●要旨
2020年6月にハリアーがモデルチェンジして5世代目となった。
一流ホテルのエントランスも似合うRV車として生まれたハリアーは
プレミアムSUVというフロンティアを
世界の自動車メーカーに先んじて開拓した
とても重要なモデルだ。
2013年に発売された先代は
日本専用としたことで性能と内外装に
適度なメリハリをつけた事で息の長いヒット作となり、
トヨペット店の拡販にも貢献するだけでなく、
モテ車として30代までの若年層からの人気も高く
トヨタが苦手とする層の吸引にも貢献した。
新型は先代同様にRAV4とP/Fを共用する兄弟車だが、
全長140mm長く、全高が25mm低いため、
高級セダンのような優雅なプロポーションで差別化を図っている。
内外装はキープコンセプトだが、
ハリアーファンをがっかりさせるような
不用意なデザインをしていない点は好感が持てた。
モテ車としての先進装備も抜かりない。
助手席の彼女のお肌を気遣うナノイーX、
都会のナイトドライブで効果を発揮しそうな調光パノラマルーフ、
渋滞中の彼女を退屈させない
12.3インチの大型ディスプレイオーディオなど
上級車を食うような高級感の演出はさすがの一言。
走行性能は2.0ガソリンでは先代同様に
期待しなければ失望はしない程度には走る。
ただし、E/Gが発するノイズ、こもり音に
ステアリング振動はがっかりしてしまう。
2.5HVは市街地走行時のモーター走行であれば
上質感に引き込まれるが、一度E/G始動してしまうと
NVレベルの悪さは落差が激しく、こちらも後一歩満足に及ばない。
価格を考えると、NV性能は手当てが必要だろう。
ハリアーの世界観を考慮し、
人に勧めるなら2.0ガソリンのZ。
税込み393万円と2LのSUVとしては高価だが、
この手の車にはある程度の見栄も必要。
●キープコンセプトでTNGA化を果たす
1997年のデビュー以来、ハリアー/RXは
常にプレミアムSUVのパイオニアであった。
ライオンのキャラクターがハリアーで
高級ホテルのエントランスに乗り付けるCMは
ハリアーの目指したコンセプトがよく表現されていた。
2代目末期の240Gが当時の若者を中心に
「モテ車」としてもてはやされ、
一度はRXに主役を譲って生産終了となるもの、
海外向けRAV4と共通のP/Fをうまく使い
日本専用の3代目がデビュー。
ボディサイズをいたずらに大きくせず、
廉価な2.0ガソリン車と低燃費とパワーを両立した2.5HVの
二本立てで若年層と中高年層をダブルで吸引し、
コンスタントに2000台以上を販売する人気モデルとなった。
3代目ハリアー前編
3代目ハリアー後編
新型も先代同様に、内外装に全力投球し、
動的性能はそれなり、と選択と集中を徹底している。
開発コンセプトは「Graceful Life 優雅でより豊かな人生」だという。
機能や便利さのみを追求するのではなく
感性に訴え人生を高めてくれる存在、と定義されている。
各種寸法や織り込まれたメカニズムを見れば
新型ハリアーがRAV4とP/Fを共通化していることは明らかだ。
新型ハリアー
全長4740mm×全幅1855mm×全高1660mm、ホイールベース2690mm
RAV4
全長4600mm×全幅1855mm×全高1685mm、ホイールベース2690mm
先代ハリアー
全長4725mm×全幅1835mm×全高1690mm、ホイールベース2660mm
NX
全長4640mm×全幅1845mm×全高1645mm、ホイールベース2660mm
CX-5
全長4545mm×全幅1840mm×全高1690mm、ホイールベース2700mm
CX-8
全長4900mm×全幅1840mm×全高1730mm、ホイールベース2930mm
カムリ
全長4885mm×全幅1840mm×全高1445mm、ホイールベース2825mm
各車を比較するとハリアーは、トヨタ内の同セグメントのSUVより
低く長く、ワイドであり、CX-5とCX-8の間という位置づけになる。
今回、RAV4同様にP/Fが上級移行され、
カムリ系では昔から採用されていた井形サブフレームや
高速燃焼を実現したダイナミックフォースエンジン、
ダイレクトCVTなどTNGAでお馴染みになった技術用語が並ぶ。
RAV4ベースゆえ、2.0LガソリンエンジンにCVTの組合せと、
2.5LガソリンエンジンのHVの組合せそれぞれにFF/4WDが選択可能。
SUVゆえ4WDの設定はあれどもクロカン色を強めたRAV4の様に
3種類の4WDが選べる!という訳ではなく
