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2021年04月01日 イイね!

2007年式アコード20EL感想文

2007年式アコード20EL感想文2021年5月27日
E/Gマウント総交換後のフィーリングの変化を追記。

●要旨
2002年にデビューした7代目アコードの後期型に相当する2007年式アコード20ELに試乗。当時は圧倒的なハイパワーを誇るユーロRに目が行ってしまう為、あまり注目してこなかったが、欧州で本気で商売をしようという意気込みが感じられる芯のある車だ。たっぷりサイズの本革シートに座り走り出せば、しっかりしたボディとよく動くサスのお陰で乗り心地が良いのに、ワインディングでは私の技量では限界にたどり着けないほどのパフォーマンスを見せた。高速道路では速度を出せば出すほど印象が良くなっていく点「欧州」を感じた。とにかく高速道路を走ればこの車のすごさがすぐにわかる。弱点があるとすればハイギアードなセッティングによる非力感とエンジン振動によるこもり音で、前者の原因は2010年新燃費基準達成、後者はマウント系の寿命なのかもしれない。(筆者注:後日マウント総交換によりこもり音は気にならないレベルまで低減)ボディサイズは2021年の目線で許容レベル。日本における7代目アコードは欧州向けに開発し、狙いが色濃くキャラクターに反映された。仮にバタ臭いことがアコードのアイデンティティであるならば、とてもアコードらしい車だ。個人的にはインサイトに「アコード**」の様なサブネームをつけてアコードファミリーとして売り出しても良かった。アコードは7代目以降は完全に日本のことを無視し過ぎてしまった。もう少し日本のことも思い出して欲しいし、普通車ビジネスを再構築せねばならないホンダはそれをやるべきだ。

●全身、全域、Hondaイズム。欧州に焦点を当て、日欧を同機種化
2002年10月にデビューした7代目アコードの後期型にあたる2007年式に試乗。販売台数が多い北米仕様は大柄な車体が与えられ、日本仕様は欧州仕様と同機種化することでに準じたメカニズムを持ち、再び普通車枠のボディサイズとなった。

近代のアコードとスリーサイズとホイールベースを比較した。
1993年モデル:4675mm×1760mm×1410mm,2715mm
1997年モデル:4635mm×1695mm×1420mm,2665mm

2002年モデル:4665mm×1760mm×1470mm,2670mm(日・欧)
2002年モデル:4855mm×1820mm×1450mm,2740mm(米)


2008年モデル:4730mm×1840mm×1440mm,2705mm
2013年モデル:4915mm×1850mm×1465mm,2775mm
2020年モデル:4900mm×1860mm×1450mm,2830mm

かつてアコードはバブル経済下で企画された1993年モデルでうっかり3ナンバー化してしまい当時の市場では拒否反応が出たことを重く受け止め、1997年モデルにて日・米・欧で三極最適化が実施されて5ナンバーに戻った過去がある。当時はカムリ、プリメーラ、アテンザも普通車サイズに拡大される例が多く、アコードとしても拡大トレンドに乗りつつ欧州仕向けと同機種化できれば賢く投資が節約出来ると踏んだのであろう。一方で、HVのみとなりクラウン級のボディサイズにまで拡大された現行アコードと比較すると、235mm短く、100mm狭く、20mm高く、160mm短く、並べれば相当サイズ感が異なっているはずだ。北米アコードは日本でアコードと呼ぶには大きすぎた為、インスパイア名義で日本で販売し、逆に北米では小さすぎる欧州アコードはアキュラTSXとして販売し、一粒で二度美味しい戦略をとった。



エンジンラインナップは3種類。メインエンジン仕様はハイオク仕様だが200psを達成した2.4Lエンジン、標準エンジン扱いの2.0Lエンジン、そしてリッター110psを発揮する驚異的なスポーツ仕様の2.0Lがラインナップされる。先代に存在した1.8Lは車格アップに伴いカタログから落とされた。

今回の試乗車は20ELというグレードである。当時の価格表によると20EL(FF)の車両本体価格は224.7万円(税抜214万円)。2.0Lのセダンとしては相場より少し高いかなというレベルだが、試乗車はMOPで16吋アルミ、スマートキー、HDDナビ、レザーインテリア、セキュリティアラームを装着して280.4万円(税抜267万円)、組合せ上選べる全部乗せ状態である。

上級の24TLだと上記仕様に対してレザーインテリアやスマートキー、セキュリティアラームが標準で備わり、ツインマフラーや横滑り防止装置も着いて265.7万(税抜253万円)。一見上記価格より安いが、ナビを装着すると、295.1万円(税抜281万円)となり14万円差となる。排気量分の相場感よりも割安で24TLを選びたくなるのだが、実際の購入ではレギュラーガソリン仕様に限るという制約があり20ELが選ばれたという。個人的にもレギュラーガソリン仕様は懐に優しいし、年間の自動車税も5500円違うので20年間の間、11万円の節税効果を上げているため良い選択をされていると思う。

●機械的でありながら生物的な外装デザイン



7代目アコードのデザイン開発は空力研究からスタートしたという。欧州にも出すことを考えて燃費や排ガスの事を考えると基礎的な空力性能を磨くことが大切だと考えたようだ。結果、cd値0.19を達成するデザインが完成。このエッセンスを残しつつ次世代戦闘機をイメージした。機械的でありながら生き物の様でもあるバイオテックデザインをキーワードにした。(最終的なcd値は0.26と当時としては相当にハイレベル)



フロントマスクは当時のホンダのアイデンティティであった五角形グリルの斜辺を延長して切れ長のヘッドライトが配置される。ヘッドライトは生き物の目を感じさせることをテーマにした3眼式を採用。プロジェクター式HIDヘッドライト、ターンシグナル、ハロゲン式ハイビームの順に並ぶ。試乗車は後期モデルでありバンパー意匠はよりワイド感を強調するため、黒いガーニッシュ部分が車幅ギリギリまで寄せられて視覚的安定感が増した。この世代のアコードはユーロRが有名なモデルであるから、非ハニカムだがエレガントなメッキグリル、内部のエクステンションがメッキのヘッドライトなどキラキラした高級感が出ている点も20ELの魅力だ。ちなみに正面から見た写真ではワイパーが目立つが、本来の2007年式アコードは見映えに優れるフラットブレードワイパーの設定が標準であったが、後にサービスキャンペーンで前期型のワイパーとカウルルーバーに交換されている点が異なる。



サイドビューは明確なウエッジシェイプであり、グッと低く構えたヘッドライトから実用性の高そうなトランクリッドまでキャラクターラインが勢い良く引かれている。ただし、ウエッジ一辺倒ではなくトランク付近で角度を水平に近づけて
セダンらしくトランクを強調している点もセダン好きには刺さるデザインではないだろうか。Frピラーは大きく傾いていかにも空力を意識している。雨の日に試乗した際にFrドアガラスに着いた水の後が綺麗に真っ直ぐ流れており、空力のよさを窺い知る事が出来た。(私の車は渦巻きが複数個所発生する)

ウエッジシェイプはスポーティに見えるがハイデッキになる事で空力的にも都合が良い。どうせならトランクリッドを後までつまんで潔くカットすることでデザイン的にも空力的にも優れた形となっている。サイドビューにおけるFr/Rrバンパーはシャープなスタイルの中で意外と平べったい面が残っている。これは空力的に気流を安定してボディに貼り付けるためのテクニックで最近でもエアロコーナーとして設定されている平面だ。Frは意匠の為に少々削られているが、Rrは潔い折れ線が残されている。

ホイールはメーカーオプションの16吋ホイールに205/55R16タイヤが設定。標準は15吋だが、20ELのみ16吋が選べ、上級グレードと並ぶ。前期のスポークタイプと較べてディッシュタイプとなってエレガントな方向に変更されているがよく似合っている。



リアはとてもアコードらしさが感じられるもので横基調のスポーティな3連コンビランプはヘッドライト同様のイメージを継承。ウエッジシェイプなので後ろが厚ぼったく見える例が多いが、アコードはリフレクターや目を引く大型マフラーカッターで視覚的バランスを取ろうとしている。ちなみにマフラーは2.4LとユーロRは左右二本出しだが、2.0Lは左シングルとなる。

全体的には同時期に発売されたマツダアテンザとの類似性を指摘したくなるが、アコードとアテンザは同じ3ナンバーセダンでありながら、アコードには老舗らしい大人っぽさがあるのが特徴だ。初期デザインはもっと丸みがあったが、スポーティの表現の一つとしてウエッジシェイプの強調を選択。結果的に生き物のように曲面的なアテンザと差別化が出来た。

●大きく質感向上を果たした内装デザイン



内装デザインはホンダの五角形をモチーフにしたセンタークラスターを中心にゆったりした高品質なイメージでまとめられている。ホンダ車間で通信して交通状況の良い道を案内するインターナビを中心にセンタークラスターのスイッチを使ってグリル同様5角形イメージを表現した。コックピットは自発行式メーター、グリップの太いステアリング(オーディオS/W付)、ガングリップ式シフトノブなどに囲まれ、助手席側は大らかなソフトパッドがシンプルかつ品質感の高い「良い物感」を出している。エアコン吹き出し口もしっかりと大型のものを採用している点も個人的には好感度が高い。更に試乗車はインターナビが装着されているのでインパネ最上面にエアコンやオーディオの表示画面が設定されて視線移動を小さく情報確認できる。

運転席に座ってみてまず感じるのは大型の本革パワーシートの包容力だ。すぐに以前乗ったボルボXC70を思い出した。シートは自動車の中でもお金がかかる部品の一つだ。一般的に内製できない購入部品で、大きく重く、構成部品も複雑だ。だから近年ではシート骨格を共通仕様にして統合する動きも盛んだし、大衆車やミドルクラスに至るまで見栄えの為の樹脂カバーを省いて機構部を露出させたり、堅いフェルトを使って暖簾(のれん)の様に目隠しをするケースも多い。日本国内で求められている性能はせいぜい2時間座れればいいという程度で、むしろ2時間に一回は休憩をすべきなのだから、3時間座っても疲れないシートは過剰品質で即刻性能適正化の餌食になるべきという考え方もある。(休憩はすべきだが、疲労は当然小さいほうが良いはずだと個人的に考える)



アコードのシートは十分に大きくその分だけ体圧分散し易い。従来型と較べるとシートバックを40mm高く、43mm幅広くしているそうだ。シートはただ大きいだけでなく、クッションも分厚く底付き感も無い。アコードのLPLは長身の方のようでシートに関しては御自身が満足できるようにこだわったと開発ストーリーに記されていた。一方、私は身長165cmと小柄な上、脚が短いのだが、座面が長すぎて膝が曲げにくくなるようなことも無い絶妙なサイズ感であった。もう少し気の効いた車だと座面の前端がスライドして調整できるのだがノンプレミアムクラスのアコードにそこまでは求めにくい。調整機構を設けずに最大公約数的な寸法であり、とにかく座っただけでシートの良さが分かる。前後左右のほか、シート全体が動いて上下調整(座面角度も変えられる)が可能、更にステアリングコラムもチルトに加えテレスコも装着されてドラポジは合わせ易い。また、ステアリングそのものの位置関係も見直されてシートとステアリング軸の中心位置が0mmになった。



マツダが優れたスカイアクティブ技術とともにドラポジを訴求し始める10年も前の車である。オルガン式アクセルペダルの採用も同時代のマツダ車に先んじており気合を感じる。ボディサイズ拡大の大きな恩恵の一つはドライバーの着座姿勢を正し、さらに快適は走りに貢献する大きなシートを飲み込んだ事かも知れない。



また、ドアトリムにも工夫がある。運転席以外のドアトリムはドアを閉めるためのインナーグリップがドア前方の斜め配置になっている。しかし運転席のみは水平なアームレスト上面に扱い易いスイッチとえさ箱(指をかけるための凹み)を配置している。



デザイン的には統一したくなるところだが、運転席だけは人間工学を重視しているが、これが大変心地よい。かねてからあの手のグリップはドアの操作力が重くなりがちなのと、P/Wスイッチと成立させることが困難であるといい続けてきた。2代目アコードで敢えて左右非対称な「性格分けパーソナルシート」を提案していたことを思い出した。助手席ドアトリムはPWスイッチとグリップを両立させ、更にえさ箱も設定している。これが運転席側だとスイッチが多いので成立しない。つまり、助手席側は意匠と使い勝手が両立しており、運転席側は人間工学的な正しさを追求している。このあたりは現代のデザイナーや設計者もアコードに学ぶべき部分だ。

●コネクテッドの先駆けとなるHDDインターナビ



2007年式アコードにはHDDインターナビがメーカーオプション設定されている。これは当時としては最大クラスの7インチのHDDナビなのだが、音声認識やハンズフリー通話も新しい装備だが注目すべきは年会費無料・年会費不要のインターナビプレミアムクラブの機能の一つ、インターナビVICSである。携帯電話(iモードやEZweb)と接続することで天気情報や目的地の交通情報を入手してくれる機能が備わるのだが、国が提供している交通情報VICSとは別の独自の仕組みで交通情報を提供してくれる。カーナビがVICSの情報を元に渋滞を回避したルート案内を行う機能は当時既に存在したが、インターナビがすごいのはVICSで交通情報が提供未提供路線においてインターナビを搭載したホンダ車のデータがセンターに集められ、統計的に処理して別の空いている道路を案内する機能が備わる。つまり、自分自身がデータを提供する役割を担いつつ他のホンダ車の結果を受け取り早いルートを案内するという案内方式である。

平時はこのメンバーの「混んでる/空いてる」という生のデータ(プローブデータ)によってより快適なルート案内が可能となるのだが、この機能が最大限に発揮された事象の一つに2011年3月11日に発生した東日本大震災が挙げられる。災害によって道路網が寸断され、「通れる/通れない」という情報が不明なまま果てしない交通渋滞に繋がることがある。ホンダはインターナビの情報をいち早く一般公開し、他社もそれに追随する動きがあった。ホンダは自らが被災しつつ、被災者・支援者の為に情報を提供し続けていることはとても意義のあることだ。

今もコネクテッドカーとして自動車と通信の融合が盛んに行われているが2007年式アコードに装着されたインターナビはその初期の試みの一つであり貴重な存在だ。世界で始めてホンダ・エレクトロ・ジャイロケータを開発したホンダらしい技術と言えるだろう。

●積載性
我が家にとって最も重視したい積載性はチャイルドシートである。取り付け易いISO-FIXアンカーにチャイルドシートとジュニアシートをガッチリ固定した。アコードは当たり前の様に子供と妻を乗せ、多目の荷物を飲み込んだ。普段は子供を乗せるとシートバックを足で蹴られたり、後向きチャイルドシートシートのためスライド量、リクライニング量に制約を受けるのだがアコードではその様な心配が要らないのがありがたい。



室内収納は現代では珍しいキー付グローブボックス(植毛!)やサングラスホルダーも目を引くが、コンソールボックスもスライド機構が備わってアームレストとしての機能も優れているが、容量も2段式でなかなか良い。CDやちょっとした小物を飲み込むし、カップホルダーは木目調の蓋を開けるとカップ二個分のスペースが現れる。



セダンのアイデンティティでもあるトランク容量はVDA法で459L。サスペンションの張出しがあって奥は幅が狭いものの実用的なトランクルームだ。オーナーの洗車道具とベビーカー、武器になりそうなリュックサック、抱っこ紐を余裕で飲み込んで、更にお買い物の荷物も積み込める。トランクが独立していて包容力があるからキャビンはいつも整然としている。これがセダンの魅力といえるだろう。機能面も充実し6:4分割可倒(トランクからストラップを引くことで倒すことが出来る)、アーム式ながらラゲージにアームが侵入しない軌跡を描き、トリムで覆われているところも配慮が行き届いている。また、トランクリッドに電気スイッチを設定し、スマートキーを持っていればトランクだけ開けられる機能やスマートキーにトランク開ボタンが備わったのも新しい。



