに回るだけで官能的なサウンドなどは楽しめない。4000rpm程度を上限に走らせるのが個人的にはしっくりときた。
浅いコーナーではステアリングをこぶし一つ分くらい切ってやるだけでスッと鼻先が入っていくのは気持ちが良い。2.0Z専用のステアリングギアレシオは、ロックtoロックが3.1回転で他グレードは3.4回転であるので1割ほどクイックな味付けが与えられている。鈍感な私にでも分かるクイック感はこのクルマが普通の実用車に留まらないことを暗示していた。
4WDと2.0Zのみに与えられた油圧式パワーステアリングはしっとりとしたフィーリングで完成の域にある。普段EPSにうんざりしている私にはそれだけで絶賛してしまいそうになる。遊びが少なくコーナーが待ち遠しくなって来た。
180度ターンするようなコーナーでは手前で減速しつつ荷重をFrタイヤに乗せて操舵開始する。持ち帰ること無く舵角を維持しながら適度なロールを楽しみながら立ち上がりでは鋭く加速させていくと、ウィッシュが7人乗りのファミリーカーであることを忘れそうになる。しつこいようだがこの時期の油圧式パワーステアリングは技術として完成の域に達しており、少し重めの味付けながらガタを感じさせないクイックな操舵感によって早く次のカーブを曲がりたくなるし、ブレーキも剛性感とリニアな制動力は私には満足の行くものだった。
2.0Zは3列シートを持ったステーションワゴンでありながらドライバーの意思に相当忠実に走らせる事が出来る。打倒ストリームの為に敵の美点である走りには力を入れたのだろう。結果的にはトヨタっぽく無いと言うと語弊があるが知る人ぞ知るグレードであると言えるだろう。
ワインディングなら市街地走行で指摘したようなNV性能の悪いところは目立ちにくく、高速道路で感じる落ち着きの無さも気にならない。時々刻々と路面状況が変わるワインディングでは次のコーナーが待ち遠しくてどうでも良くなるのだった。
結果、ラリージャパンが行われた地域を周遊しウィッシュ2.0Zの類い希な走りを味わった。
ミニバンなのだから乗員全員が安楽に移動できる落ち着いた走りを目指すべき、という意見は当時もあった。ウィッシュに対して「そこまでしなくても・・・」という評論も少なくなかったが、実際に自分の手でウィッシュ2.0Zに乗るとこのクルマ(とストリーム)の存在価値に気づかされる。
それは家庭の事情でミニバンを選ばざるを得ないハッチバック・スペシャルティ保有層の受け皿になったであろうと言うことだ。オーナーはウィッシュ2.0ZにセリカSS-Ⅰを感じると言い、私は初代ヴィッツRSを感じた。
私が就職してまだ新人だった頃、同期が初代ヴィッツRSの4速AT車に乗っていた。よくヴィッツRSに乗せて貰っていたし、自分でもよく運転した。初代ヴィッツRSは自分が所有していたベース(Uユーロスポーツエディション)から差別化された内外装や低音が強調されたマフラー、専用シャシーチューニングによって普段使いでも許せる脚の硬さとキビキビした操縦性が美点だが、着座位置が高く、E/Gはトルクフルだけど上まで回しても面白くない感じがいかにもヴィッツRS的なのである。
イプサムの抜けた穴をかっさらったストリームも、ストリームに学んだウィッシュもステーションワゴンの派生車的なキャラクターを持っている。対してイプサムは高速をゆったり走れ、ワインディングは苦手なミニバン的なセッティングになっていた。これこそがイプサムオーナーから見た時には新鮮かつ優れて映ったことだろう。
ウィッシュ2.0ZはミニバンのヴィッツRSである。それはスポーティさがウリだった競合車に勝つための方策の一つだったがワインディングでの楽しさを諦めたくない家族想いの自動車ファンにはこの良さが伝わるはずだ。参考までに当時の雑誌で行われた比較テストの結果を抜粋した。加速性能ではストリームに譲るも、制動距離や実燃費ではストリームに勝っている。
●燃費
カタログ値は1.8Lが14.4km/L、2.0LでありながらGも同値であり直噴化・CVT化の恩恵を受けていると考えられるが、今回試乗した2.0Zは13.2km/Lとなる。確かにGと比べても車幅が大きく空気抵抗で問題になる投影面積が増えている。更に大径タイヤの影響で最低地上高が上がっているので、Frスポイラーはあれども床下に気流も入りやすく、タイヤ違いによる転がり抵抗も大きい。また、E/Gパワーをロスする油圧式パワステを持ち、乗り味もドライバビリティに優れた味付けの結果燃費が良くなる要素が無い。