現代としては普通のスタンバイ式4WDとE-FOURとなる。
サスペンションも共通のFrストラット/Rrマルチリンクという
RAV4の共通フォーマットで形成されている。
P/FはRAV4と全く共通でありながら、
目に見えるほとんどの部分はハリアー専用設計であり、
私も外観で共通部品を見つけることは容易くない。
商品としてのハリアーはRAV4よりも
スタート価格が税込35万円(265万円→299万円)
と一クラス上の車格を与えられているが、
その差額はボディサイズの違い(全長+225mm)と
内外装の差別化、静粛性向上に充てられたのだと思われる。
広報資料に拠れば静粛性向上を狙って
100km/h走行時のロードノイズが
従来型より4dB下がり、会話明瞭度は6.5%向上したという
同じTNGAのRAV4よりも4%向上しており、
セグメントの違いもしっかり考えられている。
既にRAV4に乗っている人には、DIYでハリアー用部品を
流用する人も現れるかもしれない。
オフロードイメージを前面に出したRAV4と較べると
同じP/Fであることが信じがたいほど違う意匠をしており
コンセプト・価格帯の違う兄弟車を作れる点は
国内シェアNo.1のトヨタの強みであろう。
先代のデビュー直後は日本専用モデルだったが、
後期型からRHDの国へ輸出も開始され、新型では北米で
ヴェンザとして販売されることが発表されている。
日本仕様の相違点はフェンダーの
AWDエンブレム、
HYBRIDエンブレム(日本仕様はエンブレム廃止された)、
フォグランプ廃止は写真から分かるが、
北米でヴェンザの人気が出ると、また次のモデルチェンジで
北米の台数の大きさに負けて日本の使い勝手が無視される事態に
繋がるのではないかと心配している。
●エクステリア
既に好評を得ているモデルの全面改良となれば
自ずとキープコンセプトとなるのが通例で
新型ハリアーも先代からのハリアー像を
極力壊さぬように配慮されている。
造形テーマは「大らかな逞しさ」とのこと。
切れ長のLEDヘッドライト、
アクリル製の擬似ラジエーターグリル(通風孔なし)、
オーバーハングを短く見せるほうれい線など、
誰が見てもハリアーと感じるフロントマスクは私も一目見てホッとした。
1035mmにも及ぶフロントオーバーハングは先代同様に
コーナー部を削って斜めから見た際の軽快感とバランスが取ることで、
斜め後ろから見た際にタイヤが踏ん張って見える。
一点注文を着けるならフォグの位置が内側にありすぎて、
若干車幅が狭く見えてしまっている点は残念だが、
フォグの位置を外に出すとコーナー部の削り量が減って
平面的なRAV4に近づいてしまう難しいところだ。
サイドビューもハリアーらしいDLO(グリーンハウス)が継承されたが、
サルーンのようなというよりもクーペスタイルに近い。
ルーフラインとは別にドアフレーム上端のラインが
クーペスタイルを一層強調している。
SUVとして求められる後席の乗降性は私の体格なら問題ないが、
身長が高い人にとっては少々頭を屈める必要があるかも知れない。
新型を見てしまうと先代が野暮ったく見えてしまうのは面白いものだ。
FrフェンダーからRrドアにかけては
比較的ゆったりと流れるような面構成だが、
Rrドア途中からRrエンドにかけては断面が複雑に変化し、
あたかも流れの速い渓流のような躍動感がある。
一台の車の中で安心感担当のFrと
ワクワク感を持ったRrが同居する感覚は面白い。
(Frまでイメチェンしてエモーショナル顔にされると
見ていて疲れるし、Rrも安心感があるとつまらない)
サイドでは窓枠とドアハンドルにメッキが使われているが、
先代にあったメッキのプロテクションモールは廃止された。
その代わり、ドア下にクラッディングモールが着き、
サイドシルが泥で汚れにくい下見切りドアになった点は実用面で朗報だ。
確かにメッキのサイドプロテクションモールは無くなったが、
下端を黒い素地色のモールで覆うことで2代目ハリアーの様に
ボデーを低く薄く見せる錯視効果を使っている。
参考までに私が黒モールを極力薄く改変した画像を作ってみた。
画像の荒さはさておき、黒素地のモールが全て
ボディ同色になるとキャビンが分厚く見え、不恰好だ。
ベルトライン下が分厚すぎてアンバランスに見える車は
過去にも存在していたが、ハリアーの様に適度な厚みの
黒素地色モールを設定すると余分な部分をブラックアウトさせる効果がある。
かつての普通の車達も(私のカローラもRAV4も)ロッカーを
ブラックアウトしてフランジ部分を見せないように配慮していたのと同じだ。
