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2021年01月23日 イイね!

1996年式イプサムL-Selection"EX"仕様感想文

1996年式イプサムL-Selection"EX"仕様感想文●要旨
初代イプサムは小型セダンベースでウォークスルーが可能な3列7人乗りミニバン。3列目を畳めば広大なキャビンと荷室を持つ。走りはセダン的な世界観をイメージ。動力性能は十分だが操安、制動は許容ギリギリ。楽しいデザインと秀逸なパッケージングで4人家族の生活にマッチする実用性とバランス感覚こそが初代イプサムの優れた持ち味だ。

●トヨタ初のセダンベースミニバン
セダンをベースにしたステーションワゴンを発展させて、3列シートを備えたセダンライクなミニバンというジャンルの歴史は古い。わが国では1982年の日産プレーリー、1983年の三菱シャリオがパイオニアだ。当時のミニバンはあくまでもニッチ商品的な扱いであり、「そんなにセダンがいいならセダンに乗れよ」「6人以上乗るなら1BOXがあるじゃないか」という意見が多数を占めていた。

バブル崩壊後、日本人たちの暮らし方が大きく変わった。セダンが主だったファミリーカー市場の中にRV車が目立ち始めた。クロカンやステーションワゴン、8人フル乗車可能なミニバンが選択肢として増えていく中で、1994年のホンダオデッセイがセダンライクなミニバンとして会心のヒット作となった。

オデッセイについては別ブログで取り上げているが、当時のホンダが未経験のミニバンに挑戦する際に、手持ちの技術、要件内で騙し騙し成立させ、それが見事に当時のニーズにうまく合致した例だ。オデッセイ以降、他社がうらやむヒット作を次々に飛ばしていく。

トヨタには他社がヒット作を出すと、それを看過しない伝統がある。ヒット作のエッセンスを研究し、それを凌ぐモデルを開発して競合メーカーを駆逐するサイクルが出来上がっていた。(最近は競合に負けていても押し切る例も散見されるが・・・・)オデッセイに対抗しうる商品としてスクープ雑誌にその存在が報道され、「トヨタ版オデッセイ」と揶揄されながら1996年5月、イプサムが発売された。



事実上コロナプレミオをベースにした3列7人乗りを実現できる最小限単位のミニバンである。あるときはセダン、あるときはステーションワゴン、あるときはワンボックスワゴン。カタログでこのように訴求されているが、言いたい事はよく分かるし、特にセダンから乗り換えて違和感が無いように徹底した配慮が織り込まれている。

今回、数週間に亘りばりけろさんの1996年式イプサムLセレクションEX仕様(FF)をお借りした。ご親切にも毎年荷物が多い我が家の年末年始を心配して下さったからだ。

イプサムのボディサイズは
全長4530mm 全幅1695mm 全高1620mm 軸距2735mm。
コロナプレミオと比較すると、
全長-10mm 全幅±0mm 全高+210mm 軸距+155mmと
軸距と全高が拡大されて、全長全幅はベース相当という体格が与えられている。



最大のライバル、オデッセイと比較すれば
全長-220mm 全幅-75mm 全高-70mm 軸距-95mmと一クラス小さい。
当時は今以上に5ナンバーサイズへの要望が強く、3ナンバーサイズが許容できるかどうかでどちらに流れるかが明確だった。

当時のミニバンは商用車ベースの後輪駆動車にお化粧を施し、旧来の1BOX的価値観を引きずったモデルが多く、セダンを意識したといってもセミキャブ化でドラポジを改善したり、コンソール周辺をかさ上げしてセダン的な包まれ感を強調する手法に留まった。現代では常識となったFFのキャブワゴンの先駆けとなる初代ステップWGNはようやく発売されたばかりという時代であった。

セダンを保有しながら、上記ミニバンに移行しなかったファミリー層は、ミニバン化でスポイルされる諸性能が譲れなかったのではないか。例えば、走行性能や適度な包まれ感、スマートなスタイリングなどが挙げられるがイプサムはその全てが研究されていた。

1996年当時、我が家ではバネットセレナを愛用しており、イプサムは小さすぎる車だと考えていた。約25年後の2021年、イプサムと共に生活をしてみると、セダンやハッチバックよりも明らかにスペースに余裕がありミニバンの世界が味わえる。一方で、キャブワゴンと較べるとはるかにスタイリッシュで動力性能や操縦安定性は一線を画す。悪く言えばどっちつかずの中途半端な商品だが、当時のセダン乗り換え用の入門用ミニバンとしてはいい塩梅に調整されていると感じられた。

常に3列目を常用する使い方では2、3列目の足元スペースはギリギリで荷物も軽セダンレベルしか載らない。しかし、3列目を畳んでしまえば、高さを活かしてステーションワゴンを超える積載性とセルシオを超えるRr席の広さが手に入る。4人家族の普段使いなら十分以上のミニバン生活が楽しめた。

「走れ、家族の季節。」というキャッチコピーと大人気となったキャラクター「イプー」、そして明るいグリーンメタリックのイプサムが真っ青な青空の中に浮かぶ広告で親、子供のハートを狙い打ち。効果的に後発組のイプサムの認知度を上げていき、トヨタの目論見どおり街でよく見かけるクルマとなった。