●市街地走行
平日に通勤の為アコードに乗った。当時増え始めた幅広のFFセダンだが、最小回転半径は切れ角の拡大で5.4mと従来型と同値を確保。ロックtoロック2.8回転というクイックなギア比も相まって住宅地の身のこなしは軽快、しかし右左折で寝そべったAピラーの死角が気になるレベルで積極的に首を動かして視界確保が必要。オルガン式アクセルペダルが採用され微妙なアクセル操作にも反応を示し、大きめの車という先入観と較べて意外と運転がし易い。



K20A型エンジンは私の実家で親が乗っていたRG1型ステップWGNと同じ型式であるが、アコードの方が印象がいいのは剛性の高いセダンボディに搭載され、素直なワイヤー引きスロットル、極めて賢い5速ATの相乗効果であろう。発進後、スピーディに変速し、早期にロックアップクラッチが作動する。アクセル操作に対して車がすぐに反応を示すのでアクセル操作と車の挙動がリンクし、アクセルオフ時にもエンジン回転が乱降下せず、アクセルオフ後に再加速するような場面でもエンジン回転だけが上がるような動きも無い。

アコードの5速ATは変速制御「プロスマテック」が健在。電子制御で不要な変速を抑制したり積極的にダウンシフトする制御がある。通勤路で数箇所コーナーを抜ける区間があるが、車が路面状況を判断しアクセルオフでシフトアップを抑制するので加減速が滑らかな走行ができる。ホンダのATのセッティングは巧みだといつも感心させられる。



交通量の多い通勤路では40km/h程度でも負荷が少なければ1000rpm+αで走行できる。その回転数でもトルクが出ているのは立派だ。ものの本によると変速機を制御するソレノイドでロックアップクラッチを直接制御(当時世界初)しており、減速時にわずか800rpmでもロックアップクラッチを繋ぎ続ける事に成功、優れた右足との接続感に大きく寄与している。市街地走行でもしっかりエンブレが聞くのでMTを運転している時のような扱いやすさがある。

しかし、低回転までロックアップできるという事はエンジンに起因するこもり音が問題になるケースがある。ATがガッチリとロックアップし、エンジンは低回転域でも走行可能なほどトルクを出してくれるが、低回転ゆえにエンジンのトルク変動を拾って車体を揺らしてしまう事でこもり音が発生する。念のためもう少し車速を上げて5速で同じような回転数になる60km/hでも走らせてみたが同様のこもり音が発生していた。「他のレベルが非常に高いだけに惜しいな」と感じた。しかし、それ以外は市街地走行レベルでも運転が楽しいと感じられる程アコードの走りは私の感覚に合う。

通勤路は工事によって部分的に凸凹が連続するパッチワーク路やアスファルトが痛んで悪路になった路面が多い。アコードはこのような路面を走っても不快な挙動は見せず、しっかりしたボディから生えているサスペンションアームが良く動きタイヤが路面に追従する。だから、普段の経験から身体に力を入れて揺れに備えていても、何事も無かったかのように静粛で乗り心地が良く肩透かしを食うほど。勿論、全く振動を感じさせないとまでは行かないが期待以上の乗り心地に驚き、敢えてそういった路面を数回走らせたが偶然ではなく実力であった。つまりアコードの乗り心地は心地よい。ストップアンドゴーが続く市街地を抜けて駐車場へ。

駐車場は昔ながらの効率重視で作られた大変狭い場所だ。3ナンバーのアコードのボディサイズが仇になり、壁や他車ギリギリを通らねばならないケースがある。昨今の乗用車の大型化のためただでさえ狭い駐車場が更に狭くなっている。しかし、アコードにはバックカメラとフェンダーポール、リバース連動LHドアミラーが装備されていた。平成と昭和を代表する駐車支援デバイスが令和で味わえるなんて贅沢な事だ。





アコードはウエッジシェイプゆえに運転席からフェンダーが見えないが、フェンダーポールを目印にギリギリを狙って走らせることができ、当時セダンでも珍しかったバックカメラがある為、ハイデッキのアコードでも余裕で駐車が可能。寸法的なハンデも、新しい余裕のある駐車場など近年整備された市街地走行であればアコードが不利なシーンは2021年では徐々に無くなりつつある。ボディサイズ拡大、エコカーの台頭、セダンのクーペ化など2005年よりも2021年の方がアコードの長所が輝き、短所が目立たなくなった。

●命が幾らあっても足りないワインディング走行
いつものワインディングに一度だけアコードを連れ出した。欧州仕様と共通化され、220psを発揮するあのユーロRのベースモデルである。熱い走りを期待してしまうのだが、せっかく20ELなのだから常用域+αに留めてコースイン。



市街地なら3000rpmも回せば事足りるが敢えて更なる高回転域を試す。エンジンはK20A型と呼ばれミニバン系にも広く積まれた一般的なものだ。吸気側のバルブタイミングを連続的に切り替え、バルブリフト量も高速カムと低速カムを油圧で切り替えるi-VTECを搭載した1998ccのスクエアタイプで155ps/6000rpm、19.2kgm/4500rpmというスペックを持つ。車重は1400kgなので、パワーウェイトレシオは9.03kg/ps。競合車の日産プリメーラ20Gは8.6kg/ps、プレミオGは8.15kg/psであるからアコードはスペック上不利になるが、あまり非力さを感じさせずダイレクトな5速ATがエンジン出力を有効に活かして走らせる。



長い直線の上り坂で全開加速、7000rpm手前まで澱みなく回る。当時の世の中には6000rpm近傍で一応回っているだけレベルのエンジンもある中でホンダはスムースで官能的ですらある。1速で吹け切ると2速にシフトアップし、4000rpmから再びクライマックスへ回転数が上り詰めていく。Mレンジに入れるとSマチックはマニュアルモードとなりその時点のギア段に固定される。Mレンジはエンジンブレーキを意図した際に使用されることが多いので現代ではマニュアルモードに入れた際は数段シフトダウンされることが多いため、アコードの制御には少々驚いたが落ち着いてシフトダウン操作を行う。

アクセルオフで減速し、軽くアクセルを踏み込んだ状態で左へコーナリング。トルクステアを一切感じさせないシュアな特性で程よい手ごたえを感じさせながら素直に曲がる。そのしっとりしたフィーリングは油圧式と信じて疑わなかったが、既に先代からEPSが採用済。20年ほど前に既にこれほどまでに完成されたEPSがあったのかと驚いた。

ジワッとコーナリングしてジワッとステアリングを戻しつつ加速する。VTECファンが良くいう高速カムでの豹変は感じさせずにすっきりと淡々とレッドゾーンへ向かう様子は分かり易さは無いものの気持ちが良いものだ。

坂道を下って次のS字に向かう。オーバー気味の速度をブレーキで制動、踏み始めからしっかりした減速感があるので安心感がある。右へ旋回しすぐに左へ。たっぷりしたサイズのシートだが、シートバックのサポートが適切でコーナリングでも上体は安定状態を保つ。Gに耐えながら姿勢を維持する必要は無く、安心感の中でステアリングを操作に集中させてくれる優れものだ。コンフォートグレードである20ELがお世辞抜きで楽しい車なのだから、専用のエンジンを積んだユーロRの走りはさぞかし楽しいだろう。

試乗車は吸音スポンジで静粛性を高めたダンロップビューロVE304を履いている。コンフォートタイヤながらしっかりしたボディと良く動くサスが路面をしっかり捕らえている。スポーツタイヤでもないのにしっかりタイヤの性能を使えるのはアコードの4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションの優秀さを物語る。

途中、穴ぼこやうねりがある路面もあったがコンフォートタイヤらしくキャビンにショックを伝えない点はさすが。限界は相当に高そうだが私の技量で限界領域に持ち込むことは至難の技である。だからアコードの手のひらの上で楽しくワインディングを走らせる事に徹した。

●安定しすぎて眠くなってくる高速走行



家族を乗せてドライブに出かけた。通勤と違いフル乗車だが、高速道路までの市街地走行では特に普段どおりの挙動である。高速道路に流入。ランプウェイの安定した走りを確認しつつ加速車線へ。制限速度の80km/hにすぐに到達する。市街地でのこもり音領域からか外れてエンジン回転が上がり、次第に風切り音の小ささや空力のよさの魅力度も上がり始める。



80km/h時のエンジン回転は1800pmで静粛なドライブが楽しめる。高速道路の走行車線を前車に追従して走行していた。上り坂に差し掛かり次第に失速を始めた。ハイギアードな5速では駆動力が足りない様だ。右足を踏み込めばロックアップを外し、場合によりシフトダウンするが、4速で加速し、5速で失速するビジーシフト状態になってしまう。登降坂制御は一般道で大変いい仕事をしてくれるのだが、高速域ではうまく働かないらしい。遅いトラックを追い越して走行車線に戻りのんびり走っていると、再び上り坂で想定外の失速をして同じトラックに追い越されてしまい「これはいかん」と気づいた。

私はペースを上げて目標速度100km/hで走らせる事にした。エンジン回転数が2100rpm程度を指している。相変わらず静粛性が保たれているが回転数が上がることでトルクが出て明らかに走り易くなった。―そうか、アコードは100km/hで走りたいのだと理解し、以後は失速感を出さずに走りきった。



100km/hで走るアコードは極めて安定感があり、運転することによる疲労を感じさせない。たっぷりしたシートはあらゆるシーンでトライバーの疲労を軽減する。疲労も外乱も無く、しまいには眠くなってしまったほどだ。

目的地では本田宗一郎の偉大さを学んだ。





帰りは敢えて新東名高速道路を使う。6車線区間で制限速度が120km/hとなり日本で一番速度が出せる道路となったからだ。再び加速車線から流入。120km/hではエンジン回転数が2500rpm。この回転数だとアコードは今までに見せたことの無い輝きを見せる。当然往路と同じように5速ロックアップ状態なのだが、エンジン回転に比例してトルクが出ているのでみなぎるパワーが明らかに違う。それまでは圧倒的にシャシー勝ちの走りだったアコードのエンジンが目を覚ました瞬間である。(東名より緩いとはいえ)上り坂でも失速せず矢の様な直進性を見せ、車内は家族全員がぐっすり寝ており、空力のよさから風切り音も聞こえてこない。(試しにミラーを倒すとものすごいバサバサ音が発生)



市街地では妨害感が強いAピラーであったが、風を綺麗に流す為の形状なので高速走行では面目躍如。この写真は雨天高速走行時にサイドドアガラスを撮影してもらったものだが、水が真っ直ぐ後方に流れているのが分かる。つまり抵抗を産む渦が発生せず、美しく風を切って走っている証拠なのである。この速度域では操縦性・乗り心地・エンジン・静粛性全ての調子がバランスし、運転が楽しい。CD値0.26という驚異的な空力ボディは高速域でこそ抗力の小ささが際立ちエンジンの回転数と相まって水を得た魚の様に生き生きと距離を重ねた。



長い下り坂の直線道路でアクセルを更に踏み込んだ。とにかく速い。速いのに速さを感じさせないのは道路の幅が広いだけではなく、超高速域でも安定感が継続するからだ。ユーロRは別格として200psを発揮する2.4Lエンジンであれば全域で速いであろう事は容易に想像がつく。今回試乗した2.0Lも新東名での気持ちいい走りは胸すく思いだった。ただし、少し心に引っかかるのは東名や有料道路で感じた5速走行時の緩慢な加速感である。例えば100km/hで2500rpm位にしてあれれば80km/h程度でも発揮するパワーが違うのではないか。恐らく1名乗車では無理なく走れるギリギリにしてあるのだろう。



高速道路を走らせた私の結論は「アコードは速度を出せば出すほど輝く」だ。少々ハイギアードだが、私が速度域が高めなのでシャシー勝ちの性能を十分楽しめた。

●燃費のよさはホンダの意地
お借りしている間、通勤や出張に使い12.3km/Lを記録。(617km走行し50.0L給油)緊急事態宣言が解除され、日帰りで新東名を走らせた際は超高速走行も織り交ぜながら14.0km/Lを記録。(345km走行し24.6L給油)

高速試乗時、いささかハイギアードに過ぎるように感じたのだが、理由は恐らくこうだ。2002年デビュー時、アコードの2.0LはFF/4WD共に平成22年度新燃費基準を達成しており「超-排出ガス認定車」はグリーン税制の対象なのである。当時は購入時に自動車所得税の軽減、自動車税の軽減処置も受けられた。基準燃費値はアコードが属する車重1,266kg~1,515kgクラスで13.0km/Lなのでアコードのカタログ燃費は13.4km/L~13.8km/Lで最重量の4WDでも十分減税対象になる。



2.4Lは走りに振りたいので2.0Lにエコカーの役割を担わせたい、という日本特有の辛い事情が見えてくるが、それでもCVTや直噴エンジンに頼らずに地道に基準達成をした点はホンダの意地を感じた。

10・15モード燃費は13.8km/Lであるから、走りのパフォーマンスを考慮すれば相当燃費が良い。しかもレギュラー仕様であるから、プレミアムガソリン仕様の他エンジンと比較しても納得感がある。ギア比などで燃費対応を伺わせるが、それでもカタログ値が全然出ないエコカーが多い中でアコードの燃費は良好だ。普段筆者も2.0Lの車に乗っているが、200kg以上重いアコードの方が明らかに燃費が良いのは技術の差を感じた。

●まとめ
2007年型アコードからは内外装、走りに大変骨太な印象を感じた。走らせて感じる余裕と包容力はスポーティグレードでなくても十分に分かる。運転する前は大きなセダンだと感じるのだが、実際に運転すると、死角はあるもののそれほど大柄には感じなくなった。これは現在の代表的セダン系乗用車である4代目プリウスとほぼ同じサイズだからである。当時は「セダンの肥大化はけしからん」なんて思っておきながら、デビューから20年近く経つと普通の車の普通のサイズになっている。20年経てば全長4900mmのにプリウスが走っているのだろうか。その時のミッドサイズセダンは一体どうなっているのかもう少し長生きして確認したい。



当時のホンダらしく五角形グリルを持ったウエッジシェイプのセダンスタイルはホンダらしい硬質な面が特徴。欧州車を意識して内外装のクオリティアップも相まって先代から明らかに一クラス上の雰囲気を持っている。7代目アコードを語る場合、ゆとりあるボディと共に新設定された2.4L仕様や2Lで220psを引き出せるユーロRが注目されがちだ。2.0L仕様は廉価版的な立ち位置で陰に隠れがちでありながらも、実際に乗ってみるとホンダらしい優れたエンジンと賢い変速機の相乗効果でこれ以上は過剰では無いかと思えるような非凡な才能を持っていた。

2007年当時、予算300万円で買えるレギュラー仕様のセダンという条件で購入されたアコードは当時でもボディサイズを考えると「排気量が小さ目かな」「やはり押しはボディサイズを考えて2.4Lかな」と感じていたが、2.0Lでもホンダイズムは健在でレッドゾーンまで澱みなく回る。高速道路をフル乗車で、のんびりロックアップをかけながらだらだら続く上り坂を走るような限られたシーン以外では全く問題ないレベルでパワーが出る。しかし、ひとたび高速道路でかったるい領域を外れれば、エンジンがパワーを開放し、欧州車の如く疲れを感じさせずに直進性の高い安定した走りを見せる。ついつい飛ばしたくなってしまうので自制心も求められる程である。

アコードが向いていないシーンは特に市街地だ。アイドル回転数や低回転域のこもり音は同乗者からも気になると言われてしまう部分だろう。このこもり音は開発陣も気付いていなかったとは考えにくい部分で、それよりもエンジン回転が上がった高周波ノイズ対策を重視したのではないか。(遮音・吸音対策はかなり念入りだ)確かに経時変化でエンジンマウント特性が変わってしまって新車時のレシピが再現されていない可能性は残るが、いずれにしても会話で子音を多用する欧州人が気にする高周波を対策しつつ、彼らが気にしない(=日本人は気にする)低周波のこもり音を許しているあたり、歴代アコードが持っていたバタ臭さがアコードらしさであるのなら、ワインディング路面の凹凸も、ハイウェイの速度感も感じさせずにさらりと高性能な走りを見せる長所も、こもり音が丸聞こえの短所も合わせてアコードにとってはバタ臭い魅力なのだ。日本でまれのアコードは北米で大成功したが、車作りは常に欧州的なものを漂わせてきた。そう考えると7代目アコードは非常にアコードらしいと言えるのではないか。