ホイールは上級グレードのZ系に225/55R19の大径タイヤが採用された。
先代の上級グレード用サイズ18インチは225/60R18と組み合わせられて
は中間グレードのG系に採用され、
ベーシックグレードのSでは225/65R17となり旧エレガンスと同サイズとなる。
先代は235mmを履いていたのでタイヤ幅は先代よりグレードダウンだが、
これは車幅を1855mmに収め、タイヤ切れ角を死守して最小回転半径を
5.5m~5.7mに収める為の工夫であり個人的にはこの判断を支持したい。
また、フューエルリッドも面白い構造をしている。
一般的なリッドはデザイン面のアウターと、
剛性確保とヒンジ取り付けのためのインナーがいて、
ヒンジと繋がっている。
最近のモデルはアウターとインナーはスポット溶接で
留める例が多く、専用の小さなスポットガンで打点が処理される。
新型ハリアーはここをカシメで留めている点が新しい。
コストが安いだけではなく、溶接用のフランジが不要になり
軽く作れ、アウター側のプレス成型が簡単になるため
アウターの難しい意匠の再現もしやすくなる。
従来技術(私の初代RAV4)では全周ヘミングしてシーラーを打つ
手間のかかる方法しかなかったのだがコストと意匠の両立解を模索している。
リアビューは新型ハリアーの見せ場の一つだ。
Rrコンビランプをテール/ストップランプと
バックアップランプ/ターンシグナルに機能を分離し、
前者を超薄型にして後者をバンパー下に追い出すことで
他に類を見ない個性的なRrビューとなっている。
左右が繋がって見える意匠で、エンブレムが居るものの横一文字に光る。
確かに先代ハリアーの後期型は光らないが赤いモールが付けられており、
思えばこれが次期型への予告編だったのか。
このRrコンビランプと合わせてハイマウントストップランプも
最上級グレードに限り車幅一杯のワイドなものが装備されて
しっかりグレードマネージメントされている。
個人的に注目したのはバックドア下端部である。
張り出し形状が大きく、プレス成型的に難しかったのではないだろうか。
バンパーとの面一感を出す為の張り出しなのだが、
従来技術でこのような意匠を実現する為には段差を埋めるために
樹脂ガーニッシュをクリップ留めでバックドアに取り付けるだろう。
(ex.初代ステップワゴン後期)
安易に部品を追加する事無くこの意匠を実現できている点は注目に値する。
RAV4はアルミバックドアだが、ハリアーは鉄製のバックドアで、
軽量化には不利だが成形性にはまだまだ鉄に分があるということなのだろう。
セグメントを考えると樹脂バックドアという案もあるだろうが、
ヒケが目立つモデルもあることから鉄を選択した判断は正しい。
意匠的にメリットが多いが、
デメリットはバンパー意匠とバックドア板金がツライチなので
後突時に直接ダメージがバックドアにかかる点だろう。
TNGAデビュー時の「エモーショナル顔」は個性的だったが
見る人を驚かせる事はできても上品さは感じさせなかった。
新型ハリアーはある程度上品さを感じさせてくれる進化をしているし、
キープコンセプトといえども先代からの進化も明確に感じられる。
●インテリア
ハリアーにとっては内装も気を抜けない。
内外装はハリアーの生命線でありRAV4との違いなのだ。
先代の内装はNXやクラウン、
アルファードを食うような豪華さを誇っていたが、
新型の内装もまずまずの出来栄えだ。
新型の内装はセンターコンソールを乗馬用の鞍に見立てて
インテリアの前後を貫くよう触感のよい材料で作られている。
このコンソールは余計な収納トレイやスイッチを置かずに
意匠を見せたいのだろう。
シートヒーターなどのスイッチも目立たない場所に配置され、
隙あらばカップホルダーさえも隠したかったのではないだろうか。
(だからと言ってクラ*ンのアレは採用しなくて正解)
センタークラスターは上級グレードと中級グレードに
OPTで静電スイッチが付く。
先代では全グレードに設定があったが新型では差別化されている。
(使用性は物理的なスイッチに分が有るが、ハリアーらしさという意味で
私は静電スイッチの存在価値が有ると思った)
静電スイッチとセットで12.3インチディスプレイに備わるSDナビと
JBLプレミアムサウンドシステムだ。
上級に標準、中級にオプション価格が
約37万円というリッチなセットオプションとなる。
標準設定の8インチディスプレイオーディオ(CDデッキなし)も
決して不便なものではないが少々パネルに余白感が出てしまい