中学の同級生の家にも、住んでいたマンションの駐車場にもイプサムがあったし、連休の高速道路では荷物を満載して走るイプサムをたくさん追い越したものだ。

●エクステリア-巧みなスポーティ感で鈍重さを払拭



初代イプサムのエクステリアは、メッキパーツの無い控えめな加飾にバブル崩壊後の質感低下を感じさせつつもRVブームにうまく乗ったポップな意匠に救われてトータルでスポーティで楽しさが感じられる。



フロントマスクは丸目4灯風のスモーク処理が施されたヘッドライトとボディ同色のグリルがさり気なくスポーティな雰囲気を醸し出している。攻撃的な眼差しやメッキ、大開口(実際は穴埋めだらけだが)で相手を威圧しない上品なフロントマスクだ。



サイドビューはDピラーを後傾させた特徴的な8ライト?ウィンドゥが目を引く。Aピラーが現代の目で見ると後方にあり三角窓を持っていない。これは単純にコロナプレミオと共通したエンコパの影響だが鼻筋がしっかり通っており、当時としてはクラッシャブルゾーンを強調して安心感のアピールにも一役買っている。イプサムはバンパー、フェンダー下、ドア下のサッコプレートを銀色に塗ることで擬似的にツートンカラーを実現している。つまりホワイトボディは単色塗装のため、コスト的に有利なのである。またバンパーは全色共通なので生産時に色替も不要で大変賢い方法を採用していた。この効果でアッパーボディーが薄く見え、全高1620mmと大柄でありながらセダンライクに見せる演出に一役買っている。擬似ツートン以外にも、ロッカーをブラックアウトしたり、錯視効果を使って低くスマートに見せるテクニックを用いている。



クオーター部分は特にイプサムらしい個性がある。ベースとなったコロナプレミオと較べればホイールベースが長くキャビンが大きい。当初、3列シートのミニバンとしては常識的だった3列平等なエクステリアで開発が進んできた。すべて本に残された当時のクレイモデルでは「いかにもありがち」なデザイン案が掲載されていたが、極めて事務的なデザインでケレン味が無く、質実剛健さは感じてもミニバンを持つ楽しさを訴求できるものにはなっておらず、個人的には最終案がベストだと今でも確信している。



ポイントは3列目の開放感を少々スポイルするかもしれないが、思い切って勢いのあるライン(ピラー?)を引いたことだ。ミニバン特有のRrオーバーハングが重たく見える弱点を克服している。こんなウィンドゥグラフィックでは斜め後の後方視界が悪いのでは?と疑いたくなるが、実際に確認した結果、ピラーがちょうど良い位置にあるため視界の妨げにならないとはっきり断言できる。



ホイールサイズは14インチと当時の同クラスのミニバンとしては標準的だが、特にRrホイールハウスはチェーンを巻かないこともありホイールアーチが小さい。イプサムの場合クオーターにレリーフを入れたり、Dピラーを後傾させてRrを軽く見せている。この処理により、イプサムは14インチを履き、全高が1620mmもありながらも、ちっともミニバンらしい重さを感じさせない。



Rrビューはバックドアにも回り込んだ横長のRrコンビランプが競合車との最大の違いだ。ミニバンというよりステーションワゴンのようなボリュームに感じるのはRrローディングハイトが高いからである。バックドア見切りが競合に対して上にあるため、ボディを薄く見せることが出来るのだ。現代でもレクサスRXが同様の錯視効果を活用している。

イプサムの最大の魅力はエクステリアであると私は思う。ミニバン的ないかにも人が乗れそうというものではなく、セダン的な軽快さをもち、ディテールは若々しい。

●インテリア-価格破壊時代真っ盛りのカチカチインパネ

イプサムの内装はセダンを相当意識しつつも、ミニバンの必須機能だったウォークスルーを実現するコラムシフトとT字を描くI/Pが新時代を意識させつつ、落ち着いたムーンミストの内装色など90年代トヨタらしいテイストでまとめられている。ウォークスルーこそが当時のミニバンの定義の一つだったので、コラムシフトの採用と合わせて当時のミニバンのアイコンの一つであった。



運転席に座る際、ヒールヒップ段差360mm、地面から660mmという絶妙な高さのシートポジションは乗降時にセダンよりも腰の負担が無く、キャブオーナーミニバンの様にステップに足をかけてよじ登る事も無い。すっとお尻を置けば着座できてしまう心地よいものだ。シートはクッションがソフトでサイドサポートも見た目ほど堅くないので包み込むように身体にフィットした。

視界に映る樹脂丸出しのカチカチインパネは当時も驚かれたことだろう。中心価格帯が200万円を超えるのに、これは質感不足の指摘を受けかねないのだが当時のRV車は商用車をルーツに持つ車も少なく無いため、なし崩し的に許容されてきた。

インパネはT字をテーマにした軽快感のある意匠だ。助手席側は広々感を、センタークラスターは高さを活かした余裕ある配置(ナビがまだ小さい)を行い運転席側はコロナプレミオ流用の電気式スピードメーターが置かれている。ステアリングはカムリ系と共通意匠でウレタンのみの設定だ。ウォークスルーの採用もトピックだが、その分センターコンソールがない事分をインパネトレーで補っている。