(筆者注:マウント総交換によりこもり音は気にならないレベルまで低減)



7代目以降、2008年に8代目、2013年に9代目、2020年に10代目アコードが日本で販売されているが、これらのアコードは日本を一切意識しておらず、グローバルを感じさせる車を日本で売るという面ではホンダの軸はぶれていないが、日本人にも買わせよう、乗ってもらおうという意識がほとんど感じられないのは何故だろうか。ボディサイズも日本のユーザーを置いてけぼりにする大さだ。アコードがクラウンと同じ大きさでクラウンと同じ価格では困るのだ。ホンダは軽自動車だけ売らずにしっかり普通車を日本で売るべきで2017年にデビューしたアコードはデビュー後すぐに日本で売るべきだったと思うし、ホンダを代表するモデルがアコードであると自覚して日本にラインアップし続けるのなら、もう少し価格競争力もつけて欲しい。三菱ギャラン・フォルティスの様にボディサイズ的にかつてのアコードを想起させる現行インサイトにアコードを名乗らせてアコード・インサイトとでもしておくのも一つの作戦だったと思う。デビュー後に試乗して好感を持ったことを思い出した。インサイトはFMCの度にキャラが変わりすぎて認知されにくい。いっそインサイトをアコードの1バリエーションにしておいて、
アメリカアコードを「アコード」とするようなアイデアもアリだったと思うのだが。せっかくなのでボディサイズの比較をしたい。

2002年モデル:4665mm×1760mm×1470mm,2670mm(日・欧)
現行インサイト:4675mm×1820mm×1410mm,2700mm

比較すると幅が片側30mm広く扱い易さに疑問が残る車幅である。確かにスポーティなスタイリングとエモーショナルをやり過ぎない内外装はアコードでも良いが、後席のくつろぎ感はヘッドクリアランスやシートの分厚さでアコードに分がある。ホンダのセダンを代表するには前席優先過ぎるところが引っかかるが、インサイトの名前より日本では売れた気がする。その点、当時のホンダがとった欧州向けをアコードとして売り、大型のアメリカ向けをインスパイアとして売ったのは良い作戦だった。

二輪車で名を馳せたホンダが軽自動車市場に挑戦(1963年)して成功を収め、低公害エンジンを積んだ小型2BOXのヒット(1972年)で普通車市場での地位を築き、次に上級移行の受け皿としてアコードが産まれた(1976年)歴史がある。以後、45年の歴史を重ねてきたが、スマッシュヒットの軽に注力しすぎてホンダがブランドイメージを築いてきた上級車が日本のユーザーの目に入らなくなりつつある。海外で数年前に発売された鮮度が落ちたモデルをクラス相場より割高に販売するという作戦は確かに少量販売で利益を生むが、軽自動車頼みの状況は打破できないだろう。アコードの火を消さぬようやりくりしていると言う実態に敬意を示しつつも、現状に満足していて良いのか私は疑問を持っている。

2007年式アコード20ELとの生活を通じ、ホンダが自信を持って開発した「全身、全域、Hondaイズム。」のキャッチコピーに偽りが無い事は理解できた。ある意味でN BOXも全身、全域、Hondaイズムなのだが、再び品の良いジャストサイズの上級セダンとしてのアコードに乗ってみたい。お借りしている間だけでも同世代のアコードを5台以上見かけた。皆気に入っていて乗り換える車がないのだろう。こういう方々の受け皿になる良いセダンが欲しい。



●後日談:エンジンマウント総交換でこもり音激減
本ブログ発表後、オーナーが主治医が居るホンダディーラーにて部品が在るうちにエンジンマウントの総交換を実施。修理後、改めて借用して使用した。特にエンジン始動時の振動・こもり音と40km/hの低回転走行時のこもり音が飛躍的に改善して実用レベルに治まっていた。確かに完全に消えたかと聞かれると、まだ残ってはいるが、それでも気になるレベルではないと断言できる。徐々に劣化するマウント系は毎日乗るオーナーには気づきにくい変化なのかもしれない。同型車ユーザーの方も部品がなくなる前に早めのマウント交換をお奨めしたい。

改めてこの場を借りてモデラーNさんに感謝。
大切な愛車を貸して頂き有難うございました。
Posted at 2021/04/02 00:36:36 | コメント(5) | トラックバック(0) | 感想文_ホンダ | クルマ
2020年05月16日 イイね!

2020年式ホンダフィット感想文

2020年式ホンダフィット感想文





●要旨
新型ホンダフィットは、数値目標に縛られず
「心地よい」をキーワードに開発された。
エクステリアは伝統のワンモーションフォルムだが、
ディテールはすっきりしており、
エモーショナル疲れした私は好印象を持った。
インテリアはワンモーション系としては
異例なほどスッキリした視界に驚いたが、
フィットらしいユーティリティは基本的に残されている。
e:HEVは競合とは異なる穏やかな加速が印象的。
一方、先代から引き継がれた1.3Lガソリン車は良い意味でフツー。
レスシリンダーを加速させる競合よりもNVに優れている。
個人的なお勧めグレードはe:HEVのHOME。
価格は高めだがお得感のある仕様設定はホンダの声なき圧力か。
パーソナルカー的な競合車とは対照的に
これ一台で全てをこなしたいと言うニーズに合致する。


●20年ぶりの真っ向対決


2020年2月、トヨタがヴィッツを発売するとほぼ同時に
ホンダから新型フィットが発売された。
両車ともにBセグメントの基幹車種として力を入れて
開発されたオーラをひしひしと感じる。

フィットとヴィッツ(現在はヤリスに改名)のライバル関係は
今から約20年前から続いている。
1999年に初代ヴィッツがデビューし遅れること2年、
2001年6月にロゴのFMC版としてフィットを発売した。
従来のロゴよりもスペースユーティリティを訴求したパッケージングは
ミニバン基準で語られがちな居住性の要求にもよくマッチしていた。
全長3830mm、ホイールベース2450mmという数値からも分かるように
ヴィッツよりも少し大きめのディメンジョンであったが、
これは軽自動車のライフを擁していたことも理由の一つだろう。



初代フィットはコンパクトカーでありながら驚くべき積載性を誇った。
Rrシートを畳むと、元々低いデッキ面との段差が無くフラットになり
逆に、Rrシート座面を持ち上げてロックすると
観葉植物やベビーカーがそのまま搭載できるほどのスペースが生まれた。
この秘密はFF車の場合Rrシート下に配置していた燃料タンクを
助手席下に配置することでRrの荷室スペースを低く長く採ることができた。
デメリットとして後席の脚入れ性、前席の脚引き性は犠牲になったが、
他を寄せ付けないユーティリティはフィットの一つの大きな長所になった。
低燃費技術もフィットの大きなセリングポイントだった。
4気筒1.3L i-DSIエンジンはツインプラグを採用、
各々のプラグの点火タイミングをずらして急速燃焼を実現、
さらにCVTを採用することで当時としては
驚異的な23km/L(10・15モード)を達成。
それをアピールする為にメーター内に燃費計が備わったのも
当時としては珍しかった。
初代フィットのキャッチコピーは「思い立ったが吉日生活」。
ホンダらしいハイテクで元気なイメージと実生活で役立つ便利さが好評で
こちらは当時のベストセラーカーのカローラを追い落とした
歴史的なヒットを記録。
ヴィッツよりもファミリーユースの使用も多く、
当時住んでいたマンションでもK11マーチ代替で1.5Tが、
EGシビック代替で1.3Aが止まっており個人的にも馴染み深い。

簡単に初代フィットを振り返ったが、当時のフィットとヴィッツは
ライバルと目されることは多くともキャラクター設定は異なっていた。
ヴィッツはあくまでも小さいことを大切にして
前席優先のパーソナルユースを主体に考えており、フィットは後席や積載性も重視している。
キャラクターは違えど、ヴィッツとフィットは競合関係にあり激しい販売競争を繰り広げた。
ヴィッツとフィットは、80年代的な2BOXエントリーカーブームが作った枠組みから、
日本市場の中心車種としてのBセグに進化する橋渡しをしたモデルの一つだと考えられる。

●国内市場に合った待望の新型フィット

革新的コンセプトの初代、継承とHV化の2代目、
挑戦とリコールに悩まされた3代目を経て、
4代目フィットは絶対に失敗できない車になってしまった。

その背景はホンダ自身の軽自動車、いやN_BOXに偏った販売と
普通車の国内軽視が祟って日本市場でのプレゼンスや
利益構造が大きく悪化してしまったのだ。

初代フィットで特許技術となったセンタータンクレイアウトを
軽自動車に転用したN_BOXはそれまでパッとしなかった軽自動車市場で
競合を寄せ付けないスマッシュヒットとなった。
軽自動車と言えばスズキ、ダイハツの存在感が大きかったが、
N_BOXを放ったホンダはそこに独自の美味しいポジションを築いた。



一方、普通車市場は国内5枠をフィット・グレイス・フリードと
ステップWGNで支え、流行のSUVはヴェゼルが販売をリードしていたが、
徐々にN_BOX一本足打法に限界が見えてきた。
利幅が大きいレジェンドやアコードといった上級車種は放置プレイ。
CR-Vやオデッセイ、シビックも海外市場に注力する為に
日本市場での魅力が犠牲になった。
それを誰よりも理解していたホンダは国内登録車の
積極的な商品改良を怠った。
黙っていても客が来るN_BOXを売ることに時間を使い、
販売現場もメーカー側も普通車ビジネスを忘れかけていた。
(そのN_BOXも自社登録と思わしき中古物件も多数見かける)

その意味でフィットは「さすが軽とは違うよね」と
言わせるだけの実力が求められる。
3代目は肩に力が入りすぎたのか加飾過多気味の意匠かつ、
新開発のi-DCDなるハイブリッドの度重なるリコールによって
売る方にとっても「薦めにくい車」になり、
結局N_BOXの販売を後押ししてしまう結果になった。

4代目となる新型は上記の反省によって生まれ変わった。
変えなかったのはセンタータンクレイアウトが生み出す
「これ一台で生活がこなせる」圧倒的なユーティリティ。
それ以外は「心地よさ」をキーワードに数値を追わず
ユーザーにとって快適なコンパクトカーとすべく
親しみ易い内外装をまとってデビューした。

●すっきりエクステリアと際どい細部

基準グレードとなるHOMEの展示車を見た。
3サイズは3995mm×1695mm×1515mm
(シャークフィンアンテナ仕様は1540mm)。
初代以来、ライバルと目されるヤリスよりも大きめの体格である。



パッと見た瞬間に毒気の無い癒し系の見た目は好印象を持った。
エモーショナル疲れしてきた私にはこれくらいの穏やかなスタイルが良い。
廉価グレード以外はフルLEDライトが備わり、線状に光るDRLが備わる
ヘッドライトは最近の例では大きめで近年人気が高まっている柴犬をイメージしたそうだ。

サイドに回りこむとBピラーを軸に対称なのかと
見紛う様なワンモーションフォルムは
キャビンをいじめてまでフードを長く採って
流麗に見せようとする競合車をあざ笑うかのようだ。
(例えばデミオ/マツダ2など)



しかし、これこそが初代フィットがデビューした
2000年代初頭においては最先端のデザイン手法であった。
それまでの端正なセダンと較べてパッと見で未来感があり、
室内を広く明るく見せる効能があったからだ。
いま、出鱈目に思い出しただけでメルセデスベンツAクラス、
三菱コルト、トヨタナディアなどが浮かんだ。
ある意味、ワンモーションフォルムの車が増えたからこそ、
より自動車らしく見える意匠が脚光を浴びたのだが、
逆張りをしてまでワンモーションフォルムを固持したフィットは
フィットとしてはキャラが立ってアリだ。

見所はワンモーションを協調するAピラー前のA'ピラーだ。
極細で勢い良くフェンダーに刺さっているように見える。
近づいてみると少々処理が荒っぽい(というか汚い)のだが、
汚れが溜まってくると天然ブラックアウト処理で誤魔化せるかも知れない。



サイドビューも変なうねりもキャラクターラインも入っていない。
プレスラインはドアを薄く見せるための水平線と
ホイールアーチを強調する円弧くらいだ。
意匠しつつ、極力足し算していると思わせない頑張りを感じた。

ついでにフューエルリッドも前代未聞のえぐい形状をしている。
前はドア見切りから見切りが決まる。
後ろの見切り線を前と同じ角度にした方がリッドとしては美しいが、
構成線がぐちゃぐちゃでトータルでは美しくないので苦肉の策として
Rrコンビに当てに行き、見切りの角度はRrバンパーと合わせて
バランスを取ったのだろうと想像した。
確かにRrホイールアーチがふくよかなので
この位置にリッドを持ってくることは難しそうだが、
他に位置が下げられない理由があったのだろうか。
類似する例ではメルセデスのCLSシューティングブレークがある。



リッドをじっくり見た。
一般的にはL字フランジを一周回すものだが、
新型フィットは先端部分でフランジをカットして
Rrコンビランプとの隙を確保している。
それほどまでに断面が厳しいのだろう。
近年の市販車でこれほどまでにえぐいリッドがあるだろうか。
こうなった本当の理由は分からないが
これほどまでにトリッキーなリッドを量販車に採用するあたり、
荒削りな威勢のよさがホンダらしいといえはホンダらしい。



リアビューは従来までのフィット異なり、
リアコンビランプがワイドな二分割タイプとなった。
コストの兼ね合いでRrコンビランプは固定側だけで成立させるのが
Bセグの鉄則だったが、3代目ヴィッツのマイナーチェンジ版や
デミオの事例を受けて恐らくフィットも追従したのだろう。
(但し可動側はHVは光るがガソリン車は光らない)
Rrコンビランプと車体の隙間をつめるなどして
塊感を出した他、Rrワイパーがバックドアガラス貫通タイプなので
そこがちょっとスタイリッシュかなと言う感じで要素としては
競合相当のコストがかけられている。

●ホンダらしい攻めたインテリア

インテリアもエクステリアとの連続性を感じる。
水平基調のインパネにナビ/AVスペースの両側に
空調吹出し口が配置されるよくあるデザインだ。



正面の部分はユーザーが手を触れてソフトな触感が楽しめる。
この手の内装意匠はナビ画面の位置が決まると、
インパネ上面の高さが決まるため、
ボリューム感が出すぎて圧迫感や見晴らしの悪さに繋がることもあるが、
新型フィットはナビ画面とインパネの前後方向の位置をずらして
インパネの高さを抑える方策を採った。
それに加えて液晶メーターにバイザーがないのには驚いた。
反射を抑える加工や角度の工夫でバイザーレスに出来たようだが
これに2本スポークのステアリングと相まって控えめでスッキリとしている。



展示車のHOMEはコンビシート(合皮と織物)が採用されている。
デザインもちょっと伝統的なデザインで「いいもの感」がある。
新型フィットのシートは全部で4種類存在するが、
最量販と思われるHOMEのコンビシートは競合と較べると奢った仕様だ。
更に、最廉価仕様でも上級仕様とシート骨格が共通で内装色も2色から選べる。
さらに上級になると、挿し色で遊んだ撥水加工つきファブリックになり、
最上級は本革シート(ブラウンOR黒)となる。



ヤリスを競合としてみた時に、運転席シートの回転やスライド機構が
追加できる点ではヤリスが有利だが。ベーシックなシートの仕様で較べれば
フィットの圧勝だと判断する。(なにしろヤリスの標準はハイバックシートだ)

運転席に座って感じるのは、今までコンパクトカーらしさを取り戻し、
狭いながらも楽しい我が家的なBセグの中でフィットだけは
クラスを超えた広々感を追い求めて居るのだと分かる。
それは前方視界がとてもスッキリしているのだ。