「安いのを買った」という辱めを受けてしまう仕様設定は
「最上級を買え」という無言のプレッシャーを感じてしまう。
経済的に余裕の無い若者が無理をして買う中間的グレードを買っても
それなりにサマになるのがハリアーの目指す姿では無いか。
ディスプレイオーディオを取り外して
社外の適度なナビが付けば良いのだが。
助手席に座る彼女のため、助手席前のインパネも立体感のある
思わず触れてみたくなるステッチ、パイピングオーナメントなど
パッセンジャーへのアピールも抜かりないのがハリアーらしい。
室内イルミネーション、スカッププレートの光るロゴ、
挙句の果てに助手席側のエアコン吹き出し口からは
髪や肌に優しいナノイーXが放出される演出に至っては
もはや馬鹿馬鹿しく感じてくるがハリアーは
それを真面目に追求しているのだ。
新型ハリアーで新たに採用されている注目装備が「調光パノラマルーフ」と
「前後録画機能付きデジタルインナーミラー」である。
先代ハリアーでは浮島ポップアップムーンルーフがOPT設定されていたが、
新型ではスイッチ一つで外の景色が見えたりレースのカーテンを閉めたように
見えなくなるがぼんやり光りを採り入れる調光パノラマルーフが新採用された。
液晶を使って透明度を調整するのだが、開閉機能がなくなってしまったのに
約20万円というMOP価格は勇気が必要な金額だ。
ところが営業マン曰く、Zを選ばれる方は大抵選択するとの事で
如何に新型ハリアーの顧客がムードを大切にしているかが窺い知れる。
確かに夜景がきれいな都市部をこのパノラマルーフから
眺めればさぞかしロマンチックだろう。
もう一点、前後録画機能付きデジタルインナーミラーは目から鱗の新装備だ。
最近、デジタルインナーミラーを備える車が増えてきているが、
前を映す機能とSDカードで録画する機能を付ければドラレコの代わりが務まる。
あおり運転やそれが原因となった不幸な事件事故の影響で
今新車を買うならドラレコをつける人が多いだろう。
(私も妻のデミオにはドラレコを着けた)
一方で配線がごちゃごちゃしていたり、
バックドアガラスにカメラが貼られたり、
助手席前に大きなカメラが鎮座していたり
お世辞にもスマートとは言い難い状態に一石を投じる
ハリアーらしい提案だと感じている。
デジタルインナーミラーとしての画質は日進月歩で
改善が進んでいることは実際に使ってみて分かったが、
まだ私は光学ミラーを使いたいと感じた。
この他、個人的には前席に座ってみて、
RAV4で致命的に使いにくかったドアトリムの取っ手が
掴み易い一般的な場所に変更されていて
これだけでもRAV4ではなくハリアーを価値があると思ったほか、
後席ではシートベルトの肩ベルトがピラーではなく、
シートサイドから出るようになり後席でも
キチンとシートベルトが締められるような設計に変わったことも
大いにアピールすべき改良点だ。
もっともTNGAだからステアリングセンターがずれていたり、
後席の足元が狭いなどRAV4の欠点も
引き継がれている点はしつこく指摘したいが。
ラゲージにも目を向けたが、RAV4と較べると
ローディングハイトが高くデッキの横幅も然程広くない。
ラゲージ容量よりも意匠を優先したということは理解できる。
上級グレードにはフィニッシュプレートやデッキサイドのトリムに
ちょっとした加飾がつくが、先代の金属製のレールや
持ち手が廃止され少々寂しい。
ラゲージ容積は先代よりも減ってVDA法で409L。
先代は456Lだったので減少していることは事実で
ゴルフバッグ搭載個数が4個から3個に減少したそうである。
私が見た感じでは我が家が積み込みそうな
一般的な荷物は十分積めてラゲージ下の収納も実用的なので
普段の買い物では意外と使い勝手は問題無いかと思う。
(ただ、デッキボード裏の吸音材は
機能的には良いのだろうがとても不細工だ)
旅行時に嵩張るボストンバッグを載せるくらいなら問題な無く、
海外旅行用のスーツケースは下手すると勢い余って
バンパーにぶつけそうな嫌な予感はする。
インテリア全体のムードを決定付ける内装色は
最廉価グレード以外に3種類の選択肢がある。
標準内装色のブラックも伝統的な高級感があるが、
特に内装色がブラウンだとセンターコンソールの鞍が
一層協調されるので私は積極的にブラウン内装を選びたい。
もう一色内装色にグレーがあるが、
これはどことなくアメリカっぽい雰囲気になる。
これはピラーガーニッシュも色が変わり、雰囲気が明るくなる。
ホワイトウッド調の加飾パネルも定番外しの選択肢として面白いが、