当時らしくシート生地にはモケットが奢られている。現代では上級モデルでもすっかり無くなってしまったが、触感が良い。このモケット生地がドアトリムのショルダー部にまで拡大されていて現代車のカチカチドアトリムに慣れた私には一転して高級感を感じさせた。その柄もステンドグラスのような分割パターンに濃淡の異なる青色が染められてあたかも金属組織を顕微鏡で覗いたかのようだ。

試乗車は用品フロアマットが装着されているが何とCMキャラクターのイプーを前面に押し出しており、借りたときは思わず純正?と聞いてしまったほどだ。このような貴重なフロアマットを靴で踏むなんて畏れ多いと感じた。あたかも1996年の踏み絵である。





●走行性能―見事なセダンとミニバンの融合

家族の季節を走れ、と言われた気がしたので、家族を載せてツーリングに出かけることとする。年末年始なので降雪が心配されたが、BS社製スタッドレスが装着されてバッチリ冬支度対応済である。



絶妙な高さに位置する運転席に座りドラポジを調整するのだが、コロナクラスの車格を考えると常識ともいえる運転席のハイトアジャスターと チルトステアリングが全車未装備であった。RAV4にはチルトステアリングが備わるが、イプサムはコラムシフトとの関係ゆえか固定式である。(後期型からチルトステアリング装備)

シート座面からステアリング下端のスペースを確保するためかステアリングコラムはセダンと比べて明らかに立ち気味である。これは高めのヒップポイントとセダン系のエンコパに引きずられて、ステアリング角度で辻褄を合わせざるを得なかったのではないかと考えられる。私の体格ではドラポジがぴったり合うのだが、身長175cm以上の方はステアリングとメーターが被ってしまう懸念もある。



それでも当時のフルキャブオーバー式1BOXのドラポジと比べると、ステアリング角度が寝ており、手足を前に投げ出し、低く座れるためキャビンの適度な包まれ感も手伝って明らかに従来型ミニバンとは異なる。一方でセダンから乗り換えても違和感を感じさせずに、セダンより150mm高い視点によるアップライトな運転姿勢や大きなガラスによる解放感、セダン感覚のミニバンというコンセプトには嘘はない。とにかく660mmのヒップポイントは絶妙な位置関係で運転開始後には慣れて心地よさだけが楽しめるはずだ。

135ps/6000rpm、18.5kgm/4000rpmの3S-FEが目を覚ます。1986年にデビューし、当時としては画期的なペントルーフ型燃焼室をもった高効率16バルブDOHCエンジンを大衆化したパイオニアとして重要なエンジンである。



登場から10年を経てセダン系に加え、RAV4やライトエースノアなどにも搭載され、イプサム登場時には少々使い古された感もあるが、商用車系ではない乗用車系のパワーユニットが選ばれている点もセダン派生のミニバンらしい選択だった。

腕力がいるコラムシフトを手前に引きながらDレンジを選択。PKBは運転席横のFRフロアからレバーが生えていた。足踏み式やステッキ式の方がウォークスルーには適しているが、コンベンショナルなレバー式を採用することも、セダンらしさの主張といえばそう受け取れる。小型車枠に収める制約があるため、パーキングレバーに足が当たってしまい、意図せずパーキングブレーキが解除されてしまうリスクに対応して2操作式解除機構を採用。つまりボタンを押しただけでなく明確にレバーが引き上げられないとパーキングブレーキが解除できないように配慮されている。

走り出しはスムースで市街地走行でもリラックスできる。4人乗車と荷物を載せた状態だと俊敏とも言えないが、周囲の流れを十分リードできる出足の良さを誇る。当時らしいルーズなトルコンを駆使して2000rpm付近にタコメーターの針を保ちながら加速をすると、あっという間に60km/hに達する。郊外の国道で多用する65km/h以上で4速(O/D)ロックアップ状態となるが、それ以下で走ることの多い都市部や市街地走行では4速のままルーズに走らせるのが当時のお作法だ。



動力性能は余裕があるが、ブレーキには注文を付けたい。サーボがよく効いた軽いペダルタッチだが奥まで踏み込まないと減速Gが立ち上がらない。エア噛みの可能性も考えたが、昔両親が乗っていたライトエースノアでも同じように強めに制動をかける必要があり、当時のセッティングがそうなっていたのだろう。



また、交差点を右左折する際に、ステアリングのフィーリングにフワフワした感触を感じた。何となく舵角が多めで普段より多く回さないと角が曲がれない気がする。資料を確認したが、ロックtoロックの回転数はコロナプレミオとほぼ同一でギア比が特別スローなわけではない。ただニュートラル付近の切り始め領域でリニア感が不足しており、操舵初期に反応が返ってこないので過度にステアリングを早く、たくさん切ってしまうのだ。エイヤと切ると反応がワンテンポ遅れて動き出す。我慢してジワーっとゆっくり操作すればイプサムはキチンと反応を見せてくれるのだが、ロングホイールベースの影響とチューニングの問題と考えられ、イプサムとしては異例なほどセダン感覚とは異なるものだった。あと少し反応が良いほうが市街地運転での扱い易さに貢献するはずだ。競合と違い、小型車サイズで操作力が小さいステアリングやブレーキは女性ドライバーを特に意識しているように感じる。