先ほど、エクステリアの際に触れた
ワンモーションフォルムという意匠の傾向。
ドアミラーに近い位置にあるAピラーと、
その前方のA'ピラーとの間に視界確保の為の
三角窓を設けるの例が多いが、
この手の車は三角窓があれどもピラーが視界を遮る為、
三角窓を大きくしても視界の改善には限界があった。
フィットはワンモーションフォルムをやりながら
真面目に視界を確保している点に注目したい。



ウインドシールドガラスの下端線をあえて水平に通し、
そこにワイパーを見せない(ワンモーションはこれが比較的楽)ようにし、
A'ピラーを従来では考えられないほど細くした。
そして三角窓下端も真っ直ぐ通すことで、視界がすっきり見えるだけでなく、
実際にA'ピラーが視界を遮らない細さなので何とか許容できる。
より運転席に近い本来のAピラーは太いものの、
手前に引いている為に視界を損なうことは無い。



このA'ピラーはメーカー資料を拝見すると驚くべき事が分かった。
一般的にピラーは衝突性能や耐久性確保の為に2枚の鋼板を接合して
閉じ断面にすることが当たり前なのだが、新型フィットは
極限まで細くする為に鋼板を開き断面にしている。
つまり「細さありき」でA'を設計したということだ。

衝突性能を確保する為に運転席に近いAピラーに荷重を流すように
衝突エネルギーの流れを調整している。
一般的にワンモーション系の車は
斜め角度がついたA'ピラーを衝突部材として
使いたがる傾向があった。それは衝突荷重の流し方として
角度が寝ているピラーに流した方が直線的に荷重が流れて効率が良く、
結果的に車を軽く出来るからだ。
新型フィットは衝突性能を確保する為に荷重の流れ(ロードパス)を
敢えて不利なAピラー側に流すことでA'ピラーを弱体化しても
影響が出ないようにした。

ホンダはかつて4代目オデッセイで
980MPa級の鉄パイプをハイドロ成型した
極細Aピラーを実現した。閉じ断面をパイプで実現させ、
片側圧着でも抵抗溶接ができるようにお金をかけて死角を減らしていた。



他社の例でも死角をカメラで映して・・・というアイデアも確かにある。
たぶん、一番お金がかからないのはAピラーを思い切り後方に引いて
ガラスの曲率を強くすることで先代のカローラアクシオが実用化していた。
しかし、フィットが採用したいワンモーションフォルムでありながら
高価なデバイスに頼らずに単純な細ピラーと直線的な見切りで
見易さを実現すると言うのは素晴らしいアイデアであると感心した。

新型フィットでは更にBセグでも対応できる
コスト感覚を身に着けて極細ピラーで視界確保した点に進化を感じた。

#余談だが、衝突時のエネルギーを何処に流すかはとても重要で
#古来の自動車では全て梯子型フレームが荷重を受け持っていた。
#モノコック構造となってからは基本的にフロアで受けていたが、
#ピラーを介して屋根に荷重を伝わる部分もあるため、、
#オープンカーなどでは衝突対策でロッカーを補強する例が多数見られる。

さて、インテリアの話に戻ると
Frフロアに燃料タンクを置いたレイアウトゆえに
我が家のデミオと較べれば前席が前に座らされている感があるものの、
反対に後席はたっぷりとした広さがある。
足元広さはリムジン並とも思える広さだし、伝統のウルトラシートは健在で
後席座面をチップアップすれば例えばベビーカーを立ったまま搭載できる。
つまり、後席のフロア面がちょっとした荷台として使える点も驚きだ。
さらに、Rrシートは沈み込みながら格納可能なダイブダウンで、
デッキが低床化されているため、見た目以上の積載能力がある。



我が家はユーティリティを犠牲にしてデミオに乗っているので
家族全員「これは凄い!」とフィットの個性に感動した。
それほどまでに後席重視なのであれば後席リクライニングを
廃止してしまったのは少々退化したように感じた。

●試乗―革新のe:HEV車と守りのガソリン車

先代同様にフィットにはハイブリッド車とガソリン車が存在するが、
HVは先代で痛い目にあったDCTを用いたi-DCDを引っ込めて
e:HEVに改められた。
名称は新しいが機構自体は先代アコードから採用された走行用モーターと
発電用モーターを持ち、高速走行時にエンジン走行モードを持つi-MMDだ。
(日産のeパワーに高速時E/G直結モードが付加されたイメージ)

思えば2代目フィットに追加されたIMAでは「電動アシスト付き自動車」
と揶揄され、トヨタのカタログでこき下ろされていた(後に回収騒ぎに)が、
徐々に電動走行比率が上がり、
ついにトヨタのTHSと肩を並べるまでの完成度に近づいた。

ガソリン車は廉価グレード的扱いで1.5Lが落とされて
先代からのキャリーオーバーの1.3Lが残った。
変速機もMTが落とされてしまい、CVTだけになってしまった。

両仕様に試乗した。
チャイルドシートを取り付けたが、居住性の広さ故に
乳児対応の大き目のチャイルドシートでも子供の載せ下ろしが簡単だ。
サイドドアが大きく開く点も便利で前席優先のモデルとは一線を画す。
私は運転席に、妻子は後席に座って試乗がスタートした。

e:HEV HOME

このメカニズムはステップWGNやインサイトで体験済みで
ギクシャクしないスムースさや電動走行の楽しさが十分楽しめて、
発電時にE/GがEV走行を興醒めさせない良さは残されている。

視界のよさに感心しながらディーラーを出ると、
加速のよさを感じるものの例えば「ひと踏み惚れ」をキャッチフレーズにした
競合よりも明らかに刺激が足りない。
実際に必要な加速度は出ているがより自然なゲインになるように調整されているのは
コンセプトの「心地よい」に準じた結果なのだろう。
あまりワンペダル走行させるような回生セッティングにもなっておらず、
個人的には大人っぽいし、大多数の一般ユーザーには馴染み易いと感じた。

1.3 NESS

ガソリン車は先代からお馴染みの1.3Lだが、
ホンダらしく最高出力が98psとクラスを考えれば十分だ。

走らせて感じるのは普通って良いなという安心感である。
取り立てて速いとは感じないが
極めて普通に走り、普通に曲がって止まる。
CVTも少々ラバーバンドフィールを感じるが、
まぁこんなものかと納得できた。
実は、ヤリスに乗った後だったのであのE/Gの脈動と較べると
静粛性に富み、シルキーであるとすら思えたのは時代の流れだ。
e:HEVと1.3Lの価格差は税込価格で44万円~35万円。
e:HEVが1.5Lであることを考えるとそんなに割安とは言えないのだが、
普通の車が減っていく中でフィットの1.3Lの普通さは尊い。
(マツダ2やスイフトと言う選択肢もある)

雑誌の情報では1.0Lの三気筒ターボの登場が控えているようだが、
個人的には4気筒が楽しめる1.3Lの旧く枯れた点が気に入った。

一つ、苦言を呈するなら、
雨天で試乗した際に助手席ワイパーの作動角度の関係で
助手席ブレードが雨を避けた後、運転手の視界に雨だれが起き易い。
短時間の試乗中ですらイライラした点は強く指摘したい。
他車は助手席側の作動角を大きくして雨だれが起きないよう配慮している。
こういう点も心地よくしてもらいたいものだ。

●見積もり

見積もりを作成していただいた。

個人的にはe:HEVの完成度は高いと考えているが、
車を探している親族を想定して1.3Lで見積もりを作成。

新型フィットのグレード構成
(価格は1.3L_FF税込み)は以下の通り。

BASIC(155.8万円)
HOME(171.8万円)
NESS(187.8万円)
CROSSTAR(193.8万円)
LUXE(197.8万円)

予算に合わせた積み上げ式の序列ではなく
比較的個性が分かれていて
見た目で選びたくなる人とも居そうだ。

BASICでもヘッドレスト分離式のファブリックシートや
カーテンエアバッグ、スマートキー、ホンダセンシング、
パーキングセンサーやEPB、遮音ガラス、
プライバシーガラスなどの装備は標準だ。

外観上BASIC特有なのはマルチリフレクターヘッドライト位だ。
予算重視ならこれで十分つぶしが効く様にも思う。
(LEDヘッドライトはOPT:7.2万円
 ナビ装着PKGはOPT:5万円)

「わしは余計なものは要らないんじゃ」的な方の為に
ホンダセンシングレス仕様(-7.2万円)が選べるのも最廉価ならではだ。
レス仕様は税抜き価格135.1万円になるのだが、
カーテンエアバッグや横滑り防止装置が備わるなら
上々のお買い得レベルだ。
個人的には2020年に新車を買うのであれば、
ホンダセンシングは備えておきたい。
(特に中高年の親族が乗るなら)



HOMEではLEDヘッドライトが備わるが、
それ以上に内装のグレードアップ幅が大きい。
オートエアコンシートが合皮のコンビシートになり
インパネもソフトパッドになる。
後席はアームレストが追加されてクラスを超えた装備水準だ。
また、今時懐かしいハーフシェイドの
ウインドシールドガラスもHOME以上で標準となる。
(16インチアルミはOPT:6.6万円
 ナビ装着PKGはOPT:5万円)

BASICとの価格差16万円のうち、7.2万円がLEDヘッドライト代なので、
オートエアコン(推定1.8万円)と
内装の向上分(推定7万円)で8.8万円分となる。
コンビシートや内装ソフト化の他は内装部品が
メッキになったりする程度の差なので
原価的にはそれほどお買い得とは言えないのだが、
細部にわたる内装の差別化は商品性として魅力的であり、
私は多くの人がHOMEに流れると見込んでいる。
(BASICにオートエアコンとLEDヘッドライトが備わる
e:HEVはお買い得度が高い)

その上のNESSはファッション性を高めた上級仕様で、
HOMEに対して16万円高だが、ナビ装着PKG(5万円)と
16インチアルミ(6.6万円)が標準となる上、
フォグランプ(DOP:4.5万円)、プラズマクラスターが追加される。
内装はコンビシートから撥水ファブリックシートになるため、
シート表皮の仕様的には若干ダウンしているのがカラクリではないだろうか。
OPT価格積み上げではプラズマクラスター代がタダになり、
上級仕様なりのお買い得感が味わえる。
更にファッション性を追及する人にはツートンカラーの選択も可能だが、
ヤリス同様に5.5万円~9.9万円というエクストラコストが発生する。

CROSSTARは今流行のBセグSUVを指向するグレードで
アクアのクロスオーバーと直接的に競合しそうだ。
専用の外装(前後バンパー、オーバーフェンダー、ドア下モール、
高輝度シルバードアミラー)と専用意匠の16インチアルミ、
最低地上高アップ(135mm→160mm)となる。
CROSSTARのみ、全長が4090mm、
全幅が1725mmとなるので注意されたい。
都市部のタワーパーキングに入るため、
CROSSTARでは最低地上高を上げながら
アンテナをショートポール式にしてる為、
ギリギリ駐車OKになるよう配慮されている。

装備内容的にはNESSの6万円アップだが、
フォグレスになる分を合わせて専用意匠分の装備は10.5万円となる。
人によってはグレードダウンに感じるかもしれないが、
RAV4のアドベンチャーの様にこの見た目が好きになったら
他に選択肢が無いのがCROSSTARだ。
更にSUVルックを求める向きには
アルミ製ルーフレール(OPT:4.4万円)や
2トーンカラーも設定されている。

LUXEはダウンサイザーや小さな高級車を求める人のためのグレードで
NESSに対して10万円アップだが、プラズマクラスターが省かれる一方、
本革シート、前席シートヒーター、本革巻きステアリング(推定2.6万円)、
本革シフトノブ(推定0.9万円)、専用メッキドアミラー、
前後専用メッキモール、専用意匠の16インチアルミが追加される。
価格アップ分に対して本革シートがつくのはお買い得感が高い。

新型フィットのガソリン車の中で私が親族の為に選ぶなら、
現状の車に備わるオートA/C、アルミ、フォグが欲しいので
HOMEのOPT付き(ナビPKG+コンフォートビューPKG+16インチアルミ)か
NESS(コンフォートビューPKG)を薦めたい。
車両本体価格はHOMEが186.7万円、NESSが191.1万円となる。
HOMEにフォグを追加すると191.2万円となるため、逆転してしまう。
フォグがどうしても必要かは議論が必要だ(意匠的に私は好きだが)。
妻と話しながら、仕様を下記の通り決めた。

NESS プレミアムサンライトホワイトP
コンフォートビューPKG付き(196.6万円)

付属品は、
ナビ、ボディコート、フロアマット(STD)、ETC、ドラレコ、
マッドガード、オートリトラミラー、
ステアリングホイールカバー(本革)、
ラゲッジカバーの合計で36万円。

点検パックと延長保証合わせて6.4万円。
上記を含めた諸費用は20.5万円。

車両販売価格233万円+諸費用20.5万円、
支払い合計253.5万円となった。

1.3Lのコンパクトカーでも調子に乗ると
この価格になってしまうのは驚くばかりである。
ちなみに前回取り上げたヤリスの場合、
1.5LのZの見積もり結果が265万円であるから、
それと較べるとヤリスの方が排気量を考えると
ヤリスが割安とも感じられるかもしれない。
ヤリスはスタート価格に対してOPTが豊富で
見積作成でどんどん価格が上がる。
フィットの場合、スタート価格が高めだが、
後から追加できる装備も数少ないので、
フィットもヤリスも総額が結果的に変わらない。

純粋に私が新型フィットを購入するなら、
e:HEVのHOMEのフルOPT(221.6万円)、
ボディカラーはエアーライトブルーMを選ぶだろう。

●まとめ

トラブルに泣いた3代目の反省点を活かし、
万全を期して発売を待っていたものの、
発売前に急遽Rrブレーキをディスク化して不具合を乗り切ったフィット。

「心地よさ」をキーワードに数値化されにくい部分をにこだわったという割りに、
内容的には相当マニアックな部分にもこだわりが垣間見えてホンダらしい車になった。

旧い話だが「ハーフスロットル高性能」を謳い、
平凡な8バルブOHCエンジンと3速ATを積んだロゴを思い出した。
マーチやスターレットに埋没しそうな意匠と
少々軽自動車ライクなチープさが玉に瑕だったが、
ホンダはサーキットのイメージを裏切ってこういう
理想主義的なモデルを世に問うことがあるが、
新型フィットも、商品としてはそれに近いだろう。

ただし、当時と少し違うのは心地よさの向こう側に
「少しでも高い仕様を買わせたい、モデルミックスを適正化したい」
というホンダの心の声が聞こえてくる事である。
BASICに対するHOMEの内装の奢り方、価格差、
或いは同グレードでもe:HEVの装備の追加のされ方を考えると、
「e:HEVのHOMEを買って欲しい」と暗に伝えられている気がする。
勿論、その声なき声にまんまと乗せられるのは、
一つの正解であることは間違いないが、
逆に1.3LではBASIC+α的な仕様があるとちょうど良いのだが。

いくらe:HEVがお勧めだとは言えども、
短距離ユーザー視点ではHVは必ずしも最適解にならないケースがある。
1.3Lはよりベーシックな車を求めるユーザーに似合っている。
特に、3気筒に大きく舵を切りながらも
NV性能が割り切られたヤリスと較べてしまうと
ただのキャリーオーバーでしか無い1.3Lエンジンの美点が光る。
雑誌の記事では1.0Lの3気筒ターボが追加されると言われているが、
1.3Lの枯れた技術が残される必要性もあると思った。

フィットは初代からの伝統でBセグハッチバックに
広大なユーティリティを付与した車だ。
そうでありながら、かつてのシビックの様な立ち位置も求められて
一台で何でもこなさなければならない全方位的な性格が求められる。
その点がライバルと言われているヤリスと最も異なる点だ。
ヤリスが気に入らなければアクアやタンク、ライズ、パッソがあるので
ヤリスはヤリスがやりたいことだけに専念できる。



フィットの「なんにでも使える」という
オールマイティさが魅力に映る人にはお勧めと言える。
現に、あえてミニバンを買わずに2代目フィットで
男の子2人を育てている同級生のお母さんがいる。
彼女曰く、フィットで全然困らないそうだ。

逆に、フィットの後席の広さや
ラゲージの広大さが過剰に感じるなら、
他の選択肢も十分に検討する価値がある。
個人的には6速MTが備わる仕様があれば将来の
買い替え候補としてもありがたいし、非スライドドア系の
手ごろなファミリーカーとしても最適だ。
RSの様に「いかにも」な仕様ではなく
HOME位の肩の力抜けたMTがあると良い。

実力は感じたので、後はしっかりと品質面を守り、
軽を売りたいはずの営業マンに覚悟を持って普通車を売ってもらえれば
登録車マーケットでも必ずやホンダの存在感は向上するだろう。
Posted at 2020/05/16 00:55:38 | コメント(0) | トラックバック(0) | 感想文_ホンダ | クルマ
2018年05月12日 イイね!