ただし、メイン機種である1.8Lには新世代1ZZ-FEが搭載されて、変速機も電子制御4速ATが採用されている。ラビニオ式プラネタリーギアやフレックスロックアップを採用し、ストリームを0.2km/L上回るというベンチマークっぷりを見せる。
燃費のファクターとしてはE/G、T/M、転がり抵抗、空気抵抗、車重など様々なファクターが密接に絡み合う。単にストリームと似たようなスペックだから似たような燃費になるという訳でもなさそうだ。
そもそも排気量が1.8Lである時点でストリームより少々不利な素性である。現代の目では酷く旧式に見える4速ATに関してはストリームも同等スペックだが、車重が軽く(-30kg)、空気抵抗に関わるCd値(抗力係数)も0.30とストリームより0.01良い。燃費性能はこうした「チリつも」で決まるので恐らくストリームを目標に燃費アイテムを積み上げたのだろう。
2.0Zの実燃費にも触れておきたい。今回の試乗では高速5割ワインディング3割一般道2割という比率で900km走行し、76.56L給油した。
燃費計は12.5km/Lを示し満タン法の燃費は11.75km/Lであった。燃費計はほぼ正確でカタログ燃費達成率も89%と意外なほど高い。この時期のいわゆるエコカーは10・15モード燃費との乖離が大きい事が既に知られていたが、ウィッシュは意外なほど正直だ。
直噴E/GとCVTの成果もさることながら、カタログ値を彩るために無理をしていないのだろう。レギュラーがガソリンが使えてこの燃費なら航続距離も充分満足できる、オーナーの燃費手帳を見ると14.0km/Lを超えるペースで走れており、乗り方がもっと大人しければカタログ値超えも可能らしい。個人的には動力性能の高さを照らし合わせても、この燃費が出せるなら充分満足だ。
完全に蛇足だが、ウィッシュがたくさん売れていた当時、私はセルフ式ガソリンスタンドでアルバイトしていたのだが、お客さんからカチカチすぐ止まる苦情をよく受けた。
オートストップはノズル先端にガソリンを検知すると停止するがインレットホースの形状が悪くガソリンがすぐに跳ね返ってくるので満タンになるずいぶん前からオートストップしてしまう事が多かった。7~8割の開度で入れてやるとマシになる。
●価格
下記は2.0Z発売当時(2003年4月)の価格表である。
1.8Xを中心として廉価仕様のEパッケージ、スポーティ仕様のSパッケージ、上級の2.0Gとフラッグシップの2.0Zというラインナップである。
当時の月刊自家用車誌に拠れば、1.8Xの場合、本体168.8万+諸費用(税金保険等)30.5万-値引き15万=184.3万円、2.0Zの場合、本体219.8万円+諸費用(税金保険等)35.3万円-値引き15万円=240.1万円と紹介されていた。
1.8Xであればマットとバイザーを付けても200万円で買えるし、2.0Zは社外2DINナビをカー用品店で取付ければ270万円位で充分満足できる仕様になりそうだ。ちなみに2003年1月のデビュー直後は7-8万円引きのワンプライス販売と言っていたようだが、参考資料が出た2004年2月段階の情報ではワンプライス販売は崩壊し、15万円以上が目標、20万円以上で特上クラスとされていた。
2023年の価格相場ではBセグメントHEV車の価格帯であるから少し羨ましくもある。1.8Xに至っては現行の軽自動車に相当する価格帯なのである。貨幣価値は今とほぼ同じなの羨ましい時代である。
ところで、車両そのものだけではなく価格もストリームを意識した設定になっている点に着目したい。
例えば最廉価の1.8X_Eパッケージとストリーム1.7Gは同価格の158.8万円。1.8Lのミニバンとしては破格のプライスである。旧世代の初代イプサムEセレクションは2Lで192万円だったから、割安感は大きい。1L100万円の相場で行けば1.6Lクラスの価格で7人乗りに手が届く計算になる。ただ、ボディカラーが少ないのと、装備的には黒いドアハンドルや2SPラジオレス、デッキボードレスなどからも分かるとおり剥ぎ取り系廉価グレードなのだが、とにかく価格競争力が高い。ストリームと比べればプライバシーガラスとオートエアコンが備わる点で勝っている。