●ワインディング路はちょっと苦手か?
私がいつも持ち込むワインディング路でもイプサムは十分な動力性能を発揮する。登降坂制御がうまく作動しなかったが、O/DスイッチをOFFにしておけば大衆セダンを凌ぐ動力性能を発揮してくれる。3S-FEは穏やかな特性であり、2500rpm~3000rpmも回しておけば十分なトルクが発揮されるからルーズなトルコンでも加速のレスポンスがよくドライバビリティが良い。一方で、スタッドレスタイヤであることを差し引いても前述の通りコーナリングでのステアリング操作が多く、忙しくと操舵を繰り返すため、イプサムはセダン感覚でありながら、見た目ほどスポーティな性格はほとんどない。走りなれたワインディングなのでコーナーを意識して予めじわっと予備的にステアリングを操舵してかまえるのでラインがずれることは無い。

イプサムの為に新開発されたRrトーションビーム式サスペンションは原理的にはコーナリング時の横力であたかも4WSの逆位相の様に動いてしまい、ドライバーの意図よりも曲がりすぎてしまう悪癖が課題となっていたが、イプサムの場合、むしろそのような危険を感じさせずに安定方向に徹底している点はワインディングでのキビキビ感不足よりも大切なことだと私は考える。



例えば、コースが分からない初めて走るようなワインディングでこれ以上ペースを上げてしまうと、家族からのクレームが来てしまうだろう。セダンとの比較なら、ワインディングは苦手と書かざるを得ないが、キャブオーバー型1BOX(エスティマは別格として)と比べれば遥かにセダンライクに走れる。イプサムはあくまでも家族とドライブを楽しむ領域内でセッティングされているのだ。

●サマータイヤ装着車に追加試乗
別日にオーナー氏の計らいでもう一台、サマータイヤを履いたイプサムを運転させていただいた。(3名乗車積載なし)年式とグレードは同じだがボディカラーが異なる。最大の違いは走行距離が4万km台でグッドイヤーの純正サイズ(195/65R14)のサマータイヤを履いている事だ。



走り出してすぐサマータイヤらしくタイヤからゴーという音が入ってきた。静かさはスタッドレスが優れる。確認のためワインディング路を走らせたが、印象が大きく好転した。切りはじめから印象が異なり、操舵に対してマイルドだが確実にステアリングインフォメーションがある。右へ左へステアリングを切っても鼻先が追従するのはありがたい。ブレーキフィールも踏み始めで一定の反動を返すので、安心感が段違いだ。これがイプサム本来のセッティングなのだろう。

●高速道路では水を得た魚
高速道路を走らせた。ETCゲートから本線に合流する際、特にキックダウンに頼らなくても2000rpm+αの回転数を保ったままジェントルに合流が可能だ。

タコメーターは80km/hで2000rpm弱、100km/hで2400rpm、120km/hで2800rpm強を指示。私の実家で愛用していたライトエースノアと同じギア比の設定であった。当時のセダン系では100km/hで2000rpmを切るモデルもあり、車重を意識して少々ローギアードだがそれでも大衆セダン系に準じた設定は満足できる。2000ccの排気量と低い車高(空気抵抗が小さい)を生かして十分な巡航速度を維持できるが、6%の登坂路ではO/Dのロックアップ状態100km/hを維持するのが精一杯。少し踏み込むとロックアップを外して対応する。



ステアリングフィールはワインディングでは鈍重に感じても、高速コーナリングでは鈍感さがどっしりとした安心感に変わるのが面白い。ちなみに市街地で弱いと感じたブレーキそのものは変わらないが一般的な走行での減速はアクセルオフで十分速度が落ちるのでブレーキの非力さは逆に気にならなかった。



高速道路では実にゆったりした気持ちでドライブを楽しむことができる。イプサムをはじめとするセダン系ミニバンのミソはロングホイールベースであり、操作に対して緩慢な舵の利きもいい方向に作用しては高速道路では横風に進路を乱されにくい矢のような直進性を持っている。だから、高速道路で状況が良いと
ついつい追越車線をかっ飛んでしまいたくなるが、ブレーキがプアなので自制心が必要になる。

●長期連休中の高速道路が最も輝けるステージ

イプサムが最も輝ける場所は帰省・レジャーシーンにおける高速道路の長距離運転だと実感できた。明らかに背の高いミニバンやホイールベースが短く見晴らしの悪いセダンよりも有利になる。乗り味に強い癖がないので、疲労が少なくゆったりと運転でき、数時間の長距離ドライブを行っても運転者、同乗者を含めても長距離運転後の余暇活動に体力が温存できる。

通勤の為一人でイプサムを運転したが、軽くなった分動力性能に余裕が出るため、信号ダッシュや高速走行でも決してミニバンを感じさせない。加えて、過去にお借りした初代ステップWGNの際に感じた「空気の塊を運んでいる感じ」が相当軽減されていることにも気づいた。これも車高の低さとトノカバーの好影響が出ていると考えている。家族で乗っているときより一人の方がイプサムのセダンらしさをより味わえる。