1997年式ステップWGN_G感想文

1997年式ステップWGN_G感想文









N兄さんが格安中古車でステップWGNを購入された。
以前レンタカーで借りた際の印象が良く、
つい乗りたくなってしまった、
とのことで車検が切れたら物置にしようと考えているそうだ。

格安価格で購入した初代ステップWGNは
どうやら宿泊施設の送迎用に使われていたらしい。
お借りする直前にオルタネータが死亡したが、
リビルト品でバッチリ修理して頂き、
我が家の連休を共に過ごすこととなった。
(N兄さんにはカローラに乗ってもらった。)



(感想文中に出てくるバネット・セレナは
 私の親が1991年に購入した車を指し、
 ライトエース・ノアは親が2000年に購入した車を指す。)


●現代的ミニバンの始祖と言える名車


1996年5月に誕生したステップWGNは
「ここ」で触れたとおり、現代のミニバンが持つ
「5ナンバー/FF横置きエンジン/ウォークスルー」を
初めて備えたエポックメイキングなモデル
である。

私は1995年の東京モーターショーにS-MXと並んで
F-MXとして参考出品されていたステップワゴンを見て
あのホンダが1.5BOXミニバンに参入するという事実に
大変な衝撃を受けた記憶がある。
当時、私の親がバネット・セレナに乗っており、
3列シートのミニバンは後輪駆動が当たり前なのだ!
と思い込んでいた上に、
ミニバンらしくないところが売りのオデッセイが
スマッシュヒットした事から
ホンダがセレナやエスティマ・エミーナ/ルシーダに
真っ向から勝負を挑むとは思えなかったのだ。

当時、ホンダはオデッセイ以後のRV車に
「クリエイティブ・ムーバー」と名づけていた。
(Honda Green Machineみたいなものだ)
第一弾はオデッセイ、第二段はCR-V、そして
ステップワゴンが第三段となった。
(ファミリームーバーとも呼ばれていた)

ステップWGNを語る上で外せないのが広告の存在だ。
絵本のようなタッチで「こどもといっしょにどこいこう。」
というコピーは、ミニバンが持つ「楽しい家族」のイメージを
ストレートに意識させ、私などはCFテーマの
オブラディ・オブラダを聞けば「ステップワゴーン ホンダァ」
と思わず口走ってしまうほど脳裏に強烈な印象を残した。



実はこの一連の広告は現在N-BOXの広告を担当している
佐藤可士和氏が手がけたと聞いて
むむむ、さすが天才、と膝を打った。

登録車で後輪駆動のP/Fを持たないホンダが
世に放ったステップWGNは従来の常識から脱却し、
完全乗用車ベースで割り切りを生かした車に仕上がった。

FFベースながらスライドドアを持つボクシーな見た目は
完全なる1.5BOXミニバンであった。
多彩なシートアレンジや快適装備を持ちながら、
ライバルと異なるFFの良さを生かした
フラットなフロアやウォークスルーに加え、
すっきりとした割切りによって驚くべき低価格も実現した。

3列シート最廉価モデル(G FF車)は
179.8万円という驚きの低価格を誇った。
現代ならN-BOXカスタムのターボ(175.5万円)に近い。
1996年当時の競合車と比較すれば、



セレナ 2.0FXは211.7万円、
エスティマルシーダ 2.4 Xが214.3万円、
デリカスペースギア 2.4XGが195.2万円、
ボンゴフレンディ 2.0RS-V 197.4万円、
ライトエースノア G 195.5万円。

どれも200万円近傍が実質スタート価格だったが、
フル装備で必要十分のグレードでも180万円という
ステップWGNがどれだけ破格の安さかが分かる。
ちょうど、同時代のマツダ・デミオや
海外のダチア・ロガンの様なキャラクターだ。

後輪駆動が当たり前だった
セミキャブ式3列ミニバン界に与えた影響は計り知れず、
ステップWGN以後デビューしたセミキャブミニバンは、
日産エルグランドを除いて全てFFレイアウトを採用したという
実に意義深いモデルなのだ。

ステップWGNはオデッセイ、CR-Vに続いて
スマッシュヒットを飛ばしてホンダの経営を立て直しただけで無く、
数多くのファミリーユーザーをミニバンの世界に誘導し、
独身者の間でも仲間とワイワイ遊びに行く遊び車としても選ばれた。

デビュー以後、至る所で初代ステップWGNを見かけたものだ。
スーパー、ドラッグストア、ファミレス、駅、塾、学校、
或いはキャンプ場、遊園地、高速道路のSAなどなど。
物心ついた後で90年代を過ごした人なら
この表現が嘘では無いと信じてくれるはずだ。



ヒットモデルゆえ中古車としても多数流通していたのだが、
ちょうど5年ほど前までは同級生が
特別仕様車ホワイティーを所有していた。
休日はモトクロスバイクのトランポとして活用し、
冬場は同級生6人でスノーボードへ良く出かけた。
当時の格安中古車ゆえにボロボロのガタガタだったが、
車内で聞いたラルクのCDや諏訪大社に行った際に
雪が積もった駐車場でスタックして全員で押した思い出など
楽しい記憶がすぐに思い出される。


●FFで1.5BOXミニバンを実現させた秀逸なパッケージング


ステップWGN以前の1.5BOXは後輪駆動ベースであった。
理由は断定できないが、それ以前に存在した3列シートの
乗用ワゴンは商用車ベースで企画されていた影響や、
多人数乗車した際にFFではトラクションが不足するかも、
という懸念があったかもしれない。
ホンダは後輪駆動のP/Fを持たず、
先入観も持たないので手っ取り早いFFを選択した。

FFのメリットはセダンにおけるメリットと同じく、
・駆動系を収めない為、床が低くできる
 (燃料タンクや排気系は存在)
・プロペラシャフト、ホーシングが不要
・横置きゆえにエンジンルームが短い
・横風に強い
・部品点数が少ないので低コストで軽量
などといった点が挙げられる。

後発のステップWGNは
全長4605mm/全幅1695mm/全高1830mmという
ミドルセダン級の全長を持つが
ホイールベースは2800mmと
セダンよりも余裕のある寸法を持つ。

競合のエスティマ・エミーナ/ルシーダよりは小柄だが、
四角い分だけ大きく広々と感じさせる。



室内空間は室内長2730mm/幅1575mm/高さ1335mmであり、
旧来のフルキャブ式1BOXより室内長は短いものの、
低床化の効果で全高の割りに
室内の高さがあり広々としている。

フルキャブ式ワンボックスはE/Gの上に
1列目シートが配置される為、
寸法上は室内長が3000mmを超えるものの、
2列目前の足元にデッドスペースがある。
ステップWGNは1~3列目まで
フラットな連続したフロアが続く

乗り込んでみれば実用的な広さがある事が分かる。

また90年代はミニバンからハッチバック、
セダンまでもウォークスルーが流行した。
運転席と助手席の間が通り抜けられるように
床が低く、足元が広いことが求められていた。
車幅の関係で後席へのウォークスルーが出来ないモデルも
運転席と助手席の間が通り抜けられる構造も
サイドウォークスルーと呼んでセリングポイントになった。

勿論ステップWGNも完全なるウォークスルーを採用、
足踏み式駐車ブレーキとコラムシフトによって
足元スペースを確保した。

1996年当時、販売されていた競合車の中で
ボンネットを持つセミキャブタイプの代表的な車種は
セレナ、ボンゴフレンディなどがあったが、
フルキャブオーバー式1BOXの前輪だけを前に出し、
相変わらずエンジンの上に運転席があるため、
ウォークスルーは不可能。

スライドドアは当時のミニバンの目玉装備であり、
ステップWGNも左側のみに装備された。
(両側スライドドアになるのは3代目から)



FRベースの競合車であるデリカスペースギア、
タウンエース/ライトエース・ノアがあったが、
床が高くなるため、乗降用ステップが設けられた。

独自のアンダーフロアミッドシップレイアウトを
採用した革新的なエスティマ・ルシーダ/エミーナも
ウォークスルーは出来るものの、フラットフロアや
乗降用ステップ廃止までは出来なかった。

ステップWGNはFFゆえに競合より床が低く平坦なこともあり、
大胆にも乗降用ステップを廃止して
フロアに直接乗り込めるような高さに設定した。

フロアは低いが、ルーフは競合車(標準ルーフ)並の
高さまであるので室内高が1335mmと余裕がある
例えばFRレイアウトの
ライトエースノア(STDルーフ)は1260mmと不利。
見晴らしよくアップライトに座れ、
乗降用ステップの分床面積が食われないので
実質的に広い居住空間を持つ。

燃料タンクやマフラー、
スペアタイヤも効率的に配置して
フラットフロアの実現に寄与している。

●シンプルで機能的なエクステリアデザイン
私が思うステップWGNの最大の魅力は
すっきりと機能的なエクステリアデザインだと思う。

シンプルに箱をイメージしたストレートな主張だが、
ちょっとざっくりしたテイストが原価企画上の安っぽさを
雑貨然とした親しみ易さに変換した今でも見習いたい意匠だ。

ライバルとの競争が激化するに連れて「ワル」な雰囲気を求めた
グレードがステップWGNの本流に変遷していったが、
初代ステップWGNが提供したものは、
あくまでもシンプルで明るいファミリーイメージだった。
(素っ気無いデザインだからこそ
カスタムベースに向いていたのかも知れない)



フロントマスクは大型異形ヘッドライトで
クロームメッキのラジエーターグリルで挟み込んだ
当時のホンダのファミリーカーと較べても
比較的落ち着いている。
異形ヘッドライトと言っても奥には
丸型のリフレクターが見えて、
チャーミングな瞳を持っている。
プロポーションとしてはサイドの絞込みを押さえて
四角い断面になっている点も競合と異なる。



サイドビューは当時のライバルと異なり
ノーズが突き出たエンジンルーム以降が
ボクシーなキャビンとなっており
視覚的にも広さや機能性を感じる。



サイドアウタパネルとルーフを繋ぐ部分は、
ルーフラックのような大型モールで覆われており、
Rrコンビランプに繋がる処理、
更にRrバンパーからドア下を経て
Frバンパーに繋がる処理は
幾何学アートのような楽しさがある。



Rrビューは当時の流行を反映した
大きな縦型リアコンビランプが目を引く。
当時のRV車の間で流行した手法だが、
ホンダでもCR-VやS-MX、ライフ、ストリーム、
バモス、HR-Vなども縦型Rrコンビランプを採用していた。

ステップWGNは後発ゆえに
曲面基調がメインだった当時の競合には無い
直線的で機能を期待させるモダンな
エクステリアを擁していた。

現代では悪そうなスパーダありきのデザインになったが、
本来のステップWGNというものは
カジュアルなファミリーミニバンだと私は思う。


●ミニバンの魅力を盛り込んだインテリア


大容量・低価格が売りのステップWGNは
内装のトリムレベルが明確に重み付けされ、
2・3列目に集中的にコストが掛けられている。

1列目のドアトリムは樹脂のままだが、
2列目以降のベルトライン以下はクロス張り/フェルト張り
となっており、一般的なミニバンよりも奢られている。



現在と同じく当時のミニバンも
多彩なシートアレンジをアピールしており、
3列目を左右に跳ね上げるスペースアップや
2列目と3列目を繋げてベッドにできるフルフラットなど
の一通りの機能を持っている。



特に時代を感じるのは2列目に補助席を持つことと、
2列目が回転して3列目と対面で座れるアレンジがある点だ。
これらの構成は遅くとも1980年代から続く伝統のレイアウトで、
3列目へのアクセス性を考えて、折りたたみ式を採用し、
回転対座はリビング感覚を演出した。
我が家にあったバネットセレナにも
補助席や回転対座があったが、
補助席はあまりにもサイズが小さすぎて安全性に疑問が残ったし、
回転対座も実際に使ってみると、乗り物酔いする代物だった。

ステップワゴンでは回転対座シートの他に
ポップアップシートが選べた。

これは2列目を大きく畳むことができ、荷室の床面積を
飛躍的に拡大できる利点がある。
ミニバンのシートバリエーションは回転対座と
キャプテンシートの二種類が多いが、
ステップワゴンはキャプテンシートではなく、
ポップアップシートを用意した点は
実用性に徹したステップWGNらしい。



いずれのバリエーションでもフルフラットにした際に
他車を圧倒する程平坦になる点はステップWGN独自の特徴だ。
加えて、シート地と同じクロスが張られたトリムと
繋がって一層広々としたフラット空間が得られる。



さて、1列目だがウォークスルーを実現する為の
コラムシフト、足踏み式PKBに加えて、
絶壁インパネの上部クラスターにはカーナビ(MOP)、
丸型レジスターが連続配置され、
その下に空調ダイヤル、格納式カップホルダーなどが備わる。



台所事情の厳しかった90年代のホンダゆえに
インパネもドアトリムも硬質樹脂剥き出しのカチカチの
インテリアであったが、玉座たる2列目以降はしっかり
質感が作りこまれており、選択と集中を感じる。



また、オデッセイのヒット以後とは言え、
まだ資金に余裕の無い時代だったのか
内装部品はあらゆるホンダ車と共用されていた。

ワイパーレバーやウインカーレバー、
PWスイッチやメーター類などの基本部分
は同世代の他のホンダ車からの流用だ。
金型の減価償却が終わった
安い部品を多数使い低価格に貢献しただろう。

ステップWGNのインテリアは
見事にファミリーユースに徹した
アットホームな雰囲気でまとめられている。
特にお金がかかってるという感触も無いが、
必要なところには必要な装備が奢られて、
そうでは無い部分にあっさりと見切りをつけている。
新規参入のブランニューモデルだからこそ、
明快なコンセプトが楽しめるインテリアである。

●試乗インプレッション

<市街地にて>
メッキのドアハンドルに手をかけてステップWGNに乗り込んだ。
低床ゆえにヒップポイントがミニバンとしては低めで、
旧来のフルキャブ式1BOXの様によじ登る感覚がない
尻をずらすとちょうど良い位置にシート座面があるのが快適だ。
運転席に座ると低床設計と言えども
ミニバン然とした見晴らしの良さが確保されている。
頭上空間は拳3個分の余裕がありライバルよりも優れる。



ドラポジもアップライトで健全だが、
ステアリングコラムの角度が立ちすぎていて
商用車的な雰囲気がある。
このあたりはステアリング系を
背の低い他車と共用した弊害と思われる。
細かい不満はあるが、
立ち気味のAピラーと大きなウインドシールドガラスのおかげで
視界は開けておりミニバンらしい開放感がある。

E/Gを始動し、CR-Vと類似した
6ポジションのコラムシフトをD4レンジに入れて、
PKB解除レバーを操作すると
「バコン」と音を立て、勢い良くPKBペダルが解除された。

走りはじめにアクセルを操作すると、
ぐっと飛び出すような走り出しで驚いた。
広報資料を確認すると「非線形スロットルドラム」が採用されており、
意図的に踏み始めのスロットル開度を大きくしているのだという。
これは車重の重いミニバンでセダン感覚の
走行感覚を得るために採用したのだろうが、
1名~3名乗車時で乗る際にマナー良く発進させるために
余計な気遣いが要求されあまり印象は良くなかった。