この色を選ぶセンスのある人は、セレクトショップの奥の方にある
難しい服をサラっと選べる力を持った人だろう。
●2.0ガソリンG試乗
中間グレードのG(本体価格341万円)に試乗した。
CMやカタログでメインを飾るZと較べると
外観では18インチアルミホイールを履く他、
Rrハイマウントストップランプが
通常タイプになるという違いがあり、
内装では8インチディスプレイオーディオと
静電スイッチが付かないという違いがある。
試乗前に三歳児を後席にチャイルドシートに乗せたが、
SUVゆえに抱っこで載せるのは腰には優しいと感じた。
またISO-FIXのフックが探し易い点も実に
トヨタらしい美点としてありがたかった。
ちょっと独特な位置に配置されたプッシュボタンを操作すると
エンジンが始動しアイドリングで「おっ静かだ」と感じた。
RAV4に対して様々なNVアイテムを追加した効果がアイドリングで感じられた。
ただし、ディーラーから出て加速をした瞬間、がっかりしてしまった。
思った以上にE/G回転が上がって加速していくので、
その存在感が気になってしまうのだ。
171ps/6600rpmというスペックを考えても高回転域を好む特性であり、
ちょっと加速しようとアクセルを踏むと2000rpm付近までグイッと回転が上がり
その時の音がハリアーとしてはちょっと気になった。
高回転を好むとしてもこれがV6なら心地よいサウンドとして
高回転を許容できる可能性もあるが、
このE/GはRAV4と同じく音量が大きく音質も良くないのである。
確かに先代ハリアーのガソリン車は更に
「走らない」E/Gだったがその分嫌な騒音を出さない。
近所の下道を静々と走らせている限りある程度静粛な車であったが
新型は普通に走っていても音が目立つ車になってしまい極めて残念だ。
確かにアクセルを踏み込んだときの力強さは向上したと思うのだが、
それを得る為に新型ハリアーが失ったものはあまりに大きい。
交通量の少ない市街地を軽く走っただけだが、
乗り心地としては角のあるショックを感じさせない点は
トヨタらしいと感じるも、E/G由来のステアリング振動や
こもり音など普段軽自動車に乗る彼女を助手席に乗せたときに
「さすがハリアーって静かなんだね」と言わしめ、
オーナーも「頑張ってよかった」と満足させるには
もう一歩も二歩も足りない状態なのが歯がゆい。
2.0は廉価仕様だからという割切り方もあるかも知れないが、
341万円の乗用車として考えた時に乗り味には疑問符が涌く。
もはや、若者が頑張って貯金して
手が届くような価格でもない気がするが、
ローンを組んで金利を払って頑張っても
このNV性能だと私だったら心が折れそうになる。
例えば大排気量のセダンに乗っていたような余裕のある人が
もう遠出しないからとハリアーを購入するケースも有るだろうが、
絶対的な力が無いことは許容できてもこのNVでは市場適合性が無い。
●2.5HV Z試乗
別の店舗でハリアーらしさを最大限感じさせる
HVのZ(本体価格452万円)に試乗した。
先ほどのGと較べるとやはり19インチホイールの印象が良い。
例えばカラーヘッドアップディスプレイやカラードリアスポイラー、
ラゲージルームのちょっとした加飾や他グレードとの差別化が
所有欲を高めている点はさすがトヨタと言える。
内装も標準の合皮のコンビシートだったが、
座ってしまえば私が気に入らないファブリックの熱溶着代が
隠れてまぁいいかと思えた。
この試乗車には調光パノラマルーフが着いていたが、
これには妻から「すごーい」という歓声が上がった。
やはりかっこつけて乗る為の車なので
ハリアーを買うならZという思いが固まり始めた。
試乗するとHV車特有のEV走行時のスムースさにいつも驚かされる。
店舗を出て緩い上り坂の直線道路を加速させると
4人乗車なのにモーターだけでもしっかり加速する点に感心した。
120ps/20.6kgmという強力なモーターは
1.7tの車体をそれなりに引っ張ってくれる。
HVのパワーメーターがECOのEV領域を越えるとE/Gが始動する。
2.5L、178psのE/Gのパワーとモーターのパワーが混ざり合って
システム最高出力は218psという余裕ある性能を発揮する。
先代のような緩慢な加速と暴力的な加速の間を
行ったり来たりするような味付けではなく
全域で力強さが感じられる点は
価格が高いなりの差を感じさせてくれる。
だが、しかしながら、残念ながらここでも
聞こえてくるE/G音はザラザラと耳障りでがっかりしてしまった。
何でこんなにうるさいのかよ?