イプサムの走行性能を総括すれば、セダンの良さを残しているが、それよりもロングホイールベースがもたらす穏健な特性が楽しめた。市街地走行ではサイズ的に持て余さず、ワインディングでも危険な挙動はない。高速道路では最もイプサムの魅力を際立たせた。運転を趣味とする人はつまらないと言う人もいるかも知れない。(かく言う私も運転中とても眠くなったが)しかし運転の車ではなく、家族と移動をするための道具として考えれば、とても目的に合った好ましい走行性能を持っていると言える。

●ロングホイールベースが実現するソフトな乗り心地

すでに触れたようにイプサムはセダンと比べるとロングホイールベースである。これは居住性以上に乗り心地に好影響を与えている。うねりが出たり、補修でパッチワークのようになった舗装悪路も目線が動かされず、今となっては小径かつ軽量な14インチホイールが動いてショックを乗員に伝えずに通過できる。

ただし、調子に乗って高い速度で段差に突っ込んだり、コーナリング中に段差に遭遇するとガツンと底付きしてしまうので注意が必要だ。これはサマータイヤ仕様も同じだったのでセダン流用のサスのストロークが車重とバネレートに対して不足しているのかもしれない。(RAV4の美点をここで実感)急がず、普通に走っている限り乗り心地はピカイチのソフトさだが、特にピッチング(前後方向)の揺れが少なくふんわりした乗り心地は高級セダンのようだ。



形式はFrにマクファーソン式ストラット、Rrにトーションビーム式が採用されており、前後ともにコイルサスの乗り心地が楽しめる。構造的には強度を保つため車体側の取付ブッシュを固くせざるを得ないRrトーションビーム式サスペンションだが、その構造的な悪さを一切感じさせないのはさすだ。

このリアサスは1997年のプリウスから名前が付いた「イータビーム」と同構造である。つまりクロスビーム(横方向の梁)が車軸と取り付け軸の間に位置して上から見るとη(すなわりH)に見えるトーションビーム式サスペンションである。リンク類が廃止できる低コストな構造かつスペース効率が高く、燃料タンクの配置性、荷室やキャビンの拡大に貢献している。5ナンバーの車幅でありながら3列目の2名乗車を実現したのはこのサスペンションのお陰である。現代では常識ともなったRrサス形式をトヨタで最初に採用したのがイプサムなのである。

乗り心地に大きく影響する静粛性もファミリーカーらしく高水準だ。3S-FEは必ずしも静かなエンジンではないのだが、低速トルクが厚いためそこまで回転数を上げる必要がない。ダッシュアウターサイレンサーもフードインシュレーターも無いが、3000rpm以下であればエンジンからの音は意外なほど気にならない。旧時代のATなので走行時に常用する回転数が高く、こもる感じも特に無かった。高速道路では風切り音も聞こえてくるが試乗車はドアバイザーも未装着で風切り音的には好都合であった。

●ミニバンの世界が楽しめる居住性
イプサムの居住性と積載性は重要な性能である。特にセダンライクと言えども居住性に関してはミニバンの持つ世界観を気軽かつ明確に楽しめるようになっている。

1列目は既に述べた通り絶妙な着座ポイントにより大変乗降性が良く、座った後もアップライトな姿勢が取れる。コンパクトカーだと、後席で足をバタ付かせる子供の足が運転席のシートバックに当たったり、後向き装着のCRSによって助手席のリクライニング角度が規制されて寛げないケースがある。



イプサムなら2列目が遥か後方に位置するため、まず1列目は快適である。サンルーフ付きの為、ヘッドクリアランスは拳1つ分。サンバイザーが取り付くヘッダーとの隙が狭いが、セダン並みの感覚を維持している。

2列目はミニバンの玉座とも言えるポジションだ。イプサムはその2列目シートが345mmもロングスライドする。3列目使用時、乗降時は前にスライドするが、その状態でもカローラ級の膝前スペースを確保。



フロアの高さは前席より明らかにか上げされていることが、丁度Rrドアを開けて乗降する時にロッカーとフロアがフラットに連続していることからも分かる。上の子(3歳)がかなり乗降し易そうに見えた。



3列目を常用しない使用状況だと2列目はロングスライドを使って後方へ置いたほうがチャイルドシートに座る子供の乗せ降ろしもし易く、ちょっとした手荷物も足元スペースに投げ込めて便利である。

ロングスライド機構を操作する場合、一度FM(フロントモースト)から285mmの地点でストップする機能がある。3列目に座る乗員の足を挟まない為のトヨタらしい細やかな配慮といえよう。



3列目未使用時に通常のスライドレバーに加え、シート座面中央のレバー操作でセルシオ並みのレッグスペースが手に入る。また、シートベルトにチャイルドシート固定機構が備わるので楽々二人分のCRSを取付可能だから2列目を最後端位置にスライドしてそこに子供を乗せておくのが最も便利に使えるシチュエーションである。後席用の電動スライドムーンルーフを開けてあげれば大喜びだ。



一方で大人が座るときは注意が必要だ。標準的な位置で座った場合、フロアが高くなってる割にヒップポイントの上昇分が小さくて、太ももが浮いてしまい、セダンよりも体育座りの様になる。