中心的な1.8Xはストリーム1.7Gより1万円安い168.8万円であるが、これも意志を感じる1万円である。装備内容は目立つ装備だけ抜粋すると上級シート生地、D席アームレスト、シートバックポケット、シートアンダートレイ、買い物フック、デッキボード、センターコンソールトレイ、デッキフック、メッキインサイドハンドル、CD+AM/FMチューナー4SP、カラードドアハンドル、ワイヤレスドアロック、カラードドアミラー、空力スパッツなど、ドレスアップ要素はないが実用的な装備が追加されている。ストリーム比だとほとんど装備内容は同じだ。
メイングレードとして最も人気があった1.8X_Sパッケージは189.8万円で、エアロや専用内装が選べる点が若向きなキャラクターとマッチしていた。
排気量が格上のストリーム2.0iLと同価格だったが、排気量の差はあれど、アクセサリーが非常に充実しており、同等の1.7X_Sパッケージよりも10万円高い設定になっていた。
その分ストリーム1.7X_Sパッケージでは装備できない助手席アームレストや15インチアルミホイール、Rrディスクブレーキ、革巻きステアリング+シフトノブ、ディスチャージヘッドランプが装着されており、価格差10万円でもお買い得に見える設定だった。
4ヶ月遅れでデビューした2.0Gは、対応するストリーム2.0iLの1万円安の188.8万円、基本装備はXに準じながら専用メータや15インチアルミホイールがMOPで選べる当りもストリームを忠実にトレースしている。
そして、今回試乗した2.0Zはストリームのフラッグシップの2.0iSの10万円高に設定されている。比較すれば、2インチ大きな17インチホイール、マニュアルモード付きCVT、TRC+VSC、助手席アームレスト、オーバーフェンダー、サッコプレート、キャプテンシートが備わるので購入検討者がちょっと比較すればお買い得であることが一目瞭然であった。
グレード体系も同じで価格もほぼ同じに揃えてあるので消費者である私達にもカタログを見て比較しやすい。比較されれば価格はほぼ同じなのに、差があるところは秀でているし価格差があったとしても、実質的にはお買い得な設定に合わせ込んであるので、これはもうガチ喧嘩である。
普通の消費者ならストリームみたいな7人乗りでありながらパーソナル感も兼ね備えた車が欲しいと思ってもデビュー後2年が経った車種と、トップメーカーのトヨタが開発したストリームの弱点が対策済の新型車ウィッシュを比べれば、余程ホンダのファンだとか家からディーラーが近いとかそういう事情が無い限りは新鮮でTVCMをバンバン流している後者(しかも見た目が醜悪だとか決定的な弱点がない)が選ばれるのは自然な成り行きだと思う。その際に商品性で優れる分、価格設定も新しい分ちょっと高く設定する事が普通だ。
実際に1960年代のマイカー元年付近の大衆車の価格を比較してみよう。空冷E/Gを積んだパブリカ800はスタンダード38.9万円、デラックスが42.9万円。パブリカ対抗のダットサンサニー1000はヒーターがよく利く水冷4気筒E/Gを搭載し、スタンダードが41万円でデラックスは46万円。更に、サニーに対して+100ccの余裕を謳ったカローラ1100の場合は、徹底した高級感の演出を行い、販売のために排気量まで変更した上でスタンダード43.2万円、デラックス49.5万円であった。
(当時の物価はおよそ現在の10倍相当)
こういう事例を目にすると、ぴったり同額とか+1万円とかいう価格設定のウィッシュは綿密な原価計算の元算出された価格ではなく、ストリームを見て決められた価格と言えよう。この様に意志を持った値付けの事例を挙げれば「アルト47万円」に対抗した各社の軽ボンバンの様に特定のグレードのみ価格を揃えてくる/近づけてくる事はあった。
それと同じくらいウィッシュの値段の付け方は恐ろしいほどストリームありきである。(結果的に排気量1.8Lなのに1.7Lのストリームと同等になっている)
この様なメンヘラストーカー的価格設定をされてホンダもさぞかしドン引きしたことだろう。ところが2009年にこの事態が再現されてしまうのである。
ホンダが低価格ハイブリッド(税込み189万円~)のハイブリッド専用車インサイト(2代目)を2009年2月に発売したとき、商品として粗さ(余りにも狭い)が目立つものの市場では好評を博し順調に売り上げを伸ばしていた。その事に腹を立てたトヨタは2009年5月に発売した3代目プリウスでとんでもない価格設定にしたことを覚えているだろうか?