と大泉逸郎さんに聞いてみたくなるほどだ。
ステアリングを握る手にもE/Gの鼓動が伝わって来る事が分かる。
(EV走行中にその振動か感じない)
思い返せばダイナミックフォースエンジンの車にたくさん試乗してきた。
RAV4、UX、ヤリス、今回のハリアー。
トヨタの新型E/G群はどれも似たような音質で好ましくないが
ニュースリリースでこのE/G達はどれも高速燃焼というキーワードで
世界最高の熱効率を達成していると記されていた。
短時間で燃焼させれば大きな圧力変動が生じて騒音を発するし、
軽量化の為にE/Gブロックを軽量化すれば音の原因にもなる。
本来はE/G騒音の低減、或いは音質にもこだわるべきだと思うが、
世界最高水準の熱効率という
明確な数値目標が先行してしまったように感じられる。
E/Gがどうしても騒がしいなら予算を車体側につけて
騒音を緩和する施策を検討しなくてはならないはずなのに
あまりその痕跡を感じない点が自動車メーカーの施策として気になる。
一旦気にし始めると「うるさい車だな」という印象が拭い去れないが、
試乗後、後席の妻からも
「E/Gかかったらうるさいね、すぐ分かる」と指摘されるほどだった。
これまでのHV車は一生懸命E/G始動時のショックを
如何にシームレスに繋げるかを追求してきたし、
E/Gもしっかり黒子に徹してきた経緯を考えると、
今回のダイナミックフォースE/Gは自身が発する騒音について
もう少し配慮して然るべきだろう。
試乗して2.0Lよりも2.5HVの方が静粛性が上がり
価格差分のヒエラルキーを感じるが、
絶対評価で言えばどちらも騒がしい。
開発した人は試作車に乗ってみて誰もうるさいと感じなかったのか。
先代までのハリアーは一般道なら高級感のある乗り味も楽しめたが、
新型は元気で騒がしいE/Gが大きなノイズを出すことで
ハリアーにとって必要な高級感を確実にスポイルしている。
このNV性能以外の動力性は申し分なかったし、
乗り心地も19インチを履いている割には上々であった。
そういう意味でNVの悪さにがっかりだ。
●バリエーション展開
先代までのバリエーション展開とは異なり、
新型ハリアーは300万円を切るベーシックなS(299万円)、
中間的なG系(341万円)、ハリアーらしい世界観を保持した
Z系(393万円)の3グレード構成だ。(価格は全て2.0L_FF)
HVは+59万円、4WDは+22万円(ガソリン)、
+20万円(E-FOUR)、と分かり易い。
また、GとZにはレザーPKGの設定がありこちらは30万円。
最も価格が高い仕様はZレザーPKGのHV E-FOURの504万円だ。
最廉価と205万円も開きがある車は現代では珍しい。
HVは+59万円だが、税制優遇で
15万円ほど諸費用が安くなるので実質的に+44万円だ。
E/Gの排気量が500cc、出力が47ps違うので妥当な価格差と考える。
先代ハリアーではGRANDという279万円の最廉価グレードがあった。
2代目240Gの価格帯を意識して、クロスシートに16インチ鉄ホイール
など廉価グレード感あふれる稀少グレードだったが、
マイナーチェンジで廃止されて
ELEGANCEが最廉価となり295万円がスタート価格に変わった。
新型Sのスタート価格299万円なので実質価格据え置きだ。
新型の最廉価グレードSの装備をチェックすると、
左右独立温度コントロールフルオートエアコン、本革巻きステアリング、
全ドアAUTOパワーウィンドゥ、LEDヘッドランプ(AHB)、
17インチアルミホール、サイドターンライト付電格リモコンドアミラー、
8インチディスプレイオーディオ、EPB、スマートキーが備わる。
機能としてはこれで十分なので、このグレードで良い!と
即時判断できる方が一番賢くハリアーに乗ることが出来る。
RAV4のX(約261万円)と較べれば本革ステアリングや
インテリジェントクリソナ、
バックガイドモニターが備わる分仕様的には上位にあるが、
ハリアーとの差額38万円の中でも装備差額の一部しか