本当はもっとヒップポイントを上げたいが、そうすると、「シアターフロア」を売りにするために3列目は更にヒップポイントを上げざるを得ず、イプサムの優れたエクステリアデザインが損なわれてしまうから、こうする他ないのであろう。試乗車のLセレクションEX仕様車に標準装備のツインムーンルーフの為に天井高が下がって50mm損をしているのが少々残念に思う部分だが、現状でも拳1個分をキチンと確保している。



シートスライドを例の285mm地点で止めると、レッグスペースが十分広い上に、足を引いた際にもFrフロアとCTRフロアを繋ぐ段差(燃料タンクがあるので段差が不可避)よりも前にあるので足引き性が良好だ。シート座面も現行の軽ハイトワゴンや類似の普通車の様に過剰に長過ぎないので気持ちよく座れて、この点を評価したい。セルシオ並とアピールされる345mmスライドの場合は段差が踵に接触する位置関係なので自分が座るなら285mm位置の方が良い。

ただ、残念なことに、この位置でシートベルトを着用した場合、肩ベルトが乗員の方から離れてしまう。首にかかることは無いが、万が一の際に拘束が遅れてしまうため、安全性の面で肩ベルトが浮くことは好ましくない。



シートベルトアンカーは首にかからない範囲でなるべく上に配置したいが、イプサムの場合、Cピラーに角度が付いているから上部へ行くほどアンカーが前へ寄ってしまう。その為下にに置こうとすると、体格が良い人が座った際に不都合がある。イプサムの場合、ロングスライドの存在がベルトとの関係を難しくしている。(アンカー位置に対してヒップポイントの関係が後方にありすぎる)後席シートベルトが軽く見られていた過去とは違い、現代のわが国では直接シートベルトを着用する大人が座る場合は、快適性が許す範囲でシートスライドを前にしておくことを推奨したい。ちなみに現代でロングスライドする車種の場合は、シート付けリトラクタを採用して対応している。

3列目だが、イプサム以降のミニバンに触れてきた者としてはどうせお飾りに過ぎない出来栄えのシートだと考えていた。ところがイプサムはよい方向で想像を裏切ってくれた。畳む為の粗末なシートかと思いきや、座面も背もたれも立派な分厚さを有しており、寸法的にもギリギリ実用に耐えうるサイズになっている。



2列目シート位置は285mmの位置にしていても、短足の私の脚は十分収まった。ールヒップ段差も2列目レベル以上には確保できていて意外と脚が納まるのだ。更にヘッドクリアランスも2列目並に拳1個分を確保していて3列目を割り切るといいながら割り切りすぎていない真面目さを感じた。



裏を返せば、どこまで割り切れば良いのか判断できずに悩みながら寸法を決めたいう感じなのだろう。妻の運転で3列目に座ったが、ちゃんとシアターフロアのお陰で見晴らしも良く、意匠の為に2分割されたクオーターウインドゥもさほど閉塞感を生まずに、ちゃんとフル7シーターの使い心地だ。確かにライトエースノアのようなフルキャブ型ミニバンとは決定的に劣るが、セプターの様に後ろ向きの3rdシートと較べれば、快適性に天と地の差がある。

惜しいのは3列目へのアクセスだ。シートベルト固定機構を用いてチャイルドシートを取り付けた場合、シートスライドが動かせないので3列目へのアクセスは靴を脱いでアクロバティックに行う必要がある。チャイルドシートが着いていなければ問題ない。

●セダン+αの荷物は余裕で飲み込む

イプサムの積載性に関する評価は3列目を使うかどうかで大きく異なる。3列シートを使用する場合は写真で示したように軽セダンレベルの実力しか無い。



ベビーカーを積み込むことも躊躇してしまう程だ。このことから、イプサムでは3列目を使用した一泊旅行は手荷物が載らないので困難であろうと想像されるが、ベビーカーを乗せなければ日帰りドライブ(隣県レベル)位は十分対応可能だ。



ミニバンとして一クラス上のライトエースノアの場合、3列フルに使用しても3列目下にボストンバッグを飲み込むスペースもあり、必要なら3列目のシートスライドでラゲージのスペースアップも可能なため、3列目を使用しても積載性が確保されてる。

イプサムが本領を発揮するのは3列目を格納したシチュエーションである。普段の買い物でも、連休時の帰省でもミニバンやステーションワゴンの様に荷物を積み込むことが出来る。我が家もベービーカーを積み、着替えを積み、おもちゃを乗せ、赤ちゃん用のバウンサーなどを積んでも全部飲み込んでくれた。ハッチバックやセダンユーザーから見れば3列目を畳んだイプサムの積載性は驚異的に移るだろう。



セダンベースのステーションワゴンも類似の積載性はあるのだが、居住性はベースとなったセダン並みの実力に留まる。ロングホイールベースが実現する後席の居住性とステーションワゴン譲りの積載性が両立している点はイプサムの方が上手だ。

●燃費―2000rpm以上回すと悪化
借用中、家族全員と荷物を乗せてA/C使用率100%、市街地メインで9.1km/L、
A/C使用率50%で長距離移動を含んで10.96km/L。旅行・帰省ドライブを意識して荷物満載の高速定常走行で12.53km/L。FF車のカタログ値(10・15モード)が11.6km/Lなので、達成率が78%~108%と高水準である。60L入る燃料タンクを持っており、長距離の航続距離は満足できる。