せっかくなので3代目プリウスとインサイトの価格を比較したい。
お分かりいただけただろうか?
低価格ニーズに対しては2代目プリウスの装備を厳選してプリウスEXと改名し189万円ぴったり同額とした。その上で排気量アップした新型プリウスの最廉価をLは205万円としてインサイトと不可解な一致。そしてSは220万円とインサイトの最上級より1万円低いという怖い感じの価格設定を敢行。
1.5L、1.8Lのプリウスが1.3Lのインサイトと同額。結果的にインサイトの勢いは完全に失速して叩きのめされて二度と浮上することはなかった。
閑話休題、横道に逸れすぎたので話題をウィッシュに戻したい。
クルマの値段は最後の最後で理屈無くエイヤと決められている。それでも開発してる人たちは雁字搦めの原価管理の制約の中で工程数を減らせないか?バリエーション減らせないか?目標性能落とせないか?など爪に火を灯す開発をしているんじゃないかと思う。最終的に幾らで売ることになっても原価を徹底的に叩いておかないとウィッシュやプリウスのような芸当は出来なくなるからである。商品としての力量や宣伝と同じくらいウィッシュの価格設定はストリーム検討層の吸引に寄与しただろう。
お買い得な価格設定のクルマは顧客側にも「いい買い物をした」という喜びを与えてくれるなと感じた。近年の新車の価格設定・グレード設定の異常さ(≒最上級しか買わせない)に警鐘を鳴らし続けている当方だが、ウィッシュは痒いところに手が届く往年のトヨタらしい手慣れた仕事ぶりを楽しめた。
●まとめ―6days 6seater
免許取得後に出た新車でありながら、当時は全く気にしていなかったウィッシュを貸して頂き、ファミリーカーとして使用してみた。
確かにカルディナやカローラフィールダーのようなステーションワゴンの感覚で扱えるのに、7人乗車を可能とするキャラクターは確かに便利だった。大多数の人が気にしただろうミニバンの「空気を運ぶ勿体ない感覚」が緩和する事に成功している。
普段はステーションワゴン的に使えるのは当時のファミリー層にジャストフィットするだけでなく、独身者のグループ移動やパーソナルユースに使える幅広さを持っている。特に若向きのデザインテイストを採ったことで、一人で乗ってもおかしくないところが魅力だった。
特に2.0Zはあたかも6人乗りの初代ヴィッツRSの様なキャラクターで、ホットハッチ的な乗り味を再現した。ミニバン的な普段使いよりもワインディングで楽しめるという意外な特技を楽しむ事が出来た。
一方で、あらゆる諸元がストリームと酷似していることや開発期間を考えても(少なくとも途中から)ストリームを徹底的にベンチマークして開発されたことは明白だ。パクっただのパクってないだのという意味では、偽ブランド品の様にストリームを模倣したわけでは無く、某「カレンス」ほどデザインでオリジナルに似せたわけでもない。無辜の消費者達がストリームとウィッシュを間違えて買うことはないはずだ。
しかし、競合のエッセンスをほぼすべて吸収して販売されたのだから、ウィッシュがクリエイティブな作品だったかと言われると明確にノーだと私は判断する。
「ミニバンに見えない3列シート」が欲しいと思っていた消費者にとって、若干荒削りな「6人乗りボブスレー」から生まれたストリームは希望に添う車だった。
ストリームが掘り当てた潜在的なニーズに気づいたトヨタはストリームのエッセンスを残したまま、普及品を作ったに過ぎない。ちょうど、スナックサンドの後から発売されたのに販売数で勝るランチパックのようなものである。消費者の目から見ればどちらもその商品性は一緒だ。後はメーカーのネームバリューや売られている棚が目立つ位置かどうか、値引きシールが貼ってあるか位でどちらかが選ばれるだけだ。