思えば親がセレナの次に買ったライトエースノアでも
そっくりなスロットル特性になっており、
出足の良さを演出する常套手段だったのかもしれない。
ホンダの場合、先に出たオデッセイでも非線形スロットルを
採用したと開発記の小説ユリシーズで触れられていた。

ステップワゴンに積まれるエンジンは
B20B型水冷直列4気筒2.0L DOHCエンジン一本のみ。



当時のミニバンで当たり前だったディーゼルターボの設定は無かった。
125ps/5500rpm、18.5kgm/4200rpmという
大人しいスペックを持っているが、
基本的には低速型で回してナンボというエンジンではなく、
市街地走行では2000rpm~2500rpmも回しておけば
十分以上のトルクが出る実用志向のエンジンだ。

走り始めてまず感じるのは乗り心地のソフトさである。
Fr:ストラット/Rr:ダブルウィッシュボーンという
ミニバンでは少数派の4輪独立懸架のサスは
路面の凹凸をソフトにいなしてくれる。
ファミリーカーとして考えた場合、
このセッティングは適切だと思う。

思えば、実家のライトエース・ノアはもう少し
路面の凹凸を感じる突き上げが大きかったので、
ステップWGNの方が秀でていると感じる。

信号が多い市街地を走らせると
初期制動の食いつきの甘さが少々気になった。

ファジー制御によるシフトチェンジを行うとされる
プロスマテックIIを採用する4速ATは、
中古車ゆえにシフトショックが多少大きいものの、
シフトスケジュールは良く考えられている

市街地走行程度の速度域だとアクセルオフで
早めに3速にシフトダウンして軽くエンブレを効かせてくれる。
再加速時のレスポンスを確保する為なのだが、
流れの良い幹線道路のような速度域では
惰性で転がす為、先程と同じようにアクセルオフをしても
4速のままロックアップを切るようなセッティングに変わる。
斜度12%の下り坂を数百m下るシーンがあったが、
自分でシフトダウンせずとも2まで落として
リズミカルに走行できた。
降坂制御は他車でも採用例があるがせいぜい3速止まりで
ここまで積極的にシフトダウンする例は覚えが無かったが、
乗用車としては重量級のステップWGNにはピッタリだと感じた。

親が所有していたライトエースノアの場合、
マイナーチェンジ(III型)でフレックスロックアップつきの
ECT-iEが採用されて似たような制御を取り入れたが、
1996年5月時点ではステップWGNが他車より先んじていた。

当時は珍しいFFを採用するステップWGNの泣き所は
ロングホイールベースとタイヤの切れ角が小さいため、
5.6mと比較的大きい最小回転半径だ。



競合もまた近い値なので横並びしているのだが、
片側二車線の中央分離帯が無い交差点での
Uターンは非常に困難なのと、
狭い路地の直角ターンはうまく曲がらないと
切返しが必要になるケースがある。
この点は昔ながらのフルキャブ式1BOXが有利だが、
コツを掴めば特に運転が難しいということは無く、
5ナンバーサイズを活かして
大抵の道は臆せず走ることが出来る。
(2代目ではタイヤ切れ角を増やして5.3mに改善された)

交差点を右左折した。
現代のミニバンはAピラー前に三角窓を設定する例が多いが、
ステップWGNは三角窓を持たない。
一見死角が多くなるような誤解をしてしまいそうだが、
実際に運転してみると、右左折の際に見たい方向は
サイドドアガラスから眺める為、視認性が良い。
三角窓付きのモデルの様に不用意に支柱が映り込んだり、
小さな三角窓を覗く必要が無いのだ。
ワンモーションフォルム、キャブフォワードの為に
どうしても三角窓が欲しくなるのだが、
あるから良いというものでもないと感じる。

すれ違いに気を遣うような細い道も走らせたが
車幅の狭さ、スクエアなボディ形状が功を奏して
さほど苦労する事無く路地に入っていける。
特にドアミラーが現代の車種よりも大きく見易いほか、
Rrアンダーミラーが適切に車両後端を示すので、バック駐車も容易だ。
しかも、雨天時にRrワイパーを使用すると、
Rrアンダーミラーの範囲もしっかり拭いてくれる
親切さに感心した。



現代ではバックモニターやアラウンドビューモニターが
ミニバンの必須装備となりつつあるが、
ハイテクな運転支援装備が無くとも十分に駐車のし易い車だ。

<2列目/3列目にて>
妻に運転を代わり私は2列目、3列目に座った。
スライドドアを開けて乗り込む。
パワースライドドアがまだ高級装備だった時代、
割り切られたステップWGNは手動のみ。
力を入れてガラガラとドアを開けた
(最上級Wにはオートクロージャー装備)



ステップワゴンは低床フロアのため、
乗降ステップを廃止して
フラットな掃出しフロアが続いている。
その為、食堂のお座敷のような段差を
どっこいしょと上がる感覚がある。
段差は465mmあり、建築基準法で定められた
階段の段差(230mm)よりもきつい

ただし、この段差を小さくしようとするあまり、
フロア全体を下げる事はできない。(部品配置と車体強度)
そこでフロア全体を前下がりのスロープにしたり、
計測ポイントになる2列目最外側のフロア面だけ
外下がりの斜面にするような姑息な設計も垣間見られる。
個人的にはそんな数字遊びに付き合うくらいなら、
ステップWGNの高めのフロアでも乗り込んだ後で十分納得できる。

2列目の右側席は息子のチャイルドシートを取り付けた。
(ステップWGNは2列目右側だけ
チャイルドシート固定機構が装備されていた)
そこで私は中央席に腰掛けた。



中央席は揺れが少なく快適だ。
またドライバーとの会話もし易く、
旧来のフルキャブ式1BOXでは
エンジンルームのせいで足元が狭かったが、
ウォークスルーのためにフラットなフロアを得た
ステップWGNは脚が伸ばせて心地よかった。

特に、ロングスライドシートなどが無い時代のため、
床面がスロープ状になっておらず、
フロアに乗せた脚は良好な位置関係を保つ。
妻の運転で乗せてもらっていても、
アップライトな姿勢で気持ちよく座れ、非常に快適だ。
スクエアなボディ断面に加え、内装トリムも
余計な張り出しが無くフラットな為、一層広々感がある。
トリムは継ぎ目があったり質感はさほどではないが、
広く見せると言う目的においては十分な役割を果たしていた。

一方で、ウインドシールドガラスから前方を見ようとしたが、
視界の1/3がルーフヘッドライニングで遮られて
意外と開放感が無かった。
これはヒップポイントを1列目から後ろに行くに連れて
段階的に持ち上げた結果だろう。
運転しているとパノラマ視界が広がるが、
2列目からの視界がそれほどでもないと言うのが意外だ。
旧シトロエンC3で採用された特徴的な構造、
ゼニスウィンドゥのアイデアの源泉をステップWGNで垣間見た。

また、コーナリングや右左折時に
横Gで身体が振られやすいのも気になった。
セダンより重心が高いミニバンゆえ
仕方がない面もあるが、ステップWGNでは
フルフラット時に強みとなる平板なシート形状が悪さをして
身体を支えてくれない。
仮に3点式シートベルトが装備されていれば
幾分かマシだっただろうが、
上体の動きは大きくなりがちだった。

ちなみに、2列目の補助席が畳んであると、
乗降のために一々立ち上がらねばならないが、
補助席を出しっぱなしにしておくと、
お尻をずらすだけでスライドドアまで
横移動できて便利だ。

2列目左の補助席にも座った。
親が所有していたバネット・セレナ時代、
私のお気に入りの席は補助席だった。
小ぶりなサイズも子供の私にはピッタリだったし、
スライドドアの窓が開けられるので、
外の風を感じながら乗るのが好きだったのだ。

大人になって補助席に乗ると、
致命的なほどシートのサイズが小さい。
ヘッドレストどころか
シートバック時代の丈が足りないので
万が一の際の安全性も十分とは言えない。

バネット・セレナでは3点式だったシートベルトも
2点式に留まるため、一層お勧め度は下がる。

2列目左席の大きな美点は掃出しフロアゆえに、
足元がフラット
であるということである。
バネット・セレナもライトエース・ノアも
この席は乗降ステップのせいで有効な床面積が小さく、
片足がステップに落ちてしまうという欠点があるが、
FF低床フロアのステップWGNはステップを廃止した副次的効果で
各席平等なフラットフロアを得た。
(助手席の足元もタイヤハウスの影響が小さく、
 フラットで広いので競合車よりも足元が広い。
上記理由で個人的にはポップアップシートの方が
一層ステップWGNの魅力が際立つだろう。
(2代目では勿体無い事に
 ポップアップシートが無くなってしまった)

結果、2列目シートにランキングをつけるなら、
右、中央、左の順番になる。

後日、チャイルドシートを外して二列目右側に座ったが、
ピラーの倒しこみによる圧迫感も無く、
フラットなフロア、三点式シートベルトのホールド感が
相まって随分と快適であった。

最後に3列目に座った。
3列目に座っても広々とした快適性は変わらない。
前後移動は出来ず、リクライニングのみとなる点は、
現代のミニバンに負けているが、
1996年にライトエース/タウンエース・ノアが
世界で始めて3段階スライドを実用化するまでは
どの競合車もリクライニングのみであった。

フルフラット要件でシートバック高さは低めだが、
足元スペースも比較的広く、
2列目シートを標準位置にしてあれば
足も綺麗に収まるので思いのほか快適だ。
加えて、Rrタイヤ直上のため突き上げが懸念されたが、
通常走行ではソフトな部類に属する。



3列目のスペースアップ方法はシンプルな左右跳ね上げ式だが、
ミニバンの3列目はこの方式がベストだと未だに確信している。
例えば現行ステップWGNでは、3列目が床下格納式になったため
シート自体の形状、サイズ、掛け心地が数段劣る。
シートは座ってナンボだ。だからこそ畳むこと優先なのは勿体無い。
今回乗ったステップWGNの2列目左席のみだが、
現行型になると3列目全てが補助席扱いになってしまっている。

<平日の通勤・出張使用にて>
平日は通勤や出張に使用した。
私の通勤経路は住宅地~農道~市街地
という10km程度、30分程度の道のりである。

身支度を整え、朝のラジオニュースを聞きながら
会社に向かうのだが、1名乗車だとちょっと寂しい。
バックミラーを見ても広大なキャビンに乗る人は無く、
何だか空気を運んでいる勿体無い感覚に苛まれた。

1名乗車なので車自体は軽いはずなのだが、
前述の発進時の飛び出し感が強まるのと、
強めに加速した際のトルクステアが気になる。
農道をカローラやRAV4で走るような普通のペースで
コーナーを曲がろうとしてもロールが非常に大きく、
スローなステアリングはインフォメーションが希薄。

少々調子に乗ってハイペースでコーナーに進入したが、
転覆を嫌った安定重視のアンダー志向の為、
Frタイヤからグリップが抜けていく感覚を強く感じた。
タイヤがスタッドレスと言うことも有ったが、
夏タイヤであってもFrが逃げていく傾向は変わらないと思われる。

もちろん、スポーツ性能を語る車ではないのだが、
1名乗車で朝の通勤時間帯は多少キビキビ走らせたいこともあり、
ステップWGNが最も不得意な場面だったのではないかと感じた。
会社の上司をステップWGNに乗せて出張したが、
その上司もかつて初代ノアに乗っていたものの、
通勤時に空気を運ぶのが嫌になってしまい、
子供の進学を機にプリウスに替えたとのこと。

<連休中の我が家にて>
連休になり、家族で帰省した。
いつもより早起きをして、子供に離乳食を与え、
荷造り完了した荷物を積み込んだ。

3泊分の荷物、赤ちゃん用品に加え、
ミニバンで帰省すると言う積載性に期待して
安眠の為のベビーベッド(折りたたみ式)を積んだ。
実家に着いてからベビーベッドを組み立てれば、
普段の環境に近づけて子供を寝かせる事が出来ると考えた。
もしRAV4で帰省するなら
このような大荷物を持っていくと言う考えには至らなかった。


その様なわけでステップWGNの3列目を跳ね上げ、
全ての荷物を積んでみたがあっさり飲み込んでしまった。
この包容力こそが広大な荷室を持つミニバンの底力だ。



元来私は荷造り下手を自認している。
ついつい余計なものをボストンバッグに入れてしまい
大荷物になってしまうのだ。
かつて、帰省するだけなのに洋服に合わせて
靴を数足持って行こうとした事がある。
それでも私が様々なところに旅行できたのは、
自動車旅行だったからだ。
これが公共交通機関で出かけるなら手荷物が大きいと疲れてしまう。

子供が産まれ、RAV4で帰省・旅行してみたが、
まだ1歳の我が子は荷物が嵩みがち。
元来荷造り下手な私はRAV4をパンパンにしながら出かけてきた。
工夫しながら荷造りや積み方を考えているが、
ステップWGNの広大な荷室は包容力が有り、
持って行くか悩んだものは取り合えず積んでおく、
と言うことが可能だった。

<連休中の高速道路にて>
かくして荷物の積み込みが終わり、帰省することとなった。

深めにアクセルを踏み込み本線に合流する。
最大出力が発揮される5000rpmキッチリでシフトアップして本線に合流。
4速、100km/h時のE/G回転数は2500rpm。
実家で乗っていたライトエース・ノアも2400rpm近傍を示していた。
N兄さんが過去に乗っていた
デリカ・スターワゴンの場合5速、3100rpm近傍であった。
加速性能は3名乗車+荷物でもモタつく事無く必要十分な能力を持つ。

ステップWGNはホイールベースが現行アコードを凌ぐ2800mmと長いため、
真っ直ぐゆったり走ることが得意である。
背の高さは横風を受け易いが、挙動は穏やかで修正も容易だ。
特に、1名状乗車の時よりも3名乗車+荷物と重さがかかっているので
海沿いのつり橋でも不安感を覚えるようなことは無かった。

100km/h巡航はリラックスできるが、
実力的には追い越し車線の速い流れにも追従できる。
(かつて同級生が所有していたホワイティーは
随分なハイペースでゲレンデまで連れて行ってくれたものだ)

力強く加速させる為に深くアクセルを踏めば
すぐロックアップを外して加速態勢に入れるが、
後でロックアップクラッチががっちり
アクセルとタイヤを繋ぐので、
じわっとトルクをかけたい時も
感覚的なズレが無く反応し、運転がしやすかった。

高速域は基本的にロックアップしっ放しでも
走れるように十分なトルクがあった。
80km/h程度で6%の表示があるような坂だと、
ロックアップが外れるが、100km/h出ていれば
同じような坂でもそのまま登りきることが出来た。
MT車のように右足とタイヤの一体感を感じた。

ステップWGNは全席で見晴らしが良く、
伊勢湾のキラキラした水面を家族と楽しみながら
中央車線か左車線をどんぶらこ、どんぶらこと走らせた。

この日は晴れており、気温が25度を超えるような暑い日であった。

運転席の私は日差しがジリジリと当たって熱さを感じた。
ステップWGNは最上級のWグレードのみ
2列目以降にプライバシーガラスが装備されており、
Gグレードは透明ガラスの為、試乗した個体はフィルムが貼られていた。
思えば、昔は後からフィルムを貼ってクーラーの効きを良くしていたものだ。
自分の父もスターレットやバネット・セレナに
せっせとフィルムを張っていた姿を思い出す。
(私はオリジナリティ重視でRAV4もカローラも生ガラスのままだ)

妻と子供は2列目に座っているのだが、
ミニバンの目玉装備であるRrクーラーを稼動させた。
ステップWGNの場合、2列シートにはシングルエアコンがオプション設定、
3列シートのグレード全車にRrクーラーが標準装備されているのだが、
今回試乗しているGグレードはのマニュアルエアコン仕様だ。
(最上級のWグレードはオートエアコン)

走り始めは前も後ろも風量MAX、
温度設定は最低にしていたが、
優秀なエアコンなので10分も走ればキンキンに室内が冷えてくる。
妻から「寒い」と怒られてRrをオフにし、Frは風量を落とした。