走らせ方としては、発進・加速の機会が増えると一気に燃費が悪化する。3S-FEは中高速域で燃費が悪く、加速時にアクセルを踏み込んで3000rpm辺りまで使うと燃費は悪化傾向だった。かつて実家で使用していたライトエースノア(同E/G)も同様の傾向で平地だと10km/Lを越えることもあるものの坂道が多い奈良だと6km/L~7km/Lはザラだった。

●価格―競合を意識しつつ意外に素直なグレード設定
イプサムのバリエーションは最廉価のEセレクション(192万円)、標準車(205万円)、上級のLセレクション(222万円)の3グレードがある。そこにセットオプションとして標準車のSセレクション仕様(213万円)、LセレクションのEX仕様(235万円)が加わって実質5グレード構成だ。尚、4WDは24万円高となっている。

イプサムは基本装備が充実しており、最廉価のEセレクションでも14吋フルホイールカバー、ABS、電動リモコンミラー、タコメーター、時間調節式間欠ワイパー、CRS固定機構付きシートベルト、ジャカード織物のシート(洒落た生地)、後席の各種スライド格納機構、デュアルエアバッグ、マニュアルA/Cが備わる。他グレードでは装備されるRrクーラーがないため、3列目の乗車機会がある場合は選択肢から外れるのだが、イプサムを5人乗りのワゴンと見なす方なら十分な装備が付いている。

一方で7人乗りのミニバンとして考えると標準車以上を選択したくなる。タイヤのサイズアップ(185/70R14→195/65R14)、ブロンズガラス、電格ミラー、ワイヤレスドアロック(2.4万円相当)、モケットシート、Rrクーラー付きオートA/C、AM/FMカセットステレオ4SP(5.3万円相当)が追加される。価格差13万円だが、空調系のグレードアップやオーディオが備わることを考えると納得できる。MOPで14吋アルミ+ツインムーンルーフのセットオプション(15.5万円)、ボイスナビ(29.8万円)の追加が可能となる。




ドレスアップ要素を加えたのがSセレクション仕様がある。14吋アルミ(5万円相当)、ルーフレール(2万円相当)などRVらしい外装や運転支援機能としてクリソナ(6.2万円相当)が備わる一方でカセットステレオが省かれてラジオレス4SP(▲5.3万円相当)となる。外観重視は上級相当で後はデッキを後付すれば十分実用に耐える仕様設定だ。価格は8万円アップでMOPでツインムーンルーフ(10.5万円)、ボイスナビ(35.1万円)の設定がある。

上級仕様のLセレクションは標準車の17万円高である。標準車に対して追加される装備はルーフレール(3万円相当)、プライバシーガラス、クリソナ(6.2万円相当)、トノカバー(1.4万円相当)、AM/FMラジオ付きCDカセットデッキ6SP(カセット+4.6万円相当)、シート生地デザイン変更となる。価格が推定できる装備を差し引くと残りは1.8万円だ。

Lセレクションに対して13万円高のLセレクションEX仕様はシンプルに14吋アルミ(5万円相当)+ツインムーンルーフ(10.5万円相当)、寒冷地仕様(0.5円)が追加されるが、16万円相当の装備が追加されるから3万円程割安な価格設定だ。

こうして考えるとイプサムのグレード構成と差額は素直で納得感があり上級誘導はEX仕様以外は強くない。標準仕様をベースに欲しい装備で選べば良い。もし自分が買うなら、標準車のSセレクション仕様(213万円)にフォグランプとトノカバー、用品のCDデッキでも着けて、ハーフミラータイプのフィルムを窓に貼るだろう。ドレスアップでルーフレールスポイラーを追加したい。ムーンルーフは子供受けは抜群なのだが、2列目以降のヘッドクリアランスを確保するため、敢えて非装着することで50mmほど寸法を稼ぎたい。シート地の違いは触感の相違が無いため許容できる。2列目に座布団を敷いてヒップポイントを上げ、フルシートカバーで包んでやれば完璧だ。(ボディカラーはグリーンメタリックオパールのほぼCM仕様)

最大の競合車オデッセイの価格は最廉価のBグレード(179.5万円)はA/Cも付かない客寄せパンダだったが、実質的な標準グレードS(205.5万円)、上級のL(245.5万円)である。イプサムの標準車(205万円)とLセレEX(235万円)という設定はオデッセイをかなり意識して研究した結果だろう。イプサム標準車はオデッセイSとの比較でデュアルエアバッグとABS、キーレスエントリーが標準装備され、電格ミラーやオートエアコンが備わる点でお買い得感を演出している。イプサムLセレEXとオデッセイLの比較だと車両本体価格10.5万円安いが、デュアルエアバッグとABS、電動サンルーフやクリソナが装備されてさらにお買い得感が強まる。

●イプサムのその後―セダン型ミニバンの終焉
たくさんのセダンユーザーたちがイプサムに代替していったが、それでも販売面でスマッシュヒットを放つオデッセイを凌駕できなかった。ディーゼル車の追加、運転席バーチカルアジャスタの追加、シートスライド量の拡大など出来る改良を行ったが、更にトヨタはイプサムの初期反応をフィードバックした兄弟車ガイアを早くも1998年に発売した。