今までストリームしか選べなかったこのジャンルにウィッシュが参入し、たくさん売れたことで楽しいカーライフを過ごした人がたくさん居た事は事実だろう。
今回のオーナーも、若き日に父が購入したウィッシュが忘れられずに2023年に注文していた別の新車をキャンセルしてまで手に入れてしまったほどだ。
この手の大量消費されるファミリーカーというのは、プロダクトそのものが持つ希少性やスペックは弱くとも、オーナーと歩んだ思い出という無形の魅力が所有へとかき立てるのであり、希少価値の高い特別な車を見た時の感動とは違う温かい感情が生じるのである。
我が家でも6日間お借りして6人乗り(6 Days 6 Seater)のウィッシュで生活を共にした結果、イプサムから簡素化するだけでなく進化した面も少なくないことに気づいた。もし、アイドル振動とCVTベルトノイズを許容できるならウィッシュ2.0Zは私の中で意外なほど良い評価をつけてしまいそうだ。それくらい2.0Zはキャラが立っていて長所がハッキリしている。この長所が魅力的に感じる人にとってはウィッシュ2.0Zは「これ以外に無い」と言わしめるだろう。
一方で「ミニバンとは7人全員を平等かつ快適に運ぶものだ」とか「ミニバンはパーソナル感や走りを諦めるべきで自分が運転を楽しみたいなら、他のボディタイプを選べば良い」的な正論かつ白黒ハッキリさせた意見をお持ちの方にはウィッシュ2.0Zはアンマッチである。「ホンダストリームが気の毒だ!トヨタはけしからん」という判官贔屓な方にもウィッシュは向いていない。
実は私自身、ウィッシュがデビュー当時は上記の様な考えを持っていた。元々ワンボックス派生ミニバン育ちだった事に加え、自分用にTE71を所有していたので
ウィッシュのようなどっち付かずの曖昧な車に対する心の広さを持っていなかったのだ。2006年に両親がライトエースノア代替でウィッシュを薦められたときは本気で反対してステップWGNを推した程だ。(この判断は当時の我が家にとっては正解だったが)
それからの20年で自分のライフステージが変わったり、周囲の人たちのカーライフを垣間見たりする。更に小さな疑問やわだかまりを、心の片隅に仮置きして生きていくこと、全てを意固地になって白黒ハッキリさせなくても良いことも学んで歳を重ねてくると、段々境界線が曖昧なウィッシュが魅力的に感じてくる。
最大公約数的に多くの人の願いに応えることだって時には必要なのだ。そうやってボリュームを稼ぐことで局所的に突出したキャラクターを与えることも可能になる。そうすれば、ちょっと「変わった人」の願いを叶えることも出来る。例えば今回試乗したウィッシュ2.0Zのようにである。大多数の願い、メーカーに都合の良いニーズだけをくみ取ってクルマ作りをするのでは無く、表だって現われない隠された願いを上手に叶えてやることは、自動車メーカーにとって大切な社会奉仕であり、ホットハッチ的性格を持った7人乗れるステーションワゴンというウィッシュ2.0Zは(偶然かも知れないが)そのうちの一つだったのだろう。
今後、貴重なネオヒストリックになるであろう初代ウィッシュ2.0Zを納車直後に貸してくださったオーナーのばりけろさんに感謝申し上げる。
最後にストリーム開発総責任者の藤原LPLが「ストリームのすべて」内で語ったストリームの魅力のポイントをここに引用する。
このクルマは今までのミニバンにない3つの新価値の融合を実施したつもりです。
まず先進スタイル、革新的なミニバン空間、そしてスポーティな走りです。
あれっ?ウィッシュのことを言ってるみたい!? ―Fin―