しばらくはそれで良かったのだが、
それでも2列目中央席に座る妻に風が当たってしまうので
風向きを調整して自分に風を当てているとスポット風が
自分に直接当たって、自分も途中で寒く感じてしまった。

マニュアルエアコンなので温度調整ダイヤルを操作して
適度な温度に調整し、ちょっと熱いかなという位に調整して
双方妥協したのだが、最新のミニバンでは
オートエアコンかつ左右独立温度コントロールが当たり前
になっており、
実際のユーザーの声に応えた結果なんだろうなと感じた。

途中、交通集中の渋滞に巻き込まれた。
セダン系と異なり視点が高いミニバンは
見通しが利くので昔はある種の優越感にも浸れた。
現代は時代が変わってミニバンとSUVだらけなので、
特別に見晴らしが良いというわけでもなくなってきた。
MT大好き人間だが、ATのメリットを最大限有り難く享受した。
なるべく停止しないように車間を開けて走るのだが、
完全停止して発進するような状況に陥ると、
例の飛び出しがちなスロットル設定は少々ストレスになった。

途中、過酷な自動車専用道路も全線走らせたが、
アップダウンがきつくても十分余裕を残して走ることが可能。
さすがにロックアップは外さざるを得ないが、
ビジーシフトは巧みに回避されてキビキビとした印象である。
地元の急な下り坂ではシフトダウン制御が働いたが、
自動車専用道路の下り坂ではむしろロックアップを外して
フューエルカット回転数付近で維持して
惰行するようなセッティングになっていた。
終盤で急なコーナーが連続する下り坂があったが、
一般的な流れの中での運転なら不安感を感じる事は無かった。



ステップWGNが最も輝くシーンは
帰省のための高速道路走行
ではなかろうか。
余分な荷物まで積める包容力を持ち、
運転するお父さんの疲労を軽減する穏健なシャシー性能と
必要十分な動力性能を持ち、同乗者に優しい快適性を併せ持っていた。

<広域農道にて>
地元は盆地なのだがアップダウンの激しい広域農道がある。
実家に向かう為、家族を乗せて走らせた。
丘陵地帯を南北に走るこの道では、
ステップワゴンはRAV4で同じ道を走る時よりも
スローペースで走ることを求められる。
というのも、ミニバンらしくソフトな脚を持つため、
ロールが大きく、大切な家族からクレームが入ってしまうからだ。

2列目はシートベルトが2点式で上体をサポートしない。
またシート自体が平板でホールドも良いとは言えず、
「コーナーの前で減速を終わらせる」
「コーナーは車線内でアウトインアウト」
「コーナーの立ち上がりの加速も滑らかに」
という私なりに考えた要点を守って運転した。

一人でこんな道を走るとつい勢いよく運転してしまいがちだし、
そこそこシャシー性能が高いRAV4だと多少ハイペースで
コーナーに進入しても家族からクレームが来ることは無かった。

ステップWGNの場合、明らかな配慮が必要であり、
「セダン感覚の走りを目指しました」という主張は、
確かにフルキャブ式1BOX以上だが、
明らかにセダン未満
という結果になる。

それではステップワゴンの脚を固めて
ロールを押さえ込んだら良いのかというとそれは
私が考えるミニバンに求められるものとは違う。

丘陵地帯から山裾の住宅地を見ながら
ステップWGNで広域農道をゆったりと駆け抜ける。
高速道路と同じく上り坂では
ちょっと踏み足せば力強くトルクが沸いてきて急坂でも登りきれる。
速度が乗っていても不用意にロックアップせず、
ドライバーの意思を汲み取った走りが出来た。
下り坂では例によってATが賢く3速を使いながら薄いエンブレをかけて
ブレーキ操作の回数を減らしてくれた。

<多人数乗車にて>
連休中、地元の同級生の実家までバーベキューをしに出かけた。
途中、別の同級生一家を乗せて合計7人乗車にチャレンジしたのだが、
走らせ始めて気付いたのは、1名~3名乗車では
鬱陶しいと感じた非線形スロットルに起因する飛び出し感が無くなり、
ちょうど良いリズムで走らせることが出来る
ことだ。


画像は乗車後撮影したイメージ画像

人間がたくさん乗ると明らかに車が重いと感じる。
しかし、ステップWGNは1名乗車の時よりも
多人数乗車の時の方が明らかに各種の特性が好ましい

買出しに出かけ、スーパーで食材を大量に買い込んだ。
ステップWGNは3列目まで人が座った状態でも
十分なラゲッジスペースが確保されており問題なく積めた。

餅は餅屋というが、人や荷物を運ばせたらミニバンは水を得た魚だ。
ただし、買出しの食材をラゲッジに積もうとしてバックドアを開けたが
壁が迫っており全開にすることが出来なかった。
こうなると片手でバックドアを壁ギリギリの位置まで保持して
荷物をエイヤと置かねばならない。
特にスクエアなデザインを持つステップWGNのバックドアは大きくて重い。
新型ステップWGNがワクワクゲートを採用するに至った、
或いはセレナがガラスハッチを採用した経緯が良く分かる。



仲間とワイワイと会話を楽しみながらの移動は
一人で運転に没頭する時に等しい程の純粋な楽しさがあった。

●まとめ
私と家族は3週間に亘りステップWGNと過ごした。
日本で初めてのFFセミキャブ式1BOXであり、
潔い割切りで低価格を実現しながら
決して貧乏臭く見せないセンスを持っていた。
私たち家族もステップWGNが持つ
大きな魅力は全て実感として味わうことが出来た。



モノには持ち主にそれを使わせようとする力があるものだ。
ユッスー・ンドゥールが歌うOb-La-Di, Ob-La-DaのTV-CFを
見てセダンから乗り換えてステップWGNを買った人達

程度の差こそあれど、人を乗せて出かけたり、
大きな荷物を載せたりしてミニバンの魅力を楽しんだに違いない。
かくしてステップWGNをはじめとするこの時期のミニバンたちは
セダンユーザーだったファミリー層を吸引し、
ファミリーカーの代表車型となった
のだ。

現代のミニバンは随分と便利で豪華で安全になった。
先進安全装備に全方位カメラにカーナビをつけて
乗り出し価格は300万円を少し超える位だろうか。
そんなミニバンが当たり前の現代に
敢えて初代ステップWGNと生活を共にしてみたが、
こんなにシンプルなミニバンでも
十分楽しく生活できる
という実感を持った。



ちなみに、レンタル期間中基本的にA/Cは常時ONであった。
1367km走って平均燃費は9.63km/Lであった。
これはカタログ値11.2kmLの86%の値であり、
実に正直なカタログ値であった。

本日、家族で高速道路をのんびりドライブしたが、
距離にして200km強を100km/h巡航で丁寧に走らせれば
12.9km/Lという良好な燃費をたたき出すことが出来た。
1470kgというミニバンとしては軽めの車重と
必要十分なトルクを持つE/G、
賢いATのチームプレーの成果であろう。

余談だがで地元でのBBQの際、同級生の夫妻と話していたら
ステップWGNは借り物で普段はRAV4に乗っている事がバレてしまった。

「え、ノイマイヤーさん子供がいるのにミニバン買わないんですか?
スライドドアじゃないと不便じゃないんですか!」
と奥様から素朴な疑問が呈されてしまった。
非難された訳ではなく、単純に不思議だと感じたような口ぶりだった。
(ちなみに同級生はCR-Vに乗っていたが、
 奥様のリクエストに応えてエスクワイアに買い換えている)

私が言い訳染みた理由を探していたところ、妻が、
「夫はマニアなので、夫が好きな車に乗りたいならそれで良いんです」
という趣旨の有難い助け舟を出してくれた。
その奥様は「ふーん」とそれ以上追求しなかった。
カローラGTとRAV4という一般人には訳の分からん二台所有を
理解してくれている妻には感謝しなければならない。

私自身、小学生時代からミニバンで育ち、
免許を取得後もミニバンに乗ってきたので
主に子供の視点からミニバンの良さを見てきた。
今回、機会を頂いて自分の子供が産まれた後でミニバンに乗ると、
当時気づけなかった親の視点からの便利さにも気づくことが出来た。

そして実家の駐車場(かつてシルバーのRG1が止まっていた)に
世代は違えどシルバーのステップWGNを止めてみると
何やら懐かしい記憶が一つ二つと思い出された。



連休期間中に家族でフル活用させていただき、
素敵なステップWGNを借して下さったN兄さんに感謝。
Posted at 2018/05/13 01:06:36 | コメント(3) | トラックバック(0) | 感想文_ホンダ | クルマ
2017年05月12日 イイね!

1989年式インテグラZXi感想文

1989年式インテグラZXi感想文天皇陛下が、お気持ちを表明され、退位されるというニュースが流れた。

同じ頃、我らがスギレン氏が陛下がプライベートで愛用されていたのと
同じモデルのホンダインテグラ4ドアハードトップを手に入れた。

陛下のインテグラはRXi(5速MT)というグレードだそうだが、
スギレン氏のインテグラはトリノレッドパールのZXi(4速AT)だ。
新車価格は182万2200円とのことで、
1600ccという価格からすれば強気な価格設定と言えるだろう。

スギレン氏と陛下はお誕生日が同じとの事で親近感を持たれていたそうだ。
スギレン氏とホンダ車のマッチングは新鮮かつと良好。
新年号の検討、退位後は上皇になられるなど着々と準備が進む中、
天皇陛下とお揃いのインテグラを体験する機会を得た。

●当時のスタイリッシュを体現した外装


DA7型インテグラは1989年にデビュー。
当時の若者車らしくスポーティな3ドアクーペと
スタイリッシュな4ドアハードトップの二本立て。



当時の自分はマイケルJフォックスのCMが
おぼろげに記憶にあるくらいだが、
よく売れていて街でよく見かける車であった。
私が物心つくようなころには、世間はすっかりRVブームで
当時の私から見たインテグラは旧さが際立って見えた。
スマートで薄くてスタイリッシュな車よりも、
ごつくて遊べる機能満載のRV車が求められている時代だったからだ。
しかし、一通り時代が過ぎ2017年に改めてインテグラを見ると、
なんとも言えないかっこよさがある事を認めざるを得ない。



薄くてワイドなヘッドライトも昔は寄り目に見えたが、
インテグラ独特のシャープなフォルムとマッチしている。
特にフード形状はリトラクタブル式ヘッドライトだった
先代のモチーフを活かしている。
薄型ヘッドライトが可能になったからこそできる表現といえよう。
ウエッジシェイプを描いているが、フードの低さが功を奏して
ベルトラインが低い為、リアが分厚くなりすぎていない。
この意匠がインテグラらしさとして広く認識され、
3代目インテグラでフロントフェイスを手直しする際のネタ元となった。



4ドアハードトップは85年のカリーナEDが先鞭をつけたジャンルである。
比較的遅めの参入であるがブームが熟した時期の選択肢の一つに
加わることが出来て販売状況は悪くなかった。
サイドから見たインテグラのスマートさはボディサイズを忘れる程。
シビックベースと言われながらも、
全長4480mm、全幅1695mm、全高1340mm、
ホイールベース2600mmというサイズは、
180系カリーナED(全長4485mm、全幅1690mm、全高1315mm、
ホイールベース2525mm)に近い。
アコードと比べると一クラス小さいながら十分な存在感がある。



個人的には斜め前から見たときのサイドビューが美しい。
低く長いフードと延長線がフロントホイールセンターに交わるAピラー、
小ぶりなキャビンとラウンドしたリアガラス。
昔のスペシャルティ良さを余すところなく伝えている。
また、ホイールサイズが185/65R14という今では小径タイヤに入る部類なのに、
フードが低い恩恵で必要十分なサイズに感じられる。
今なら19インチや20インチを履かないとこのプロポーションは得られないだろう。
見れば見るほど細長い車が好き、
と公言するスギレン氏のツボを押さえた車といえよう。

思わずカッコインテグラ、と独り言を呟いてしまった。

●広くは無いが、広く感じさせる工夫のある内装

早速運転席に着座。
寝そべった姿勢が想定されたドラポジなのだろう。
居住性としては悪くない。

シートは上級グレードではセンター部だけモケット、
サイド部はソフトウィーブという、ざっくりとした手触りの生地が採用されている。
モケット一辺倒ではないカジュアルな選択はかえってインテグラらしい。
ちなみにファミリーユースの量販グレードであるZXエクストラだけは全面モケットを採用している。

フロント席の室内空間はこのセグメントでは
常識的で特に狭くはない。
シートに腰を下ろすと現代車とは視界が異なる事に気づく。
低いところにペタッと座らされる割に閉塞感を感じないのは
カウルやベルトラインが低く、ピラーも細いからであろう。
幹線道路沿いの店舗に入る際に生垣が邪魔になる他はデメリットを感じない。



そして意外とリア席も中央以外は何とか実用に耐えそうだ。
確信犯的にリア席の居住性を無視する車も少なくないが
インテグラ4ドアハードトップは165cmの私には十分なスペースであった。
しかし、屈強な護衛や侍従を乗せるには少し狭いかもしれない。
インテグラの場合、Rrのニースペースを稼ぐために
Frシートのシートバック形状を膝の前だけ抉ってある。
「ニーエスケープデザイン」とカタログに記されているが、
実際に座ってみて効果を感じることが出来た。

また、前後とも言えることだが、
ルーフヘッドライニングの厚みが十分薄く、
デザインと居住性を両立している。
特にリアは頭が来るエリアはペタペタに面を叩いて
端末は黒いゴムで上手に隠している。
成形天井だが、表皮はビニール系の素材を使用。
経年劣化でパリパリになりそうなものだが、この個体は綺麗に残っている。
面白いのはサンバイザーの裏側が植毛で表がビニールになっている点だ。
ルーフヘッドライニングの材質と合わせてあって、裏の植毛は異音対策か。



インパネは圧迫感を軽減する為に低くフラットなデザインで、
メーターフードだけが飛び出すような意匠になっている。
I/Pアッパーはソフトパッドが奢られ高級感を確保、
エアコンはオート、マニュアル共にステアリング左の
手が届きやすい一等地にスイッチがある。
今回試乗したZXiはオートエアコンが標準装備されているが、
手元で温度調整とオート作動のオンオフが出来る。
マニュアル操作をしたい時はレジスター下のリッドを開けて
ボタンで操作するのだが、普段はオート使用で十分なので
リッドを閉めておいて下さいということらしい。
同様の試みはEFシビックでも実施しているが、
実際はマニュアル操作をしたい人が多かったようで
後世には残らなかった。

空調で面白いのは運転席のレジスターは走行中の動圧で
新鮮な空気をドライバーに当てる
ラム圧ベンチレーションが装備されていることだ。
恐らく専用のダクトを引いており、強めのスポット風が得られる。
熱線吸収ガラスやプライバシーガラスの無い時代の
グラスエリアの大きい車ゆえに、空調には配慮がなされていて、
ダクトはステアリングに当たって冷風が淀まないように
レジスターの位置を調整しているという。



低めのインパネゆえに縦方向の余裕が少なく収納は少なめ。
飲み物を買ってもカップホルダーの設定が無いのだが、
代わりにグローブボックスダッシュのトレーにくぼみがある。
試しに置いてみたが意外と使える。
一般道路を普通に走っているレベルの加速度であれば
飲み物が落ちることは無かった。

●先代から大幅に進化した走り

私は幸運にも初代クイントインテグラを
過去に数回運転した経験がある。
2代目のインテグラでも
車両キャラクターや着座感は変わっていないが、
乗り味が大きく進化している。
市街地では存外に乗り心地がよく、
4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションが良い仕事をしていた。
店舗から歩道をまたいで本線に合流するようなシーンで、
ソフトに衝撃を受け止める瞬間に4独を感じる。
先代と比べるとボディも随分しっかりとした印象を受け、
車として大きな進化を感じた。

ただし、現代の車と比べるとステアリング中心と
ヒップポイントの幅方向のズレが大きい。
インテグラの場合、真直ぐの道を走っている時は
自然と片手運転になってしまう。
体がズレに対処しているのだろう。