説明がつかず、他はハリアー代ということになる。
新型ではSとそれ以外の差別化がなかなか酷いので、
実質的に中間的なGとZの比較でグレード選びが始まる。
例えば+42万円のG(341万円)では内外装がグッとランクアップされる。
Sの装備に加え、デジタルインナーミラー(8.8万円)、
電動チルテレ、合皮コンビシート、
D席パワーシート、Frメッキスカッフプレート、
室内イルミ、スーパーUVカットガラス(1.5万円)、
パワーバックドア(6万円)、
プロジェクターLEDヘッドライト(AHB)、LEDフォグランプ(5万円)、
雨滴感知ワイパー、メーター内液晶サイズアップ、バンパーメッキモール追加、
18インチホイール(差額4.4万円)、マフラーカッター楕円化(Sは真円)、
フェンダーライナー吸音化(Fr)など一気に追加装備が増えるのが特徴だ。
価格が分かるものだけでも25.7万円分の装備が追加される。
内装色のバリエーションも増えて選ぶ楽しみも増え、
ハリアーらしい世界観を楽しむには少なくともG以上がお勧めだ。
最上級は+52万円でZ(393万円)となる。
カラーヘッドアップディスプレイ(4.4万円)、
ドアスカッフプレート(3万円)、19インチアルミホイール(差額4.4万円)、
カラードリアスポイラー(4万円)、LEDハイマウントストップランプ(ロング)、
ドアミラー足元照明、ハンズフリーパワーバックドア(差額1.6万円)
12.3インチディスプレイ+SDナビ+JBLサウンドシステム+ETC2.0(37万円)、
RCTB+BSM(6.8万円)、ラゲージ加飾が追加される。
価格が分かっている装備品で61.2万円分の装備が追加されるため、
予算が許せばハリアーが持つ世界観を100%楽しめることは間違いない。
加えてZに限りパノラミックビューモニターと
調光パノラマルーフのOPT設定があり、高級車ハリアーの世界が楽しめる。
●オススメグレードは2.0_Z
この中で仮に友達に勧めるオススメグレードを考えた時、
まずSはドロップする。特別仕様車のベースとして考えると有望だが
車格を考えると素っ気無さ過ぎるのでG以上を薦めたい。
GかZかを決定付ける要素は
内外装の差別化、或いは37万円のカーナビに魅力を感じるかどうかだ。
旧ハリアーのOPT価格は約41万円であった為、
ETC込みであることも考慮すれば多少割安になった部分だが、
エントリーナビで十分、ETCも普通ので十分という方なら
約10万円で済むため、ここで大いに差が出る。
私の価値観だとGにエントリーナビで十分、
と言いたくなるのだがハリアーという性格上、
「ええカッコしたい」「見栄を張りたい」
などという煩悩にある程度支配されるべきでZがベターと判断。
カタログを眺めていても異例といえるほどZ以外のグレードが掲載されていない。
GとSはカタログのグレード紹介のページで初めて全貌を知る事になる。
よっぽどZを売りたいのだろう。
友達に勧める前提で見積もりを作成していただいた。
ハリアー2.0Z プレシャスブラックパール
車両本体:393万円
プレシャスブラックパール(5.5万円)
パノラミックビューモニター(6万円)
寒冷地仕様(1.8万円)
調光パノラマ(19.8万円)
おくだけ充電(1.3万円)
内装色ブラウン(0円)
合計:34.4万円
ハリアーといえば黒でしょ!という定番色を選択。
黒は手入れが難しいが、自己復元機能を持たせた黒は興味深い。
個人的にはちょっと外したスレートグレーが気に入っている。
パノラミックビューモニターは大柄な車には必要。
寒冷地は追加装備が機能的。
調光パノラマは完全にモテ目的で
誰かを乗せてドヤる用だ。
おくだけ充電をわざわざ追加したのは、
伊達車の内装に散らかる充電ケーブルが美しくないからだ。
自分が家族と乗るならスレートグレーの
パノラミックビュー+寒冷地+内装色変更で
合計7.8万円で十分楽しめそうだ。
付属品は
ロイヤルタイプフロアマット(2.9万円)
トノカバー(2.5万円)