イプサムよりも全長(Rrオーバーハング)と全高を拡大し、3列目使用時の快適性とイプサムの課題だった3列目一体可倒式シートを分割し、積載性を改善。イプサムでは選べないキャプテンシート(オデッセイの売り)が選べるようにして見事にイプサムの不満点を解消していた。残念ながらガイアは少々保守的なスタイリングに映り、私から見れば初代イプサムの優れたスタイリングを強調する効果の方が大きかった。

また、イプサム自体も2代目になると別のトヨタの悪い癖が発現してしまう。イプサムはピクニックとして欧州にも輸出されていたが、この欧州仕向けとオデッセイに引きずられる形で2代目が開発されてしまった。欧州での大型化要求と競合のボディサイズがイプサムを大型化させたのである。結果、お馴染みの大型化と高価格化(こちらは控えめだが)を果たした。ミニバン・トゥモローなるキャッチコピーを掲げオデッセイと並ぶ排気量2.4LのE/Gを積み、ゆとりある3ナンバーサイズへ拡大された。確かに初代の不満点が解消されていいクルマになったと私も同意しつつ、これじゃあイプサムでは無いよな・・・と首を傾げざるを得ないミニバンになった。扱い易く丁度良いバランスの5ナンバーであることがイプサムとオデッセイの最大の違いだったのだが、結局最後までオデッセイの事が頭から離れなかったのだろう。

その間、ホンダは5ナンバー枠に収まるコデッセイことストリームをヒットさせ、これに対抗する為に小型枠のキャラクターを引き継いだのは、車名より先に♪UTADA HIKARUの文字がCMで流されたWISHだった。(初代イプサムがみんなのドリームズ・カーだが、WISHはザ・ピープルズ・カー)初代イプサムとWISHを比較すると、内装の質感と3列目の明確な割り切りが行われたが、メインエンジンが1.8Lに縮小されても走りは低下せず、3列目を畳んで使うミニバン風5人乗りステーションワゴンを実現させた。



残念だが初代イプサムなら日帰り旅行が可能だった3列目シートの実用性は最寄駅前レベルにカイゼンされてしまった。初代イプサムは基本的に畳んで使うものの、あくまでも「畳めるシート」だったが、WISHは「座れるデッキボード」に過ぎない。無論、販売価格が下がってユーザーにも割切りが還元されているが、初代イプサムが擁していた絶妙なバランス感覚は、本格化・高級化の2代目と簡素化のWISHに分裂してしまった。イプサムが担った小型車枠に入る本丸のセダンライクなミニバンが消滅したことは残念だ。セダンユーザーを吸引する為のイプサムがセダンを吸引しつくして使命を全うしたからなのだろうか。



初代イプサムから始まったセダンライクなミニバンの系譜は、イプサム本体が2代目でモデル廃止。WISHはモデルチェンジしたものの、アイシス、マークXジオ、プリウスαに至るまで座れない3列目の車ばかりになってしまった。プリウスαも21年3月末でモデル廃止になってしまい、セダンライクなミニバンの命脈が初代イプサムから約25年で尽きようとしているのは残念な限りだ。



無限にコストをかけて全方位の性能を成立させるのは不可能だ。個性を際立たせるために何かを奢りたい時は投資にメリハリをつけて、何かを割切るしかない。ミニバンの3列目と言うのは2000年代以降、どうせ使わないからと簡素化されがちな部位になった。使わない3列目だから、割り切って荷室を拡大しよう、原価を下げようと段々とカイゼンを積み重ねて、使えないシートが出来上がった。イプサムよりライトな層を狙ったWISHが簡易的なシートとしたことは一定の理解が出来るが、後続のセダンライクミニバン群までもが使えない3列目を継承したことは不幸であった。

座れないけど、届出上はシートである為、シートベルトを装備し、シートベルト取付のために車体に補強が必要になる無駄を伴う。やはりいくら使わないとは言え、例えば両親を3列目に乗せる場面もあるだろうから、ミニバンである以上、初代イプサム相当の実用性は残すべきというのが私の意見だ。そういいたくなるくらい、初代イプサムのバランス感覚は良い所を突いていた。

ホンダとの販売競争では、制約の中で「こうするしかなかった」オデッセイに対し、イプサムには適度なベース車があり、イプサムにぴったりなRrサスの先行開発もあった。多少の不成立箇所はあれども、トヨタらしく周到に準備されてきたと感じられる。イプサムは実用的にミニバンライフが楽しめる最小単位として5+2に割り切ったと言いつつ、それなりに座れる3列目、夏場の空調に配慮したRrクーラーなどその気になれば7人乗れるキャビン、5人なら十分以上の積載性を実現したパッケージングを5枠で実現し、見ているだけで楽しくなるポップな意匠で包んだ点が見事だった。



大切な愛車を我が家の年末年始の為に貸して下さり、サマータイヤ仕様にも乗せてくださったばりけろさんに感謝。
Posted at 2021/01/23 01:11:47 | コメント(1) | トラックバック(0) | 感想文_トヨタ・レクサス | クルマ

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