ステアリングをたえず操作するようなワインディングを走っていると
特に気にならなかったが、直線的な農道を走ると気になった。



エンジンはエンジン屋の面目躍如。
普段使いの回転数でもトルクフルなのに
高回転まで淀みなく回り、パワーが湧いてくる。
カローラGTの4A-GEを凌ぐ実力だと感じた。
インテグラと言えば世界初のVTEC DOHCエンジンに
注目が集まりがちだが、
SOHCながら16バルブ化して
DOHC並みの性能を発揮するこのエンジンには恐れ入った。
ロッカーアームを介した複雑な機構ゆえ
部品点数は多くなるものの、
機械加工を要するカムシャフトが一本減るというのは
コスト的に有利なのではないか。
高回転が楽しいエンジンは
下がスカスカという印象を持っていたが、
このエンジンは見事に想像を裏切る。

走行距離が13万kmを超えているにも関わらず機関は絶好調。

思わず調子インテグラ、と独り言を呟いてしまった。

注目はエンジンだけではない。
電子制御ロックアップ機構付き4速オートマチックはロックアップ走行した後、
アクセルオフ時にもロックアップを継続する。
実際に中速域から40キロ位まではエンブレが効いて運転しやすい。
スポーティなオートマチックは好印象だった。
89年当時はアクセルオフでロックアップを
解除して惰性走行する方が燃費は良かっただろうが
インテグラにはこちらの方が合っている。
100km/hでのエンジン回転数は2800rpm位。
車格を考えると高めだが、6750rpmからレッドゾーンが始まる
高回転型のエンジンの実力から考えれば妥当か。

都市高速を走らせた。
ETCゲートをくぐってフル加速をさせた。
6000rpmを境に規則正しくシフトアップする。
レッドゾーン付近はさすがに回っているが速さは感じない。

流れに乗って走るとそこそこの速度になるが、
橋の継ぎ目のいなし方は洗練度で現代車に一歩譲る。
また、サッシュレスドアの泣き所である風切り音は
各部の経年劣化もあり、かなり気になるレベルである。

エンジン音も比較的キャビンに侵入する為、
快適なクルージングという訳にはいかないが、
これが何故か快適なのだ。



都市高速ではRの小さいコーナーに出くわすことが多いが、
そんな時こそインテグラは生き生きとしてくる。
ATのセレクターレバーをD3に落とすと、
適度なエンブレを聞かせながらコーナーに侵入。
立ち上がりでアクセルを開けると胸すく加速が味わえる。
コーナーではロールはほとんどさせないのが当時のホンダ流、
大したタイヤサイズでは無いのにグイグイ曲がってしまう。
例えば首都高速をドライブ目的で走らたりすると楽しいのではないだろうか。
あたかも、プールのスライダーを楽しむようなワクワク感である。
ルーレット族(死語)のように命を掛けて走る必要は無い。
流れに乗って走るだけで適度なドーパミンが出る。

コーナーを一つ越え、二つ越え、
思わず気持ちインテグラ、と独り言を呟いてしまった。

こんな車をワインディングに
持ち込んでしまうとどうなってしまうのだろう。
やめておけば良いのにやってしまった。
舞台は超田舎の農道の一部区間、

エンジンがどんどん回転を上げようとする、
高回転を維持し良いペースでコーナーに侵入しても
相変わらずロールする感覚がない。
旋回中も姿勢が安定し、
舵を切り増した操作にも涼しい顔で対応してしまう。
コンパクトなボディと相まって水を得た魚の様だ。
ついぞタイヤが鳴くことは無かった。

ひと走りさせてみてこれはスポーツカーだと思った。
ところが、私が試乗したのは
フラッグシップのVTECでもないSOHCエンジンで、
ホイールベースの長い4ドアハードトップなのだ。
スポーティさよりもスタイルと高級感を訴求したい車のはずなのに。

10年前のアルバイト先の先輩は
インテグラの3ドアクーペVTECに乗っていたそうだが、
奈良県の奥山という知る人ぞ知る峠でインテグラを廃車にしたという
エピソードを思い出した。

私が試乗した個体ですら、あんなに安定して走れるのに
先輩は余程無茶な運転をしたんだろうなと思われた。

興奮を冷ますために窓を全開にして流してコンビニへ。
ドアを閉めようと手をかけると、
ちょうどクリアが剥がれている処に手がかかった。
きっと最初のオーナーは頻繁に窓を開けて
タバコでも楽しみながらドライブされていたのだろう。
そして窓を開けたまま車を止めて乗降したのではないか。
クリアが剥がれた理由が分かった。

この車が最も輝くのはコーナーが連続するワインディング路だ。
しかし、郊外のワインディングよりも都市高速を進めたい。
インテグラが持つスタイリッシュな高級感が都市に似合うからだ。
夜の大都市を効果の高い位置から縫うように走る姿が容易に想像できる。
空いた首都高速をインテグラで流すと最高の気分だろう。
渋滞中の首都高速では平べったい車体が災いして防音壁と
周囲の大型トラックに囲まれると景色が楽しめない。

ところで燃費は291.2km走行して21.95L給油した。
13.26km/Lという記録はカタログ値(11.8km/L)を超える好成績だった。
力強い割りに、そしてAT車であるにも関わらず経済的といえよう。
比較的軽量な車体、投影面積の小さいボディも貢献したはずだ。

思わず燃費インテグラ、と独り言を呟いてしまった。

●まとめ

連休中、基本的には赤ちゃんのお世話をしながら家にいたのだが
細切れの時間を駆使してインテグラと触れ合った。
この個体は一般的な感覚で程度は
さほど良くない中古車かもしれないが、
乗れば乗るほど「もっと走りたがっている」と強く感じる。



元オーナーはこの車を中々処分できずに居たようだが、
これもインテグラが持つ魅力のせいなのかも知れない。
思えば、元オーナーがインテグラを買い換えるとして
一体何を薦めれば良いのか躊躇してしまう。
アコードでもグレイスでもない、
かといってメルセデスのCLAでも無いのだ。
小柄だが存在感があり、元気でカッコよくて・・・・
カジュアルだけど安っぽくない・・・
まるでマイケルJフォックスの様だ。
CMがピッタリのキャスティングだったと言うことだろう。

そして26年前に天皇陛下(当時56歳)が
インテグラを愛車にされるという選択も粋に感じられた。

私の中でもインテグラ像ががらりと変わった。
何となく中途半端な車というイメージを持っていたが、めちゃ良い。

めちゃインテグラ・・・・スギレンさんに返却した後、こう呟いてしまった。

貴重なお車を貸してくださったスギレン氏に感謝。
(いや、忙しい?自分に代わりRAV4を修理してくださって更に感謝)
Posted at 2017/05/12 22:54:44 | コメント(2) | トラックバック(0) | 感想文_ホンダ | クルマ
2015年07月16日 イイね!

1987年式クイントインテグラ・VX+1986年式コルサ・ソフィア感想文

2021年10月 再構成、リンク修正




●1987年式クイントインテグラVX感想文


ホンダクイントインテグラは1985年にデビュー。クイントにインテグラのサブネームをつけてリトラクタブルヘッドライトと強烈なウエッジシェイプ、そして全車DOHCというスポーティなキャラクターで完全に先代クイントの劣勢を跳ね返した。山下達郎の歌うCMソングも有名だが、私個人の思い出なら青いトミカを持っておりよくコレで遊んだ。

試乗車は1987年式の4ドアセダンVXで行きつけのお店の店主の車だ。



某ハチマル誌にも掲載された個体だが、アルバイト時代の友人タケヲ君が乗っているVXのドッペルゲンガーだ。ちょっと違うのはシフトレバーの形状でタケヲ君の愛機がATであるのに対し、店主のそれはMTなのである。

2015年の7月にクイントインテグラVXのATとMTを乗り比べた人って相当ラッキーだと言えるだろう。これは個人的に誇りに思う。

プレスリリースを調べたが、インテグラセダンは1986年10月24日デビューで価格(大阪)はMT128.1万円でATは+7.5万円。車重がMTが910kgでATは20kg重くなる。

簡単に試乗させてもらった。乗り込んでE/Gをかけるまではタケヲ号と一緒だ。クラッチを切り1速に入れる。静々とATのVXは走り始める。古くは世界で初めてマスキー法をクリアしたという革命的なCVCCエンジンの最後の世代であるEW型1.5L SOHC12バルブエンジンが積まれている。スペックも大人しく最高出力76ps/6000rpm、最大トルク11.8kg/3500rpmという当時としても無難なユニットがセダンのみに選択されている。

マイルドな動力性能はエンジンが同じなので絶対的な速さは無いが、使用している回転域はMTの方が高くなりがちだった。意外と低速型の実用エンジンだからこそATでもマッチングは良いなぁと思った次第だが、絶対的な速さ自体はMTの方が優れていた。

シフトタイミングを自分の意思で変えられる利点を駆使すればまずまずの動力性能を持っているが、今回の市場に限った感想ならインテグラ=全車DOHCの高性能車、のイメージよりもスタイリッシュな実用車、のイメージが勝る。

・・・というよりも私の人生のクイントインテグラの経験値がこの二台しか無いため、実はDOHCエンジン搭載の経験が無いのだった(笑)。

思い起こせば、自身が運転したことのある本格的なホンダのスポーツエンジン車ってバイト先の先輩のスポーツシビックのSiR、高専同級生が乗っていたS2000、
そしてぽみゅさんのアスコットだけなのだ。

実家のステップワゴンは2000ccDOHCのi-VTECだがごくごくマイルド。数少ないホンダのNAスポーツエンジンは怖いくらいに速かった。(遠い目)

(2021年追記)
クイントインテグラVXは刺激という面では他のグレードに一歩も二歩も譲ることは事実だが、それでも低めのヒップポイントで80年代のホンダらしい地を這うようなフィーリングとリトラクタブルヘッドライトの特別感は十分に私に当時の空気感を取り戻させてくれる。幼稚園児だった当時、親が運転する車の後席で立て膝を着いて後ろを見ていて、リトラクタブルヘッドライトの車が走っていたら、「ヘッドライトをあげてくれ」というジェスチャーをするとパカパカヘッドライトを上げ下げしてくれるお兄さんが結構な確率で存在した。(大抵、デート中のカップルなんだけど)私はそれを見て大喜びで彼らに手を振ったが、親からやめなさいと叱られたものだ。

アルバイト先で一緒だったタケヲ君は親御さんが乗られていたインテグラVXでハチマルミーティング(エコパ時代)に一緒に出かけたことがある。帰りはお互いにカローラとインテグラで交換して高速道路を走らせた。トンネルに入って前を走るタンクローリーに映り込んだインテグラのヘッドライトがせり出してくる瞬間は我ながら釘付けになったものだ。

日曜日の渋滞路では隣の車線のミニバンに乗る子供たちにヘッドライトを上げ下げしてみたらとても喜ばれたので何だか当時のお兄さんになったような気分だったのを思い出した。DOHCが無くたってクイントインテグラは、やはり楽しい車だったのである。




●1986年式コルサ ソフィア感想文


これも店主のお気に入りの一台。



ジウジアーロデザインとの噂だが、言われて見れば確かにショーカーとの関連性も垣間見られる。この3世代目のコルサは初代からの独創的な縦置き二階建てFFからコンベンショナルな横置きFFに変身を遂げ、一足速く登場したスターレットと共通のP/Fとなり、スターレットのちょっと上級を謳った。

現代人の目から見ると、似て非なる車種を持つ無駄を感じそうだが当時はこういったきめ細かい商品戦略を簡単にやってのけた。外装は薄い灯火類がスターレットとは違う大人びた雰囲気を持っている。差別化は徹底しており、スターレットには無い1500ガソリンのラインナップ、ディーゼルもターボ化され、スターレットには無い6ライト構成(5ドアのみ)、インパネもカローラクラスのデザインが与えられて差別化は徹底していた。特に目玉になったのはリトラクタブルヘッドライトを持った「リトラ」系列だ。当時は未来的で本当にかっこよく映った。

本来、ノーズを低くする為のリトラなのだが、EL3#のフード高さは標準モデルと変わらない。Frバンパーを分厚く作ることでリトラのデザインを自然に見せている。この辺りはうまく作り分けしているなぁと感心してしまった。フードを開けると、ラジエーターサポートはばっちりリトラに合わせて設計されていた。




このEL3#系だが、私の親戚がKE70カローラGLに代わりモデル末期に大幅値引きでカローラII Windyに乗っており、子供のころは良く乗せてもらった。4速MTでステアリングは革のハンドルカバーが付けられていた。確か1995年くらいまでは乗っていたように思う。

もう時効だが、利根川河川敷の誰もいない原っぱでこの車を動かしていいと親戚から言われた事があった。

*S学生時代の私は喜び勇んで運転席に座り、シートベルトを締めてエンジンをかけた。クラッチを踏んでギアを入れるところまでは出来たのだが、半クラッチと言う繊細な操作を把握していなかった私は、ついぞこの車を動かすことは出来なかった。(その後、親戚の次の愛車であるハイラックスSSRで雪辱を果たすこととなった。脳震盪を起こしそうになったが)

2000年代初頭、従姉がEL5#のスーパーWindyに乗っていた。女性なのに珍しく4MT車を選んだので良く乗せてもらったものだが、その時は、ものすごくぼんやりした乗り味だった事を覚えている。

乗り心地も柔らかいようでドシンと衝撃が来る、加速は良いんだけど、後が続かない。ステアリングインフォメーションが希薄・・・・などなど。

そのときの経験からか、タコIIと言う車種は何となくぼんやりした中庸な車、という印象を持っていた。特に5#系で余りにも積極的な原価改善活動を行った。結果的に安さ以外の魅力が分かりにくい車になってしまい、上記のような認識に繋がっていた。

2015年7月、私は生まれて初めてEL30を運転する機会に恵まれた。コルサ ソフィアという1300の上位グレードでエンジンは2E。かつて実家で保有していたスターレットと同じだ。エンジンをかけると、調子よく一発始動。脳内BGMは原田さん。(車種違うし全然ノーマルルーフだけど)

懐かしい塩ビのシフトノブを1速に入れそっと発進。コルサはスッと発進した。歩道を越えて本線合流したが、驚いた。ものすごく加速が良い。73ps、12kgmなどという控えめなスペックをあざ笑うかのごとく加速。2速にシフトアップしてホイールスピン(路面はウェット)。私は850kgという車重を見落としていたようだ。

感心してしまうほど加速が良く伸びる。4速に入ると、比較的低回転を維持したままトルクフルな走りを見せてくれる。高速道路をハイスピードで走らせるシーンでは回転数が上がりそうだが、市街地を元気に走らせるには十分な駆動力が出ている。

交差点を元気に曲がっても、145タイヤのグリップ力では少し心許無い印象もあるが、楽しさと言う意味では申し分なし。乗り心地は特筆すべき点は無いが、シンプルな車が楽しい、という原理原則を今なお私たちに教えてくれる楽しい車だった。



ところでEL5#系のもっさり感はなんだったのかと言う話になる。モデルチェンジを繰り返す中で、角を丸く、柔らかく、という方向に振り過ぎてしまったのかもしれないな、と想像。(新車を並べて乗ってみないと答えはでないが)

トヨタの傾向としてネガをつぶす代わりに魅力を均してしまうフルモデルチェンジの悪癖がなせる業だったのかも。或いは私がEL5#に乗ったのは若かりし頃で、今運転するとまた違った感想になるのかもしれない。スタイリッシュなのはEL3#の方だと思うが。



現代のベーシックカーとコルサが最も異なるのは軽との差別化がきちんと出来ている点だ。走りが良いし、内装も良い。(デザインも質感も上)個人的にこれからの登録車が軽との競合を考える上でアピールすべきは安心感と走りの質の良さであると考えており、コルサの時代はアピールが自然に出来ていたと感じる。

貴重な体験をさせていただいて感謝。



Posted at 2015/07/16 23:55:02 | コメント(2) | トラックバック(0) | 感想文_ホンダ | クルマ

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