ドアハンドルプロテクションフィルム(1.4万円)
ナンバーフレーム(0.7万円)
ETC手数料(0.4万円)
ボディコート(7.7万円)
合計:15.6万円
最上級でドラレコもETCもナビも
標準なら敢えて追加するものがない。
諸費用は約33万円(延長保証+メンテナンスパック含)
支払い合計は476万円となった。
2LのSUVがこれほどまでの価格になるというのは相当な驚きだ。
2.5HVは確かに動的性能がグッと向上するが、
価格に見合った静粛性があるとは言いがたく、
高速道路の使用頻度が多いとか渋滞が多いなど
HVの魅力が感じられる使い方の方にだけ薦めたい。
一応、2.5HVのGでも見積もっていただいたが、本体400万円、
MOP:14.3万円(1500W+RCTB+BSMなど)、
付属品27万円(エントリーナビ、トノカバーなど)、
諸費用14万円(重量税+自動車税環境割が免除)。
合計支払額が455万円となった。
私は見積もる勇気がなかったが、
HVのZレザーパッケージ(車両本体482万円)で
支払い総額548万円という見積もりを知人がPDFで送ってくれた。
手元にある古本「1994年の国産車購入ガイド」に拠れば
ランドクルーザー80ワゴンVXリミテッド(本体396.9万円)の
購入支払い例で約450万円、
4500ccの堂々たる本格オフローダーが買えたし、
セダンなら、セルシオA仕様(本体481万円)も
総額543万円の支払い例が出ていた。
スペシャルティ路線ならソアラ4.0GT-L(440.1万円)など
オーバー4000cc級の車選びが出来た。
ここでサラリーマンの給与水準を比較すると
1994 (平6):486万円 /2019 (令1):441万円
という状況なので、新型ハリアーの価格は1994年に
販売されていた乗用車よりも確実に高いと言える。
勿論、安全・環境対策にコストを使っている事は百も承知だが、
改めて車両価格で比較すれば近年の車の価格が
給与水準の比較からでも高い事が良く分かる。
●まとめ
新型ハリアーはトヨタが苦手とする若年層から
一定の支持が得られている稀有なモデルの一つだ。
若年層が廉価グレードを頑張って購入し、
そこにSUVシフトを感じた所得に余裕のある中高年層が
上級グレードを買い求める構図で、
私は現代のマークIIなどと表現したりしてきた。
新型ハリアーは内外装に全力投球しただけあって
ショールームで眺め、運転席に座ってみるだけで
「これはいいな」と酔わせる要素を持っている。
一方で運転してみると、市街地走行ですら気になる
E/Gノイズやこもり音やステアリング振動にがっかりした。
先代の場合、市街地走行レベルなら乗り心地が良く静かな車だったが、
高速走行では力不足を感じるシーンもあっただけに、
走らせた印象は先代よりも悪い印象を持った。
ハリアーの世界観を考えると
コスパがいいのは2.0ガソリンのZだが、
それでも税込み393万円で私がとった見積もりでは
総額476万円と立派な高級車の価格帯だ。
2代目ハリアーが若者によく売れたのは
廉価な240Gでも当時のレベルで十分「高見え」したからだ。
総額300万円で240Gに社外ナビを付けて乗り出せた。
果たして新型ハリアーはお買い得な車だろうか。
うんと背伸びしてローンを払う価値のある上質な乗り味だろうか。
先代のチーフエンジニアは「60km/hまでの領域で開発しろ」と
厳命したとすべて本で読んだような記憶があるが、
確かに先代ハリアーはその割りきりが明快で、ある領域では十分満足できた。
個人的にはハリアーには今の販売価格を3万円上げてでもNV対策をすべきだ。
現状、4万5千台という強烈な受注実績を上げた。
車も見ずに、試乗もせずに先代以上の売れ行きであることは
歴代ハリアーの信用も貢献しているだろうが、
新型がとても魅力的だという事に他ならないだろう。
今後、徐々に納車された初期型オーナーから
NVに対する不満が出るのかどうか気になるところだ。
もし星をつけるとしたら現状で★2つだ。
NVが改善されて★3つとしたい。